日弁連会長選挙に関する事前の雑感~3

 次に及川候補の選挙公報を見てみる。

 及川候補の選挙公報


 なぜ立候補したのか
 「司法改革」の誤りを正す!
 弁護士の仕事と生活を守る!
 第1 司法改革の誤りを正す!
 第2 会員の意見を汲み取る
 第3 人権を守る
 6つの重要政策 実現に向けて
 及川智志の経歴・活動

 と区分けして記載されている。

 弁護士の所得の中央値が2006年に1200万円だったものが、わずか8年後の2014年には600万円に半減しており、回復していないこと、
 2000年に約17000人だった弁護士数は、2022年には44000人に増加しているが、現在の司法試験合格者数を維持すれば、さらに弁護士数が増加して6万4000人を超えてしまうこと
 国選弁護制度や民事法律扶助(法テラス案件)のように、赤字案件を弁護士の善意に頼って実施させている政策の問題点などを指摘している。

 基本的に及川候補の主張は、客観的データを用いた主張であり、抽象的概括的な主張に過ぎない渕上候補の主張に比べると、現実の問題点を把握したうえで、それに対処しようとする説得的な主張が見受けられる。

 弁護士は基本的に見栄っ張りな人が多いので、なかなか本音を言わないが、年間所得が600万円程度に過ぎないのなら、大企業に就職していた方がよほど安心・安全な生活を送れる見込みが高い。資格取得に苦労と費用と時間がかかったあげく、弁護士の仕事は、他人の喧嘩を代わりにやる面もあるので、ストレスフルなものが多い。

 仮にうつ病になってしまえば収入はゼロ。収入がゼロでも、生きていくための生活費は当然かかる。ここまでは給与所得者の方と同じだが、さらに、経営者弁護士だと生活費に加えて事務所の経費が年間2000万円位は平気でぶっ飛んでいく。
 近年、企業内弁護士の志望者が多くなっていることには、弁護士業のリスクに対する不安の大きさも一つの理由だと考えられる。

 弁護士には、基本的には国民年金しかないし、健康保険も東京など健康保険組合を立ち上げている一部の弁護士会などを除けば、国民健康保険である。退職金制度もない。その分を貯蓄しておかなければ、余生は生活保護の危険すらあるのだ。

 それにも関わらず、日弁連主流派(大阪弁護士会執行部もそうだが)は、人権を守るために必要なら、本来国がやるべき制度であっても、その制度をとにかく実行したがる。そして、その制度が全くペイせず、弁護士会員に負担を押しつけるものであってもお構いなしなのである。
 そもそも国選弁護だって、国からもらえる報酬は諸外国よりも相当低く、私選弁護の1/5~1/10位しか支払われず、全くペイしない制度である。日弁連は、長年ずっと値上げを求めているが殆ど無視されており、弁護士の犠牲で成り立っている制度なのである。
 民事法律扶助(法テラス案件)、被疑者国選も同様である。

 医師会だって、無医村への医師派遣には、経済的にペイするかどうかをまず考える。医師だって職業だから当然である。私は、人権保障に必要でもまず経済的に成り立つかどうか考えてから実行すべきだと、いつも大阪弁護士会の常議員会で主張するのだが、とにかく、「人権保障に必要なら苦しくても日弁連や弁護士会が、自腹を切ってでもはじめるべきだ。いずれ国が分かってくれて制度化してくれる。法テラスや被疑者国選だってそうじゃないか。」と日弁連・大阪弁護士会執行部などは主張するのである。
 しかし、被疑者国選も法テラス案件も、制度化はされたものの、弁護士に支払われる対価は極めて安く抑えられており、全くペイしないのだ。人権保障には役立つが、経済的に見れば、弁護士に赤字と分かっている仕事を、さらなる犠牲を、押しつけただけなのである。

 日弁連や執行部が、「私たちは人権保障のためにこんなに素晴らしい制度を国民の皆様の為に実行しています!」と良い格好する裏で、実際に担当させられる弁護士は赤字案件をやらされることになるのである。

 確か前回の日弁連会長選挙の際に、法テラス案件を自ら担当して処理した経験があったのは、及川候補だけだった。日弁連主流派の候補者は、人権保障に役立つがペイしない法テラス案件を自ら処理した経験がなかったのである。

 おそらく、日弁連主流派や大阪弁護士会執行部等に所属してええ格好している弁護士の先生方の多くは、「弁護士が生活に困ることなどあり得ない。人権のために会費を使ってしまって不足しても、会費を値上げすれば良いのだ。」と現状を把握できずに旧来の弁護士像がいまだに維持されていると安易に考えているようにしか思えないのだ。

 渕上候補のことはよく知らないが、日弁連主流派が推している候補者であるし、これまでの日弁連主流派の政策を引き継ぐようなので、おそらく上記の方々と同様に考えている可能性が高いのかもしれない。
 及川候補は、弁護士の仕事と生活を守ることを公約に掲げているので、このような点についても切り込んでくれる可能性を秘めている。

 日弁連会長選挙は究極のどぶ板選挙で、例えば、「A弁護士はB弁護士に頭が上がらないからB弁護士から説得すればおちる。だからB弁護士に電話で説得させればいい。」というようなことが常時行われている。


 組織力だけでみれば、これまで日弁連の中枢を握ってきた主流派の圧勝である。
 そうであっても、主流派の圧倒的牙城の中で、弁護士の仕事と生活を守る点を掲げた及川候補がどれだけ得票できるか、私は注目している。

(この項終わり)

森の墓地(世界遺産~ストックホルム郊外)

※写真は記事とは関係ありません。

無駄無駄無駄無駄・・・・

 ある会社の取締役が、こういう機械を導入して製造すれば、これまで以上に優秀な製品をたくさん生産できると豪語したので、費用を投入して取締役の主張する機械を導入した。ところが、導入した機械は、その取締役の豪語するような性能を発揮するどころか機能不全を起こし、機械の半数以上が壊れた状態になっている。
 しかもその取締役は、機械導入から20年近く経っても成果が上がらず惨状が明らかになっているにも関わらず、機械が上手く動けば上手く行くはずだと言って、機械をあれこれいじるだけで何ら結果を出せていない。

 さて、このような取締役はどう扱われるのが正しいだろうか。

 会社の話であれば、このような取締役は、当然責任を取らされて、クビになっているはずだ。会社のお金を無駄に使われれば、株主だって黙っていないだろう。

 ところで、この話を法科大学院制度に変えて見るとこうなる。

 法科大学院導入(推進)論者が、法科大学院制度を導入して法曹養成を行えばこれまで以上に優秀な法曹をたくさん生み出せると豪語したので、国は、多額の税金を投入して法科大学院導入論者が主張する法科大学院制度を導入した。ところが、法科大学院制度は、導入論者が豪語したような効果を発揮できず(司法試験合格率に関して、予備試験ルートは約95%、法科大学院卒業者は約40%未満)、半数以上の法科大学院が潰れている。
 しかも、法科大学院導入論者は、法科大学院制度導入から20年近く経っても優秀な法曹を生み出すという成果をあげられず(司法試験合格率で予備試験ルートに大差をつけられ惨敗状態)、惨状が明らかになっているにもかかわらず、制度をいじれば上手く行くはずだと言って、法科大学院制度をあれこれいじるだけで何ら結果を出せていない。

 このような法科大学院推進論者は、当然責任を取らされてクビになっていなければならないのではないか。多額の税金を使われた国民だって、事実を知れば黙っていないだろう。
 しかし、現実には、法科大学院推進派の学者と実務家が雁首揃えて、法科大学院制度をあれこれいじることに注力し、司法試験受験生に不安を与え続けている(文科省、法科大学院等特別委員会など。)

 ちなみに、司法試験予備試験は、法科大学院課程を修了した者と同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定する目的で実施されている(司法試験法5条参照)。
 つまり、司法試験予備試験合格レベルは、国が想定する法科大学院修了者と同レベルなのであり、法科大学院教育がキチンとなされているのであれば、司法試験の合格率において、予備試験組と法科大学院修了者組とで大きな差が生じるはずがないのである。

 荒木飛呂彦先生の漫画ではないが、「無駄無駄無駄無駄・・・・」と言いたくなるときもある。

一枚の写真から~101

(ブダペスト子供鉄道~続き)

途中の駅付近のベンチ。誰も座った形跡もなく、静か。

かつて年賀状にも使用した写真。よくよく見ると、列車が通過したあとの踏切を2人の人が渡っている。

途中の駅で撮影。

もし青空なら物凄く美しい絵になったと思うのだが、これはこれで、良い雰囲気が写し取れた気がする。

反対方面行きの列車を待つ多くのお客さん。私の記憶では途中の駅で数人を超えるお客さんが待っていたのはこの駅だけ。

終点の駅で、反対方面に向かう列車の出発待ちをしている客車内の少年を外から撮影。本来は透明なガラスなのだが、寒さで曇っており、結果的に妙に幻想的な絵になった。

以上ご紹介したとおり、冬の雪化粧したブダペスト子供鉄道は、かなり楽しめる。朝早めにセーチェーニ山駅から乗る方が、人が少なくて楽しめる気がする。

季候が良い時期にはオープンタイプの客車もあるので、開放感を味わいたい場合は、そちらがお薦めだ。

またディーゼル機関車ではなく、蒸気機関車が牽引している場合もあったはずなので、蒸気機関車の牽引も味があるはずだ。

我妻榮記念館訪問~その1

 もう、四半世紀近く前になるが、私は、司法試験受験時代、短答式試験の直前に一粒社から出版されていた我妻榮・有泉亨著、

「民法1 総則・物権法」(川井健 補訂)

「民法2 債権法」(水本浩 補訂)

(いわゆる「ダットサン民法」である。)

2冊を、一日半ほどで一気に通読して、試験直前の民法知識の整理をするのが常だった。

 まだ縦書きの本であったが、「通説の到達した最高水準を簡明に解説すること」を目的としており、小型ながらパワフルということから、ダットサンの愛称がつけられていて、短答試験直前の知識の整理には最適だった。

 著者の我妻 榮(わがつま・さかえ)先生は、日本民法界の巨星である。我妻先生が打ち立てた民法体系は、理論的に精緻であるだけでなく、結論が常識的であることもあって、受け入れやすく通説中の通説となることが極めて多かった記憶がある。

 司法試験合格後に、司法修習で訪れた全ての民事裁判官室に、我妻栄著「民法講義」(岩波書店刊)全巻が書棚におかれていたし、裁判官協議中に何か疑問点等が出た際に「我妻にはどう書いてある?」等と話題になっていたこと等からも、実務界にも多大な影響を与え続けていることは実感できた。

 ところが、ダットサン民法を出版していた一粒社が廃業してしまったことから、ダットサン民法はしばらく絶版になっており、私は残念に思っていた。

 その後、かつて一粒社に勤務されダットサン民法の担当をされていた竹田康夫さんのご尽力等もあり、勁草書房からダットサン民法が発刊されることになった。

 勁草書房に勤務されるようになった竹田康夫さんと、ふとしたことから、簡単ではあるが交流して頂けることがあり、竹田さんから我妻榮記念館が発行している「我妻榮記念館だより」の記事を頂いたのが、我妻榮記念館訪問のきっかけである。

http://www.yonezawa-yuuikai.org/introduction/pdf/wagatuma_dayori/wagatuma_dayori25.pdf

(続く)

我妻榮記念館は、山形県米沢市にある。

 

管理される方の都合もあるのだろう。常時開館されているわけではなく、月・木・金・日の13時から16時が開館時間となっている。ただ、それ以外の時間に見学を希望される人は事前にご連絡くださいとHPに記載があるので、開館日でなくても見学できる場合があるかもしれない。

我妻榮記念館のHPアドレスは

我妻栄記念館 (wagatumasakae.com)

である。

今年も1年間、まことに有り難うございました。

本年の当事務所の業務は本日(12月28日)で終了致します。

2022年も、新型コロナウイルスの流行はおさまらず、超円安など、様々な出来事がありましたが、当事務所では弁護士・事務員を含め、なんとか無事に年末を向かえることができました。

 これもひとえに、当事務所を支え、応援して下さった皆様のおかげであり、弁護士・事務員一同、皆様に深く感謝しております。

 新年は、1月4日までお休みを頂き、1月5日より通常業務を開始致します。

 

 今年1年間の皆様から頂いた御厚情に感謝致しますとともに、皆様が良き新年をお迎え下さることを祈念させて頂き、年末のご挨拶とさせて頂きます。

 

今年も1年間、当事務所を御支援賜り、まことに有り難うございました。

重ねて御礼申し上げます。

(ヴェローナの郊外の民宿で)

日弁連会長談話の矛盾

本年3月28日に、日弁連の荒会長は、

若手会員への支援の充実・法曹志望者増に向けての会長談話~「法曹人口政策に関する当面の対処方針」取りまとめを踏まえて~

を公表した。

「法曹人口政策に関する当面の対処方針」については、これまで指摘したように、まず結論ありきで作成されていたとしか考えられない。

法科大学院としては、司法試験合格者が減少すれば制度自体を維持できなくなるから、司法試験合格者数は何としても維持して欲しいのだ。

日弁連の描きたい結論は、司法試験合格者を減らす必要などないという意見だ。

この意見は、日弁連執行部が法科大学院とべったり結託しているから、端的に言えば法科大学院の利益を代弁したものである。

しかし、このブログで何度も指摘しているように、法科大学院制度は導入から20年近く経ってもいまだに、その制度の改変を続け、ついには法科大学院での教育半ばで司法試験を受験させるという、「プロセスによる教育という大看板」すら放棄するような内容の制度を導入するに至っている。

また、法科大学院の教育内容の充実が制度導入からずっと叫ばれ続けている。

一般の会社で考えれば、こんな感じだろう。

ある取締役(法科大学院制度導入論者)が、こういう機械(法科大学院制度)を導入して製造(教育)すれば、これまで以上に優秀な製品(法曹)をたくさん生産できると豪語したので、費用(税金)を投入して導入した機械が、その取締役の豪語するような性能も発揮できず機能不全を起こし、機械の半数以上が壊れた(潰れた法科大学院は半数以上)状態になっている。しかもその取締役、20年近く経ってこれだけの惨状が明らかになっているにも関わらず、機械が上手く動けば上手く行くはずだと言って、機械をあれこれいじるだけで何ら結果を出せていない。

まあ、普通の会社なら、その取締役がクビになるのは当然だわな。更にすすんで取締役の業務に関する任務懈怠責任を、会社(国民)から問われても仕方がないだろう。

 ところが、日弁連執行部は法科大学院推進に同調して協力したため、今さら間違っていたとはいえないのだろう。だから、無理をしてでも、会内の相当数の反対を押し切ってでも、法科大学院をアシストすべく、司法試験合格者を減らす必要はないとの意見書を出したのだ。

 要するに、私から見れば、日弁連執行部は、なんの具体的根拠もなく適当な根拠を並べ立てて弁護士の法的需要はあると断言しているのだ。

 (裁判所に持ち込まれる全事件の数は年々減り続けているのに)仮に日弁連がいうとおり、世間には法的需要が有り余っており、弁護士の仕事もたくさんあるのなら、その仕事で食っていけるはずだから、わざわざ会費を支出して若手の支援をする必要などないはずなのだ。

 法的な需要があると言いながら、若手支援に注力するという態度は、完全に矛盾していると私は思う。

 会費を払わず(払えず?)退会命令を受ける会員もいる昨今である。

 会費の無駄使いは会員全員に対する裏切り行為だろう。

 現に私が弁護士になった20年以上前では、若手の支援など誰も言っていなかった。むしろ正月やGWなどに若手が多く当番弁護士を割り当てられたりしていた記憶があるくらいだ。

 もういい加減、日弁連執行部は現実を見ないとダメだ。

 「弁護士であれば、かすみを食ってでも生活できる(んじゃないかな??)」という幻想は今すぐ捨ててもらいたい。

 

一枚の写真から~59

NZ南島で

NZは、あまり鉄道網が整備されていないが、鉄道も、あるにはある。

踏切も、たいてい、遮断機や警報器がない場合が多かった記憶がある。

道路の先にONE LANEと書いてあるのは、その先の橋が一車線しかないという表示。

もちろん信号もないことが普通なので、対向車の有無を確認してから渡ることになる。

一枚の写真から~57

あるホテルにて~部屋の鍵と(バラが生けられていた)一輪挿し。

現在はカードキーになっているが、かつてこのホテルでは、写真のように金属製の鍵がキーホルダーに付けられて宿泊客に手渡されていた。

不便で時代遅れかもしれないが、形ある普通の鍵の方が、様々な人々の人生を反映している、そんな気がする。

日弁連会長候補者と法テラス案件

 日弁連会長選挙公聴会(九州地域)で、候補者に対して、いくつかの質問と一緒に法テラス案件を何件やっていますかという質問がなされていた。

 ご存じのとおり、法テラス案件は報酬が極めて低く設定されており、経営者弁護士にとっては、手を抜かない限りほぼ確実に赤字案件である。

 これに対して医師の健康保険治療はそれで十分生活できるだけの収入が認められているようであり、むしろ医師の世界では保険適用の治療ができなくなると死活問題であるとも聞く。

 ところが、弁護士の場合はそうではない。私の経験から言って、法テラスからの弁護士報酬だけで事務所を経営することは、ほぼ不可能である。

 しかし、今回のコロナ渦のなか、日弁連は、現在経済的弱者に限定されている法テラス利用を、経済的弱者以外にも拡大すべきという提案をしたかとかしなかったとかで、問題視されていた。

 要するに、その提案は、普通に弁護士費用を支払える人に対しても、法テラス基準の安い弁護士費用でサービス提供せよと日弁連が強いるに等しいものである。

簡単に言えば、
日弁連「コロナ渦なので、経済的に困っていなくても半額以下で弁護士を使えるようにしたいと思います~!」
一般人「お~、有り難い。さすがは、日弁連、やるね~。」
日弁連「もちろんです。日弁連は皆様の味方です!」

弁護士「で、誰がその差額を負担するの?」
日弁連「お前らの自腹にきまっとるやろ!!」

という感じだ。

 歯に衣着せずに言わせてもらえば、これまでの日弁連執行部主流派というものは、弁護士過疎解消!弱者救済!等という、かっこいい掛け声は大好きだが、たいてい若手や現場の弁護士等の犠牲の下に、その政策を実現させようとすることが多いように感じる。

 話がだいぶ飛んでしまったが、日弁連会長候補に話を戻す。

 法テラス案件を何件やっているかとの質問だった。

 法テラス案件をやった経験がないのであれば、法テラス案件の酷さが分かるはずがないので、私としては、法テラス案件でひどい目に遭わされた、現実を知る方に会長になって頂き、法テラスとしっかり戦って欲しいと思っている。

 それゆえ、この質問の回答には興味があった。

 及川候補はここ5年で100件くらいと明確に答えた。
 ~及川候補は確か単独事務所だから、選挙活動もしながら5年で100件もの法テラス案件をこなすとは、凄いとしか言いようがない。法テラスの酷さも十分お分かりなのだろう。

 小林候補は法テラススタッフ弁護士育成をやっていたので、共同受任で60件程と答えた。
 ~共同受任を60件と言われても、養成のためであり、自ら積極的に法テラスを利用したわけではないのだろう。自ら単独で何件も法テラス利用をしていれば、そちらの方がアピールしやすいから、当然その件数も答えたと思われるからだ。おそらく質問者は、候補者単独でどれだけ法テラス案件を処理したかを聞いているはずだから、「自分で処理した法テラス案件はゼロですが、育成のために共同で60件ほど関与しました」、というのが質問者の問に対する正確な答えであるべきだ。

 高中候補は、時間の関係で割愛しますと述べて質問に直接答えなかった
 ~おそらく高中候補は、法テラス案件をご自身で処理した経験がない可能性が高い。なぜなら、「○○件です」と答えた方が「時間の関係で割愛します」と答えるようりも短く答えられるからだ。とはいえ、正直な方なので嘘の経験もいえず逃げた答えになったのだろう。高中候補の顧客層は、法テラスなど必要のない方ばかりなのかもしれない。

 その人と同じ経験をしなければ本当の痛みは分からない。
 本当の痛みが分からないのであれば、その痛みに対する対処方法も真剣になれないことが多いだろう。

 そろそろ、法テラスに対しても、しっかりものを言ってくれる人が日弁連会長になってもいいような気もするね。

日弁連会長選挙公聴会をちょっと覗いて見た

 新型コロナウイルスが猛威をふるっている昨今であるが、日弁連会長選挙は進行中である。
 通常であれば、各地(北海道・東北・関東・中部・近畿・中国四国・九州)で公聴会が開かれ、候補者の声をじかに聞けるものなのだが、今回はコロナウイルスの影響もあってか、インターネット経由のリモートで開催されているようだ。

 上記の日弁連会長選挙公聴会は、弁護士なら日弁連の会員専用サイトで視聴することができ、現在(2022.01.28)、東北・北海道・中部・近畿・九州を対象とする公聴会について公開されている。

 近畿公聴会の質問の中で、私がブログで何度も、その内容が欺瞞と過ちに満ちていると指摘している日弁連法曹人口検証本部取りまとめ案に賛成するかとの質問があった。

 及川候補は、弁護士の需要は拡大していないこと、単位会の相当数の反対があること、検証本部の人選の偏り、架空の需要可能性を前提に結論を出している等から、取りまとめ案に反対する意向を明確にした。

 小林候補・高中候補は、取りまとめ案に賛成している内容の回答だった。
 まあ、日弁連主流派の流れを汲む両候補からすれば、反対などと言ったりしたら、たちまちのうちに主流派内での支持を失って、「はい、消えた!」となってしまうだろうから、口が裂けても反対できないのだろう。しかし、この取りまとめ案に賛成するということは、私が指摘したように判断根拠等に虚偽の内容が満ちている偏向した内容の取りまとめ案について、取りまとめ案に相当数の単位会が反対している事実を無視してゴリ押しすることに繋がるから、まあどちらが会長になっても今までの日弁連とおんなじやり方を踏襲するだろうということだ。
 高い会費を取っておきながら、日弁連は弁護士のための組織ではないのか、日弁連に会員の意見が反映されていないではないかという、弁護士に広がっていると思われる潜在的不満に対して、何ら意を払わない可能性があるだろう。

 さらに、法曹志願者の激減について、弁護士の経済的基盤が崩壊しているからではないのかという質問に対して、

 及川候補からは、弁護士業だって仕事であり、弁護士業で生計を立てていく必要があること、日弁連は20年以上前から業務拡大に取り組んできたが、成果が上がっていないこと等の問題点を指摘し、司法試験合格者を減員すべきだと主張している(誤解なきよう申し上げるが、司法試験合格者を現状の1500人前後から1000人前後に減少しても弁護士数は増加し続ける)。

 小林候補は、弁護士にも経済的基盤は大事であることは認めているが、魅力をアピールして志願者を増やせばいいとの回答だった。

 高中候補は、法曹の魅力(得に女性、中高生)を幅広く発信すればいいし、経済的基盤については活動領域の拡大をすれば良いとの回答だった。

 この点については、及川候補だけが正しい現状認識を踏まえた返答をしていると感じている。
 おそらく小林候補も高中候補も、本心では弁護士全体として見た場合、業務の拡大を大幅に上回る弁護士数増加の影響で、多くの弁護士の業務基盤が傷んでいることは理解しているはずだと思う。税務統計等からも弁護士業の収入の凋落ぶりは、相当程度明らかになっているのだから、仮に本当に、多くの弁護士が潤っていると考えているのなら、現状把握能力が全くない、「頭の中がタンポポ畑のお人」と考えざるを得ないからだ。
 しかし、両候補とも、その事実を認めるとこれまで日弁連を牛耳ってきた主流派方針が誤りだったということに繋がるため、やはり、認めるとはいえないのだ

 及川候補の言うとおり、日弁連は私が弁護士になった頃には既に、業務拡大の必要があるから、その努力をしていると言い続けてきたし、そこそこの会費を投入してきたはずである。しかし実際には、業務拡大どころか、司法書士の簡易裁判所代理権が認められてしまうなど、他士業からの浸食を抑制できていない。そればかりか、消費者系弁護士が勝ち取った過払金判決によって過払金バブルが生じたことから、問題を先送りしてしまい、結果的に弁護士数の増大に見合った弁護士業務の拡大ができていないと評価せざるを得ない。

 小林候補も、高中候補も弁護士業の魅力のアピールで法曹志願者が回復すると主張するが、既に日弁連は法科大学院と組んで弁護士業のアピールを相当の会費を突っ込んで何度も実施してきている。
 その上で、なお、司法試験受験者は減少し続けている傾向にあるのだ。

 いくらやりがいがあっても、仕事は生活の糧を稼ぐ手段でもある。食べられないのなら、その仕事を継続することはできない。

 中高生だってその事実は知っているし、だからこそ、現時点で唯一資格で食っていける可能性が高い医師、つまり医学部がどんどん難化しているにもかかわらず、人気がより高まりつつあるのだ。

 大学生は自分の進路についてシビアに考える。本当に魅力があって、生活ができる仕事なら、どれだけ難関であっても、志願者は集まる。かつて法曹資格がプラチナ資格と言われていた旧司法試験時代は、合格率数%であっても、志願者は増え続けていたのである。

 かつては合格率数%であった司法試験の昨年の合格率は40%を超えた
 しかも、受験生平均点よりも約40点も低い点数で合格できる試験になっているのだ。

 これだけ合格しやすくなっても志願者が増加しないのは、端的に言えば、資格に魅力がないからである。そして、弁護士業が仕事として大きく変貌したわけでもないのに、その魅力が減少した根源の問題は、及川候補が主張し、小林候補も少しだけ触れているが経済的基盤が崩壊している点にあると分析するのが、最も合理的だ。

 

 そろそろ、建前ではなく、本音で弁護士のことを考えてくれる日弁連会長が生まれてくれると嬉しいのだが。