依頼者保護給付金制度について~4

2.依頼者保護給付金制度の賛否~その3

N:それじゃあ、次に、③そもそも弁護士会が損害のお見舞い金を出す法的理由がないというのはどういうことなの?
O:そもそも、この問題が出てきた背景には、成年後見人制度で後見人に就任した弁護士さんのごく一部が、預かったお金を横領したことなども背景にあるんだね。それに、弁護士会が個々の弁護士の業務を指揮命令する権限はないから、弁護士会が個々の弁護士の不祥事の尻ぬぐいをする法的な理由はないのさ。弁護士会は研修を義務づけたり、不祥事を起こした弁護士を懲戒する、苦情窓口を設置して苦情に関する対応を行う等の各種手段を通じて、弁護士を指導監督できるけれど、個々の弁護士の行っている業務そのものに関して指揮命令する権限はない。だから、個々の弁護士の不祥事に関して原則として法的責任を負わないことになる。法的責任がないのにどうしてお金を出すのか、ということが疑問とされている。

N:う~ん、後半は何となく分かる気がします。例えば、僕が弟を監督するように言われて監督していたときに弟が悪さをしたら、僕の監督も悪かったことになるんですよね。僕も責任を問われるかもしれない。でも、そうじゃないときに弟が悪さをしてもその責任を取らされたらやってられませんよね。そういうことですね。
   でも前半がよく分からないよ。成年後見人制度がどう関係するの?
O:後半の理解は大体そんなもんでいいと思うよ。
   では前半の疑問について答えようか。成年後見人制度は、とても簡単にしていえば、痴呆や病気などによって自分のことをきちんとできなくなってしまった人のために、後見人が就いてその人が不利益にならないように面倒を見て上げる制度のことだ。成年後見人には、弁護士・司法書士などの他、親族が選ばれる例も少なくはない。そして成年後見人は、家庭裁判所が任命(選任)して監督することになっている。一番多いのは親族後見人による横領だといわれているよ。

N:へ~、弁護士会が選ぶんじゃないんだね。監督するのも家庭裁判所なのかぁ。それなら弁護士会が、弁護士の成年後見人の業務を調べることもできないし、それはおかしいとか、こうしろとかも言えないんだ。
O:そのとおりさ。家庭裁判所が成年後見人を選んで任命するのだし、家庭裁判所が成年後見人を監督することになっているのだから、もし、後見人が不祥事を起こした場合は、もちろん不祥事を起こした後見人が責任を負うのは当然だけど、後見人を選んで監督しているのは家庭裁判所だから、家庭裁判所に法的責任が生じる。親族成年後見人の不祥事に家庭裁判所の責任を認めた裁判例もある。だから、選ぶこともできず監督もできない成年後見人に対して、日弁連が責任を負ういわれはないという主張にも理由はあるのさ。

N:でもでも、司法書士会は日弁連が言っているのと、似たような交付金制度を創っているって新聞に書いてなかったっけ?
O:確かにN君の言っている内容に近い記載の新聞もあるようだね。でもN君の理解は2つの点で大きく間違っている。

N:ん?どこがちがうの?
O:まず司法書士会が制度を創っているわけではなく、司法書士の中で成年後見制度を仕事にしようと希望する人達が集まって、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートセンター(以下「LS」とする。)を設立して、そこが交付金制度を創ったのさ。司法書士会が作った制度ではなく、成年後見制度をお仕事にしたい人達で創った団体が設置した制度なんだ。だから成年後見人に就いた司法書士の不祥事に限られた制度なのさ。司法書士一般の不祥事に適用される訳じゃない。

N:成年後見人として仕事をしようと思えば家庭裁判所から、成年後見人に選んでもらう必要があるんでしたね。それなら、交付金制度があるからLS所属の司法書士はまだ安心ですよっていえば、家庭裁判所は仕事をくれやすいってことですね。LSは成年後見人として仕事をしようとする人達の集まりだから、LSの仲間が不祥事を起こしたときには、自分の仕事を守るためにも交付金制度があった方が良いことになりますね。
O:そうだね。これに対して、日弁連の提案している依頼者保護給付金制度は、成年後見人の分野に限らない。弁護士が関与する分野全てに及ぶ。成年後見人として全く仕事をするつもりもない人からのお金も成年後見人の不祥事に使うことが想定されているから、自分の仕事を守るためという理由も成り立ちにくい。
   例えば、君の高校で、野球部の不祥事に備えて野球部に関係する人がお金を積立をするのは自由だし、それに文句はないだろう?
   ところが、帰宅部である君を含む野球部以外の生徒やその保護者から、野球部が不祥事を起こしたときに信頼回復のためにお金がいるのでお金を徴収します、と学校が提案してきたらどう思う?

N:そんなの、野球部の責任で、僕の責任じゃないでしょ。どうして僕がお金を出さなきゃいけないの?って怒ると思います。
O:誤解を恐れずに例えてみれば、それと同じようなことなんだね。

N:もう一つ大きく違う点があると言うことでしたけど。
O:それは制度の規模だ。

N:制度の規模?どういうことですか?
O:LSの交付金の規模は、不誠実行為による財産侵害として1名500万円、期間中(1年)2000万円までと定められている。加害司法書士1人に対して、500万円まで。1年間で、交付金が2000万円までしか出さないということになっている。

N:ん~、ということは、1月から6月までに4人ひどい司法書士がいて、500万円ずつ交付金を出したら、併せて2000万円になっちゃいますから、そこで終わりですか?7月以降の5人目の司法書士の被害者は救われないってことですか。
O:制度上はそうなるんだろうね。

N:それって、なんだか不公平な気がするなぁ。
O:財源も必要だから制度としてやむを得ない点でもある。ただ、これで安心ですよって胸を張れるレベルのものかといわれると疑問も出るかもしれない。

N:日弁連の方はどうなんですか?
O:現在執行部が検討している案は、1被害者あたり500万円を上限として、1弁護士あたりの上限額を儲けることはしない。年間給付額の上限は検討中ということで決まっていないようだよ。

N:え~っと、ちょっと待って下さいね。そうすると1人の弁護士さんが10人の被害者を出したときは、日弁連が5000万円までお金を出そうって言うんですね。100人いたら5億円ですか!もし、被害者100人の悪い弁護士さんが10人いたら、50億円になりますよ!LSの250倍規模ですよ。そんなお金良くありますね。しかも、不祥事がもっと多ければ、これで済みませんよ。すげー!
O:それを、他の善良な弁護士さんからの弁護士会費で払おうというのだから、納得しない弁護士さんも当然多くいるだろうね。弁護士会費は、単位会によっては年間100万円を超える場合もある。どの弁護士さんも一生懸命にその弁護士会費を支払っているけれど、近頃の弁護士激増で、収入が減っている弁護士さんが多くいて、弁護士会費が高すぎると批判も多く出ている。だが、弁護士会費は支払わないと懲戒処分を受けて弁護士バッジが飛ばされてしまうから、支払わないわけにはいかない。
   このような時代に、給付金制度で上限も定めず弁護士会費を使いますってことは、昔の余裕のある弁護士さんの時代ならともかく、ちょっときついところがあるだろうね。弁護士会は弁護士のための会ではないのか、という批判もあるくらいさ。

(続く)

後記:最近得た情報によれば、弁護士1人あたり2000万円を上限とする案が出されているということです。

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