依頼者保護給付金制度~大阪弁護士会の意見は賛成

「残念ながら」というべきか、「予想どおり」というべきか、昨日の大阪弁護士会常議員会で、依頼者保護給付金制度についての大阪弁護士会の意見は、日弁連案に賛成するという決議となった。

 私は、このブログでも対案を出しているように、依頼者保護給付金制度自体には各種の問題があり、その問題も解決できていない段階にある以上、賛成できなかった。

 執行部作成の大阪弁護士会の意見も、両手をあげて賛成という意見では、もちろんない。意見照会をかけた各委員会でかなり多く反対意見が出ていたことを踏まえて、制度運用開始前に十分検討を求め、不祥事根絶の総合的対策を具体化するよう注文を付けてはいる。
 私の見た限り反対意見の委員会の方が多かったと思うが、執行部としてはあくまで参考意見で聞いただけなので、委員会の反対意見が多かろうが、大阪弁護士会としては賛成意見を出すということなのだろう。

 しかし、制度案に問題があるのなら、制度案の訂正を求め、その問題を解決した新たな制度案をもって賛否を問うべきだし、仮にそれがダメでも、真に問題解決が重要であると考えるのであれば、問題解決を条件に賛成するという、条件付賛成の意見とするのが筋のはずだ。

 大阪弁護士会の意見は、平たくいえば、「制度には問題があるけれども、とにかく賛成する。問題点の検討だけはしておいてね。検討の結果、日弁連が問題点を改善しなくても賛成意見は変えないよ。」ということだ。日弁連が問題点を検討した結果、それを改善しない可能性があるがそれでも賛成意見は変わらないという趣旨かと、私自身が山口会長に質問して確認したのだから間違いないだろう。そこから見ても、完全に賛成ありきの意見としか私には思えなかった。

 私は60期代後半の先生数人から、若手の多くは反対しているという話も聞いていたため、執行部に対して、「若手の意見もきちんと踏まえてのことか、対外的なアピールばかり目を奪われて、弁護士会内の世代間分裂が起きたら弁護士自治など崩壊するのではないか」との指摘もさせて頂いたが、執行部が若手の方の意見に配慮している様子は、私には窺えなかった。

 もちろん私も子供ではないので、現在の日弁連会長の中本先生が大阪弁護士会所属であり、大阪弁護士会が中本会長の意向に反する意見を事実上出せないという大人の事情があることくらいは承知している。
 声に出していう人こそ少なくなったが、かつて法曹人口問題等で日弁連の脳天気な意見に反対すべきであると私が述べたときに、「日弁連に反対すると大阪弁護士会の日弁連への影響力が削がれるからダメだ。」という理由で反対する意見も聞かされたことがある。
 おそらく今回もその一環に属するものである可能性が高い。

 でも私は思うのだ。

 大阪弁護士会の日弁連への影響力って何なんだ。結局、大阪から日弁連会長を出せるかどうかだけなんじゃないのか。
 そんなにポストが大事なのか。

 大人の事情で、若手の不満を溜め込むことの方が、弁護士会内の世代間分裂を加速させ、弁護士自治の危機を招く危険性を孕んでいるような気がしてならない。

 ちなみに、常議員会の議決は、賛成33、反対8、棄権・保留5だったと記憶している。会派に縛られずに自分の意思で投票できる若手の方があと10名ほど常議員であれば、結論は変えられたかもしれない。
 

 若手弁護士の方が、数としては圧倒的に多くなってきていることを忘れて、旧態然とした会務運営を続けていると、外部からの圧力より先に内部が崩壊する危険性が高いように思うのだが。

ゴルフのこと~7

(8月17日記載のブログ記事の続きです。)

 さて、インターネットでゴルフクラブを買うことに決めたS弁護士であるが、どのクラブを買うか決心がつくまで数日かかった。

 もともと、あまりゴルフクラブのメーカーや銘柄について無知だったS弁護士は、随分後になってから、それまで読めなかった「XXIO」をゼクシオと呼ぶことを知ったし、さすがにTaylorMadeはテーラーメードと読めたものの、Titlistについてはタイトリストとは読めずティトリスッ?なのかと勝手に思っていた。

 それはさておき、インターネットには便利な検索機能がある。これで調べれば、検索者の無知にも拘わらず、たちどころにお薦めクラブが見つかるはずである。チョロイモンだ。

 検索ワードはもちろん、初心者用・簡単・アイアンセットである。

 ところが候補となるクラブセットは、結構な数に上った。どうせ、下手なんだし傷だらけにしちゃうから安い奴でいいや、というのがS弁護士の第一コンセプトではあるが、よくよく見てみると、一見安い値段で出ていても、6本セット・4本セットという場合もある。できればSWまでそろったセットが良いなと思って、検討していくと8本セットで34980円という、クラブセットが目に止まった。

 お店のうたい文句は次のとおり。

 「苦手アイアンを克服する、切り札が登場!中空ヘッドの5番・6番は、アイアンとは思えない飛距離に到達。低くて深い重心から、ボールを容易に打ち上げることができます。その低重心は7番・8番・9番の深ポケットキャビティにも継承され、トゥ&ヒールにウエイトを配分してスイートエリアを拡大。より確実なコントロールを得ることに成功しました。PW・AW・SWのソールが広く、グリーンまわりのどんなライからでも滑らすことが可能。セミポケットキャビティヘッドでバックスピンがかけやすく、グリーンにピタリと止めることができます。どの番手からも違和感なく振り抜けるため、アグレッシブな攻めをアイアンで実践することができます。」

 どうです。これさえ買えば、ゴルフなんて簡単でしょ?

 アドバイザーの一言には、「中高年の強い味方」とも書いてある。残念ながらS弁護士はまさに中年ど真ん中である。無理しても、どうせ若者とは、肉体的に対等な勝負ができないことには、もうそろそろ気付いてきたお年頃だ。それなら素直に、「強~い味方」を手なずけてもいい頃合いである。

 LynxプレデターSFアイアンという、大層な名前も付いている。
 プレデターって、捕食者って意味だったかな。強そうだ!
 SFの意味は、サイエンスフィクションではなくて、ステイフォーカス、照準を定めるという意味らしいから、良い感じじゃないか。

 念のため、購入者のレビューを読んでみると、「有名ブランドに引けをとらない掘り出し物のクラブである」という感想があった。
 この一言が、S弁護士のハートをキャッチしてしまった。

 S弁護士は、実は、有名ブランドに引けをとらない掘り出し物に、結構弱いのである。

 思えば、大学受験時代、森一郎先生の「試験に出る英単語」が単語集のバイブルであり、関西では「しけ単」、関東では「でる単」と呼ばれ必須の単語集と目されてはいたが、S受験生はどうにも味気なくなじめなかった。そこでS受験生は、単語集をあちこち捜したあげく、夏季講習に出かけた代々木ゼミナールの参考書コーナーで、「ギルフォード方式英単語速修革命」という英単語集を発見し、これを中心に英単語を勉強したのだった。

 この英単語集は、「ギルフォード方式」、「速修革命」と大層な看板を掲げていたが、驚くべきというか、笑えるというか、ギルフォード方式がなんなのか、この単語集のどこにどう取り入れられているのか、全く説明がないのである。
ただ、内容は、コロケーションを用い、穴埋め式に工夫されていた。
例えば  natural selection   自然□□ (正解は「淘汰」)という感じである。
クイズ好きのS受験生には比較的興味をもって繰り返すことができたという点では、確かに小さな革命は起きたようだった。
 味気なく表紙を見ただけで嫌気が差す「しけ単」よりも、単語集を見ようと思えるだけ、単語集としては100倍マシである。これぞ有名ブランドに引けをとらない掘り出し物だと、当時のS受験生は感じていた。

 ちなみにコロケーションを用いた英単語集は、現在でも駿台の「システム英単語」でも採用されている手法であるし、実は効果的だったのであろう。そういう意味ではギルフォード方式英単語速修革命は、秘かに時代を先取りしていた英単語集であったのかもしれない。

 このような受験時代からの経験もあり、有名ブランドに引けをとらない掘り出し物が大好きなS弁護士は、その文句が決め手になって、初心者用アイアンセットを購入したのである。
 お店の注意書きに、メーカーの保証書は付いてないと書いてあったことは少し気になったが、初期不良はお店で対応すると書いてあったし、折れていたりすれば別であろうが、そもそも初期不良があっても気づけるだけの腕はないから、まあいいや、であった。

 かくして、S弁護士は、8本セットの初心者用クラブを、3万円台で手に入れたのだった。

(続く)

竜王戦挑戦者交代~将棋

 将棋のプロ棋士である三浦弘行九段が、挑戦者に決定していた竜王戦に出られなくなった。

(朝日新聞デジタルより)
 日本将棋連盟は12日、15日に開幕する第29期竜王戦七番勝負(読売新聞社主催)で、挑戦者の三浦弘行九段(42)が出場しないことになったと発表した。対局中、スマートフォンなどに搭載の将棋ソフトを使って不正をした疑いもあるとして、説明を求めたという。連盟は、期日までに休場届が出されなかったため、12月31日まで公式戦の出場停止処分とした。
(引用ここまで)

 三浦九段といえば、羽生善治さんが将棋タイトルの全てを独占して七冠王になっていたときに、その一角を初めて崩し羽生さんからタイトルを奪取したことで有名だし、現在でも順位戦では最高位のA級に所属している。「武蔵」との異名をとる棋士で研究熱心でも知られている。

 もちろん、三浦九段本人は、将棋ソフトの利用を否定している。

 出場停止処分の理由は、期日までに日本将棋連盟に対して、休場届を出さなかったことのようだが、それで年内いっぱいの出場停止処分を課されるだけの重い罪にあたるのだろうか。ここまで重い処分をするのであれば、日本将棋連盟は確たる証拠を握っているのかもしれないが、仮にそうでなかった場合、三浦九段に将棋ソフトを使用していなかったと証明しろというのは、ないことの証明を求めるものだから悪魔の証明であり、実質的には三浦九段に不可能を強いるものであろう。

 概して、事情聴取や尋問について、一般の方は不慣れである。対象者の体験した事実を聞かなければならないのに、自分の意見を述べて「そうではないか」と詰め寄ることが多い。
 私は、某地方公共団体の100条委員会に呼ばれた方の補佐として、100条委員会に出たこともあるが、市会議員達は自分の意見、例えば「こう考えるのが自然ではないか」と述べた上で、「そうではないのか」と詰め寄ったり、「私はこう思うが、どう思うか」等と意見を求めたりする質問が95%以上で、事実を聞こうとする質問はほぼ皆無に近かった。
 民事事件で、何度止めても、どうしても尋問したいと述べる当事者にやむを得ず尋問してもらったこともあるが、結果的には、やはり自分の意見の押しつけに終始した。

 三浦九段に対する、日本将棋連盟の事情聴取は果たして、きちんとなされたのだろうか。

 私は、確たる証拠がない限り、プロ棋士としての矜持をお持ちであろう三浦九段を信じたい気持ちなのだが。

依頼者保護給付金制度の対案

 依頼者保護給付金制度について、大阪弁護士会でもどのような意見を出すか、常議員会で検討中だ。しかし、各種の問題点が指摘されていることは間違いない。

 ツイッターでも呟いたが、そんなに問題が指摘される制度を導入しようとするなら、まず試しに小規模にやってみて問題点を洗い出した方が良い。一度制度を導入してから問題点が発覚して「やっぱり止めます」ということになった方が、日弁連の信頼をより損なう危険が高いし、制度を一旦導入した以上、撤退することは相当困難になるから、どれだけ弁護士会財政に打撃が及ぼうとも体面を気にしてずるずる撤退できずに弁護士会財政に危機をもたらすおそれもないではないからだ。

 特に私の見たところで恐縮だが、日弁連執行部の先生方は体面を気にする方が多いように見受けられるので、制度を一度導入した以上、仮にその制度に大きな問題点が発覚したとしても、少なくとも自分の任期中は撤退したくないとして、ずるずると継続してしまう危険性は極めて高いだろう。

 そこで対案だが、日弁連執行部で本制度に賛成の方々がポケットマネーでまず試行して頂くというのが最も良いのではないか。
 弁護士の多くを占める若手の多くも反対だという情報もあり、制度に反対する人も強制的に徴収される弁護士会費を財源にするのでは、不公平感や不満は溜まるばかりだ。仮に、弁護士会内部で世代間の不満が爆発すれば、日弁連は一体性を失い、弁護士自治などと言っていられなくなる可能性すらある。

 日弁連執行部は会長・副会長併せて14名だし、私の見る限り功成り名を遂げた立派な先生方ばかりなので、お一人200万円出して頂いたとしても、司法書士の有志が成年後見制度不祥事に関して準備している年間2000万円の見舞金規模を800万円も上回る規模の給付財源が生まれる(全員給付金制度に賛成していると仮定しての試算)。それに制度に賛成する過去の日弁連会長にも寄付をお願いすればもっと財源は豊かになる。

 依頼者保護給付金制度導入が日弁連の選択として正しいと信じるのであれば、問題点を指摘する人や反対する人の財布をあてにせずに、まず正しいと思う人だけでやってみればよいではないか。
 被害者にとっても、エライ先生方のポケットマネーから見舞金が出たと知れば有り難みも増すかもしれないし、なにより、依頼者保護給付金制度が当初の目的を果たさないと分かったときに、「なにぶんポケットマネーですから」ということで撤退しやすい。

 それに、自身の栄達だけではなく弁護士界全体のことをおもんばかって執行部役員に立候補した方ばかりだろうし、その中でも給付金制度に賛成した方なんだから、まさか、制度には賛成するが自分のお金は出したくはないとはいわないだろう。だから、確実に資金も集まるはずだ。
 さらに、制度を実行しようとする人達が率先して自ら動けば、若手会員の不満も解消に向かうだろうし、世代間対立の緩和にもつながる。

 なにより、万一、依頼者保護給付金制度が弁護士会全体に利益をもたらすことが想像ではなく事実の上で明確になれば、その制度導入の際には、全会員の納得も得られやすいはずだ。

 決しておかしな対案ではないと思うがどうだろうか。

司法試験は選別能力を維持できるのか?

 かつて司法試験はなかなか合格できないため、かなりの長期間受験を続ける受験生もいて、10年以上も受験を続けている人もそう珍しくはなかった。

 当時は、合格率2~3%の狭き門であり、現代の科挙とも呼ばれる難関だった。

 1次試験は教養試験で大学の教養課程を修了している者は免除。したがって、受験生が司法試験という場合、大抵は2次試験を意味していた。

 2次試験は、短答式(マークシート方式)、論文式、口述式と3段階に分かれており、短答式で大体5人に1人に絞られ、短答式に合格したものだけが論文式試験を受験できた。短答式試験は法律の知識や事務処理能力が試されていた。合格するには75~80%以上の正答率が必要だった。

 次に、全受験生の5人に1人の割合で合格してきた、短答式合格者が論文試験で競うことになっていた。論文式試験では7~8人に1人しか合格しない。3日間で7科目(その後6科目に試験科目が減らされた)の論文試験は、まさに精根尽き果てるくらい疲労した試験だった。問題文からきちんと法的問題を抽出し、基礎的な法的論述が論理的にできるのかが問われていた。

 論文式試験に合格すると、東京(その後、浦安)で行われる口述試験を受験できた。一流の学者・実務家2名から口頭試問を受けたのだ。ここではその場で法的思考ができるのか、それを的確に相手に伝えることができるのかが試されていた。口述試験に限り、落ちても翌年受験する機会を与えられた。この試験の合格率はほぼ95%くらいだったので、論文試験が天王山といわれていた。

このようにかつての司法試験は、法曹としての知識・素養について3段階でチェックし、かなりの選別能力を有していたといって良いと思う。

 ところが、現在の司法試験においては、法曹に相応しい法的素養をきちんと選別できているのか疑問なしとしない。

 口述試験は廃止されたし、論文式試験は問題傾向が大きく変わったため単純な比較は難しい。

 しかし例えば、今年の司法試験短答式試験では、1科目40%以下の得点しか取れないものは落とされるが、全受験生の平均点が120点のところ、114点以上とれば合格できている。もちろん、現在の司法試験は短答式・論文式が一連の日程で行われるので負担の面から旧司法試験との単純比較はできないが、法的知識と事務処理能力に関して受験生の平均点以下でも短答式試験に合格できるというのでは、法的知識・事務処理能力に関する選別能力が、かなり落ちていることは否めないだろう。

また、平成28年度法科大学院入学者数は、実数で1857名(適性試験受験者実数3286名)と、過去最低に陥った。ここ数年の法科大学院標準年限での修了率は68%であるから、標準年限で修了する法科大学院生は1262名程度と考えてそう大きな誤差は起きないと思う。

 では平成28年度の司法試験最終合格者数はと見ると、1583名だ。

 今年の合格者数が今後も維持されると仮定して、これだけで比較すると、1260名の法科大学院卒業者で1580人の合格者枠を争う?ことになる。

 単純に見れば受験生を全員合格させても、合格者数を維持できない。

 もちろん、実際には、過去4年間に合格できなかった者や、予備試験合格者も、司法試験を受験するが、そうだとしても、司法試験の選別能力が相当落ちていることは否めないだろう。

 悪い言い方をすれば、司法試験はザル、しかもかなり目の荒いザルになってきている可能性が高いということだ。

 そうではないというのであれば、最低点合格者の論文試験答案を公開してもらいたい。おそらく、相当まずい答案でも合格しているはずだ。近時、非公式だが裁判所からも法律のことを知らない、若しくは誤解している弁護士が増えてきているとの指摘もある。司法試験がザルでなければ、このような指摘も生じにくいはずだ。

 このような事態は、最終的にはユーザーである国民の皆様の不利益となる。

 資格をどんどん与えて競争させれば、上手く行くという競争原理の幻想は、いい加減ヤメにした方が良いように思うのだが。