法曹養成制度改革顧問会議第一回議事録~6

納谷顧問(座長)

・皆さん、お手元にペーパーを御用意して、それぞれの組織からある程度意見の集約を受けながら発言されているところもあると思いますが、この顧問会議は飽くまで検討会議で決まったことを推進するためのものであります。検討がまだ残っているところはいろんな機関でそれぞれ検討しなければならないわけですし、出てくる結果を受けて更に決めていかなければならないことはあることは確かですが、全てのことをここで検討することで逆戻りすることはできないと私は思います。

(坂野のコメント)

法科大学院批判が思ったより多かったせいか、検討会議では法科大学院制度を維持することが前提であることを再確認しようとしているようです。納谷顧問のお立場(前明治大学学長)からすれば、法科大学院維持が前提の検討ですよと釘を刺したくなる気持ちも分かります。しかし、法科大学院制度が誰の目から見ても優れた制度ならその制度への批判が痛烈になるはずがありません。わざわざ釘を刺さなければならないのは、それだけ法科大学院への批判が痛いところを突いているからだろうと思われます。

・プロセスとしての法曹養成。この観点をもう一度思い出していただきたいということと、プロセスとしての法曹養成は法科大学院だけの問題ではありません。司法試験、司法修習、実務修習といいますか、その終わった後も。それぞれの分野に入った後の修習のことも全部踏まえて、どういう具合に法曹を養成するかということが大切ではないか。この原点を忘れないで議論していく必要があるのではないか。常に、この原点に戻っていく必要があるのではないか。

もう一つは、法曹養成の在り方については「点」という司法試験の結果だけで我々は苦労してきたことですので、こういうことで逆戻りはできないと、すべきではないと思っています。

(坂野のコメント)

法科大学院側が何時も振り回す、「プロセスとしての法曹養成」がまた出てきました。しょっちゅう「プロセスとしての法曹養成」という言葉は出てきますが、何を意味するのか、どういうメリットがあるのか、現実にどのような成果を上げているのか、未だに、国民の皆様に対し、納得できるようにきちんと説明できた方はいないように思います。納谷顧問には、是非ともそのあたりを誤魔化さずに、具体的にその実態とメリット、成果を示してもらいたいものです。

それも示すことができずに、「プロセスによる法曹養成が必要」と連呼しても、法曹養成制度において、法科大学院制度を中心とする必要性についての説得力はありません。単に法曹養成制度に大学を参加させてくれると言ったじゃないか、それを守ってくれなければ大学側としたら困るんだ、といっているのと変わらないのではないでしょうか。

また、仮に、従来の「点による選抜」がダメであって、その反面、プロセスによる法曹養成が素晴らしいものであり、本当に成果を上げているのであれば、有田顧問が現場で感じた、自分の頭で考えて決断することに欠けている若手法曹が目立つはずがないと思うのですけれど。

法曹養成制度改革顧問会議第一回議事録~5

吉戒顧問

・今、改めて法曹養成制度について考えてみますと、やはりほかの顧問もおっしゃいましたように、法曹人口の問題に思いをいたさなければいけないだろうと思っております。この検討体制で行うべきことは閣僚会議の決定で決まっておりますが、これを見ますと、法曹人口につきましては、必要な調査を行って、その結果を公表することになっているわけでございます。先ほど来から説明がございますように、法曹人口については司法試験の合格者数について、平成22年度までに3,000人程度を目指すという目標があったわけでございますが、結果的に見ますと、需要と供給のミスマッチが生じております。私としては、この目標は少し多すぎたものと考えております。いろんな要素を考えながら、段階的に増加することが適当だったのではないかという思いがあります。いずれにいたしましても、法曹人口について考えるに当たりましては、やはりしっかりとした実証的なバックデータとなるような調査を是非していただきたいと思います。その観点から、推進室にはどこまでそれが可能かよく検討してもらいたいと思います。

(坂野のコメント)

さすが元東京高裁長官というべきでしょうか。先の司法審の法曹人口激増策が、きちんとした実証的データに基づかず、諸外国と比較して法曹人口が少なすぎるとか、せめてフランス並みにとか、制度の違いや他士業の存在も無視して、感覚だけで突っ走った反省を踏まえて、実証的データとなる調査をした上できちんと検討すべきだと提言されています。欲を言うなら、裁判所からもっと早く、的確に、問題点を指摘して頂いておれば、このように手遅れに近い状態になる前に歯止めをかけられたかもしれませんが。

・法科大学院教育につきまして既に様々な課題が指摘されておりますが、期待されたような成果が上がっていないのは現実でございます。司法制度改革の理念は幅広い視野を持った多様な人材の輩出だったと思いますけれども、その象徴ともいえる未修者の合格率が低過ぎます。その原因は何か。そして、その改善策はあるのだろうかと思います。文部科学省も様々な政策を実施するとされておりますが、是非効果的な政策を打てるように推進室と連携しながら工夫を重ねていただきたいと思います。

(坂野のコメント)

法科大学院が全体としての制度としてみれば、期待はずれであったことは、もはや誰の目から見ても明らかなのでしょう。未修者の合格率が低すぎるのは、簡単にいえば、あまりに法曹を目指すために必要なリスクが高すぎ、且つそのリスクに見合ったリターンが期待できなくなってきたことから優秀な人材(志願者)を集めることができておらず、また法科大学院の教育能力が一部法科大学院を除いて、欠けているからでしょう。

仮に、自動車のエンジンについて十分研究してきた学者が、これまで私は自動車について十分研究してきたから大丈夫だと言い張っても、運転免許も持たず(司法試験合格経験もなく)、公道で自動車を運転したことが一度もないならば(実務経験もないならば)、素人に運転技術の基礎(理論と実務の架橋)を教えることは無理でしょう。

ところが、法科大学院は、それをやれると言い張り、今もその考えは変わっていないようなのです。

法曹養成制度改革顧問会議第一回議事録~4

山根顧問

・法曹養成制度についてですけれども、最近も新聞報道等でも多く取り上げておりまして、とても社会の関心の高い問題だと実感しています。この顧問会議の開催に先立ちまして、法曹養成制度改革推進室の担当の方から検討の論点についても説明を受けまして、自分なりに現状の問題点について、今、感じているところがいろいろございますが、例えば一つ、法科大学院のことでは、修了者の司法試験最終合格率というのが低迷する一方で、先ほどからも説明がありましたけれども、予備試験合格者の合格率が約7割にも上ると聞いています。法科大学院の創設は多様な人材が法曹を目指すことができる、そのようになるということが期待されておりましたけれども、現状を鑑みますと、このままでは優秀な人材が法科大学院を敬遠するようになってしまうのではないかと懸念しております。

(坂野のコメント)

主婦連合会会長の山根顧問の発言です。

ご自身が、法律の素人だ、と述べておられることからも、山根顧問が一般の国民の皆様の感覚に近い見方をされている可能性が高いと推測できるかもしれません。

その山根顧問が、法科大学院の問題を最初に取り上げたのは、一般の国民の皆様から見ても、法科大学院制度は問題は大きな問題を抱えているということが看て取れる可能性が高い、ということなのでしょう。先日述べた法学部の人気凋落からも分かるとおり、優秀な人材であればあるだけ人生の先を見通して進路を選択しようとしますから、リスクが高くリターンが不明確な法曹界、法科大学院を敬遠する傾向はすでに出ていると思われます。

優秀な人材を得ようとすれば、当然その優秀な才能に見合ったリターンを用意する必要があります。企業のヘッドハンティングでも、大したリターンも準備せずに成功するはずがありません。そのリターンが、お金なのか、名誉なのか、権力なのかは分かりませんが、そのいずれも与えずに優秀な人材を集めようとしても無理な話です。

・また、法テラスについても興味がございます。創立当初は大変期待も話題も大きくてということがございましたけれども、現状としてはまだまだ知名度が低い、市民に十分活用されているとは言えないと思っています。是非法テラスが市民にとって身近な存在で、何かあったら駆け込めるというような場になるために、多くの法曹の方がこの分野でも活躍を広げていただければと思っています。

(坂野のコメント)

法テラスの利用拡大を図るなら、まず、法テラスの償還制を廃止すること、そして弁護士報酬の基準を上げることです。法テラスに相談に出かけても、相談は無料かもしれませんが、弁護士さんに依頼しようとすれば、基本的には弁護士費用の立て替えしかしてもらえず、結局、後で返さなくてはならないのですから、その利用を躊躇してしまうことはあきらかです。

また、法テラス案件の弁護士報酬は、基本的に経営者弁護士にとっては、赤字です。そうなれば、法テラスを利用してどんどん解決しようというインセンティブを弁護士に求めるのは難しいことになります。

このようなことを述べるとすぐに、「ふざけるな、弁護士は法テラスに協力しろ、金のことを考えずに人を救え、仕事しろ。まだ弁護士過疎地もあるだろう。」とマスコミはいいたがる傾向にあります。弁護士になれば国が金のなる木をプレゼントしてくれて、弁護士の生活が完全に守られているのであれば、そのようにいわれても仕方ないかもしれません。しかし、弁護士も一民間事業者です。弁護士だって職業です。その仕事で生活をし、家族を養わなければなりません。ですから、採算度外視の活動を弁護士に要求することは、基本的には誤っているのです。

医師会だって、過疎地への医師派遣は財源を確保してから、と述べています。お医者さんだって生活できないのであれば誰も過疎地に行きません。当たり前のことです。どうしてこの当たり前のことが弁護士に関しては無視され続けているのか、私には不思議でなりません。

法曹養成制度改革顧問会議第一回議事録から~3

(宮﨑顧問)

・さて、私は顧問会議あるいは推進室の最大の課題は、言うまでもなく、多くの若者が法学部、法科大学院から離れている現状をどうして改善するか、どのような施策を速やかにとることが必要かという点にあるのだろうと考えています。

あらゆる領域で志の高い優秀な法曹が活躍するということが社会の要請でもありますし、国家の政策としても司法の人的基盤の充実は極めて重要だと考えています。今、現状は、その基盤が揺らぎつつあるというのが私の最大の危機意識であります。

(坂野のコメント)

東洋経済誌に掲載されていた表によれば、2002年(10年前のデータ)と比較して、東大文一の志願者は▲46.0%、京大法では▲36.6%、早慶上智も▲41.2%~▲52.0%と法学部人気は著しく落ちています。

志願者が少ないということは、即ち、優秀な人材が集まらないということです。優秀な人材が集まらないということは、その分野は間違いなく衰退すると予測できます。国家の三権の一翼を担う司法が、衰退する危機ということなのでしょう。

また、事後的救済社会を目指すと誰かが言っていたようにも思いますが、いざ裁判というときに、優秀でない裁判官、検察官、弁護士しかいないとなれば、どうやって事後的救済社会が実現出来るというのでしょうか。ただでさえ国家予算の0.3%~0.4%しか与えられず、さらに人材も枯渇するとなれば、お金も人材もない中で、どうやって、充実した司法、事後的救済社会が実現出来るというのでしょうか。

このような事態は、当然予測できたはずでした。司法制度改革審議会が審議していた当時のアンケート調査によっても需要の拡大が見込めないことははっきり出ていたからです。だから、そのような状況下で従来の司法試験合格者の4倍に合格者を増加させれば、法曹がだぶつくことは子供でも分かったはずです。それにも関わらず、司法審で需要が見込めると宣って、改悪を進めここまで事態を悪化させたお馬鹿さん方には、きっちり責任を取ってもらう必要があるでしょう。

・なぜ若者が法曹を目指さないのか。

私は第一に、受かっても活躍できる場が少ない、就職もままならない、こういうことがあります。

第二に、それなのに修習修了までお金と時間がかかり過ぎる。

第三に、法科大学院が乱立し、卒業しても司法試験に受からない。

こういう三つの要因がある。

そして、これらの要因をできるだけ速やかに取り除くということが必要だと考えています。

(坂野のコメント)

宮﨑顧問の分析はおそらく正しいと思われます。誰だって、活躍できる場が少なくたとえ取得しても就職もままならない資格を、多大な費用と時間をかけて取得しようとは思いません。

ちょっと観点を変えてみれば、法科大学院制度を中核とする新制度(合格者の大幅増、修習生の給費制廃止を含む)に変更することによってこの3つの要因が生み出されたということになります。だとすれば、仮に旧制度にもどすならば、合格すれば活躍できるし就職もおそらく大丈夫、修習終了まで法科大学院や修習期間中の貸与制による経済的負担を負う必要がない、司法試験に合格しさえすれば良く乱立しその教育レベルもばらつきのある法科大学院に通う必要がない、ということになりますから全て解決、ということになりそうなのですが、、、。

・施策の一つは、先ほどからも出ておりますように、司法試験合格者数の削減ではないかと考えております。現在のひずみの最大の要因は、司法試験を通って研修所を修了しても就職すらできず、オンザジョブトレーニングの機会すら与えられないという点にあると思います。

平成25年7月の関係閣僚会議で3,000人の閣議決定は現実的ではないとした上で、法曹人口については、ニーズの内容や制度的な整備状況を踏まえて調査を行うというようにされています。調査を行うことは必要でありますし、慎重な調査が行われるべきだと思いますが、一方、その調査結果を待って、更にそれから検討するということでは、現在、危機的状況にある法曹離れが進行していく。その間、法科大学院や養成制度の危機的状況は深刻化するだけだと思っています。

私は、危機的状況にある法曹離れを一刻でも早く食いとめるためには、まずもって合格者数を大幅に減少させるため、顧問会議で緊急の提言や協議が行われるべきではないかと考えておるところであります。顧問の皆さんの御理解が得られれば幸いだと考えております。

(坂野のコメント)

公認会計士試験は、司法試験と同様に、自由競争させるべきだ等の理由も後押しして規制緩和の波を受けたあげく、合格者を一時3000人~4000人に増やしましたが(但し3000人以上の合格者は、わずか3年のみ)、就職難ということもありすぐに方針を転換し、2012年では合格者数を1350人程度まで減少させています。

マスコミは、司法試験の合格者減少の話しをすると、すぐ既得権だの何だのと騒ぎ立てますが、公認会計士試験の合格者減少について、正面切って批判を加えているマスコミを少なくとも私は知りません。誰だって、魅力のない資格を目指そうとはしませんから、増やしすぎて魅力を失ったのであれば、合格者を減少させて資格の魅力を取り戻すことは自然な方針です。マスコミも本当は、それを知っているから公認会計士試験の合格者を1/3まで減少(約7割弱の減少)させても特に批判をしないのではないでしょうか。

だとすると、現在2000人程度の合格者を3/4程度に減少(約2.5割の減少)させるべきだとの日弁連の主張に、躍起になってマスコミが牙を剥くのは、マスコミが馬鹿なのか、司法試験合格者減少に関して何らかの利害関係がマスコミにあるからとしか考えようがありません。

・さらに、有為な人材を集めるという意味では、先ほど述べた2番目の課題、お金と時間の問題も克服しなければならないと思っています。飛び級制度などの負担軽減とともに、司法修習生の経済的支援の問題は避けて通れないと考えています。日弁連は給費制の復活を求めていますが、私も元会長として、経済的負担を考えて法曹への道を諦めざるを得なかった多くの方々の現状などに心を痛めています。この点についてもきちっと議論をしていかなければならないと思っています。

ほかにも問題は多々ありますが、法科大学院制度については、現在、中央教育審議会で議論されていますが、乱立している法科大学院の数の絞り込み、教育内容の質、適正配置などプロセスとしての法曹養成の中核としてふさわしいものとするための改革に大いに関心があるところです。文部科学省からも、中央教育審議会における議論をその都度御報告いただき、ここでも議論をさせていただきたいと考えています。

(坂野のコメント)

元日弁連会長として心を痛めているのなら、もっとご自身が会長のときに日弁連を動かして下されば良かったのにと思うのは私だけではないはずです。ただ、非常に頭の良い宮﨑先生のことですから、(わたしから見れば手遅れの感はありますが)じっくりと機会を待っていたとの解釈も可能でしょう。

ただ、ここでも法科大学院制度維持が前提のようです。先ほども述べたように、法科大学院制度が、司法に有為の人材を招くことの桎梏になっていることは明らかだと思われますが、どうしてそこまで法科大学院制度に拘らなければならないのか私には理解できません。確かに一度日弁連として法科大学院制度に賛成したのかもしれませんが、その時点での判断が間違いであれば直ちに過ちを認めて正しい道を選び直すことが最も必要なことなのではないでしょうか。

飛び級制度にも言及されていますが、飛び級制度はプロセスによる教育に反する制度ではないのでしょうか。

・法曹として社会で幅広く活躍できるようにするためには、司法修習の充実も必要です。実務修習の修習開始時における導入修習は必須と考えているところであります。また、取りまとめで指摘されているように、司法修習生は何ができるのか、何をすべきかを明らかにして、司法修習生の地位を明確にしていく、この点についても議論をさせていただければと思っております。

(坂野のコメント)

この点については異存はありません。しかし、今になってこのようなことを言い出さなければならないということは、理論と実務を架橋するという理想を掲げてスタートした法科大学院制度は少なくとも、理想通りには行かなかったということの証ではないかと思うのですが。

法曹養成制度改革顧問会議第一回議事録から~2

有田顧問

・若い法曹の人たちを見てみますと、非常に素直でいいのですけれども、また、迅速に資料集めだとか判例集めは十分できるのですけれども、では、あなたはどういうことでこの案件を処理したいと思うのかと聞きますと、なかなか自分の頭で考えて決断するということが欠けているような面が多々あるように感じております。

(坂野のコメント)

弁護士を社会生活上の医師として位置づけ、質・量ともに豊かな法曹を生み出そうとしてさんざん制度をいじった結果、有田顧問によれば、自分の頭で考えて決断することが欠ける面が多々見られる法曹が増えてきた、という実感を述べられています。

有田顧問は検察官として、つい最近まで36年間現場で働いてこられた上での実感だそうです。司法研修所教官などの法曹養成制度に関与されたことはないそうで、それだけに、現場のストレートな感想を述べておられることと思われます。

資料や判例は集めることはできる、でも自分で考えて決断できない、もし有田顧問の実感通りであるならば、今の法曹養成制度は相当大きな過ちを犯している可能性があるのではないでしょうか。

・私自身は、現場で仕事をしてきたこともございまして、机の上の議論ではない、生身の人間を相手にするのが法律家の仕事である。実は、人間、悩みを持ったりいろんな問題がある人を丸ごと包み込んで話を聞き出し、その解決策を考えていくというのが法曹の在り方だろうと思っております。そういう意味で、そういった法曹を排出するためのシステムはどうあるべきなのかということでも議論に加わっていきたいと思っております。

(坂野のコメント)

有田顧問の実感からすると、机上の議論を重視し、生身の人間を相手にするものだという自覚が欠けている法曹が排出されているということになりそうです。そもそも司法制度改革審議会意見書には次のようにあったはずです。

(司法審意見書より引用)

高度の専門的な法的知識を有することはもとより、幅広い教養と豊かな人間性を基礎に十分な職業倫理を身に付け、社会の様々な分野において厚い層をなして活躍する法曹を獲得する。

(中略)

法曹養成制度については、21世紀の司法を担うにふさわしい質の法曹を確保するため、司法試験という「点」による選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を整備することとし、その中核として、法曹養成に特化した大学院(以下、「法科大学院」と言う。)を設ける。

(引用ここまで)

お金と時間をたんまりと受験生・志願者にかけさせて、プロセスによる教育を行ってきたのですから、もしそのプロセスによる教育とやらが素晴らしく且つ効果を上げているのであれば、当然、近頃の若い法曹にも高度な専門的法的知識、幅広い強要、豊かな人間性と十分な職業倫理が身についているはずでしょうから、このような有田顧問のお話は、でてこないように思うのです。

一体プロセスによる教育とはなんであり、どのような効果が上がっているのか、きちんと検証する必要は当然あるように思われます。

・今、話をいろいろお聞きしてみますと、阿部顧問のおっしゃった点に賛同する部分は多々でございます。ただ、一つ付け加えるとするならば、この問題の大きなもの、あるいは要になるであろうと思うのは、やはり法曹人口のあるべき姿ではないかという点を付け加えたいところでございます。

(坂野のコメント)

需要を顧みない法曹人口激増政策に問題があるとのご指摘だと思われます。マスコミや一部の学者さんが、自由競争させればいい、と何とかの一つ覚えのように繰り返していますが、前から申しあげているとおり、法曹の分野に関しては自由競争が成立しにくい状況があるのです。その理由は、簡単にいえば、ユーザーが弁護士の能力について判断することが困難であるということです。弁護士が提出した準備書面の善し悪しを一見して理解できる方はそうおられません。司法試験に合格した司法修習生でも怪しいところです。ですからユーザーが提供されるサービスの善し悪しを判断できて、良いサービスを選択可能である、という自由競争の前提が崩れているのです。さらにいえば、全く同じ状況で同じ事件を別の弁護士に依頼することもできませんから、比較検討も困難なのです。

そうなれば、一般国民の方の判断基準は、良い仕事をするかどうかではなく、大手であるとか、人当たりが良かったとか、値段が安そうだとか、法的サービスの質と違う点になる可能性が高いはずです。

自由競争論者は、法的サービスに関して、自由な競争が成り立つ条件がそろっているか再度確認してから述べるべきでしょう。

(続く)

法曹養成制度改革顧問会議第一回議事録について~1

法曹養成制度改革顧問会議の第一回議事録が公開されています。

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai1/gijiroku.pdf

ちなみに、顧問の面々は次の通りです。

座長納谷廣美大学基準協会会長・前明治大学学長

阿部泰久一般社団法人日本経済団体連合会経済基盤本部長

有田知德弁護士・元福岡高等検察庁検事長

宮﨑誠弁護士・元日本弁護士連合会会長

山根香織主婦連合会会長

吉戒修一弁護士・前東京高等裁判所長官

議事録の詳しい内容は、PDFファイルのリンクを見て頂くとして、そこそこ面白い発言も出ているので、抜粋してみたいと思います。

※一部の抜粋なので、文脈を含めた正しい内容は公開されている議事録を、必ずご確認下さい。

阿部委員

・よく誤解されるのですけれども、法曹人口3,000人ということに対して、少なくとも経団連から何か物を申していることはございません。経済界からは、例えば経済同友会さんあるいは経営法友会さんから法曹人口を増やせという提言があったかと思いますが、経団連から法曹人口を増やせということは一度も言っておりません。裁判官の数を増やせということは言っておりますけれども、法曹人口の具体的な数字はコミットしたことはございません。ただ、平成14年に司法制度改革推進計画が閣議決定されましたときには法曹人口の拡大の記載を含めた一体のものとして経団連は支持しておりますので、そういう意味ではコミットはしているかなと思います。

(坂野のコメント)

ちょっと私も誤解していました。マスコミがこぞって経済界も法曹人口増大を望んでいると報道していた記憶があるのですが、何と経団連は裁判官の増員を望んでいたが、法曹人口全体の増員までは言っていなかったということでしょうか。司法制度改革推進計画に賛成しているので、結果的には法曹人口全体の増加にも賛成したことにはなるのでしょうが。

ちなみに、経団連と経済同友会の違いですが、

経団連は、「使命は、総合経済団体として、企業と企業を支える個人や地域の活力を引き出し、我が国経済の自律的な発展と国民生活の向上に寄与することにあります。このために、経済界が直面する内外の広範な重要課題について、経済界の意見を取りまとめ、着実かつ迅速な実現を働きかけています。」(経団連HPより。)、と述べているようです。

経済同友会は、「企業経営者が個人として参加し、自由社会における経済社会の牽引役であるという自覚と連帯の下に、一企業や特定業種の利害を超えた幅広い先見的な視野から、変転きわまりない国内外の経済社会の諸問題について考え、議論していくところが、経済同友会最大の特色です」(経済同友会HPより。)、と言っています。

以上からすると、経団連は経済界の意見として裁判官増員は述べたけど、法曹人口増大までは望んでいなかった?、経済同友会は企業経営者個人の集まりとしては法曹人口増大を望んでいた、ということになるのでしょうか。

・そういう意味では、司法試験合格者の数の問題はもちろんでありますが、やはり法科大学院の在り方をここで思い切って考え直さねばならないと思っております。実は私、当初、法科大学院ができましたときの議論にも参加しておりましたが、こんなに法科大学院を設立して大丈夫かという話は当初からありました。ただ、文部科学省としては、基準を満たしたものは認可しなければいけないので、あとは自然淘汰を待つという考え方だったと思いますが、自然淘汰では済まなくなっているかなと思っております。

(坂野のコメント)

さすがに経団連の代表として出席されているだけあって、問題点は法科大学院の在り方であるとずばり指摘されています。私が疑問に思うのは、当初から設立数を含めて問題があるのではないかと指摘されていた法科大学院制度を何故拙速に強行したのかという点です。殆ど海外の状況も調査せず、見切り発車的に法科大学院制度導入に動いた点は、大いに反省の余地はあるでしょう。

でも、どなたがこの混乱を招いた責任を取るのでしょうか?

・(司法修習に関して)一つは、今、司法修習については最高裁に非常に御尽力いただいているわけでありますが、そもそも法曹の入り口の司法修習でございますので、最高裁だけに責任を負わせるのはいかがなものかと。法曹界全体、即ち検察、弁護士会も含めまして取り組むべき課題ではないでしょうか。二つ目は、今の司法修習のままでは、修習後いきなり実務につくことは無理があるのではないかと思っております。当初、法科大学院の中で、実務的な議論、講義も行う前提で司法修習ではなるべく短期間で必要最小限なものという仕組みだったと思いますが、これだけ合格者数のばらつきがある中で、修習生をいきなり実務の現場に行かせても、教育が十分できるのか疑問もあります。

(坂野のコメント)

阿部委員は、法律関係の著書も多く、金融審議会専門委員も務められています。相当程度法曹界にお詳しい方と考えてもいいのではないかと思われます。その阿部委員が、今の司法修習のままでは、司法修習後、いきなり実務に就くのは無理があると指摘している点は重要だと思います。これも、法科大学院が実務的な内容もきちんと教育するといっていた部分が反故にされている結果、生じている事態とも考えられ、安易に自らの教育能力を買いかぶっていた法科大学院推進派大学教授の方々の甘い考えが招いた事態ともいいうるかもしれません。佐藤幸治氏は大学でも予備校のような授業をやろうと思えばやれるのだ、と豪語していたように記憶していますが、結果は(制度全体として見れば)それすらもできなかった、惨敗だった、といったところでしょう。

(続きます)

とある法律相談

ある日の無料法律相談(一部ノンフィクション ※正確には事実を基にしたフィクションとしてお読み下さい。)

「HP見て電話したもんだけど」

「こんにちは、どうされましたか。」

「火災保険に入っていて火事にあったのに、保険金を払わないんです。保険会社は○○なんですけど、4000万円の火災保険を掛けていたのに現実には800万円しか出ないっていわれて、裁判してるんだけど、弁護士にもいまになって多分99%負けるといわれていて、絶対におかしいんです。」

「それは大変でしたね。でもどうして支払わないと保険会社は言ってるんですか?」

「だから火災保険の約款です。4000万円の保険掛けさせておきながら、出さないなんて絶対におかしいです。」

「約款ではどうなっているので支払わないと言ってるんですか?」

「約款通りだと、焼けたときの時価を支払うことになっているということらしくて、わずか800万円なんです。4000万円出るはずの高い保険料を払わせておきながらおかしいんです。」

「う~ん、保険というものは原則として損害の塡補、回復のためのものですから、基本的に保険で儲かることはおかしいんですね。ですから、新価特約(他に価額協定特約など)等が付いていないと火災によって損害を受けた時点の時価が基準となることは、一般論として、そうおかしなことではないと思います。」

「儲けようなんて思ってない。家を買ったときは2000万円だった。2000万円出して欲しいだけなんだ。」

「確かに○○さんの立場ならそう言いたくなると思います。でも、火災にあったときの時価は800万円なんですよね。そうだとすれば800万円の家が火事で燃えたから、火災によって生じた損害は800万になりますね。損害が800万円で2000万円もらってしまえば結果的に得することになる可能性が出ませんか?。」

「(むっとして)でも保険会社は、多めに掛けておけば安心だと言ったんだ。だから4000万円の保険に入ったんだ。私にとっての安心は、同じ家を手に入れるだけのお金2000万円が保険から出ることだ。それが出ないなんておかしい。結局うちの場合どうなるんだ?」

「4000万円と仰られても、どのような保険に加入されていたのか、お電話だけでは分かりかねますし、何より約款がどう規定されているのか分からないので、お答えのしようがないのです。保険内容を瞞したり、必要以上に過剰な保険を瞞されて掛けさせられていたのであれば、そこを争うことも可能でしょうが、大きな損害額を要求することは難しい可能性があるでしょうね。」

「でもおかしいことは分かるでしょ?」

「そのおかしいかどうかについて、保険の契約内容を確認しないと分からないと申しあげているんですね。」

「(だんだん大声になってきて)だって絶対おかしいし。何でもかんでも約款約款なんですかっ!。」

「ですから、約款の具体的内容が分からない状況では、私には分からないです。最低でも具体的事情を把握して約款見せて頂かないと。保険金の支払い条件などは、基本的には保険契約つまり保険契約の約款で決まっているんです。それも見ないで結論は出せません。お医者さんに行かれて、どこか悪いんだけど診て欲しいとか、家にいる息子の調子が悪いので薬を出してくれといってもきちんとした診断はできないですよね、それと同じことです。」

「(吐き捨てるように)なんだそりゃ。裁判しても、どうしても保険会社が勝つようになってるっていうんですか?」

「そんなことを言ってるわけではありませんよ。私だって依頼されて裁判して、保険会社からお金を払ってもらったことはありますよ。ただ、一般論として、申しあげれば自動車の車両保険ってありますよね。新車直後に全損したら新車価格に近いお金が出ますけど、買ってから10年後に全損になったら、自動車の価値が下がっていますから、わずかなお金しか出ませんよね、それと同様の状態にある可能性はあります。新価特約(他に価額協定特約など)がなされていれば別ですが。」

「その新価なんとかって、うちの保険には付いてるんですか?」

「それは、○○さんが、どのような契約をされているかを確認させて頂かないと分かりませんので、契約の確認ができない状態の私ではお答えできる質問ではないのです。今訴訟をやってもらっている先生にお聞き下されば、教えて下さると思いますが。」

「普通、新価なんとかって、セットになってるんじゃないですか?」

「ですから、それは、○○さんがどのような保険に加入されているかによります。何度も申しあげていますが、具体的事情が分からない状況だとお答えできないのです。先ほども言いましたが、例えば、お医者さんに行かれて病気の状態も見せずに診断はできませんよね。それと同じです。」

「(逆ギレして声を張り上げて)医者とかなんとか、そんなことを聞いてるんじゃあない。保険会社に責任がないのかって聞いてんだ!あんたホントに弁護士か。弁護士は弱い者の味方なんじゃないのか!弁護士なら何しゃべったていいって言うのか!こっちは被害者なんだ、被害者の身になってしゃべったらどうなんだっ!!」

ブツッ(電話を切る音)

私はこれまで、数十件以上の電話相談を受けてきた。分かりにくい火災保険について、ご説明するなどして、大抵相談者の方には御礼を言って頂いた。初回30分無料とHPには表示してあるけれども、丁寧に教えて頂いたので相談料を支払いたいと言って頂いたこともある。弁護士会のひまわり相談でも、チーフの先生に、坂野さんは対応、丁寧やな。と言って頂いた。

今回も、そうおかしな対応をしたわけではないと思っている。判断できないこと判断できないと正直に申しあげただけなのだ。

ここまで罵倒されたのは初めてである。

それはさておき、私が一番疑問に思うのは、多分99%負けるといっている弁護士がどうして提訴をしているのかということだ。もちろん、採算度外視で構わない、納得のためだけに訴訟をやりたいという方もマレにはいる。但し、今回の相談者は、お金に困っている。

おそらく採算度外視ではないはずだ。

訴訟を担当している弁護士は、○○さんに、きちんと見通しを話したうえで訴訟を提起したのだろうか。