谷間世代への20万円給付案~大阪弁護士会は賛成意見

 先日の大阪弁護士会常議員会で、日弁連の提案する、いわゆる谷間世代(貸与制世代)への20万円支給案に賛成する意見が、可決されてしまった。

 大阪弁護士会執行部の賛成意見の理由は、概ね次の通り。
 ① いわゆる谷間世代は日弁連会員の約4分の1を占めており、この世代が経済的理由により、その活動に支障をきたすようなことがあっては、我が国司法の人的インフラが抱える大きな問題ともなり得る。
 ② 約20億円の予算であれば、日弁連での将来必要な支出や活動を大きく制限しその執行に支障が生じるとは言えない。
 ③ 谷間世代が有している負担感等を全会員として受け止め一体感と統一性を醸成することで日弁連のメッセージとして意味がある。

 前回私が、質問したことを気にしたのか、「日弁連理事会では谷間世代に関する立法事実に関する客観的資料は提出されていなかったことに違いないが、検討委員会では提出されていた」と釈明して、昨年9月に実施されたアンケート結果が配布された。

 それによると、65期修習の有効回答者の中で、貸与金返済のめどが立っていないとの回答者は46%にものぼったそうだ。

 そのような説明が副会長からなされたので、私は聞いてみた。

 「日弁連では、貸与金を返還できない状況にある者に貸付金制度を作ったはずだが、65期で、実際の制度利用者は何名なのか。もし利用者が少ないのであれば、返済のめどが立たない者が多いというアンケート結果は事実と異なる可能性があるのではないか。」

 執行部からは、正確な数字は分からないが10件以内であるとの回答があった。付け加えて聞いてもいないことだったが、最高裁に猶予を認められた者が32名いるとの回答があった。また副会長からは補足で、実際に困っているという問題という視点だけではなく、給費制との不公平という視点もかなりあるとの説明があった。

 仮に最高裁の猶予者と日弁連の貸付を受けた者が重複していないとしても約40名。65期の弁護士数は1838名。約2%である。

 谷間世代の多くが実際に困っているから助ける趣旨だ、というのであれば、日弁連貸付金制度利用者の数が少なすぎて、そのような立法事実は認められないというべきだろう。

 それに、仮に経済的理由で谷間世代の弁護士活動に支障をきたすくらいの問題が生じているのであれば、20万円一回の支給で、弁護士活動に支障をきたすくらい深刻な経済的問題が解決するとも到底思えない。また、実際に困っているかどうかの資力調査もせずに、申請者一律に20万円をばらまく制度なのだから、困っているから助けるという趣旨と制度の構造自体も矛盾する。

 さらにいえば、弁護士数の増加に伴った仕事が増加しているのであれば、このような問題はそもそも生じていない。今後も弁護士数の激増に歯止めがかからないのであれば、この弁護士の経済的問題は深刻化しこそすれ、解決するはずがないのである。

 もちろん副会長の「不公平」という補足説明は、上記の点に配慮した説明だったのだろうと思う。しかし、不公平という点を重視するなら、不公平に扱ったのは誰なんだ。それは国ではないのか。
 また、きちんと長年日弁連会費を支払いながら支給を受けない会員と支給を受ける谷間世代会員との扱いの違いは、不公平ではないのか。

 不公平を理由にすることは、理屈に合わないだけではなく、将来に禍根を残しかねない危険な言い訳でもあるのだ。

 つまり、現在の修習生は、確かに給付金を受領しているが、それでも給費と違い額は低く抑えられている。したがって、貸与制も併存しているのだ。

 だとすれば、給付金+貸与制度世代からも、「俺たちは、給費制に比べて僅かな給付金しかもらえていない。貸与制度も利用した。給費世代と比べて不公平ではないのか。谷間世代が20万円もらえたのなら、同額と言わないまでも、半額はもらえても良いのではないか。」との主張が十分考えられる。

 給付金+貸与制度世代は、制度が変わらない限り、今後新しく弁護士になる全ての修習生が該当するのだ。いつまで対策を続けたって終わりゃしないのである。

 もし給付金+貸与制度世代から上記のような主張がなされた場合、執行部はどうやって抗弁するのか。少ないながらも給付金をもらっているから不公平ではないと言い切るつもりなのか。もしそうなら、恣意的に公平、不公平を使い分けるご都合主義者と言われても文句は言えまい。

 このような問題点について、日弁連執行部は、な~んにも考えていないとしか思えない。

 上記の問題が現実化した時点で、現日弁連執行部の弁護士たちは既に弁護士稼業を引退しているのかもしれないが、問題の火種を作り上げて放置したまま、後の世代に丸投げするのは、止めてもらいたい。

 その他、他の常議員の先生から、日弁連の財務シミュレーションでは会費収入が減少しないことになっているが、本当に南海トラフ地震などが起きたとしたら、会費収入は減額するのではないか、その想定を全く加味していないのはシミュレーションとしておかしくないか、との指摘もあった。

 担当副会長は、正面から答えることができなかったのだろう、質問に対してきちんと答えずに、東北の震災の時はそんなに会費収入は減少していないと答弁するにとどまった。

 東北の震災に比べて、南海トラフ地震や、首都直下型地震では、被災する弁護士数も桁違いになるはずだ。きちんと返答できないのは、シミュレーションが、結論ありきで作成されているからだろうし、かといって、立場上そのシミュレーションを否定することもできないからだろう。もちろん、そのようなシミュレーションを作ったのは日弁連であり、大阪弁護士会の副会長に責任はないのだが、そのような適当なシミュレーションを作っておいて、それを根拠に会員を煙に巻こうなんざ、全国の弁護士も、ずいぶんとなめられたモンである。

 そのようないい加減な根拠の施策だが、大阪弁護士化の常議員会では、反対4保留4、賛成33で可決されてしまった。

 おそらく賛成された常議員の方は、理屈やシミュレーションがおかしくても谷間世代に支給すべきというお考えなのだろうし、まさか、他人の金なら支給すべきだが自分の金なら嫌だともいわないだろうから、万一困った谷間世代がいらっしゃったら、現日弁連執行部・大阪弁護士会執行部、及び大阪弁護士会常議員の先生で本議案に賛成された先生を見つけて支援を求めた方が良さそうだ。

 まさかお断りになることはないと思うから。

谷間世代給付金案~常議員会で討議の報告

 先日ブログにも掲載したが、日弁連が司法修習中に給費を得られなかった世代に対して、会費減額をする案を撤回したと思ったら、こんどは20万円を給付する案をだし、各単位会に意見照会をかけている。

 20万円の給付を谷間世代に行うと、日弁連にとって(つまり全世代の弁護士にとって)約20億円の支出となる。

 どうしてそんなに、日弁連執行部が谷間世代を優遇したがるのか、私には謎だ。ちなみに同じ時期に給費を得られずに修習を行い、裁判官・検察官になった人たちには特にそのような救済策はなされていないし、救済策を講じる予定もなさそうだ。

 常議員会で、討議事項に上がったので、私は2点質問してみた。

①谷間世代の裁判官・検察官に国が救済策を講じるかどうか、そのような動きがあるかについて調査しているのか(これは従前、谷間世代救済の件について、執行部が常議員会で、裁判所検察庁の動向も見ながらと発言していた記憶があるために質問した)。

②このような施策を実行する立法事実・根拠事実をどうやって把握しているのか。客観的な谷間世代の困窮を示す調査資料があれば出して欲しい。

 担当副会長の回答は、①について、調査していない。②については、客観的な調査は行っていないので資料はない。日弁連執行部が、各地でそのような声があると聞いているためではないか。というものだった。

 およそ、法律家には釈迦に説法ということになるが、『「立法事実」とは、立法的判断の基礎となっている事実であり、「法律を制定する場合の基礎を形成し、かつその合理性を支える一般的事実、すなわち社会的、経済的、政治的もしくは科学的事実」(芦部信喜、判例時報932号12頁)』を意味する。

 日弁連が、一般会計の剰余金のうち、ほぼ半額に匹敵する20億円もの支出を行う施策を行う場合、その支出の合理性を支える事実について、当然きちんと把握して然るべきだろう。
 その根拠が、「執行部がそのような声を聞いたから」、というのではあまりにもお粗末にすぎる。

 お話を簡単にするために、全員が同じ額を納税し、同じ公共サービスを受けている人口4万人のB国(日弁連)があったと仮定しよう。T世代(谷間世代)は、いまは多くがB国の国民だが、B国の国民になる前に、S国(司法修習)で、無給という酷な扱いを受けていたことあったと例えることが出来そうだ。なお、T世代のなかにはJ国(裁判官)、P国(検察官)の国民となった者もいるが、J国、P国ではT世代に対して何らの施策も採っていない。

 このような状況下で、
 「B国国民になる前に、S国から不当な扱いをうけたT世代の人が、S国から受けた不当な扱いが原因で困っていると聞いたんで、事実は全く調査していませんが、そのT世代の国民全てに対して申し出てくれれば、国庫一般会計に貯めていた万一の時のためのお金の半分を出してばらまきます。よろしくね。」、なんてことをB国首相が言ったらT世代以外の納税者は納得できないどころか、激怒するはずだ。

 そもそも、T世代に対して不当な扱いをしたのはS国なんだし、その不当な扱いはB国国民になる前に行われた話なのだから、S国に責任を問うのが筋だろう。

 確かにB国が好景気に沸いていて、右肩上がりの成長が今後も十分見込める余裕十分の国民ばかりであったのであれば、あるいは、このような施策もあり得るのかもしれない。

 しかし、B国国民の所得は各世代において減少しつつある。国税庁統計(日本)から算出されたデータによれば、所得の中央値を見ると、2006年の1200万円から、2014年には600万円と、わずか8年でキレイに半額になっているとの指摘もある。それでもB国の税金(日弁連会費)はほとんど減額されていないどころか、滞納を続けるとB国を追放される処分を受ける苛酷なものとしてB国国民に課されている。

 仮にB国の国民になったのだからということで、(J国・P国との均衡を無視して)相互に助け合うべきだと強調するにしても、全体としてB国が傾いている状況でT世代以外の国民も納付した税金を使うのだから、きちんとした根拠とその支出の合理性を全国民に説明する必要があるはずだ。

 日弁連執行部の人気取りかどうか知らないが、雰囲気で20億円もの支出をされてはたまったものではない。

 そんなに助けてあげたいなら、何度も言っているように、助けてあげる余裕があって、助けてあげたい人たちで基金を作ればいいじゃない。少なくとも日弁連執行部に所属する人たちは、しつこく谷間世代救済を主張するんだから、喜んで私財を投げ出してくれるはずだ。

 良いカッコしたいけど、かかる費用は他人の金で、とは虫がよすぎないか。