司法試験合格者の方々へ

司法試験の合格者が発表されました。

合格された方々、取り敢えずお疲れ様でした。今後待ち受ける貸与制の生活、就職難は大変だろうと思いますが、是非頑張って勉強して頂きたい、と思います。

この昨今の司法修習生の生活の厳しさ、就職難の凄さを知ってしまった今となっては、昔と違って、手放しで「合格おめでとう」と申しあげることができないのが、私としても残念です。

昔のように合格すればある程度の収入は得られそうだという確信すらなくなり、多くの方が借金を背負って修習を行わなければならない厳しい時代です。おそらく私が今の時代の大学生だったとしたら、法曹になることをあきらめ、就職を目指したかもしれません。しかし、この厳しい状況を承知で法曹界を目指し合格された方々は、きっと、とてつもない正義感・使命感をお持ちなのではないかと私は考えています。

その正義感・使命感を実現するためにも、本当に一生懸命に勉強して下さい。力なき正義は無力です。法律家としての力は勉強して身に付けて頂くものです。

皆様のこれからの努力が報われることを祈念しております。

明日、司法試験合格発表

明日は司法試験の合格発表の日である。

受験生諸氏は、合格しているかどうかで落ち着かない状況だろうと思う。

閣議決定から司法試験合格者年間3000人という目標を外す提言を、法曹養成検討会議が行い、また、司法研修所のクラスが削減されるのではないかという噂もあり、今年の司法試験合格者数は注目されるところである。

私の予想は1900人前後であるが、特に根拠はない。敢えて言うなら合格者減員に向けた第一歩をそろそろと踏み出すのではないかという感覚だけである。

合格後のことに関連するが、司法修習生の採用面接をしていて思うのは、「どこまで勉強して知識を身に付けているのかよく分からず怖い」ということである。私が受験していた頃の司法試験では、どうしてあの実力者が合格できないんだと不思議に思われる現象が多分にあった。つまり非常によく勉強されていて誰からも(場合によっては大学教授からも)確実に合格できる力がある、と思われていた人でも何度も足踏みをせざるを得ない場面があったのだ。

試験は水物と良く言われるが、それだけ競争が厳しかったので、合格する実力がないのにまぐれで合格する人は極めて少なかったように思う。だからこそ、司法試験に合格していればある程度の実力は保証されていると考えても、採用側は大怪我をすることはなかった。

ところが、今の司法試験は、三振制度のため受験回数を重ねたベテラン実力者は事実上存在できない。法曹志願者の数は減少の一途で、受験者の層も薄くなっている。そのうえ、合格者数が多いので、実力不足でも合格してしまう危険が相当高くなっている。つまり採用側としては、司法試験合格が弁護士としての最低ラインを保証してくれない状況にあるため、ハズレを引く危険性が極めて高くなっているということだ。

幸い、私はまだ、そんなことは経験していないが、もしハズレを引いたら悲惨だ。膨大な時間を投入して何度仕事を教えても、結局使える起案ができず、その上、給与を支払わねばならない。ボス弁にとっては頭痛の種となる。ただでさえストレスの多い仕事なのに、そんなストレス誰だって嫌に決まっている。

弁護士になれば六法を参照できるから、考え方さえできていれば、知識なんて、後で身につければいいというお考えの方もいるだろう。しかし、法律問題は数学に似ているところもあり、事案に対応する制度、条文を知らなければ解決方法が全く思いつけない場合もありうる。

(天才的な人を除けば、)数学だって類題を解いた経験があればその経験を参考に早急な解答もできるが、全くの未知の問題であれば対処できなかったり、対処できても相当時間がかかったりするはずだ。これと同じで、弁護士も依頼者に解決策を提示したり事件の見通しを立てたりする前提として、「ある程度の知識」は絶対に必要なのだ。そして、(天才的に頭が切れる方は知っているが)法律の天才という人間には残念ながら出会ったことはない。センスの有無はあるだろうが、法律という分野においては、多くは努力で身に付けて行くものだからではないだろうか。

ところが、上記の「ある程度の知識」すら、今の修習生に身についているのか大きな不安が、正直言って私にはある。

もちろん、従前から述べているとおり、現行制度であっても優秀な方の存在は否定しない。毎年一定数の方は旧司法試験合格者と同程度に優秀であるはずだろうと思うが、その数は減少傾向にあるのではないかというのが私の感覚である。

例えば、いま、「担保物件の通有性について説明せよ」と言われて、直ちに正確な説明ができるだろうか。私達の受験時代では、すらすらと説明できれば予備校の基礎講座へ行っても多分ついて行けるだろう、つっかえながらでしか説明できなければ予備校の入門講座からやり直せ、といわれていたこともある。司法修習生でありながらこの問に答えられないなど論外である。

司法試験合格のために、全科目の判例百選をつぶし(勉強し)、近時の重判までつぶしていただろうか。少なくとも私達の頃は最低限の常識だった。場合によればそのような連中と、2年以内に法廷で戦わなければならないかもしれないのだ。本当にあなたの今の力で、困っている方々とともに戦えるのか、良く自問してみて欲しい。おそらく多くの方は、怖いと感じるはずだ。

だから、受験生諸氏にお願いしたいことは、合格された後こそ、真剣に勉強して欲しいということだ。合格の席次が悪くても、集合修習での起案の成績を加味し、合格後・修習中の努力を評価して採用を考察することもある。

私は、受験生諸氏の合格を祈念しつつ、その後の努力にも期待したいと思っている。