昨年11月のブログにも掲載したが、法科大学院等特別委員会の議事録は、文科省のHP上では未だ公開されていないようである。
「最新の議事要旨・議事録・配付資料」のページはもとより、「これまでの議事要旨・議事録・配付資料の一覧はこちら」のリンクをたどっても、昨年3月からの会議における配付資料だけが閲覧可能になっているだけで、議事録は一切掲載されていないようだ。
この特別委員会の前身である「法科大学院特別委員会」の議事録も見てみたが、H28.9.26開催の第76回会議までしか作成されていない。
他の委員会を見てみても、将来構想部会や大学院部会などは、昨年10月、11月頃に開催された会議の議事録も公表している。
要するに、法科大学院等特別委員会の議事録の公開が、突出して圧倒的に遅れているようなのだ。
大体1回2時間くらいの会議で、議事録を文章に起こすだけでどうして1年以上もかかるのかとても不思議なので、おそらく、何らかの意図があって議事録公開を控えているのではないかと、疑念を頂かざるを得ない。
ただし、議事や議論の大まかな内容は、「これまでの法科大学院等特別委員会における委員の主な御意見」という配付資料を見れば想像はつく。
しかしこれまた、以前のブログで指摘したとおり、そこでの議論は、法科大学院等特別委員会の目的は、ずばり、法科大学院制度の維持で、それ以外にない。そして国民の皆様の為の法曹養成よりも、法科大学院制度維持が自己目的となり、予備試験制限を主張する場合等以外には当初の理念もどこかへすっとんでいるようだ。
議事録がないので仕方なくその主な御意見を見て見たのだが、御意見にも3ランクがあるようで、①赤丸赤字の御意見、②黒丸黒字で太字の御意見、③黒丸黒字の御意見と、記載されている意見の表示が異なっている。もちろん①>②>③の順で重要度が設定されているのであろう。
その中に、次のような赤丸赤字の御意見があった。
【法学部教育の在り方】
○ 良好な就職状況や就活スケジュールの前倒しの影響か、学部生が熱心に法律科目の授業を受けていないと感じる。早期から法曹志望が明確な学生だけでなく、身近な経験等をきっかけに法律の勉強に興味を持った学生も法科大学院志願者として取り込むためにも、学部段階で若手法曹による講義・講演を設けて法曹が魅力的な職業であることを伝えるなど、広報活動が必要。
この御意見を赤丸赤字で重要表示している点だけで、もう、法科大学院等特別委員会は現実を見る力を持っておらず、委員会として終わっていると感じざるを得ない。
職業は、確かに自分を社会の中で実現していく行動である。しかしそれは同時に生計を維持する手段であり、職業によって得たお金で自分や家族の生活を支えて行かなくてはならない。
だからどんなにやりがいのある魅力的な仕事があっても、その職業のために必要な資格取得が費用対効果に見合わなければ、親の地盤を継げて将来の経営安定が保証されている人間か、生活できなくてもやりがいを重視する奇特な人間以外は、その職業を目指すことはないと考えるのが素直だろう。
やりがい・(経済面を無視した)魅力だけをエサにして、有能な人材が確保できるのか、ヘッドハンティングができるのか、考えて見ればすぐ分かるはずだ。
また、昨今、優秀な志願者が激増して、どんどん難易度が高くなっている医学部に関して、志願者を増やすために、文科省や厚労省は、医師の仕事が魅力的であるとか、医師のやりがいを大々的に広報などしただろうか?
そのようなことをしなくても、医学部人気は高まっているのだ。
2016年6月13日付け週刊ダイヤモンドが、医学部人気の過熱の原因に関して、記事の中で次のように分析している。
(以下、週刊ダイヤモンドのHPより引用)
なぜ、医学部受験はここまで過熱し、難易度が高まっているのか。
まず、理由として挙がるのが、医師になれば、食いっぱぐれがないことだ。その気になれば、70歳になっても働くことができるし、医師は激務とはいえ社会的地位も高く、勤務医であっても平均年収は1000万円を超えてくる。
それに加えて、08年以降、有名私立大の医学部が、相次いで数百万円単位で学費を値下げし、受験しやすくなったことだ。
次に、これまでとは異なる受験者層が、医学部に流れてきていることが挙げられる。
同じ理系でも理工学部などを卒業し、製造業などに就職してもシャープや東芝のように今の時代、いつ何時会社が傾くか分かったものではない。それは文系もしかりで、医師と並ぶ最難関資格の弁護士資格を取得しても、食べていけない弁護士が続出する時代だ。
消極的な理由だが、世の中に医師ほど安定して収入が得られる資格がなくなり、優秀な層の流れ着く先が医学部ということが、過熱している要因の一つといえる。
(引用ここまで)
極めて素直な分析で、説得力がある。法科大学院等特別委員会のエライ先生方でも、反論・論破することは容易ではあるまい。
私なりに一言でまとめれば、医学部人気が高い理由、医学部志願者が激増している理由は、結局は、医師の資格の価値が高いからだ。
決して、仕事が魅力的だとかやりがいがある、というだけの話しではない。
となれば、法曹志願者を増やすことは極めて簡単である。
医学部志願者が増えたのと同じ方向性をとればよいのだ。
法曹資格の価値を高め、医師並みに安定した生活が可能な資格にすれば、どんなに試験が難しくても、放っておくだけで志願者は増え、優秀な学生が目指すようになる。合格率が3%程度しかなかったにもかかわらず、旧司法試験時代の受験者が、(丙案導入時の受け控えを除いて)増加の一途であったことからも、この事実は明らかだ。
そして優秀な法曹志願者が増加することは、国民の皆様が権利を守る最後の砦としての司法に優秀な人材を導くことになるから、国民の皆様の利益に適う。
このように至極簡単な方法がありながら、法科大学院等特別委員会がその方法を敢えて提言しないのは、資格の価値を高めるために司法試験を厳格にして合格者を減らしてしまえば、法科大学院が経営難に陥ると考えているからだろう。
法科大学院の経営難と、国民の皆様の利益と比較して、どちらが大事か、小学生でも解る問題だ。
その点で、あっさり道を誤り、法科大学院制度維持に固執する学者のセンセイ方を、私は信用しない。