法曹人口問題に関する決議案~その7

☆ミスリーディングな執行部作成Q&Aの巻

 臨時総会の決議案に関して、執行部提案の8号議案と、会員提案の9号議案の内容につき、執行部が作成したと思われるQ&Aが流布されているようです。そのQ&Aには次のように記載されています。

 まず、執行部案は,臨時総会の議案として常議員会において圧倒的多数で可決されて提案された議案であるのに対し、会員請求案は、常議員会において動議として提案されたものの圧倒的多数で否決された議案であり、したがって執行部案は常議員会の総意を反映した議案であるという点が大きな違いです。

 しかし、この表現は執行部にとって有利な事情のみ記載しており、非常にミスリーディングな表現であることに注意しなければなりません。

 つまり、常議員会の総意を反映しているかもしれませんが、会員の総意を反映しているとはどこにも記載されていない(記載できない)のです。

 法曹人口問題プロジェクトチームが今年全会員に対して行ったのアンケート結果(回答数1017名)によれば、

 司法試験合格者を2010年に年間3000人合格にすることに反対する方は927人おられました(回答者中約91.6%)。
 年間3000人という目標を維持しつつ司法試験合格者のペースをゆるめる意見に反対の方は817人おられました(回答者中約81.8%)。
 年間3000人とすることを直ちに見直すべきであるという意見に賛成の方は880人おられました(回答者中約87.3%)。
 当面(5年間程度)司法試験合格者数は年間何人が適正ですかという質問に対して、1500人以下とお答えの方は877名おられました(回答者中約88.5%)。
 現時点で、大阪弁護士会画報総人口問題に関する意見を表明すべきであるということに賛成の方は、889名おられました。(回答者中約90.0%)

 以上のアンケート結果から、大阪弁護士会会員の圧倒的多数の意見に近いのは、司法試験合格者数の目標数値を直ちに見直し、少なくとも1500名以下に大幅に減少させるべきという考えであり、しかも大阪弁護士会は直ちに意見表明すべきであるとの考えであると思われます。

 会員請求案(9号議案)提案者らは、本件決議の重要性に鑑み、「大阪弁護士会の決議案は、少数の常議員会の意見の反映に止まるべきものではなく、大阪弁護士会の会員の多数の意見の反映であるべきだ。」との考えから、多数会員の意見に近いと考えられる、当初の執行部決議案(9号議案)を維持しようとするものです。

 執行部が作成したと思われるQ&Aを鵜呑みにせずに、お手元に配布された臨時総会議案書の会員アンケート結果をよくご覧下さい。9号議案が会員の多数意見に即した議案であることがお分かりになると思います。

 なお、提案者グループも現在Q&Aを作成中であり、近日中に公開できると思います。

法曹人口問題に関する決議案~その6

 8月6日の臨時総会にかけられる、法曹人口問題に関する決議案について、どこが異なるのかはっきりしないという声も聞かれるようです。

 執行部案(8号議案)の内容自体についての問題点に関しては、7月17日のブログに記載したとおりです。

 ただ、もう一つ別の問題もあります。それは、大阪弁護士会の意思決定過程が民主的に行われていないと思われることです。

 会員アンケートの結果から言えば、圧倒的多数意見は司法試験合格者3000人計画を直ちに見直して減員させるべきであり、その意見を大阪弁護士会として表明すべきである、というものでした。だからこそ、法曹人口問題PTの報告を受けて、当初執行部は決議案(臨時総会9号議案~会員提案議案と同じもの)を、7月1日の常議員会に提案したのです。

 そこでは、「(大阪弁護士会選出の)宮崎日弁連会長の足を引っ張るな」 「日弁連と大阪弁護士会の連携をどうするのか」などといった、日弁連・日弁連会長への配慮が優先されているかのような質問が相次ぎました。大阪弁護士会所属会員の意思の多数がどこにあるのかということについての質問は殆どありませんでした。

 ところが、継続審議となった7月14日の常議員会が開催される直前、どこからどのような圧力がかかったのか分かりませんが、執行部は当初の決議案(9号議案)を撤回し、会員の意見を直接反映しているとは思われない決議案(8号議案)に差し替えました。

 そして、7月14日の常議員会においては、執行部が差し替えた決議案(8号議案)が、反対わずか3人という圧倒的多数で可決されました。常議員会での質疑によっても、各会派で決議案が事前検討されていたことは明らかでしたから、8号議案の可決に関して、見事なまでの会派による常議員統制が行われていたことは間違いありません。

 もし、会員提案議案(9号議案)が臨時総会に提案されなかったとしたら、大阪弁護士会としての意思決定は、(おそらく)会派上層部により統制された常議員会(定員わずか60名)により、勝手に変更され、その決議案に対し賛否の投票をする自由しか与えられなかったはずです。

 このように、大阪弁護士会の意思決定過程には、会派上層部のお偉いさんが影響力を行使し続けており、その黒幕の方々の政治的意図が非常に色濃く反映される場合があるようです。まさに法曹人口に関する問題でその黒幕の方々の問題点が浮き彫りにされた結果となっているように思います。

 仮に会派上層部の方(黒幕の方々)が、本当に弁護士全体のことをお考えになって政治的配慮も含めて決断されたものであり、その理由をきちんと納得がいくように説明してくれるのであれば、ここまで問題は大きくならなかったかもしれません。ただ、少なくとも私が納得できるだけの理由は未だかつて聞かせて頂いたことはありません。

 執行部側近の方が、今回の決議案差し替えは苦渋の選択だったと漏らしておられましたが、その言葉は、相当強い圧力がどこかから加えられ、それに執行部が譲歩せざるを得なかったことを意味しているようにも思います。

 しかし、日弁連との連携などを頻繁に持ち出す会派上層部の方々の存在を見ると、弁護士全体・大阪弁護士会全体のことより、自分たちが今持っている(あるいは将来手に入れる可能性のある)政治的影響力を大事にしている、若しくは自分たち・先輩方がこれまで行ってきた施策の選択が誤りであったことを認めたくないと考えて、それを取り繕うために問題を先送りするなどの行動をしているようにしか、私には思えません。

 問題を先送りしていても、解決はできません。

 今回の臨時総会が、「個々の弁護士があっての弁護士会であり、日弁連である」「弁護士会内の政治的行動は、個々の弁護士が誇りを持って活動でき、その使命を十全に果たせるために行うべき行動であって、自らの名誉・栄達を目的とする行動ではないはずである」ということを、黒幕の方々に、もういちど考え直してもらい、弁護士会内の民主的な意思決定が回復されるきっかけになればと良いと、私は個人的に思っています。

 臨時総会へのご出席と、9号議案への賛成(最低でも委任状の提出)を是非お願い致します。

電車の窓

 先日、私が通勤に使っている京阪電車を利用して帰宅しようとしていた際、走行中のK特急の車内灯が突然減灯され車内が暗くなってしまいました。

 車内放送によると、電車の発電機が故障したためだということでした。車内灯は復旧できるが、エアコンはすぐには復旧できないとのことで、窓を開けて下さいという指示が車掌さんからありました。幸い、たまたま、京阪電車の特急型車両の中でも旧型車両であり、殆どの窓が開けられるタイプのものでしたので、助かりました。

 確かにエアコンに比べると、温度を下げることができないため、少し汗ばむような状況でしたが、外からの風が相当入ってくるので、耐えられないような暑さにはなりませんでした。

 むしろ、風によって感じられる涼しさが心地よく、また風の音、車外の音が良く聞こえるので、とても懐かしく思われました。

 私の育った町は、紀勢本線が通っており、電化されたのは確か私が小学校6年生の頃でした。電車が走るまでは、当然汽車(気動車)が走っていましたから、小さい頃から鉄道車両を、いつも汽車と呼んでいました。さすがに最近は間違えなくなりましたが、大学時代でも、つい汽車と言ってしまったことを覚えています。

 電化された後でも、紀勢本線には古い客車が利用されていたこともあり、まるで松本零士さんの「銀河鉄道999」に出てくるような客車(直角背もたれの奴ですね)で、高校から帰宅することも良くありました。

 ドアも手動で、一番後部の車両からは、飛び降りようとすれば簡単に飛び降りることもできました。古い客車ですから、当然冷房もなく、夏は窓を全開にして風を取り入れ、扇風機を回すくらいしか涼をとる手段はありませんでした。大きな扇風機が天井に一列に並んで取り付けられており、それぞれが円を描きながら好き勝手に首を振り続け、その風が網棚の網(本当に糸を編んだ網を網棚に使っていました。)を時々揺らす光景を、何故だか鮮明に覚えています。

 おそらく乗客の方の多くは、エアコン完備の電車しか乗ったことがないでしょうから、特急電車で走行中に窓を開けるということは、とても新鮮な体験だったと思います。

 私としては、新鮮な体験と言うよりは、柔らかい涼しさにつつまれまがら、列車通学をしていた高校時代を少し思い出させてもらうことができ、得した気分で電車を降りることになりました。

法曹人口問題に関する決議案~その5

 大阪弁護士会の、法曹人口問題に関する決議案について、毎日新聞と朝日新聞が報道しました。

☆毎日新聞

法曹人口:司法試験合格者抑制 大阪弁護士会、真っ二つ 政府への意見表明
http://mainichi.jp/kansai/archive/news/2008/07/27/20080727ddn001040003000c.html

☆朝日新聞

大阪弁護士会、司法試験合格者2千人に抑制要求へ

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200807250097.html

 内容的には毎日新聞の方が、より正確だと思いますが、朝日新聞の記事でも誤りではないようです。

 これまで、法曹人口問題に関する記事に関しては、評価的な内容を織り込んだり、「識者の見解」という記事をつけたりして、増員が正しいという結論に誘導してしまおうというものが多かったのですが、今回の毎日新聞・朝日新聞の記事は概ね公平に書かれていて好感が持てます。

 さて、本日、大阪弁護士会役員室で、臨時総会までの段取りについて話し合いがありました。委任状をだぶって提出される方もいるようですし、規定によると総会の出席者一人につき5名分までしか委任状を行使できませんので、臨時総会前までに、どの人にどの委任状を行使してもらうのか割付ておく必要があり、その作業を、毎日届いた分だけ行いたいというのが執行部の意向でした。

 確かに作業量から考えると、執行部のいわれる段取りが必要なのかもしれませんが、この方式ですと、結局何通委任状が集まり、何人出席を表明しているのかについて、事前に執行部にばれてしまうことになります。

 ということは、会派を使った動員が可能な執行部とすれば、9号議案について賛成する議決権数を事前に非常に正確な数字で把握することが可能になるため、もし執行部案(8号議案)が負けそうな場合は会派の力をフルに使って、直前に執行部賛成派を増やすことができる余地があるということになりそうです。

 逆に、会員提案側は、組織を使った人員の動員ができないため、執行部がどれだけの8号議案賛成者を集めたか正確に把握できたとしても、その時点ではもう打つ手が無い状態であると思われます。

 会員アンケートを極めて忠実に反映した内容と思われる、修正前の執行部案(9号議案)ですら、会派の事前の指示によって常議員会で圧倒的多数で否決することができたくらいですから、執行部が本気になって会派を用いて人員を動員すれば、その威力は物凄いものがあります。

 しかし、この問題は、国民の司法への信頼という問題と私達一人一人の将来に関わる問題です。真剣に考えて、正しいと思うのであれば、会派の圧力に屈することなく自分が正しいと信じた方を支持すべきです。弁護士会内の民主的手続が正常に機能しているのか、弁護士一人一人の良心はどうなのか、まで今回の臨時総会では問われているような気がします。

 ちなみに、執行部もどれだけの方が臨時総会に出席されるか予測が付かないため、通常200名程度の着席数しか準備しないのですが、今回は500名程度の着席が可能なように準備する見込みだそうです。

司法試験の合格水準低下

 7月25日の日経新聞に、「法曹人口自民内で綱引き」との記事が掲載されていました。

 どうも自民党内で、司法試験合格者年間3000人推進派と、見直し派が対立しているとの記事でした。その記事の中で私が最も気になったのが、

 司法試験委員会の委員の一人は「合格者を増やすため従来に比べ合格水準を低くしている」と述べたという部分です。

 そもそも司法試験は、「裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験」です(司法試験法1条1項)。

 つまり、法曹になるために必要な学識と応用能力がない人は合格できないはずですし、合格させてはならない試験なのです。これを厳格に守ってきたからこそ、ハズレの法律家が極めて少ない状態がこれまで維持されてきたはずなのです。

 ところが、司法試験委員会委員が言うように、合格水準を低くしているということが事実であれば、今の司法試験は(新・旧問わず)、本当は法曹になるために必要な学識も応用能力も不足している人が合格できてしまう試験となっているということです。

 法律に明記されている司法試験の本来の目的よりも、法曹人口を増やそうという狙いを重視した結果、法律家として必要な学識も応用能力も不足している人も法律家になる切符を手にしているのが現状ということになります。

 そもそも、司法改革は安心して法律家に依頼できる世界を目指したものでもあったはずです。それが、依頼した弁護士がひょとしたら大ハズレかもしれない、まかり間違えば裁判官・検察官も信用できないかもしれない、という状況になってしまっては、誰が安心して法律家に事件を依頼できるでしょうか。誰が、裁判の結果に納得し、従うでしょうか。誰が安心して暮らせるのでしょうか。

 法曹人口の激増政策が非常に危険な状態を今まさに引き起こしていることを、政府も国会も直視すべきです。

 司法制度自体が信頼を失っては、国民の被害はそれこそ計り知れないものになってしまうでしょうから。

間に合った臨時総会議案書

 本日、当事務所の加藤弁護士と連名で、臨時総会の会員提案議案に賛成の趣旨の方用の委任状を求めるビラをレターケースに配布しましたが、奇しくも執行部からも議案書がレターケースに配布されていました。

 見てみると、会員提案議案も議案書に載せて頂いているので、大阪弁護士会が配布した郵便ハガキ型の委任状をお使いになられても、全く構いません。

 大阪弁護士会事務局は、時間の関係上、議案書に会員提案議案は載せられないと回答されていたのですが、公平な扱いをして頂いて、感謝しております。

 ただ、載せて頂けるのであれば、事前にその旨を伝えて頂ければ、自腹を切ってビラを作らずにすんだのに・・・・・と少し残念に思いますが。

 さて、これで、臨時総会では執行部が提案する8号議案と、会員提案の9号議案の可否が問われることになります。

 会員提案議案(9号議案)は、法曹人口問題に関するアンケートと法曹人口問題PTでの報告を基に、当初執行部が7月1日の常議員会で可決を求めていた決議案です。

 どんな圧力がかかったのか分かりませんが、継続審議中の7月14日の常議員会で、執行部は突如9号議案を変更し、今回の執行部提案議案(8号議案)にすげ替えました。常議員会では、会員のアンケート結果をきちんと反映していないと思われる、修正案(8号議案)が圧倒的多数で可決されてしまいました。執行部の決議案修正の理由もよく分からず、不透明な決議案修正と常議員会決議であるように傍聴していた私には思われました。

 私が見るところ、アンケートの回答から考えて、圧倒的な会員の意見は9号議案に近いのではないかと考えますが、こればかりは臨時総会の決議の結果を見てみないと分かりません。

 委任状の行使は出席者一人5票までです。9号議案にご賛成される多数の方のご出席を賜りますよう、お願い致します。

タクシーと弁護士(日経新聞社説への批判)

 本日の日経新聞朝刊に、「点検 タクシー再規制」との記事が掲載されていました。

 記事によると、タクシー業界に関し、次のような内容が報道されていました。

① タクシー業界は、長い間地域内のタクシー台数を厳しく規制してきたが、小泉内閣の規制緩和により、台数が増えることになった。

② しかしタクシードライバーの待遇が低下し、その不満を解消するためにタクシー会社が値上げをし、それが客離れに繋がるという悪循環が起きた。

③ タクシー業界は「規制緩和が間違っていた」と規制強化を求め、国交省は政策転換をし、再規制を考慮し始めている。

 これはさぞかし、タクシーが激増したのだろうと思って、よく記事を読んでみると、全国の法人タクシーの台数は、2006年度は22万2千台で、規制緩和直前の2001年度に比べて8%の増加だということでした。5年間で8%の増加でも、顧客数(仕事の総量)が変わらないので、タクシードライバーの待遇は、悪化の一途だそうです。

 それでは、弁護士で見てみるとどうでしょうか。

 弁護士に関しても、規制緩和の影響を受けた司法改革により、増員がなされてきました。2006年度の弁護士数は、日弁連のグラフから見ると、2001年度は約18000人弱です。2006年度は22021人、2008年度は25062人です。

 2001年→2006年まで約22.3%の増加

 2001年→2008年まで約39.2%の増加

 既にタクシー業界の3~5倍近い増加率です。

 では弁護士の仕事が増えたのかということですが、司法統計によると、

 地方裁判所が受理した民事・行政事件総数ですが、2001年度は1,182,152件、2006年度は911,006件です。破産件数については、2001年度168,811件、2006年度174,861件でほぼ横ばいです。

 地裁民事事件に限れば、2001年度→2006年度まで22.9%の減少です。

 日本経済新聞が経済のことを理解して記事を書いているのであれば、これがどういう意味なのか理解できるはずです。

 ところが、本日の日経新聞社説は、「法曹増員のペースを落とすな」でした。

 いつものごとく、法曹増員問題に反対する弁護士は「弁護士が増加して、割の良い仕事が奪い合いになる懸念」が理由であろうと、勝手な推測をし、人口の少ない地方都市での事務所開業や、刑事事件の国選弁護、民事事件の法律扶助など「割の良くない」分野では、弁護士が足りないのが実情である、というのがその理由であると根拠づけます。

 しかし、上記の仕事(特に国選弁護・少年扶助事件など)は、私のような経営者弁護士にとって見れば、「割の良くない仕事」ではなく、「完全に赤字の仕事」なのです。やればやるだけ、時間をかければかけるだけ、損をする分野です。

 「割が良くなくても、黒字になる」仕事であれば、弁護士の使命に鑑みこの分野の仕事をする人はたくさんいるはずです。しかし、責任は重いのに時間をかけて真面目にやるだけ赤字になっていく仕事を、誰が進んでするのでしょうか。日経新聞の社説氏は弁護士が金のなる木でも持っているか、生活を誰かが保証してくれているとでも思っているのでしょうか。

 もし本当に、日経新聞の社説氏が上記の仕事を、「単に割に合わない仕事(黒字の仕事)」だとお思いであれば、一度経営者として毎月100万円以上の事務所経費を負担しながら、上記の仕事だけで法律事務所を維持して見せて下さい。断言しますが、真面目に仕事をしていたら絶対に事務所の維持は不可能です。

 ボランティアだって、赤字ではありません。そのボランティアをするために経費がかかっているわけでもないし、業務時間外の自由時間を使ってやるモノだからです。

 ところが弁護士の仕事は法廷での活動も不可避的に含まれます。当然経費をかけて産み出している業務時間内にやらざるを得ません。国選弁護だから自由時間にやらせてくれとは言えないのです。

  経営者弁護士にとって赤字分野の仕事であることを、きちんと取材もせずに「割の良くない仕事(黒字だがその部分が少ない仕事)」と断言する日経新聞の社説氏は、事実を確認せずに全くの思いこみだけで社説を書かれたか、 または、なんとしても法曹増員のペースを落としたくない誰かにおもねっているか、いずれかとしか考えられません。

 日経新聞の社説氏が、そこまで、弁護士激増による司法サービスの促進を早く実現させたい(若しくは、何の根拠もなく、そのような弁護士激増を国民が望んでいると強弁を続ける)のであれば、口先だけで非難するのではなく、日経新聞が日弁連に対して弁護士過疎対策に使うよう寄付したり、自ら弁護士を雇用して地方に派遣すれば良いのではないですか。

 私達の納めた弁護士会費から弁護士過疎対策に相当多額の費用を使ってきた日弁連の方針では、ご不満なのでしょうから。

見識を疑われるのはあなたのほうだ。

 報道によると日弁連の法曹人口に関する緊急提言に関し、町村官房長官が、「見識を疑う」と発言したそうです。

 町村官房長官は、①法科大学院が法律家養成制度としては完全な失敗に終わっていること、②法律家の質の低下が極めて憂慮すべき事態に陥っていること、③訴訟事件も破産事件も減少しており、経済界も弁護士雇用をしなかったため、法律家の需要増加の予想が間違っていたこと、④司法制度改革は裁判官・検察官の増員や、大幅な司法予算の増大が前提であったにもかかわらず、司法予算はほとん増加していないこと、など、さまざまな事実を無視して「弁護士のエゴだ」と仰っているようです。

 町村官房長官ほどの方が、このような事実をまったく知らず、マスコミに迎合して事実と反する発言をされるとは考えられないので、ひょっとしてと思ってプロフィールを見てみると、文相・文科相を経験された方であることがわかりました。

 これまで法律家の養成は法務省・司法研修所が担ってきましたが、司法制度改革が法科大学院制度を導入した結果、法律家の養成過程の相当部分が文科省の管轄化にある法科大学院に移りました。つまり新司法試験を受験するためには原則として法科大学院を卒業しなければならないので、法律家になるためには文科省の大幅な関与を受けなければならなくなったのです。

 従来から、司法試験合格者を増加させると法律家の質が落ちるということは指摘されていました。ところが、文科省・大学は、質は法科大学院制度で維持できると主張し、マスコミもその主張を鵜呑みにしました(ほとんどの新聞が法科大学院の記事を書く際に、ほとんど必ず「優秀な法律家を養成するための法科大学院」と書き続けていました。さすがに最近はなくなりましたが。)。

 さて、実際はどうだったのでしょう。旧司法試験合格者と法科大学院出身の新司法試験合格者の双方を司法研修所で教育した教官に対するヒアリングからは、結論は明らかです。法科大学院出身の新司法試験合格者は優秀な方は優秀ですが、全体としてみれば明らかに質が落ちているのです。

 そうすると、文科省(そして法科大学院)としては、法科大学院制度で司法試験合格者の質は維持できると大見得を切った以上、「すみません、法科大学院は失敗でした。質を落とさないためには合格者を少なくするしかありません。」とは、なかなか言えない立場なのです。

 町村官房長官は「質が維持されるのは当然だ」とも発言されたそうですが、質がすでに大幅に落ち始めている現実を全く無視して(もしくは全く調査もしないで)発言していることは明白です。法務省のHPに公開されている委員会の議事録やヒアリングを読めば、一目瞭然に法律家の質が下がりつつあることはわかるはずだからです。

 町村官房長官は、その経歴からして明らかに文科省と近い方です。そして、町村官房長官がどのような立場でご発言されたのかはわかりませんが、少なくとも事実を無視して(もしくは確認せずに)、自分と関係の深い文科省の利益に沿った内容の発言をされる町村官房長官こそ、その見識を疑われるべきではないでしょうか。

Posted by sakano at 20:28  | パーマリンク |
2008年07月23日
大荒れ!法曹人口問題に関する決議案~その4

 法曹人口問題に関する大阪弁護士会の決議案に関して、執行部が当初常議員会に提出していた原案を急遽変更し、修正案を提出して常議員会を通過させ、臨時総会決議案を作成したことは、これまでお伝えしたとおりです。

 ただ、大阪弁護士会の会員の意見に近いのは、執行部原案だと思いましたので、法曹人口問題PTに参加されていた何人かの先生方と、「会員提案」という形で、執行部原案を、臨時総会決議に上程しようと考えました。

 そこで、レターケースなどを利用して、臨時総会招集請求を募ったところ、皆様のご協力を得て、臨時総会招集請求に必要な100名以上の方々の請求書が集まりました。ご協力頂いた方々、誠に有り難うございました。

 さて、そうなると、8月6日の大阪弁護士会臨時総会は、執行部が修正した決議案(修正案・臨時総会8号議案)と、執行部が当初常議員会に提出していた原決議案(原案・臨時総会9号議案)の、いずれが大阪弁護士会としての決議案として可決されるのかということになります。

 おそらく、常議員会の様子からすれば、各会派は、人脈を駆使して修正案(8号議案)の臨時総会決議を目指すでしょう。どれだけの方の出席を確保し、どれだけの数の委任状が集められるかが、双方の争いになります。

 執行部が当初常議員会に提出していた原決議案(原案・臨時総会9号議案)の、臨時総会決議を目指す私の立場からすれば、とにかく出来るだけ多くの9号議案賛成の方に、臨時総会に出席して頂き、かつ、出来るだけ多くの9号議案賛成の委任状を集める必要があります。

 この点、執行部は大阪弁護士会の会費を用いて、委任状を集めることが出来ますが、こちらとしては、自腹で委任状などを印刷し、レターケースなどを用いて臨時総会への参加呼びかけと委任状を集めるほかありません。

 数日のうちに、9号議案に賛成の方向けの委任状をお届けする予定ですが、委任状は、臨時総会出席者1名につき5名までしか行使できません。つまり、仮に委任状が100枚集まったとしても、同じ立場の総会出席者が10人だと、50票が死票になってしまいます。

 可能な限り、8月6日午後1時からの大阪弁護士会臨時総会にご出席頂けますよう、この場を借りて、お願い申しあげます。

二つの時間

 私が中学生の頃だったと思うのですが、「ノストラダムスの大予言」という本が流行していました。

 ノストラダムスという占星術師・予言者が、「1999年の7の月に恐怖の大王が空からやってきて、人類が滅びる」と予言したという事だったようです。しかも、ノストラダムスの予言は99%当るという話まで出ていて、「1999年が来たらどうするんだ」などという話で結構友達と盛り上がったものです。

 当時の私は思春期であり、人生のことなど何にもわかっていない生意気小僧でしたから、浅はかにも次のように思っていました。

 「1999年には自分は30歳を超えているから、もう十分生きたといえるんじゃあないか、だったら、人類が滅びてもそんなに後悔しないのではないだろうか。お年寄りが、自分はまだまだ若いというけど、それは間違いじゃないだろうか。」

 ところが、不惑の年を少し越えた今、十分生きたと感じられるのか、と振り返ってみると、ちっともそのような実感がないのです。

 実際の時間は私が生まれてから、40年以上経過しているのは間違いありません。私の甥だって高校生になるくらい成長しているのですから、やはり時間は間違いなく経過しています。

 しかし、こと私の内面の時間となると、まだ物心付いてから16~7年くらいしか経過していないような気がするのです。小さい頃は、実際の時間と私の内面の時間は一致していたのでしょうが、次第に私の内面の時間はその歩みを止めがちになり、一方、実際の時間は忙しさのためか、年々足早になっていくように思います。

 私の内面の時間が、急に実際の時間と同じように流れ出すとか、実際の時間に追いつくとは思えないので、おそらくこのような状況が私が生きている限り続くのでしょう。

 そうだとすると、悔いが残るかどうかは別として、多分、私も十分生きたという実感を持てずにこの世から去る日を迎えるように思います。

 同じ一つの時間しかないはずなのに、実際の時間の他に、人には内面の時間があるようです。しかも、人は、自分自身を振り返ったときに(良いか悪いかは別にして)内面時間を実際の時間として感じてしまうような気がします。

大荒れ!法曹人口問題に関する決議案~その3

結論から言うと次の修正案が臨時総会決議案として常議員会で採択されました。

(修正案)
1 当会は、司法試験合格者数が、2010(平成22)年頃に3000人程度とする数値目標に基づき、毎年大幅に増員されている結果、法曹としての質についての懸念などが生じていることに鑑み、上記数値目標について速やかに見直しを行うよう求める。
2 当会は、今年度の司法試験合格者の判定にあたっては、法曹としての質の確保に十分配慮するとともに、上記数値目標及び毎年の概数にとらわれることなく、少なくとも前年度の合格者数より増やすことのないように求める。

 アンケート結果から推測される大阪弁護士会の意思を素直に表現した原案(7月9日のブログをご参照下さい)と異なり、かなりトーンが落ちています。

 おそらく政治的な判断が働いたのでしょうが、その代わりあまり意味がない決議案になってしまったとも思われます。

 総会決議はその後の大阪弁護士会執行部をも拘束するものであり、一度なされた総会決議に反する決議・行動を執行部が行うためには、再度総会決議が必要になると聞きました。

 その観点からみると、修正案1項は、3000人目標の速やかな見直しを求めるだけであり、「直ちに」ではない上、「減少を求める」と明記していないこと、第2項は「今年度司法試験合格者の判定」に限定しており、来年度以降の司法試験合格者になんら言及していないことからして、来年度以降の執行部を殆ど拘束できない総会決議案になっています。

 つまり、この修正決議案が臨時総会で可決されても、法曹人口問題に関して、来年度以降の執行部が、ほぼ自由に行動できてしまうというところがミソだと思います。

 たとえば、来年度の新執行部が選出されたとして、早く3000人目標を減らすようにと多くの会員から指摘されても、「(直ちにではなく)速やかに見直すことを求めるという決議ですから、今、速やかにやるよう考慮中です」といって、新執行部は問題を先送りにすることが出来てしまいます。また、減員を求めると明記していませんから、「見直すという決議ですから、見直した結果、やっぱり3000人目標を維持することに決めました。これが見直しです。」と新しい執行部が言いだしても決議案に反するとまでは言えないのです。

 さらに、修正案2項はあくまで今年度の司法試験合格者数を前年度よりも増加させないように求めるだけですから、来年度の新しい執行部が来年度の司法試験合格者を増加させるよう行動することも、許容可能な内容なのです。

 私はPTの臨時会議で、1項につき、減員の趣旨だと言い張る副会長に対して、「そうであれば減員の趣旨をより明確にして何が悪い。減少と入れるべきだ。」と主張したのですが、結局入れてもらえませんでした。
 2項についても、「何故今年度に限定するのか」と質問したと思いますが、結局、常議員会を通すためという理由の他、まともな回答はなかったと記憶しています。

 つまり、上野執行部は(実際の公約とは異なると思いますが)、ともかく総会決議を取ることで公約をぎりぎり果たした形を取れるし、他の会派は後に自らが執行部になったときに、法曹人口問題に関して自由に行動できるように原案を骨抜きにしたということでポイントを上げたということでしょう。日弁連の動きに合わせたという点も当然あるでしょう。

 ただ、相当多くの会員の意見を踏みにじった上での、妥協だとは思いますが。