大阪弁護士会パネルディスカッション~その3

(続きです)

★企業内弁護士はどれくらいで広がると考えるか

井出氏

・何年で広がるかは分からない。

・司法試験合格者2000名なので、既に需要に合わせて法曹人口を考えることに実質的になっているのだろうか。

・司法審の考えはそうではなかったはず。個人や企業の法的ニーズは増える、そのためのインフラが必要という視点が司法審の考え方。

・ただし、そこまでの需要は広がっていない。法曹人口増大が必ずしも良い方向に向かっていないのか?

正木氏

・企業のニーズが増えているというのであれば、マスコミはどれだけの弁護士を雇用しているのか。

・よく言われるインハウス弁護士の意味もきっちり確定していないように思う。

・企業が弁護士を採用していないことは、弁護士の努力不足が原因なのか、ニーズがなく募集しないからではないのか。今ならいくらでも応募はあるはず。

・司法審のニーズの想定が誤っていたのであれば直ちに修正すべきなのではないか。

★司法ニーズについて

正木氏

・有償ニーズと無償ニーズをごっちゃにしている。

・そもそも被疑者国選導入段階の弁護士数で、十分対応は可能であった。

・過疎問題については、お金を出すなど政策的誘導がないと解決しない。

井出氏

・たとえば原発ADRの申立は被害者数34万人以上いて、1332件、そのうち8割は本人申立である。

・一方で合格者減員を言いつつ、制度的整備を求めても説得力がない。

・福祉の関係者と話したら、被害を受けているのに自覚のない人も多い。

・アウトリーチの手法、法テラススタッフ弁護士の指摘をみれば、ニーズはたくさんあるはず。

河野氏

・司法審の唱えたニ割司法もあって、弁護士はニーズがあると思ったのだろうが、有償ニーズと無償ニーズがあることを見落としていたのではないか。

・無償ニーズのために弁護士を増やすのであれば、当然それを支える制度を議論すべきだったがそれがなかった。

・弁護士さえ増えれば国民は、弁護士に大量に資金を投入して使ってくれるとの考えは間違っていた。

・弁護士に対して仕事を掘り起こせ、仕事獲得の努力をしろと言うことが、果たして国民にとってプラスなのか。本来司法で解決されるべき仕事の掘り起こしと、弁護士が食べるために無理矢理事件を焚きつけることの区別は、国民にはつかない。

・もともと、需要が拡大するから増員が必要というのが司法審の言い方だった。

・司法過疎については、政策的誘導がないとむりだろう。

・弁護士の数さえ増やせば、質が高まるとか地方に行くなどの考えは誤り。

・弁護士が活動できる環境の整備が必要。

(続く)

大阪弁護士会パネルディスカッション~その2

(前回の続きです)

★あるべき法曹像について

井出氏

・司法審の法曹像である。

・日弁連の描く法曹像が見えにくい。司法改革前の法曹像と変わっていないのではないか。

・小説のように20年受けても受からないような人がいる試験が異常だったはず。知識に偏らない法曹のあり方があるのではないか。

・日弁連が司法試験合格者減に舵を切ると、日弁連は理解を得られないと思っているので心配だ。

正木弁護士

・必要最低限の法律知識を持った上で新たな分野に進出するならそれも良いが、そこまで至っていないのでは。

・井出氏の見方こそステレオタイプの弁護士像の描き方ではないか。

・逆に、法的知識が少なくても実践知でよいという法曹像のイメージが湧かない。

河野氏

・司法審の描き方が間違っていたのではないか。

・日弁連も司法審路線に乗って旗を振ってしまったので、どうして今さら、司法試験合格者減少を言い出すのかという形になっているのではないか。外に向かってそう言うなら、同時に今までの日弁連のとらえ方が間違っていたことを認めるべきだ。

・当時は市民のための司法改革であり、そのために日弁連が主導するべきと考えていたのではないか。

・社会の隅々まで法の支配を及ぼす、弁護士は社会生活上の医師、という描き方が間違っていたのではないかという検討をする必要がある。

・国民の理解が得られないと黙り込むのか、司法審の態度とそれに乗った日弁連の態度が間違っていたことを認めるのかが問われているのではないか。

(続く)

大阪弁護士会パネルディスカッション~その1

 大阪弁護士会では、去る3月19日、法曹人口問題に関するパネルディスカッションが行われた。

 パネラーとして、朝日新聞の井出さん、司法ウオッチ主催で元法律新聞編集長の河野さん、が参加されていた。増員推進派の井出さんと、懐疑派の河野さんというパネラーの構成としては、なかなか面白い構成だった。

 私の手控えのメモによると、井出さん、河野さんは、自己紹介と日弁連の提言について、次のように、お話しされていたようだ。

井出氏

・記者の見方からしても、司法は遠い存在に見える。

・司法とは言い方は悪いが、社会の終末処理場ではないか、最後に登場すべきものであって、社会内で解決できる方が良いと考えている。

・例えばスモンの和解で、最高裁の可部判事が行政で解決できなかったのが問題と述べていたが同感である。

・弁護士の苦境には胸を痛めている。

・しかし司法制度改革は、事前解決型社会を目指したのではないかと思っており、そのような社会を実現するためのものと考えている。弁護士増員はそのためのインフラではないかと思っている。

河野氏

・司法審の描いたものについて疑問を持っている。

・日弁連の司法改革路線を見直すべきではないかと考えている。

・宇都宮会長が司法試験合格者1500人と更なる減員方向を打ち出したことには注目している。

・関心は更なる減員提言に移りつつあるのではないか。

・需給ギャップという市民の目線を残した提言案は評価できると思っている。

このあと、大阪弁護士会の正木みどり弁護士も交えて、 

  あるべき法曹像、 

 企業内弁護士、

 司法ニーズ、

 質の低下論、

 法科大学院の問題、

 予備試験、

 給費制

等について、パネルディスカッションが行われた。

詳細については、私の手控えを元に、今後お伝えしていきたいと思う。

日弁連会長選挙(再投票)~速報

 日弁連会長選挙は前回に引き続き、異例の再投票となりましたが、速報によると、再投票でも決着がつかず、選挙を最初からやり直す再選挙が行われるようです。

 速報によりますと、得票数と獲得単位会数は、

 山岸 候補  8557票(14単位会)

 宇都宮候補 7485票(37単位会)

 だそうです。

 日弁連会長選挙で当選するためには、得票数が最多であるだけではなく、最多得票を得た単位会が18単位会以上必要なのです。

 この規定は、圧倒的多数を占める大都市圏の弁護士会だけで日弁連を牛耳ることを防ぐ目的だと考えられます。(なお、東京・第1東京・第2東京・大阪の4大単位会だけで、約59%の弁護士が所属しています。)

 ちなみに、この4大単位会だけで比較すると、次のようになります。

 山岸 候補   5832票

 宇都宮候補  2911票

 このように、いかに山岸候補が4大単位会で票を稼いでいたかが分かります。まあ、これまでの、日弁連会長は、ほとんどがこの4大単位会出身者に占められており、それだけ旧来の派閥主流派が未だに力を保持していることの裏返しでもあるように思います。

 逆に言えば、宇都宮候補は地方での得票で、東京・大阪でつけられた差をかなり挽回したということになります。

 結局、この選挙では決着がつきませんでしたので、候補者選びから再スタートということになる再選挙が行われるようです。どなたが出馬されるか分かりませんが、おそらく、宇都宮候補も山岸候補も再度立候補されるでしょう。

 このように持久戦模様になると、浮動票が選挙に関心を失えば、 派閥による組織票が見込める山岸候補の方が有利ではないかとも思われます。

 ここで疑問となるのは、どうして、大都市圏で山岸候補が強いのか、派閥の組織票があまり崩れないのか、ということです。

 これまでは、ほとんどの場合、4大単位会から日弁連会長が選ばれてきました。ですから、日弁連会長のポストを狙う方は、この4大単位会に入り、その単位会の派閥の中で、一所懸命に雑巾がけを行って、派閥内の地位を高め、推薦してもらってきたようです。日弁連会長選挙において、このような派閥支配が崩れてしまうと、日弁連会長を夢見て雑巾がけに長年いそしんできた方の努力が、水泡に帰す可能性があるのです。だからこそ、必死になって派閥の締め付けを行い、票を固めるのです。

 そこには、自らの目指す会長ポストが頭の大部分を占めており、全弁護士のためという理想はあまり見当たらないように思われます。もちろん、派閥によって当選させてもらった以上、派閥を裏切ることは出来ません。当然従来路線(無派閥で当選した宇都宮執行部以前の路線)の継承しかできない執行部になっていきます。

 この点、山岸候補は東京弁護士会の派閥主流派候補です。当然、東京弁護士会の派閥の意向に逆らえません。東京弁護士会の司法試験合格者に対する態度は、1500名は仕方がないがそれ以上の合格者減の提案は認めないという態度です。法曹人口政策会議に、東京弁護士会の意見が出されているので間違いありません。したがって、山岸候補が当選すれば、支援してくれた東京弁護士会派閥主流派に逆らえませんから、どんなに頑張っても1500名止まりの提言しかできないことは明らかなのです。

 しかも、前回の日弁連会長選挙において、選挙時には「司法試験合格者減員も視野に」、と語った、派閥主流派のY候補が、選挙で負けたとたん、雑誌で、「やはり司法試験合格者は増やすべきだ」と語るなど、派閥主流派は平気で選挙目当ての「あめ玉ばらまき作戦」が出来るようなのです。

  再選挙は一体、どうなるのか、旧来の派閥主流派路線に戻すべきと考えるのか、宇都宮執行部による無派閥での改革路線を継続するのか、日弁連会員、特に多数を占める若手の判断が注目されます。

明日、日弁連会長選挙再投票日

 2回連続で、再投票となった、日弁連会長選挙だが、明日再投票が行われる。

 弁護士の皆さんは、棄権することなく、是非投票して欲しい。

 それも自分の信念に従って投票して欲しい。

 弁護士会のエライさんが、若手の意見を聞いてくれる機会なんか、宇都宮執行部以前の主流派支配の時代だと、選挙のときしかなかった。

 だから、本当に、貴重なチャンスなのだ。

 貴方の投票で、日弁連の方向を左右することが出来るのが明日の投票だ。

 ボスに投票先を指定されている人もいるだろう。会派の関係で、投票先が決められたような気持ちになっている人もいるだろう。

 でも、それっておかしいぞ。ボスや会派が永久に貴方の収入を補償してくれるのなら話は別だが、いずれ独立したり、パートナーとなって経営をしなきゃならなくなる。そのとき、弁護士として誇りを持って生きていけるのか、そのような日弁連を作ってくれそうな候補者が、どっちなのかで判断すべきだ。

 弁護士が自主独立の精神を忘れてどうする。

 しかも投票は秘密投票だ。

 確かにボスの指示を聞かないのはちょっと気持ちが悪いが、将来独立した後にボスと法廷で対峙するかもしれないんだ。

 経済的には独立していなくても、精神まで隷従してはダメだ。

 是非とも、自分の信じる候補者に投票されるよう、強く願う。

筆が滑ってしまいました。~お詫び

 まずは、昨日のブログ記事の訂正を。

 昨日のブログ記事で、ある人の旧司法試験合格時年齢を26歳と記載しましたが、正確には25歳だったので、訂正致します。

  また、点数については、schulzeさんのブログで、説明されているとおりであり、私の得点率だけの分析は正確ではなかったようです(下記リンク参照)。

http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/51937485.html

 更に言えば、読み返してみて、あまりにひどい予備試験ルートの扱いに熱くなってしまい、昨日のブログについて、ちょっと筆が滑ってしまっていることは反省すべき点だと思います。

 ただ、それであっても、新司法試験受験の資格を与えるために法科大学院卒業レベルの素養を確認する予備試験であるはずが、「①かなり早く旧司法試験に合格し、15年以上弁護士業をやっておられ、②アメリカに留学のうえ複数の州で弁護士資格を取得し、③法科大学院でも教鞭をとっている方」が、受験しても論文式試験で合格者の上位40%前後の順位でしかなかったということは、予備試験ルートが本来の目的を失って、故意にそのルートが狭められていることの一徴表といえることは間違いないと思われます。 

つまり、私としては、予備試験の採点に関して、故意に低く採点しているというべきではなく、

「予備試験制度が新司法試験を受けても良いだけの基礎的素養があるか、つまり法科大学院卒業生レベルの素養が身についているか、を確認することを目的とする資格試験」

でありながら、合格レベルをその目的に照らして異常なまでに高く設定しすぎではないか、という批判を行うべきであった、と思う次第です。

その方は、このようにも仰っていました。

なるほど、と思える御意見だったので、引用させて頂きます。

 予備試験をしっかりと制度として残しつつ、かつ、法科大学院が存続している現状でその合格者を絞り込むという法務省のやり方 は、政治権力を掌握しようとする官僚のやり方として非常にクレバーだと思います。何しろ、合格者を一気に増やせばそれだけで法科大学院制度をぶっ壊す破壊力をもった制度を、ずっと握り続けることができるのですから。

予備試験の採点について(実話)

 司法試験予備試験については、故意に予備試験の点数を下げているのではないかという疑惑を私は持っており、そのことについて、昨年ブログに示唆したことがある(2011.10.26)。

http://www.idea-law.jp/sakano/blog/archives/2011/10/26.html

 しかし、その後、司法試験予備試験は本当に、故意に点数を低く採点していることは間違いないと、確信する出来事があったので、ご報告したい。

 実は、私の大学時代の友人が、予備試験を受けていたのだ。彼は、旧司法試験にも26歳で合格し弁護士になって以後15年以上の実務経験を有する。

 その人が、予備試験を受験して合格したのだが、その論文式試験の順位は50位前後だったそうだ。

 もちろん、その人は仕事が忙しくて、受験勉強などほとんど出来ていないだろうから、予備試験に向けて受験勉強をした人達の特に優秀な方々に上位を抑えられることは十分あり得ることで、この順位は不思議ではないかもしれない。

 しかし問題は、予備試験でのその人の得点の評価であり、また、その人がそれなりの実務経験を有する日本の弁護士であるだけではなく、アメリカの弁護士資格も複数の州で取得し、かつ、法科大学院の教員でもあることだ。

 いわば、その人は、私の目から見ても、法科大学院制度が目指した①豊かな人間性と感受性②幅広い教養と専門的な法的知識③柔軟な思考力④説得・交渉の能力⑤社会や人間に対する洞察力⑥人権感覚⑦先端的法分野や外国法の知見⑧国際的視野と語学力⑨職業倫理といった能力において特に劣っているとはいえないのである。

 ところで、予備試験の合格者の点数を見てみると、500点満点で、全国最高点が302点である。仮にその人の予備試験論文式試験での成績が、50位だったと仮定すると、得点は265点あたりということになる。

 法務省が発表した予備試験の論文式試験での採点に関する文書によると、

 優秀:    50~38点(5%)、 

 良好:    37~29点(25%) 

 一応の水準: 28~21点(40%) 

 不良:     20~0点(30%)

 500点満点で265点の得点は、53%の得点率であり、「一応の水準」の最上位ランクではあるが、良好にすら届かない。

 念のため触れておくが、予備試験は、新司法試験を受けても良いだけの基礎的素養があるか、つまり法科大学院卒業生レベルの素養が身についているか、を確認することを目的とする資格試験である(司法試験法第5条1項)。

 それにも関わらず、上記のように、それなりの実務経験を有する実務家教員であっても、その答案が予備試験において、トータルで一応の水準としか評価されていないのである。換言すれば、いかに、法務省が予備試験ルートを故意に狭め、合格者を絞っているかが、よく分かると思う。

 法科大学院制度を維持するためとはいえ、こんなインチキ臭い試験をやっていたら、法曹志願者が激減するのも無理はない。

 法曹養成制度の改革は、優秀な法曹を生み出すこともその目的にあったはずだ。法科大学院制度の設立・維持が目的ではない。私たちは、どこかで、法科大学院側の主張が実は自らの利権維持にすり変わっていないかチェックしていく必要があるように思う。

※この話は、本当のお話である。

法曹養成に関するフォーラム第7回議事録から

 法曹養成に関するフォーラムの第7回議事録が公開されている。

 私は、新司法試験の受験制限(法科大学院卒業後5年以内に3回に受験機会を制限~いわゆる三振制度)は、全く不合理だと思っているが、フォーラムの委員である法科大学院擁護の井上委員は次のように、三振制を擁護している。

(引用開始)

 (前略)というのも,それ以前は一発勝負の司法試験だけで法曹資格者を選抜する制度である上,その試験の受験回数に制限は全くなく,長年にわたり何度も受験するという人が少なくなく,多くの滞留者が出て,競争倍率が3%という他に比類のないような異様な受験競争状態になっており,いろいろな弊害をもたらしていた。そのことの反省に立って,司法試験の前に法科大学院における教育の課程を経させることとし,司法試験はその教育を踏まえたものとするという法曹養成のシステムとするとともに,その教育の効果がどれぐらいもつのかという観点から,多くの人が一致して,3年ないし3度の受験ぐらいであろうということで,受験回数制限を設けた。ですから,受験回数制限は新たな法曹養成制度の趣旨から導かれるものであり,3度というところに重点があったわけで,ただ,3年で3度としてしまいますと,いろいろな事情で受験できない人もいるかもしれないということで幅を5年としたというのが経緯です。

(引用ここまで)

  まず、いろいろな弊害と言ってもその弊害が本当にあったのか疑問である。旧司法試験では合格者の平均年齢の上昇が問題だと言われていたが、新司法試験受験のためには法科大学院を卒業しなければならないため、合格者の平均年齢は旧司法試験、新司法試験でほとんど変わらない。

 旧司法試験では、暗記・受験テクニック優先だった、金太郎飴答案が続出したという批判もあるが、当時の合格者に聞いてもらえば分かるが、暗記とテクニックだけで最終合格できるような試験では、絶対になかった。もし仮に暗記とテクニックだけで合格できるような旧司法試験であったと井上委員(鎌田委員も?)が言うのなら、当時の旧司法試験考査委員の出題がおかしかったか、少なくとも工夫不足ということになるのが筋だ。井上委員も鎌田委員も旧司法試験で考査委員を務めていたように記憶しているが、そのときの自分たちの工夫不足についてはどう釈明されるのだろうか。

もちろん法律家として最低限の法的知識の暗記は必要であり、その最低限の法的知識すらない方が大問題である。仮に上記のような弊害があるとしても、司法修習期間中にそのようは弊害は十分是正できると、司法研修所教官が述べている。

 むしろ逆に、新司法試験の採点に関する意見を見ると、年々型にはまった論述(パターン化した答案)が増えていると批判する採点委員の声が強まっている。まず日本語を勉強しろと言わんばかりの意見も多くなってきている。仮に、百歩譲って新制度により旧司法試験の弊害が除去されたとしても、より深刻な弊害が新司法試験で出てきているのであれば、どのみち法科大学院制度は失敗ということだ。

 不合格者の滞留による社会的損失という意見もあるだろうが、どの資格を目指してどこまで努力するかは人それぞれの自由であるし、大器晩成方の人もいるだろう。三振制度は、法科大学院卒業生の見かけ上の新司法試験合格率を高く維持することができるため法科大学院の生き残りには役立つが、じっくり努力を積み重ねるタイプの方、大器晩成型の方を冷酷に切り捨てる制度でもあるのだ。なにより、旧司法試験では合格するまでは受験生は自腹で勉強しており特に社会に大きな迷惑をかけてはいなかった。しかし、新司法試験では、税金を投入した法科大学院で勉強せざるを得ないため、法科大学院が機能せずその結果不合格者が多く出ることになると、国民の皆様の血税を無駄にすることに直結していくのだ。

 そもそも、法科大学院とは(何度も述べて恐縮だが)閣議決定にもあるように

①豊かな人間性と感受性
②幅広い教養と専門的な法的知識
③柔軟な思考力
④説得・交渉の能力
⑤社会や人間に対する洞察力
⑥人権感覚
⑦先端的法分野や外国法の知見
⑧国際的視野と語学力
⑨職業倫理

 が、これからの法曹に求められ、そのような法曹を育成するのが法科大学院であると位置づけられている。 悪い言い方になるが、①⑤⑥⑨を象牙の塔にいる大学教授が教えられるとは、少なくとも私は、思わない。どこかの法科大学院で試験問題漏泄の疑惑が出たことからも明らかだろう。②のうち、幅広い教養は個人が研鑽して身につけるべきものだろう。

 井上委員のお話が事実だとすると、この夢のような想定通りに法科大学院が上記の①~⑨の資質を法科大学院生に、仮に身につけさせることが出来たとしても、その効果はわずか3年で消滅するということなのだろうか。もちろん、大学側にとっては、この少子化の現状から、長い期間学生を大学に通わせて学費を取れる制度の方が有り難いに決まっている。

しかし、仮に井上委員のいうとおり、わずか3年でその効果が消滅するかもしれないような教育しかできないのが法科大学院であるならば、多額の税金を投入する必要が、一体どこにあるのだろうか。

朝日新聞の弁護士バッシングについて~勝手な想像

 朝日新聞の、2月26日付社説については、私は皮肉混じりに社説をもじった主張を書いただけだったが、多くの弁護士の方が反論されている。

 その朝日新聞の社説を読み直してみて、改めて気になったのは、社説が、

 「残念ながらこの2年間、日弁連のなかでそうした問題意識は十分な深まりを見せず、はた目には既得権益の擁護としか見えぬ主張を繰り返してきた。」

 と述べている部分だ。

 実は日弁連は、既に3年ほど前の2009年3月19日に、「当面の法曹人口のあり方に関する提言」を発表し、司法試験合格者3000人目標の事実上の撤回を行っている。これは主流派から会長になった、宮﨑誠日弁連会長(当時)が提言したものだ。

 ところが、朝日新聞は、3年前の提言に触れることなく、明確に、「この2年間」と明記して、日弁連の態度を批判している。これはあからさまに、宇都宮会長を批判していることにつながると見てよいだろう。

 朝日新聞と主流派のつながりがないかと思っていたら、元日弁連会長(2002~2004、もちろん主流派)本林徹氏が、朝日新聞社の「報道と人権委員会」(PRC)であり、この2月限りで退任していることがインターネットで流れていた。

 これはあくまで想像・邪推だが、これまでの主流派のなりふり構わないやり方から考えると、主流派候補と宇都宮会長との決選投票前に、主流派が影響力を駆使して朝日新聞に頼み込み、宇都宮会長を批判する社説を全国的に流してもらったということも十分考えられる。

 これはあくまで私の邪推であり、なんの根拠もないが、万一、まかり間違って事実だったりしたら、自分たちのことしか考えられない腐りきった重鎮達が跋扈する日弁連・弁護士会は、もう解散するしかないようにも思う。