(宮﨑顧問)
・さて、私は顧問会議あるいは推進室の最大の課題は、言うまでもなく、多くの若者が法学部、法科大学院から離れている現状をどうして改善するか、どのような施策を速やかにとることが必要かという点にあるのだろうと考えています。
あらゆる領域で志の高い優秀な法曹が活躍するということが社会の要請でもありますし、国家の政策としても司法の人的基盤の充実は極めて重要だと考えています。今、現状は、その基盤が揺らぎつつあるというのが私の最大の危機意識であります。
(坂野のコメント)
東洋経済誌に掲載されていた表によれば、2002年(10年前のデータ)と比較して、東大文一の志願者は▲46.0%、京大法では▲36.6%、早慶上智も▲41.2%~▲52.0%と法学部人気は著しく落ちています。
志願者が少ないということは、即ち、優秀な人材が集まらないということです。優秀な人材が集まらないということは、その分野は間違いなく衰退すると予測できます。国家の三権の一翼を担う司法が、衰退する危機ということなのでしょう。
また、事後的救済社会を目指すと誰かが言っていたようにも思いますが、いざ裁判というときに、優秀でない裁判官、検察官、弁護士しかいないとなれば、どうやって事後的救済社会が実現出来るというのでしょうか。ただでさえ国家予算の0.3%~0.4%しか与えられず、さらに人材も枯渇するとなれば、お金も人材もない中で、どうやって、充実した司法、事後的救済社会が実現出来るというのでしょうか。
このような事態は、当然予測できたはずでした。司法制度改革審議会が審議していた当時のアンケート調査によっても需要の拡大が見込めないことははっきり出ていたからです。だから、そのような状況下で従来の司法試験合格者の4倍に合格者を増加させれば、法曹がだぶつくことは子供でも分かったはずです。それにも関わらず、司法審で需要が見込めると宣って、改悪を進めここまで事態を悪化させたお馬鹿さん方には、きっちり責任を取ってもらう必要があるでしょう。
・なぜ若者が法曹を目指さないのか。
私は第一に、受かっても活躍できる場が少ない、就職もままならない、こういうことがあります。
第二に、それなのに修習修了までお金と時間がかかり過ぎる。
第三に、法科大学院が乱立し、卒業しても司法試験に受からない。
こういう三つの要因がある。
そして、これらの要因をできるだけ速やかに取り除くということが必要だと考えています。
(坂野のコメント)
宮﨑顧問の分析はおそらく正しいと思われます。誰だって、活躍できる場が少なくたとえ取得しても就職もままならない資格を、多大な費用と時間をかけて取得しようとは思いません。
ちょっと観点を変えてみれば、法科大学院制度を中核とする新制度(合格者の大幅増、修習生の給費制廃止を含む)に変更することによってこの3つの要因が生み出されたということになります。だとすれば、仮に旧制度にもどすならば、合格すれば活躍できるし就職もおそらく大丈夫、修習終了まで法科大学院や修習期間中の貸与制による経済的負担を負う必要がない、司法試験に合格しさえすれば良く乱立しその教育レベルもばらつきのある法科大学院に通う必要がない、ということになりますから全て解決、ということになりそうなのですが、、、。
・施策の一つは、先ほどからも出ておりますように、司法試験合格者数の削減ではないかと考えております。現在のひずみの最大の要因は、司法試験を通って研修所を修了しても就職すらできず、オンザジョブトレーニングの機会すら与えられないという点にあると思います。
平成25年7月の関係閣僚会議で3,000人の閣議決定は現実的ではないとした上で、法曹人口については、ニーズの内容や制度的な整備状況を踏まえて調査を行うというようにされています。調査を行うことは必要でありますし、慎重な調査が行われるべきだと思いますが、一方、その調査結果を待って、更にそれから検討するということでは、現在、危機的状況にある法曹離れが進行していく。その間、法科大学院や養成制度の危機的状況は深刻化するだけだと思っています。
私は、危機的状況にある法曹離れを一刻でも早く食いとめるためには、まずもって合格者数を大幅に減少させるため、顧問会議で緊急の提言や協議が行われるべきではないかと考えておるところであります。顧問の皆さんの御理解が得られれば幸いだと考えております。
(坂野のコメント)
公認会計士試験は、司法試験と同様に、自由競争させるべきだ等の理由も後押しして規制緩和の波を受けたあげく、合格者を一時3000人~4000人に増やしましたが(但し3000人以上の合格者は、わずか3年のみ)、就職難ということもありすぐに方針を転換し、2012年では合格者数を1350人程度まで減少させています。
マスコミは、司法試験の合格者減少の話しをすると、すぐ既得権だの何だのと騒ぎ立てますが、公認会計士試験の合格者減少について、正面切って批判を加えているマスコミを少なくとも私は知りません。誰だって、魅力のない資格を目指そうとはしませんから、増やしすぎて魅力を失ったのであれば、合格者を減少させて資格の魅力を取り戻すことは自然な方針です。マスコミも本当は、それを知っているから公認会計士試験の合格者を1/3まで減少(約7割弱の減少)させても特に批判をしないのではないでしょうか。
だとすると、現在2000人程度の合格者を3/4程度に減少(約2.5割の減少)させるべきだとの日弁連の主張に、躍起になってマスコミが牙を剥くのは、マスコミが馬鹿なのか、司法試験合格者減少に関して何らかの利害関係がマスコミにあるからとしか考えようがありません。
・さらに、有為な人材を集めるという意味では、先ほど述べた2番目の課題、お金と時間の問題も克服しなければならないと思っています。飛び級制度などの負担軽減とともに、司法修習生の経済的支援の問題は避けて通れないと考えています。日弁連は給費制の復活を求めていますが、私も元会長として、経済的負担を考えて法曹への道を諦めざるを得なかった多くの方々の現状などに心を痛めています。この点についてもきちっと議論をしていかなければならないと思っています。
ほかにも問題は多々ありますが、法科大学院制度については、現在、中央教育審議会で議論されていますが、乱立している法科大学院の数の絞り込み、教育内容の質、適正配置などプロセスとしての法曹養成の中核としてふさわしいものとするための改革に大いに関心があるところです。文部科学省からも、中央教育審議会における議論をその都度御報告いただき、ここでも議論をさせていただきたいと考えています。
(坂野のコメント)
元日弁連会長として心を痛めているのなら、もっとご自身が会長のときに日弁連を動かして下されば良かったのにと思うのは私だけではないはずです。ただ、非常に頭の良い宮﨑先生のことですから、(わたしから見れば手遅れの感はありますが)じっくりと機会を待っていたとの解釈も可能でしょう。
ただ、ここでも法科大学院制度維持が前提のようです。先ほども述べたように、法科大学院制度が、司法に有為の人材を招くことの桎梏になっていることは明らかだと思われますが、どうしてそこまで法科大学院制度に拘らなければならないのか私には理解できません。確かに一度日弁連として法科大学院制度に賛成したのかもしれませんが、その時点での判断が間違いであれば直ちに過ちを認めて正しい道を選び直すことが最も必要なことなのではないでしょうか。
飛び級制度にも言及されていますが、飛び級制度はプロセスによる教育に反する制度ではないのでしょうか。
・法曹として社会で幅広く活躍できるようにするためには、司法修習の充実も必要です。実務修習の修習開始時における導入修習は必須と考えているところであります。また、取りまとめで指摘されているように、司法修習生は何ができるのか、何をすべきかを明らかにして、司法修習生の地位を明確にしていく、この点についても議論をさせていただければと思っております。
(坂野のコメント)
この点については異存はありません。しかし、今になってこのようなことを言い出さなければならないということは、理論と実務を架橋するという理想を掲げてスタートした法科大学院制度は少なくとも、理想通りには行かなかったということの証ではないかと思うのですが。