(続き)
それに加えて、会長の説明する、「統一的連続的な法曹養成の基盤の問題として谷間世代の救済を行うべきではないか」との提案も、筋が通らない。
日弁連が統一的な施策をとるのならともかく、各単位会によって、谷間世代の対応を行うところもあれば、そうでないところもあるはずだ。対応の中身だって同じではあるまい。
現に実行されている東京三会の対応も、全然違うものだし、そのような各単位会任せの状況で、どうやって統一的な問題対応になり得るのだろう。
更にいえば、法曹養成の基盤の問題といわれるが、谷間世代であっても、既に立派に法曹にはなっている。それを法曹養成の基盤の問題というのもなんだかおかしな話だ。
会長が強調していた、「弁護士会の目指す対外的対応と会内(谷間世代救済)措置は両立しうる」、という意見が日弁連でも相当強くあったとの報告も、なんの説得力もない。
もともと国は、給付金制度を谷間世代に遡求的に適用しないと明言しているし、「貸与制の返済がきつければ、世界的にも異常に高額な弁護士会費を下げて対応すればいいだろう」という国会議員などの意見が強力に存在しているのが現状だ。
その状況下で、国会議員様・財務省様の仰せの通りです、といわんばかりに弁護士会費減額等の対応をとって谷間世代救済策を行えば、「それみたことか、弁護士会の会費が高すぎたのが問題じゃないか。しかも減額してもやっていけているではないか。弁護士会が対応したのだから、もう国が対応する必要はない。」と評価され、谷間世代の救済を国に求めている行動に必ずや水を差す結果になることは、誰にだって分かるはずだ。
要は、理論的に両立しうるかということではなく、外部から見て、救済策がどう評価され、どう運動に影響するかの問題だ。その点から考えると、日弁連で強く出たというこの意見は結局、屁理屈に過ぎないというほかない。
担当副会長からの説明では、「現在大阪弁護士会には10億円以上(但し、この数字は担当副会長の発言を、一応私なりに遠慮して控えめに変更した数字である)の使途の定まっていないお金があり、それをどう使うかの問題である。谷間世代以外の会員の会費を値上げするわけではないから、谷間世代以外の会員の犠牲はない」との説明もあったが納得出来なかった。
そもそも大阪弁護士会の会費は、大阪弁護士会とその活動を維持するために必要なお金として、会員から徴収しているお金のはずだ。そのお金が余っているのであれば、それは必要以上に会費を徴収していたことになるから、本来であれば会員に返却すべきお金のはずだ。余っているお金だから良いじゃないかという単純なお話しではないのである。
また、谷間世代以外の会員の会費が値上がりするものではないから犠牲はないという説明も、はっきりいえば詭弁だ。本来返却すべきお金を返却しないのだから、一見見えにくくても、谷間世代以外の会員の負担が相対的に大きくなっていることは変わらないのだ。
このように、谷間世代からの要望もない、谷間世代の要望の有無について調査もしていない、立法事実も存在しない、統一的連続的な法曹養成の基盤という説明ともそぐわない、谷間世代以外の会員に負担をさせて救済するという不公平を新しく作りだす、何より給費制復活・谷間世代救済を目指して頑張っている委員会・本部の活動に水を差すに違いない、このような救済策を、何故執行部が詭弁や屁理屈までこねて意固地に通そうとするのか。
この点、ある常議員の先生が、「この制度は給費制復活運動や国に対する谷間世代救済要求をあきらめるなら、意味があると思う」という趣旨の発言されたことで、ふと思い至った。
これは邪推のレベルに至る推測かもしれないが、おそらく、日弁連は給付金制度導入と引き替えに、給費制復活運動と谷間世代を切り捨てる密約をしたのだ。そして、その運動を沈静化させることまで約束して、給付金制度を合意させたのではないか。
多くの谷間世代が所属する大規模会が谷間世代救済を行えば、過半数の谷間世代を沈静化させることは不可能ではない。弁護士会からの救済を受けた谷間世代は、更に国に対して免除を求める行動は、おそらくやりにくいし、仮に出来たとしても相当弱体化するだろう。
また、弁護士会が谷間世代を救済する施策をとった以上、もともと谷間世代を切り捨ててきた国側も、弁護士会の会費が高すぎたのが問題であって、弁護士会が対応したのだから、不平等が仮にあっても事後的に是正されており、もはや国側が対応する必要はない、と主張し易くなる。
日弁連は給付金制度を勝ち取ったと主張でき(大阪弁護士会執行部は、私達が救済施策を実施したと胸を張れるし)、谷間世代も筋違いではあるがある程度の救済を受ける者が過半数を超え、国側も面倒な対応をしなくて良くなる可能性が高い、という点で、三方丸く収まるし、日弁連も顔が立つ、といった案配だ。
仮に上記の推測が的を射ていたとして、谷間世代の救済策が大規模会で行われれば、日弁連執行部の(表面上は谷間世代の対応を国に求める活動を支持しながら実際は切り捨てたという点での)後ろめたさも少しは解消されるだろう。ただし、実際には他の会員が納めた会費を使っての施策という点で、いささか狡い構図にはなることは避けがたい。
だが、その施策は、給費制復活と谷間世代の救済を求めて真剣に活動してきた会員をないがしろにするばかりではなく、谷間世代以外の会員の経済的犠牲があって初めて成り立つ代物だ。だから慎重に検討をする必要があるはずだ。
前にも触れたが、もっと良い方法がある。
大阪弁護士会の中の話になるが、①谷間世代を救済したいと考える会員は会費減額を受けずに従来どおりの会費を支払う、②救済は筋違いだと考える会員は現在の会費の余剰が増加しない程度に会費減額を受ける、③その上で救済したいと考える会員が支払った会費のうち減額を受けなかった部分(それに救済したいと考える弁護士からの寄付)を財源とし、谷間世代のうち救済を受けたい者に申告させて、その財源の範囲内で会費免除を行う方法だ。
もちろん、困っている谷間世代の人を救済する施策なのだから、本当に救済を必要とするだけ困っているかについての所得調査は必要になるだろう。
会員によって意見は違うだろうから、多数決で決めてしまうより、よほど公平で理に適っている制度ではないだろうか。確かに会費の額が一律ではなくなってしまうが、会費の一律性については、若手優遇で既に崩れているし、なにより、この救済策自体が、谷間世代の会費を減額するということで、会費の一律性を無視するところから始まっている制度のはずだ。
特に谷間世代を救済したいと願っている執行部の先生方は、もちろん会費減額を求めないだろうし、救済のためには私の私財を財源にして下さいと、寄付すらしてくれるかもしれないぞ。
まさか、救済したいけど、それは他人の金で、なんてずるい言い方はしないだろうと信じたいところだ。
いずれにせよ、真剣に情報を得て、しっかり考えていないと、執行部は何をやらかしてくれるのか分かったものではない場合がある。
日弁連や弁護士会執行部は必ず弁護士全体のことを考えてくれていて、悪いようにするはずがない、と盲信することは、極めて危険なのだ。
「わるいようにしないから」という言葉は、悪いようにするときにこそ、使われる言葉でもある。
しっかり問題意識を持って、見守る必要があるだろう。
来週の常議員会で、この議案が総会に提出されるかの議決がとられる予定である。興味ある方は常議員会を傍聴されてみるのも面白いかもしれない。
(この項、一応終わり。)