2.依頼者保護給付金制度の賛否~その4
N:④不良弁護士の尻ぬぐいを真っ当な弁護士がするのはおかしい、この意見は分かりますよ。横領をするような弁護士は、お金に困っているから横領しているのであって、被害弁償するだけのお金はもうありませんよね。だから、お見舞い金の出所は、きちんと真面目に会費を支払っている弁護士さんが納めた弁護士会費しかない。だけど、それは結果的には、真面目な弁護士さんはなんにも悪いことをしていないのに、悪い弁護士の尻ぬぐいをさせることになっておかしい、こういういことですよね。
O:まあそうだね。誤解を恐れずに分かりやすくいえば、君の高校で野球部が、仮に不祥事を起こしたとした場合、その不祥事に対して被害者へのお見舞い金をだすとして、そのお金を他のクラブが部費から負担しなければならないのかって問題だね。
N:う~ん。確かにこの問題は納得できませんよ。何の問題もなくクラブ活動しているクラブにもお見舞い金を負担させるのは、理屈が立たない気がします。
O:だから、反対している人もいるんだね。確かに同じ弁護士だから責任を少しでも取るべきだという意見は一見もっともらしく聞こえるかもしれない。
しかし、「弁護士」を「ラーメン屋さん」に変えてみたらどうだろう。「新聞社」に変えてみたらどうだろう。同じくラーメン屋さんだから他のラーメン屋の不祥事の見舞金を負担しろとか、同じく新聞社だから他の新聞社の不祥事の見舞金を負担しろとかいわれても、おそらく納得はできないだろうね。
N:⑤の将来の弁護士会財政への不安とは、どういうことですか?
O:一旦このような制度を創ってしまったら、仮に不祥事がバンバン起きて日弁連からどんどんお金が出て行ってしまって、日弁連が今までやって来た人権活動もできなくなってきても、今さらやめますとは言いにくいだろう。一度作った制度をやっぱりやめますというのは、日弁連に対する信頼をより損ねる可能性があるだろうね。そして、おじさんの経験から言えば、日弁連執行部の人はええカッコしいの人が多いから、一般の弁護士がどれだけ困っていても、この制度を続ける可能性が高いと思うよ。
N:へ~。日弁連って、弁護士さんのための組織かと思ってた。日弁連が弁護士さんの足かせにもなったり、弁護士さんに辛い思いをさせる可能性があったりもするんだね。なんだか変なの。
O:それに、裁判自体が減少しているのに弁護士ばかり増やしているから、弁護士さんの収入も平均すれば、どんどん落ちて行っているのが現状さ。会費が高すぎるという不満の声も次第に大きくなってきている。
N:う~ん確かに、所得2000万円の人にとっての年間100万円は5%だけど、所得300万円の人にとっての年間100万円は、33%にもなるもんね。辛さの度合いが違って来ちゃうよね。
O:これまでのように、弁護士さんに余裕があって、日弁連の活動にお金が足りなければ会費を増額すれば簡単に解決するというような時代ではなくなっているのさ。こんなに高額な弁護士会費が必要なら、会費の安い第2日弁連とか第2大阪弁護士会とかを作っちゃった方が楽になるんじゃないかという意見すら若手から出たりしていると聞くよ。
N:そんなに大変なら、無理せずにできる範囲に絞ればいいのに。
O:そこのところが、一般の弁護士と日弁連執行部で日弁連を動かしているセンセイとの感覚の違いかもしれないね(苦笑)。
N:最後の税金の問題はどうなります?
O:依頼者保護給付金制度による支出分は、会の一般財源から拠出される。すなわち、一般の弁護士さんが汗水流して働き依頼者からいただいて得たお金から支払った、他士業に比べてきわめて高額の会費から拠出されることになると思われる。けれども、依頼者保護給付金に相当する会費相当部分は、会員には何一つ収益をもたらすものではないんだね。だから、費用収益対応原則の観点からすれば、この会費相当部分は、損金としては否認されるのではないか、という指摘があるよ。
N:う~ん、難しいですね。
O:要するに、とても簡単に言えば、依頼者保護給付金制度で日弁連からお金が出ていってもそれは経費にはならない可能性があるということのようだね。
例えば、日弁連に10億円の収入があって、経費が5億円なら、残った儲けの分である5億円に税金が課せられる。仮に、日弁連に10億円の収入があって、経費が5億円、依頼者保護給付金で5億円支出したら、実際には日弁連には一銭も残らないはずだろう?それにも関わらず、依頼者保護給付金が損金にならないとすれば、日弁連には10億円の収入があって経費が5億円だったのと同じということになり、手元には一銭もないのに、5億円の収入があったのと同じ税金を課せられかねないということのようだ。
N:納税は国民の義務とはいえ、それはないですよね。手元に一円も残ってないのに、5億円儲けた人と同じ税金を課せられたら、やっていけませんよ~。
O:税務当局の判断もあるとは思うけど、このような税金に関する問題があると指摘する人も中にはいるのさ。
N:う~ん。確かに依頼者保護給付金制度はあった方が良いように思ったけど、いろいろ問題もあるんだね。特に弁護士さんにとってはそうだよね。
O:確かに、悪い弁護士の被害に遭われた方は本当に気の毒だ。その気持ちは、どの弁護士も変わりはないと思うよ。ただ、その被害に対して、他の善良な弁護士さんの犠牲のもとでお見舞い金を出すべきなのか、それで弁護士・弁護士会への信頼が回復するのか、よくよく考えてみないといけない問題なのさ。
なんせ、もともと弁護士を増やして競争しろといっていた人達は、「悪い弁護士はいずれ淘汰されるからどんどん資格を与えて増員すればいい。悪い弁護士を選んでしまったことは、自己責任だ。」と無責任にいっていたのだからね。そしてその方向へ国会が制度を変えて、そういう世界を実現してしまったのだから、今後弁護士さんが困窮して不祥事が多発しても、それは最終的には国会議員を選んだ国民の責任と言えなくもない。このまま突き進むのか、過ちを認めてやり直すかも、最終的には国民の意思にかかっているんだよね。
N:そっか。そんな議論があったなんて知らなかったけど、政治を、もう少し気をつけてみておかないといけなかったんだね。
O:N君を含めた、国民の皆様がこの国の主権者なのだからね。
(この話題はこれで終わります。)