法科大学院の志願者

 法科大学院に進学しようとする人は、原則として法科大学院適性試験を受験しなければなりません。

 ですから、法科大学院適性試験を受験しようとする人の数を見れば、どれだけの人が法曹を目指しているのかを把握することができます。大学入試センターの公表した資料によると、驚くべき実態が明らかになっています。

 平成15年度法科大学院適性試験受験者数  28,325人

 平成16年度法科大学院適性試験受験者数  21,298人

 平成17年度法科大学院適性試験受験者数  17,791人

 平成18年度法科大学院適性試験受験者数  16,625人

 平成19年度法科大学院適性試験受験者数  14,266人

 明らかに受験生が減少しています。わずか5年で半減しています。これは法律家を目指す人間が激減しているということです。法律家という仕事に魅力が失われているということです。

 2007年8月27日の私のブログに、次のように書きました。

(以下私のブログからの引用)

 ところが、今後、弁護士を目指す人の生活面はどうなるのか。

 まず、高いお金を支払って法科大学院に進学する必要があります。

 次に法科大学院に進学しても、きちんとした実力をつけてもらえるかは、未知数です。卒業できるかどうかのリスクもあります。

 なんとか卒業しても新司法試験に合格しなければなりません。

 新司法試験に合格しても苦難の道はそれでは終わりません。

 司法修習生の給与が2010年からは支給されなくなり、貸与制になります。また司法修習生はアルバイトが出来ませんので結果的に借金して修習生活を送らねばなりません。

 そして、借金で修習生活を送っても、2回試験(司法修習生考試)に合格しなければ法律家の資格はもらえません。

 仮に2回試験に合格しても、弁護士が余っているのですから、就職が出来ない可能性があります。運良く就職できても、弁護士余りなのですから新人弁護士の給与は、たいして期待できません。更に次から次へと新たな弁護士が激増してくるので、育ててもらう前に使い捨てられるかもしれません。

 弁護士会によって異なりますが、弁護士登録するだけで50~100万程度かかりますし、登録後も弁護士会費が毎月4~5万円かかります。

 こうなってくると、もはやお金持ちしか弁護士になれないし、弁護士としてやっていけないのではないかという疑問すら出てきます。また、法科大学院・司法修習・弁護士登録などの費用を借り入れなければならないとすると、相当額の借金を背負って弁護士生活をスタートしなければならなくなる可能性が大です。そのように借金まみれでスタートする弁護士が、現実問題として社会正義の実現のために奔走できるでしょうか。私は(将来的に経済面で安定すればともかく、そうでない限り)無理だと思います。

 以上の点から、法律家には次第に魅力がなくなっているのだと思います。法科大学院の先生方は合格率さえ高めれば志願者は増加するかのように考えているようですが、全く現実を見ていないと思います。

(引用終わり)

 多くの人が法律家を目指さないのであれば、絶対に優秀な人材は法曹界に集まりません。多くの人が法律家を目指し、頑張って競いあうからこそ、優秀な人材を法曹界に導くことができるのです。人権を守るための最後の砦となる司法権、法の支配、を維持するための人材が脆弱では、国民みんなの人権が守られなくなります。

 言葉を換えていえば、多くの人に法律家になりたいと思ってもらう必要があり、その中で、しっかり競争させて、意欲と実力のある優秀な方に法律家になって頂く必要があるのです。そのためには誰もが法律家になりたいと思うような魅力のある職業でなければならないはずです。

 法科大学院は、(ごく一部の優秀な方をのぞき)優秀な法律家を育てることができないでいるにもかかわらず、自らの失敗を棚上げして、法科大学院に志願者が集まらないのは、合格者数を増やさないからだと主張しています。しかし、その主張は間違っています。従来の司法試験のように合格者が少なくても魅力のある仕事には志願者が自然と集まるものです。合格者が多くても魅力のない仕事には志願者はそう増えません。法科大学院制度は、合格者の増加と一体になって、明らかに法律家の職業としての魅力を失わせる制度であり、その結果優秀な人材を法曹界に導くためには邪魔な存在となっています。

 いい加減に、法科大学院自らが、失敗を認めるべき時期に来ていると思います。早急に法科大学院制度を廃止しないと、更に法律家の質の低下を招くだけです。もともと司法改革は国民のためのものです。国民の害になることが明白な法科大学院制度自体が司法改革の目標に反している存在なのです。

 おそらく、法科大学院制度を強力推進した大学教員達は、自分達の教育能力を過信していたのでしょう。それと同時に司法試験合格者のレベルをあまりにも低く見積もりすぎていたのではないでしょうか。

 それでも大学教員の方が、法科大学院出身者の方が間違いなく優秀だと仰るのであれば、旧司法試験時代の司法修習生を担当したことのある司法研修所教官に、現在の法科大学院出身者の司法修習生を見てもらい、比較すればすぐに結論が出るはずです(両方を見た新60期の研修所教官が、法科大学院卒業生を酷評していることは既に何度も述べたとおりです。)。また、2回試験の結果を比較しても、相当程度解ると思います。

 その当時は、(噂で聞きましたが)民法で不動産が即時取得できると考える修習生や、刑法で罪責を検討するのに違法性から検討する法科大学院卒業生のように、基本中の基本が解っていないまま司法試験に合格する者は、絶対にいなかったはずです。

 過ちを正すには、早いほうがいいに決まっています。国民のためを考えれば法科大学院に遠慮している時間などないでしょう。もともと司法改革は国民のために行うものなのですから。

国選報酬予算減額

 司法支援センターの委託費が、来年度は約10億円減額されるそうです。この委託費には国選弁護事件の報酬が含まれるということなので、国選弁護に充てられる費用が減額されたということになるそうです。

 公共交通機関の交通費も出してもらえず、記録のコピーも実際にかかった費用の半分以下しか出してもらえず、時給にして通訳人の4分の1~7分の1しかもらえない国選弁護事件は、弁護士のボランティア精神により維持されています。したがって、これ以上いじめられると維持できなくなるかもしれません。

 仮にタクシーに乗って、「5000円分走って下さい。」とお願いし、5000円分走っていただいた後で、「タクシーは人を乗せるのが商売だろう、無料で、もっと乗せろ」と言っても、当然拒否されますよね。それは、メーター料金以上走行させると、タクシー会社・運転手さんが生活できないからです。だから、ボランティアでない場合、支払うお金に見合った仕事しかしてもらえなくても当然なのです。このことに文句を言う人もいないでしょう。また、人によっておまけをしていれば、正規の料金を支払っている人に対しても差別をすることになります。

 ところが、国選弁護事件ですと、「弁護士費用は、わずかしか出さない。しかし、料金以上の仕事をしろ。」ということがまかり通っているのです。

 弁護士も職業です。生活する必要があります。逆に言えば(極論になりますが)、頂くお金に見合った仕事しかしなくても、そんなに文句を言われる筋合いはないともいえます。

 そうだとすれば、交通費が出ないのであれば、被告人に接見しに行かなくても文句を言われるべきものではありません。記録の閲覧・謄写に関しても、閲覧しに行く際の交通費も、コピーの実費も出ないのであれば、記録を閲覧・謄写せずに公判に臨んでも、文句を言われる筋合いはありません。せめて通訳人の方くらいの仕事はしていると思いますので、その方々の時給が1万円前後とすれば、国選弁護報酬が6万円とした場合、6時間働けば終わり。それ以上はできません、ということになります。

 それでもいいんですか?

 国選報酬予算の減額を決めた方。

議案取下げを求めた理由

 私が、3月3日のブログで、国選付添人の報酬から5%をピンハネする議案を取り下げるよう主張したのは、執行部が議案を取り下げない限り、可決される可能性が極めて高いからです。

 つまり、少年事件を扱わない弁護士からすれば、国選付添人がいかに手間暇をかけて苦労していようが、全く関係がない話なのです。

 少年事件を扱わない弁護士からすれば、自分以外の誰かが、本来弁護士会全体で担うべき面倒な仕事(しかも、時間をかけるだけ赤字になるボランティアの仕事)をやってくれて、しかもそのボランティアからピンハネしたお金が弁護士会に入るのだから、反対する理由などないからです。そりゃそうでしょう。面倒な仕事は誰かがしてくれて、しかも、黙っていても弁護士会に入るお金が増えるのですから。

 しかし、少年事件を扱う弁護士は、私の感覚で言うと間違いなく少数派です。全員が結束して反対票を投じたとしてもほぼ確実に負けると思われます。そのくらい執行部は分かっているはずです。だからこそ、「国選弁護との公平」という、誰が見てもおかしい理屈をつけてまで提案しているのでしょう。だから、議案を取り下げない限り、この議案は可決されることがほぼ確実な議案なのです。明らかに多数決の暴力としか言いようがありません。

 仮に、この議案が可決されたのであれば、私なら国選付添人をやる気が大いに失せます。今後は、やらないかもしれません。他の少年事件を扱う弁護士の方も、おそらく怒っておられると思います。この件のせいで、ただでさえ少ない少年事件を扱う弁護士が嫌になってしまう危険性は高いでしょう。

 弁護士・弁護士会が維持しなければならない制度のために、ボランティア精神で頑張っている一部の弁護士に対して、鞭を打つこの議案は提案するだけでも非常識ですが、その議案を撤回しない執行部はひどいとしか言いようがありません。

 国選付添人が不足するのであれば、この議案を提案した執行部が、率先して国選付添人事件を多数受任して処理することが当然の義務でしょう。

 山田会長をはじめ執行部の方々は、その義務から絶対に逃げないで下さいね。あなた達は自分の名誉欲ではなく、弁護士や弁護士会のために弁護士会の執行部にはいることを自ら選んだ方達のはずですから。

時給3000円でも赤字になる理由

 国選事件が時給3000円なら、学生のバイトに比べればずいぶんいい収入ではないか、どうして赤字になるのだろうか、と不思議に思われる方もあるでしょう。

 しかし、時給3000円でも経営者弁護士には確実に赤字です。なぜなら、事務所経費がかかるからです。
 仮に事務所経費(家賃・リース代・光熱費・事務員さんの給与など)が、ひと月100万円だと仮定してみます(もちろんそれ以上の経費を負担している弁護士も沢山います)。事務所経費は弁護士が病気で仕事ができない場合であれ、交通事故で入院しているときであれ、発生します。事務員さんの生活もありますし、家賃をためて事務所を出て行けと家主に言われると困るので、借金してでも毎月それだけは必ず支払う必要があるお金です。

 そこで、一般的な給与所得者の方のように、土・日・祝日を休日にして、一日8時間労働だとすると、平成20年3月においては、祝日1日、土日10日なので、働ける日は20日間、お金を稼ぐために使える時間は、8×20=160時間になります(実際には、給与所得者の方も、弁護士も間違いなくもっともっと長時間働いていますが、わかりやすくするためこのように仮定して話を進めます)。
 すると、100万円の事務所経費を稼ぐためには、100万円÷160=6250円となるので、時給6250円で働かなければなりません。

 つまり、事務所経費がひと月100万円だとすると、時給6250円以上で働く必要があります。仮に時給6250円きっちりで働いても、事務所経費しか稼げません。自分の生活費としては1円も残らないのです。ですから、自分が食べていこうとすれば、どうしても時給6250円以上で働く必要があることになります。

 仮に、生活費を30万円(もちろん弁護士には住宅手当などありませんから、ここから自宅の家賃も出さなければなりません。)を使えるようにしようとすれば、税金・健康保険料・年金等も考えれば月額40万円は事務所経費以上に売り上げなければなりません。弁護士会費が約5万円くらいですし通勤定期の費用も考えると、最低でも月額150万円くらいは売り上げる必要が出てきます。この場合、150万円÷160=9375円は1時間に稼がなくてはならない計算になります。

 そこに時給3000円にしかならない国選事件がやってくると、1時間つきに6375円ずつ赤字が出ることになります。仮に国選事件で生活費すら儲けようと思わず、自分の懐に入るお金をゼロにして純粋にボランティアでやったとしても、1時間につき3250円が赤字になります。その赤字を解消するには他に事件を解決すべく働くしかありません。しかも国選事件は概ね報酬が決まっており、幾ら時間をかけても努力しても、その報酬はわずかしか上がりません。つまり、時間をかければかけるだけ国選事件の時給も下がりますし、時間をかければかけるだけ、より弁護士にとっての赤字幅が大きくなるのです。

 ですから、経営者弁護士になると国選事件をやらなく(やれなく)なっていくことは、決して不自然ではないことが、これでお分かりになるかと思います。国選事件でペイしようとするなら、とにかく時間をかけないように手を抜くしか方法がないはずです。
 もちろん、事務所経費を負担しない勤務弁護士(イソ弁)さんであれば、ペイするかもしれません。しかし、イソ弁の方が国選事件に時間を割くと、事務所でボスから処理を命じられる事件に費やすことのできる時間が削られ、結局事務所の事件を解決するためにどんどん残業することになっていきます。しかも、一生懸命に専門的知識を勉強して、資格を取り、しかも仕事の責任が非常に重いのに、通訳人の方の4分の1しか国選事件で評価されないのであれば、例えペイしても気が滅入るというものです。

 国選事件の担い手を増やしたいのであれば、国選事件の報酬を増額するほかありません。

 マスコミは、弁護士増員を言う前に、このように自らを犠牲にしてでも刑事弁護を維持している方達を、なぜ擁護しないのでしょうか。

もうやめちゃおうかな。

  先日、国選事件の報酬・費用等について、法テラスから通知がありました。2月3日にブログに記載した事件に関するものでした。

 弁護士報酬については、住居侵入・傷害の被害者2名と示談交渉し、①被告人(住居侵入・傷害・オーバーステイ)をできるだけ寛大な処分にして欲しいこと、②被告人に対して被害弁償等を求めないことを確約すること、の内容を含んだ嘆願書をもらえたことが評価されたらしく、特別加算30,000円がありました。

 したがって、時給換算ではようやく3,000円くらいにはなりました(それでも通訳人の時給の4分の1以下です)。

 この事件では、被告人の親族の方が、「ここまでやってくれるとは思わなかった」と、金品を私に贈ろうとしたのですが、国選弁護制度に鑑み当然受領しておりません。国選事件で被告人の親族から金品を送ろうとされたのはこれで3回目ですが、国選事件では、国選報酬以外は受領してはならないので、当然受領しないのです。

 それはさておき、今日問題にするのは、法テラスが算定して弁護士に支給する費用の方です。この事件は、当初、被告人が一部否認をしていたため、刑事記録(捜査段階の実況見分調書や、被告人の供述調書など)の謄写が必要でした。コピーしておかないと、被告人にどの調書のどの部分で自白を強要されたのかとか、実際の犯行状況と実況見分調書とどう違うかなどの検討ができないからです。否認事件でなくても、被告人が恐怖のあまり否認できない場合もあるので、記録をコピーして自白が不自然に変遷していないかなどを調査する必要もあります。つまり、刑事事件では刑事記録のコピーは、ほぼ不可欠のことなのです。

 記録のコピーには、専属の業者がいて、その業者以外には事実上コピーをとってもらえません。そのコピー代金は1枚42円(消費税込)と、べらぼうな高値になります。

 ところが、実際に弁護士が弁護のためにどうしても必要だからと考えて1枚42円のコピーをとっても、国選事件の場合、国選弁護費用としてはコピー代は一枚20円しか出ません。実費すら出ないのです。しかも、否認事件か重大事件等に限りコピー代が出るだけで、その他の大部分の国選事件は、弁護にどれだけ必要であっても1円もコピー代は出してもらえません。良い弁護をしたければ自腹を切れということのようです。

 私の今回の事件では、被告人が一部否認をしていたので、記録(352枚)を全てコピーしました。そして、法テラスに対して国選事件の費用として14780円を領収書添付の上提出し請求しましたが、法テラスの明細を見ると謄写費用として7040円しか出してもらえませんでした。ただでさえペイしない国選事件でどうしても必要な経費まで自腹で払わされるのであれば、嫌になって当然でしょう。

 さらに、拘置所まで被告人に接見に行った際の交通費も1円も出ていません。忙しいときなどやむを得ずタクシーを利用したこともありますが、それは私の事情なので、タクシー代ではなく公共交通機関(地下鉄)の最寄り駅までの交通費(南森町~都島:片道で200円)を請求したのですが、1円も出してもらえません。法テラスの国選基準では8キロメートル以上の遠隔地のみ交通費が支給されるようです。つまり、8キロ以内は地下鉄も使わず歩けということのようです。以前の国選事件では、少なくとも公共交通機関の交通費くらいは出ていました。

 私は50件以上国選事件をしてきましたが、このような仕打ちを受け続けるので、だんだん嫌になってきました。

 もう、やめちゃおうかな。

どうするの新人弁護士の就職

 私が京都大学時代に「ニワ子でドン」という勉強会に参加していたことは、11月13日のブログに書きました。

 その、勉強会仲間である、谷口弁護士の2月26日のブログによると、京都弁護士会の行った修習生向けの就職説明会では、修習生参加希望者109名に対し、採用側の弁護士はわずかに4名だそうです。

 この状況で、どうして「弁護士の就職難は疑問だ」と朝日新聞が言い張れるのか(私の2月18日記載のブログ参照)、いまだに理解はできませんが、61期の修習生の就職に関しては、相当、危機的状況にあるようです。

 大阪弁護士会からも、新人弁護士を採用するようにと要請がありましたが、昨年度かなり無理して新人弁護士を採用した事務所も多いと聞いていますので、大幅に求人数を増やすことは極めて困難な状況にあると思われます。

 思い起こせば、日弁連平山現会長は、2010年まで就職は大丈夫とお考えだったのですから、当然現状の就職難に対する解決策については、平山会長が知っておられるはずです(私の11月9日付ブログをご参照下さい。)。

 61期の修習生の方に対して、日弁連の平山正剛会長は、直ちに解決策を提示すべきです。その上で会長職を退くのが筋でしょう。

 そして平山氏は、退任後は、おそらく、自ら解決できなかった弁護士過疎問題の対策として地方のゼロワン地域に向かわれることでしょう。なぜなら、平山会長は私利私欲や名誉欲のためではなく、日弁連、弁護士全体の利益のために会長選挙に立候補したはずで、自分の任期中にそれが達成できなかったのですから、残された問題について、自ら解決に向かわれるのは当然だと思われるからです。

 でも、地方に行かれる前に、逃げずに、61期の就職問題を解決して下さいね。貴方は2010年まで就職問題は大丈夫だとマスコミに声を大にして発言なさり、私達の質問にもお答えにならなかったのですから。

「弁護士のため息」と必読の論文

 私は2月1日のブログで「早すぎた天才」と弁護士武本夕香子先生をご紹介させて頂きました。そして、武本先生の、論文「法曹人口問題についての一考察」は必読の文献であると述べたと思います。

 私も何とかして、多くの方に武本先生の論文を読んで頂こうと思っていたのですが、パソコン音痴で難渋していました。そこへ、名古屋で弁護士をされている寺本ますみ先生が、武本先生の了解の下、PDFファイルで公開して下さいました。寺本先生の下記のブログから、PDFファイルを見ることができます。

http://t-m-lawyer.cocolog-nifty.com/

(寺本先生には無断でリンクしてしまいましたが、ご容赦頂けると幸いです)。

 なお、上記の寺本先生のブログは、「弁護士のため息」という名前で公開されていますが、非常に鋭い視点と、切れ味抜群の文章で、重い内容であっても、読んでいてスカッとすることが多いブログです。

 実は密かに、先生のブログを楽しみにしていたりします。

更にもっと恐ろしい朝日新聞の社説

 朝日新聞2月17日朝刊に、弁護士増員~抵抗するのは身勝手だ~と題した社説が載っていました。
 またもや、弁護士増員が必要であると一方的に決めつける内容で、あきれかえるしかありません。特に小泉政権が濫用した「抵抗勢力」を彷彿させる「抵抗」という文字を用いているだけで社説氏のこの問題に関する偏向ぶりが分かります。

 詳しい社説の内容は、朝日新聞のHPで読めるはずですので、まずその社説をお読み頂きたいと思います。

 司法改革に何も関心がない方が一読されれば、おそらくふむふむ弁護士は身勝手なんだと思わせる内容かもしれません。さすがに朝日新聞の社説氏と言えるかもしれません。

 しかし、私から見れば、これはもう悪質な世論操作(増員反対の立場の弁護士バッシング)を行おうとしているとしか思えない内容です。

 あまりに、ひどい社説だから、全てに反論していくと、とてつもない長文になりそうなので、敢えて、何点かに限定して反論することにします。

 社説氏は、「弁護士の質が低下するので増員に反対する」という主張に対して、どのくらいの弁護士の質が求められるかは時代によって違うと切り捨てます。おそらく、社説氏によると現代では弁護士の質は高くなくてもいいというご主張のようです。

 弁護士の質が相当程度高い水準に維持されなければならない理由は既に、以前のブログで書きました。結論だけ述べれば、弁護士の質を維持しないと一般の国民の方が迷惑を被るからです。それは、弁護士の仕事内容を正確に判断することは難しいし、他の弁護士の仕事と比較もしづらいので、結局、その弁護士がきちんと処理してくれることを信じるしかないことが多いのです。そうだとすれば、弁護士という以上相当程度の質が維持されている必要があるはずです。ところが、社説氏は、一般国民の方が質の低い弁護士にひどい目に遭わされてもかまわないとお考えのようです。確かに、朝日新聞は膨大な取材能力があるから、質の低い弁護士に依頼しないでしょう。しかし、一般の国民の方はそうではありません。一般国民のためにこそ、弁護士の質の維持は必要不可欠なのです。

 ところが、実際に司法試験合格後に合格者が司法修習を受ける、司法研修所の教官によれば、最も優秀な学生が集まったとされる法科大学院第1期生(新60期)すらも、「全般的な実体法の理解が不足している。単なる知識不足であればその後の勉強で補えると思うが、そういう知識不足にとどまらない理解不足、実体法を事案に当てはめて法的な思考をする能力が足りない」、そういう修習生がいると酷評されています。

 あとで勉強したくらいでは、とても補えないほどの理解不足・法的思考能力不足の法律家を大量生産しているのが法科大学院なのです。
 私は朝日新聞が、法科大学院の記事を書く際に、ほとんどと言っていいほど「質の良い(優秀な)法律家を育てるための」と枕詞をつけていたことを覚えており、朝日新聞を読んでこられた方は、無意識のうちに法科大学院は優秀な法律家を育てていると思いこまされているかもしれませんが、実際の結果は惨憺たるものです。最も優秀な第1期ですら、この有様なのです。その後は、学生のレベルがダウンしていきますから推して知るべし。法科大学院はすぐにでも廃止しないと、えらいことになるはずです。

 とはいえ、一般の国民の大多数が、藪医者のレベルでもいい、知識不足でもいい、とにかく弁護士に依頼したいというのであれば、朝日新聞の主張も分からないではありません。しかし、一般の方が弁護士に依頼することはそれこそ一生に一度くらいしかない場合がほとんどです。例えていえば、手術を受けるようなものかもしれません。その大事な手術を、藪医者かもしれない医師に任す人がいるでしょうか。命に関わるのですから、出来る限り質の高い医師に執刀してもらいたいのではないでしょうか。そのときに誰が藪医者か分からないとしたら、どうなるでしょうか。おそらく、多くの犠牲が出てしまうのではないかと思います。しかし、逆に、医師免許を持っている者は、全員が相当程度の質を維持しているのであれば、ずいぶん事情は異なってくるはずです。
 また一般国民のニーズが、本当に、質が低くてもいいから弁護士にとにかく依頼したいというのであれば、弁護士は引く手あまたであり、就職難(後述)や、食えない弁護士が発生するはずがありません。
 根拠もなく勝手に、国民のニーズを仮定して、その誤った仮定の下に社説を組み立てているのが、今回の社説のようです。

 次に、弁護士の就職難は疑問だという点です。社説氏の根拠は弁護士白書の弁護士年間所得平均です。一見説得力がありそうです。しかしここも、社説氏のトリックが潜んでいます。

 まず、就職難かどうかは、昨年就職活動した60期の弁護士に聞くか、現在就職活動中の61期の司法修習生に聞くか、日弁連に現在の就職希望者と求人数を問い合わせれば分かるはずであり、それ以外に就職難か否かを判断する根拠はないはずです。例えば、大学生が就職難かどうかを論じるときに、大企業の社員の平均年収が中小企業より高いので就職難ではないと論じたら、見識を疑われると思います。

 この点だけからも、社説氏のトリックが明らかだと思われます。仮に、社説氏が故意に結論をねじ曲げるためではなく、真剣に就職難と平均所得に関係があると考えているのであれば、論理的思考すら出来ない方が社説を書いておられることになりましょう。そんな人物に会社が公表する意見を書かせる朝日新聞の見識すら疑われることになるでしょう。

 さらに、弁護士白書の年間所得は一部の弁護士しか回答していないアンケート結果に基づくものであり、すべての弁護士の所得を反映していません。また、厚労省賃金構造基本調査に基づく統計では弁護士所得は772万円との見解もあります。
 そもそも平均所得という概念を持ち出すのがおかしなことです。仮に、9億1000万円の所得がある新聞記者1名と、1000万円の所得がある新聞記者9名がいた場合、この10名の新聞記者の平均所得は1億円になります。このような場合に、新聞記者の平均所得は1億円なのだから、一人2000万円を慈善事業に寄付してもいいだろうと言われたら、到底納得できないでしょう。このように、そもそも使うべきではない概念を用いて自説を補強している点からも、社説氏の強引かつ杜撰な論理展開がお分かりになると思います。

 次に弁護士過疎の問題です。社説氏は、「弁護士過疎の問題を解決してから増員反対を言え」と主張されます。しかし、翻って考えると、弁護士過疎の問題はそもそも弁護士会が解決すべき問題なのでしょうか?

 再度医師の例えを用いますが、無医村が多く存在したとしても医師や医師会はなぜ、非難されないのでしょうか。社説氏の論理から行けば、診療報酬の値上げをいうなら、まず無医村の問題を解決しろということになりはしないのでしょうか。

 それでも日弁連・弁護士会は弁護士過疎対策に相当程度のお金を割いています。それらは個々の弁護士が支払う弁護士会費から捻出されているはずです。医師や医師会がお金を出して無医村対策をしたでしょうか。勉強不足の私はそのような事例を知りませんが、もしそのような対策を医師会がしていたら、誉められてしかるべき行為でしょう。医師や医師会がお金を出すなどして無医村対策に努力していながら、なお無医村が生じていたとしても、それだけで非難されるべきなのでしょうか。そうは思えません。

 しかし、それが弁護士の過疎問題となると何故、そこまで社説氏に批判されなければならないのか全く理解が出来ません。

 さらに、社説氏は、裁判員制度の導入や被疑者国選弁護の拡大がなされるので、弁護士不足になるはずだと述べています。これに関しても、生活できるだけの報酬を裁判員裁判や被疑者国選弁護で出してくれるのであれば、一気に解決します。
 被疑者国選弁護などの範囲が拡大しても、赤字でやらなければならない仕事(持ち出しでやるボランティア)が増えるだけです。
 時間と手間をかければかけるだけ赤字になる、つまりほぼ確実に損をする仕事を弁護士に押しつけ、その赤字の仕事を増やしておきながら、弁護士の生活は弁護士が勝手に努力しろでは、筋が通らないでしょう。

 例えば(本当は1回だってやるとは思えませんが)朝日新聞が、どうしても人権擁護に必要だから、年3回は特定の日の新聞の広告欄を全て、通常の10分の1の値段でやれといわれて、新聞社の使命として仮にやっていたとします(報道の独立性はこの際考えずに、純粋に経済的問題として考えて下さい。)。
 新聞社の使命だから、その回数を年10回にする、今までのような収入は見込めなくても新聞社のやるべき仕事だろうと言われて、朝日新聞は黙って従うのでしょうか、社説氏は黙っているのでしょうか。

 最後に、社説氏は司法改革は市民のためであり法律家の既得権のためではない。と結んでいます。社説氏のいう法律家(弁護士)の既得権とはいったい何なのでしょうか。

 弁護士の法律事務の独占については、近時、司法書士の簡裁代理権を認めたり、サービサー制度、弁理士の特定訴訟事件代理権、行政書士の書類作成代理権など、完全に崩壊しつつあります。弁護士の法律事務独占を既得権というのであれば、むしろ弁護士はいくつも既得権を放棄してきています。弁護士の数が増加しつつあるのにもかかわらず、です。

 安定した収入を得られる地位という意味であれば、そんな既得権は、弁護士稼業のどこを探したってありません。弁護士には、扶養者手当、住居手当等も一切ありませんし、自分が病気してしまえば何も収入が得られません。しかも、収入がない月であっても事務所を構えている以上は、毎月事務所経費が出ていくのですから、大変なのです。退職金制度もないし、もちろん年金は国民年金です。従業員は政府管掌保険で厚生年金であっても、自らは国民年金だけです。従業員の社会保険料の半額を負担させられるのに、自らには極めてわずかな保障しかありません。

 社説氏が何をもって、法律家の既得権というのか、私には理解が出来ません。使用する語句の意味を明確にしてから論じてもらいたいと思います。

 論じる際には、用いる言葉の意味を明確にしてから論じるべきはずだ。その原点を忘れてもらっては困る(朝日新聞社説調)。

 他にもたくさん言いたいことはありますが、これくらいにしておきます。

 ただ、この社説は全く思いこみから事実を確かめずに書かれたものである上、論理的にもおかしな点が多いので、私としてはわざと増員反対の弁護士をバッシングするために書かれたものだと考えています。もし本当に社説氏が弁護士バッシングの意図でなく書かれたのであれば、あまりにも能力のない若しくは思いこみだけで社説を書かれる社説氏であり、朝日新聞の見識を疑わざるを得ません。

苦渋の選択?

 日弁連会長選挙は、現執行部体制の維持を主張するM候補と、現執行部に反対の主張をしているT候補の一騎打ちの状況です。

 法曹人口の問題に関しては、T候補は当初から増員反対でしたが、M候補は検証してからと言う条件付きですが、増員見直しを言い始めました。ですから、マスコミが図式化してきたように、

 増員反対=T候補、

 増員賛成=M候補

 と割り切ることは出来なくなったと思います。

 T候補の増員問題への態度は、若手の共感を得るとは思いますが、T候補の他の公約は過激に過ぎる部分もあり、全面的に賛成できない方も多いと思われます。かといって今までの執行部路線を継承するM候補を全面的に支持することも出来ない方も多いでしょう。

 私の感覚で誤解を恐れずに分かりやすく例えていえば、「どうしても欲しいゲームソフトをT店では売っているけど、要らないソフトと抱き合わせ販売になっている」、「M店の抱き合わせ販売は、大して欲しいゲームソフトは入っていないが、全く要らないソフトというわけではないかもしれない」というところで、小遣いが限られている中で、結局どちらの店で買うのがましなのか、若しくは買わずに小遣いを捨てるのか(白紙投票など)、という苦渋の判断を迫られるということのようです。

 いずれの候補が当選されても、マスコミが報道してきたように、増員反対=T候補、増員賛成=M候補、とすんなり割り切れるわけではないことをご理解して頂きたいと思っています。

朝日新聞の社説に反論

 本日の朝日新聞に、「弁護士は頼りになるのか」という見出しで、社説が掲載されています。

 社説氏によると、富山県でのえん罪事件について、弁護士が手を抜いていたのではないかと指摘され、その背景には欧米に比べて極端に弁護士数が少ないので、質量とも十分な弁護士が必要だと結論づけられているようです。

 確かに、調査の結果弁護士が手を抜いていたのであれば、きちんと処分すべき問題だと思います。ただ、その背景として弁護士数が少ないから、弁護士数を増やすべきだと結論づけられているのは、相変わらず事実を見ていない、ご意見だと思います。特に朝日新聞の社説氏は、問題を弁護士の数の問題に結びつけたがる傾向があるようです。

 私から見れば最大の問題は、まず、自白強要をする捜査側の体質です、次に、国選弁護費用が極端に安いことが問題だと思います。 捜査側の体質は従来から言われていることなので、ここでは、後者について述べてみます。

 大阪弁護士会の旧報酬規定によると、刑事事件の弁護士費用は着手金・報酬金併せて、簡易な刑事事件は60~100万円とされています。しかし、国選事件は5~10万円程度の報酬しか出ないのです。経営者弁護士からすれば、完全に赤字の事件です。力を注げば注ぐだけ、時間をかければかけるだけ、どんどん赤字が大きくなる事件なのです。

 それなのに、弁護士の使命なんだから十分な弁護をしろと言われても、熱意は次第に失われていくのは当たり前でしょう。だって、やればやるだけ損になるのですから。

 極端な例になりますが、例えば、国から、人権擁護のために必要な広告だから、通常の広告費用の10分の1で全面広告を出せと朝日新聞が言われて、広告を出すでしょうか(マスコミの権力からの独立性についてはとりあえず考えず、純粋に経済的問題として考えて下さい)。

 仮に、人権擁護がマスコミの社会的使命だと朝日新聞が賢明にも考えて全面広告に一度は応じても、何度もそれを求められた場合、他にお金を出して全面広告を希望する顧客が待っている状態で、確実に儲からない広告の求めに朝日新聞は、やはり何度も応じるのでしょうか。

 私は疑問だと思います。

 しかし、弁護士達は、赤字に耐えつつ、自らの使命に鑑み、国選事件をこなしてきました。私も、手を抜かずにやってきたつもりです。しかし、私の周囲を見ても、若いときには国選事件に力を入れていた弁護士も、経営者弁護士になり、従業員の給与を借金してでも払わねばならない立場になると、次第に国選事件はペイしないから受けないようになっていく方が多いのです。それは、かけた時間や労力に全く見合わない報酬しか国から出ないからです。

 例えば、私が最近受任した国選事件では、私は①公判前に仮監を含めて4回接見し、②被告人が中国人であったため、強制送還の質問をする被告人のために書物を購入して調査し、③刑事記録を全て謄写して検討し、④被告人親族と打ち合わせを電話を含めて6回ほど行い、⑤傷害被害者と示談できないか交渉した上で、嘆願書を作成してサインしてもらい、⑥弁論要旨を作成する際にも、近時の収容状況を調査するために犯罪白書を調査する、⑦反省文の書き方などを被告人に教示して書かせる、など、少なくとも20時間以上をかけました。

 しかも、刑事記録の謄写は、否認事件である程度のページ数以上でないと費用が出してもらえません。よい弁護をしたければ、弁護士に自腹を切れということのようです。これで、仮に国選事件の報酬が6万円だったとすると、記録謄写に15000円くらいかかっていますし、弁護士会の5%ピンハネもありますから、おそらく実際の報酬といえるのは(調査のため購入した本代を除いても)4万円くらいでしょう。仮にそうだとすると今回の事件は時給にすると、2000円くらいです。

 しかも通常のアルバイトであれば、時給2000円なら2時間で4000円もらえますが、私のように経営者弁護士になると、事務所経費がかかります。毎月100万円以上のお金が事務所経費が、出て行くのです。その費用のかかる事務所を使って仕事をしているので、当然、時給2000円では大赤字なのです。

 どんな聖人君子であれ、やればやるだけ赤字になっていく仕事をやらされて、十分な仕事をしろと言われてもなかなかそれは困難でしょう。誰だってご飯は食べなければならないし、家族も養わなければならないからです。

 朝日新聞の社説氏は完全にこの国選弁護報酬が低すぎることを、見落として社説を書いておられます。

 もし、社説氏が国選弁護報酬が十分だと仰るのであれば、私は、「それならあなた、自分で事務所を経営しながら、一度国選弁護をやってみなさいよ」と言ってやりたいくらいです。100%ペイしないでしょう。

 ちなみに、この事件は通訳が必要な事件とされており、通訳人の方にお願いしたところ、40分で9000円の費用がかかりました。そこから計算した通訳人の方の時給は、13500円です。私の時給の約7倍です。

 これだけの負担を弁護士に押しつけながら、「金は出さんが、仕事はきっちりしろ。それがお前の使命だろう。」と言われても、熱意がわく弁護士はほとんどいないでしょう。

 それは弁護士の数が増えても全く変わらないと思います。

 だから、社説氏の主張は誤りだと私は思っています。