損保会社の調査はこわい~8(裁判例では損保の勝訴ばかり?)2020/04/03当事務所HP掲載記事を転載

 現代では、コンピューターの発達により、判例検索がパソコンで可能になっています。おそらく多くの弁護士さんの事務所に導入されているはずなので、火災保険金を請求したが○○という理由で拒否されたという相談があった場合には、弁護士さんが判例検索ソフトで似たような事例を検索して、勝訴可能性があるかどうかについて、説明してくれる場合が多いと思います。

 ところが、判例検索ソフトによって表示される裁判例は、圧倒的に損保側勝訴の事例が多いのです。

 もちろん、訴訟になれば、お金に糸目をつけずに弁護士や専門家を多く投入し、ガチで戦ってくる損保の方が人員面でも証拠収集でも有利な面があることは否定できません。しかし、本当はもっと保険金請求者側が実質的に勝っている例があると私は考えています。

 それならなぜ、判例ソフトには損保証書ばかりの裁判例が出ていて、保険金請求者側勝訴の判決がわずかしか出てこないのだ?というご指摘があるかもしれません。

 理由は簡単です。

 損保としては、この案件は負けそうだと判断すれば、いくらか支払って和解してしまうという手段があるからです。そうなれば裁判例として残りませんから、「○○損保が裁判で負けて保険金の払い渋りをしていたことが明らかになった」、などと報道されたり、ネットで騒がれる風評リスクもありません。

 裁判官としても、和解であれば面倒な判決を書く必要がなくなるうえ、事件を一つ処理したことになります。判決になればどちらかが勝ち、どちらかが負けるので、負けたほうからさらに控訴されるなどして紛争がさらに継続する可能性もあります。控訴審で自分の書いた判決がひっくり返されることも裁判官としては嫌でしょうが、和解なら、争いがそこで終わるので、そのようなことも避けられます。裁判官としても和解で終わるなら大歓迎なのです。

 保険金請求者としては、和解を勧める裁判官から、判決になれば1円も認められないかもしれませんよ、と説得を受ければ、「それでも判決を下さい!」と勇気を持って言える人はそう多くありません。

 現実に判決を書く人から、判決になれば1円認められないかもしれないといわれることは、とてつもない恐怖です。不満だけども0円になるリスクは冒せない人が多いのです。なぜなら、保険金請求者は火災に遭って家を焼け出され、弁護士費用もようやく工面しているなど、経済的にとても追い込まれた状況にあることが多いからです。

 和解した事例は、判決が出たわけではありませんから、裁判所の判断もなされておらず、当然裁判例としては残りません。

 以上から、判決まで至ってしまうのは、損保が「まず勝てる」と考えていた事案ばかりだといってもいいのではないか、と思います。

 ですから、裁判例を調査してみたところ、損保の勝訴事例ばかりだということであっても、その損保勝訴裁判例の多さは、必ずしも実態を表しているとは限らないと考えることができる、ということになります。

 一度、弁護士さんに相談してみることが大事だと思います。

損保会社の調査はこわい~7(私の経験から その3-3)2020/04/01当事務所HP掲載記事を転載

 次に、損保側で報告書を書く専門家が、専門家とは思えない杜撰な論理展開で鑑定書を作成してくる場合もあります。

 損保が自作自演の放火であると主張してきた事例の中に、助燃剤として散布されたガソリン量を推定計算したという、A4で19ページにも及ぶ(株)○○○○鑑定センターの鑑定書が提出されたことがありました。

 その鑑定人は科捜研に専門研究員として勤務経験のある人でしたが、警察を定年退職した後に、火災・爆発事故などに関する調査を行う会社を設立し、経営してきた人でした。大学理系学部卒業の学歴も有し、平成18年以降だけでも、民事事件に鑑定人として関与し、勝訴した裁判例が50件以上あるとして事件番号もすべて自信たっぷりに開示してきた鑑定人でもありました。

 しかし、その鑑定人の採った、発火前のガソリン散布量の推定計算方法とは、あまりにも杜撰なものでした。

 単に、ガソリンの燃焼範囲(1.4~7.6vol%)からガソリンの蒸気量を推定計算し、ガソリンの蒸気が充満していたとの前提で、部屋の広さを掛け合わせただけで、ガソリン散布量を推定計算していたのです。

 このような計算方法を採用すれば、燃焼形態は一切無視され、部屋の広さの大小だけで散布したガソリン量が計算できることになります。
 つまり、少量のガソリンを撒いて火をつけ燃え広がった場合であろうが、床いっぱいにガソリンを撒いて火をつけた場合であろうが、部屋の大きさが同じであれば、同じ量のガソリンが存在していたという数値が算出されることになるのです。

 しかも、鑑定人の算出した計算値はものすごいものでした。わずか13m×9mの床面積の空間に約16ℓから約86ℓのガソリンが散布されていた、という途方もない計算をしてきたのです。

 これはもう、完全に裁判官を馬鹿にしているとしか思えない鑑定結果というほかありません。

 最低でも16リットル、最大で86リットルのガソリンに火をつけたらどうなるか、この鑑定人が知らないはずはないでしょう。

 だとすれば、考えられることはただ一つ、どうせ裁判所・裁判官・弁護士なんかは、細かいことはわかりゃしないんだから、損保が勝てる内容にしておけばいいんだ、という公正を旨とするはずの鑑定人の矜持すらなくした、損保(上得意)様への阿り(おもねり)です。

 このような、ずさんな鑑定を行う鑑定人であっても、平成18年以降、鑑定人として関与した事件のうち50件以上で勝訴しているということは、ある意味恐怖です。

 この鑑定人が、全ての事件で私たちの事件で出してきたような杜撰な鑑定書を出しているとは言いません。しかし、この鑑定人が行う鑑定は、少なくも鑑定人としての矜持を捨て去った鑑定人による鑑定なのです。上得意様におもねった可能性が高い鑑定書なのです。

 その鑑定人の鑑定書によって、本来救われるべき火災の被害者が、無念の涙をのまされ、本来支払われるべき保険金を支払ってもらえなかった事例が、きっとたくさんあるはずだ、と考えるほうが素直でしょう。

 私の経験から言えば、このような杜撰な鑑定書であっても、専門家が鑑定している以上、「計算が杜撰だ、おかしい」、と主張するだけでは、裁判官を説得しきることは、なかなか難しいのです。

 保険金を請求する側でも専門家に依頼して、専門家の鑑定に基づいて主張をしないと、なかなか裁判官は納得してくれません。しかし、火災に遭って焼け出された人に、それだけの余裕を持つ人がどれだけいるでしょうか。

本来火災保険で救われるはずの人が救われない。そんな理不尽があっていいのでしょうか。

 極論すれば、保険というものは、賭け事のようなものです。保険を掛ける人は、自分の家が火災に遭うかもしれないという側にbetし、損保は保険を掛ける人の家が火災に遭わないという側にbetします。

 また掛金(保険料)の率は、損保が損をしない比率で設定することができます。いわば、損保が負けようのない賭け事です。それにも関わらず、賭けに負けた途端、牙をむき、相手を放火魔扱いして支払いを拒むなど許されるものではないと思います。

 その許されない行為に加担する、専門家を自認する鑑定人や調査会社も、厳しく糾弾される必要があるように私は思っています。

損保会社の調査はこわい~6(私の経験から その3-2)2020/03/30当事務所HP掲載記事を転載

さらに、損保側の証人が、平気で虚偽の返答を法廷で行うこともあります。

 ある証人は、保険金請求者が気道熱傷を負っているが、その程度は大して重いものではない、だから保険金請求者が気道熱傷で集中治療室に数日入院したような場合であっても、本人は火災直後からしゃべれたのだから軽症であり、十分放火は考えられるという主張を行いました。

 その証人は、弁護士からの主尋問に対し、気道熱傷を受けた人の事件の調査をいくつも担当したことがあると断言したうえで、気道熱傷の場合、挿管されたうえで患者は3日から~7日の間は気道洗浄を行うこと、その後に抗生剤を投与するという治療を行うものであり、重傷であれば通常は2~3週間は入院するものであって、その間はしゃべることはできないものだ、と自信たっぷりに証言しました。

 ところが、反対尋問では、私たちは、日本熱傷学会の気道熱傷に対する治療ガイドラインを準備しており、そのガイドラインには、気道熱傷の重症度の診断基準はいまだ確立されていないということ、気道洗浄を継続的に行うという治療手法はガイドラインに記載されていないこと、等をすでに確認していました。

 証人に対して、その点を突っ込み、医学的な根拠に基づいて話しているのか、それとも素人考えなのか、と迫ったところ、最後に証人は「素人考えなんですかね。そうおっしゃるんでしたら・・・」と白旗を上げました。

 ただし、これは、たまたま主尋問が行われた日と反対尋問が行われた日との間に少し間があったため、その間を利用して調査・準備ができたという幸運に恵まれたためにすぎません。気道熱傷に関する知見については、準備書面では争点になっておらず、もし主尋問に引き続いて、反対尋問をしなければならなかったとしたら、後に弾劾証拠としてガイドラインを出すことはできても、ここまで劇的に証人の信用性を崩すことはできなかったでしょう。

 逆に言えば、裁判官が日本熱傷学会のガイドラインを知っているとは思えないので、こちらが弾劾証拠を出せなかった場合には、裁判官が、事実と異なる気道熱傷に関する証人の証言を正しいものとして受け入れてしまっていたかもしれないというリスクがあるのです。

 仮にこの証人が記載した経歴欄の通り、多くの裁判で証人として証言し、損保会社が勝訴してきたのであれば、裁判所はこの証人を専門家として扱い、その証言を専門家の証言として安易に証拠採用してしまってきたという可能性が否定できないように思うのです。

 尋問期日終了後に、その証人が相手方の弁護士さんに「すみませんでした」と法廷の外の廊下で謝っている声を聴いたときに、私たちの反対尋問は効果を挙げたことは間違いないと改めて確信することができました。

損保会社の調査はこわい~5(私の経験から その3-1) 2020/03/27当事務所HP掲載記事を転載

 損保会社の調査報告書が怖いのは、調査会社の調査だけではありません。専門家でも調査会社に平気でおもねった内容の報告を行ったりもするのです。

 そもそも、損保会社が報告書を書かせている「専門家」が、実際にはそうではなかったという例もあります。


 調査会社を経営していて、科捜研などに勤務経験のある方に指導してもらい、様々な裁判で意見を述べたり証人として証言しているという人を、損保が裁判の証人として出してきたことがありました。

 証人の経歴書には、様々な経歴や多くの裁判での輝かしい証言歴が書かれていましたが、私はその証人の経歴のうちある部分に注目しました。
 

それはその証人の経歴には、「学歴に関する記載がない」ということでした。

 火災に関する専門的知見を認定する国家資格もありませんし、普通の大学にも火災学部などという分野はありません。

 したがって、自分が火災に関する専門的知見を有することを示すには、どのような大学で何を学んだのか、その後どのような会社等に勤務して何を学んだのかが大事なのです。


 何度も、放火事件に関する証人尋問をやっていれば、専門家を自認する人は経歴において学歴はほぼ必須といっていいほど記載されてくる事項であることはわかるのです。

 話は少しずれますが、経歴は注意して読まなくてはなりません。

 例えば、お医者さんのHPの経歴欄を見ても、医学部卒業後、京大病院●●医局にて●●担当などと書かれている場合、うっかり読み流すと、この先生は京大医学部卒業なのか~と勘違いしてしまいます。しかし、よく読んでみると、このお医者さんが京大医学部を卒業したとはどこにも書いていないのです。

 どこの大学か分からないけれど、とにかく医学部を卒業して医師になり、そのあとで勉強のため等で京大病院に勤務した経験があるという記載だけなのですね。

 話を戻しますが、損保の出してきた証人について、学歴に関する記載が経歴書に記載されていなかったことから、私はおそらく専門知識を勉強したといえるだけの学歴を証人は持ち合わせていないのだろうと推測しました。

 尋問の際に直接その点に切り込んでみると、案の定、証人は大学の工学部などの卒業ではなく、高校の商業科の卒業であることが分かりました。また、ガソリンをペットボトルなどに入れて保管したのではないかなどと、常識的におかしいと思われることなども証言しており、証人の信用性を大きくぐらつかせることができました。

 ただ、実際にこの証人に反対尋問して感じたのは、この証人は尋問に慣れているなということでした。

 例えば、自分のわからないところを分かっているかのように主張したり、不確かなことを確かであると誇張して証言したりはせず、分からないことはわからないと述べるなど、自分の防衛ラインをきちんと守ったうえでの証言に徹する点は、さすがに豊富な経験を物語るものでした。

 通常、証人という立場からは、反対尋問を受ける際には、つい防衛ラインを引き上げてしまいたいところなのです。例えて言えば、①大阪在住の人が「USJで暴行現場を見たことがない」というために、「USJには行ったこともない」と大げさに言ってしまうような場合、②妻に浮気を疑われ、「その女性の同僚とは確かに食事を一緒にしたことはあるが、不倫はしていない」と弁解すればいいところを、つい「その女性の同僚とは会社の外で食事したこともない」と言ってしまうような場合が、この防衛ラインの引き上げに当たります。
 それをやってしまえば、引き揚げた防衛ラインは嘘で固めたラインなので追及する側からはもっとも突破しやすいラインとなったりもします。
 先の①USJの例でいうと、小学校・中学校の遠足先、両親とのお出かけ先などを聞いていくと、大阪の他の名所は全て行ったことがあるが、USJだけは、なぜか行ったことがないという奇妙な主張が浮かび上がったりします(大阪弁護士会でいわれている「田原坂ルール」)。②についても、防衛ラインを引き上げた結果、妻からお二人様の食事のレシートを突き付けられた場合には、もうアウトです。

 今回の証人は、自分の守備範囲をきちんとわきまえて、防衛ライン内で戦ってきたので、その意味では場慣れした手ごわい相手であったと思います。

 しかし、証人の証言は、調査会社の調査報告書に沿った内容としなければならないため、本件座布団の存在などについては、具体的な説明ができず私と永井君の反対尋問を躱しきれなかったのです。

損保会社の調査はこわい~4(私の経験から その2)2020/03/23当事務所HP掲載記事を転載

 もう一つの案件は、1階の店舗部分に放火されたという案件でした。

 

 2階に寝ていた店主が逃げ遅れ、消防によってようやく救助されたものの、集中治療室に数日間入院が必要だった事案です。

 これについても、損保会社は、店主の自作自演の放火であると主張して、裁判では調査会社による様々な調査資料を提出してきました。

 お得意の、ガスクロマトグラフィーによる分析の他に、調査会社が現場の見分を行った際に、「灯油臭のする座布団が出火地点付近で発見された、これは放火を示唆する相当有力な証拠である。」旨を主張する写真付きの報告書もありました。

 ところが、調査会社の調査報告書と消防の報告書をつぶさに検討していくと、放火の相当有力な証拠として出された前述の座布団(以下「本件座布団」といいます。)は、実は、消防が実況見分をした際の写真には、本件座布団の発見場所及びその近辺では、全く写っていなかったことが判明しました。

 消防の実況見分は、鎮火したあとで速やかに行われます。調査会社の調査は、場合によりますが、1週間以上経過してから行われることも多いのです。

 だとすると、消防により行われた鎮火直後の実況見分の時には、現場に存在しなかった灯油臭のする本件座布団が、なぜか1週間以上経過した現場から突然現れたということになります。

 そもそも、消防の行う実況見分は、燃えカスなどを丁寧に取り除き相当入念に行われるものです。これは、おそらく一般の方が想像される以上に丁寧に行われていると考えていただいて間違いないでしょう。このような消防の調査の実態からすれば、1週間以上経過してもわかるほどの強い灯油臭を感じる座布団が仮に出火地点付近の現場に残っていたら、調査会社よりもはるかに経験豊富な消防が実況見分の際に見逃すはずがありません。

 だとすれば、本件座布団は、消防の実況見分後に、誰かによって持ち込まれた可能性のほうが高いということになります。

では、だれが持ち込んだのでしょうか。

 確かに、ほぼ全焼に近い火災現場でしたから、全く関係のない第三者が立ち入ることが不可能ではない現場ではありました。しかし、第三者がすでに全焼に近いだけ焼損している現場に入り込み、わざわざ灯油をしみこませた座布団を置いていく必要がどこにあるでしょうか。

 合理的に考えれば、灯油をしみこませた座布団が発見されることで利益を得るものが行ったと考えるのが最も素直ではないでしょうか。

 結局この裁判は、途中で和解することもなく証人尋問の上で判決になりましたが、判決では、本件座布団の存在について不自然であるとの認定がなされ、損保側調査会社の報告書は信用できないと判断されました。

 この裁判では、運よく損保側調査会社の主張と矛盾する消防の実況見分調書が残されていたので助かりましたが、仮にそのような実況見分調書になっていなかったとすれば、結論がどう転んでいたかわかりません。

(続く)

損保会社の調査はこわい~3(私の経験から~その1)2020/03/18当事務所HP掲載記事を転載

 私の経験から少し損保会社の調査会社と争った事例(特定防止のために大まかな紹介になります)を紹介しておきましょう。

 一つは、ガスファンヒーターの灯油タンクを玄関で給油し、その灯油タンクを運ぼうとしたところ玄関のたたきでつまづいて転んでしまい、倒れた灯油タンクから流れ出た灯油が廊下の先の部屋で稼働中であった石油ストーブに引火したのではないかという事案でした。

 この中で、損保は自作自演の放火であると主張し、調査会社の調査を根拠として、灯油タンクからこぼれる灯油はそれほど勢いがあるものではないから、廊下の先のほうまで簡単には届かないと主張していました。

 ところが、現実には廊下はわずかに奥に向かって傾いており(古い家ではよくあることです)、しかも躓いて倒れた勢いで灯油タンクを倒したことから、勢いよく灯油タンクから灯油がこぼれた可能性があることがわかりました。

 損保は調査会社の資料であるとして、調査会社が灯油タンクに水を入れて行ったとする再現実験の映像を提出してきました。ところが、調査会社から提出された映像は、すでに倒れている灯油タンクの給油口から、水がこぼれている部分から映像が始まっており、勢いよく倒したかどうか全くわからない映像でした。

 勢いよく倒すか、すでに倒した状態からキャップを外すか、によって全く流れ方は違う可能性があるので、私たちは再現実験で記録された全ての映像の開示を求めました。しかし、調査会社は、映像は裁判所に提出したものしか存在せず、しかも編集は一切していない、それ以上の映像は存在しない、というのです。肝心の灯油タンクをどう配置したのか、どういう状況から水が漏れる状況を撮影したのかという、再現実験として一番大事な部分を映像として記録していない、と調査会社はぬけぬけと主張したのです。

 私たちは、一番肝心な部分がカットされているはずだ、仮に調査会社の言うとおりだとしても一番肝心な部分を記録しない実験方法自体が問題であるとして、実験の信用性疑わしいと主張して争いました。

 裁判の途中で、保険金請求者の方の体調が悪くなり、もうこれ以上ストレスを負のは良くないとドクターストップがかかってしまい、やむなく訴訟を取り下げましたが、未だに相手方調査会社のやり方には、憤りが残っています。

(続く)

損保会社の調査はこわい~その2(弱気な?裁判官)2020/3/16当事務所HP掲載記事を再掲

 損保の依頼する調査会社は、立派な調査報告書を出してきます。その中には、ガスクロマトグラフィーによる分析結果などもよく見られます。

 放火事案の特徴として、灯油・ガソリン等の油類を助燃材として用いる場合があります。

 消防や警察は、助燃材成分検出のために北川式検知管を使うことがこれまで多く、ガスクロマトグラフィーによる分析まではなかなか行わないことが多いのです。

 ガスクロマトグラフィーは北川式検知管による分析よりも精度が高いとされておりますので、北川式検知管で助燃材成分が検知されなくても、ガスクロマトグラフィーによる分析により助燃材が検出されたから、助燃材が存在した、と損保が主張する場合もよくあります。

 

このような場合、言い方が良くないのですが、裁判官は弱気です。

 判断する際に、何か専門的な根拠に立脚して判断したいという気持ちを裁判官は持っています。もちろん証拠に基づいて裁判がなされる以上、それは仕方がないことなのですが、問題は専門的すぎて、おそらく中身を裁判官も理解できずに調査報告書の判断を盲信してしまっているように見える例があるように思われるという点です。

 調査会社などによるガスクロマトグラフィーによる分析にも、よく読んでみれば、「ある特定成分に着目すれば」ガソリン相当成分が検出された、と特別な限定がなされている場合が多いのです。また、上記のある特定成分が、ガソリン以外の物質が燃焼した際に生じる場合もありうるのですが、そのようなことは、一切調査会社の調査報告書には記載されません。

 また、ある特定成分に着目しなければ、別の結果が出ていたかもしれませんが、そのようなことが調査報告書に記載されていたことは、私の経験上一回もありません。

 そうなれば裁判官から見れば、ある程度科学的な分析がなされ、そのような分析を多く実施してきた機関が、ガソリン相当成分が検出されたという報告書を出しているのですから、その報告書にそのまま乗っかりたくなるのも無理もありません。

 また、残念なことに火災に遭って焼け出された人に、損保のように大金を出して専門家に対して、反論のために化学分析してもらい、報告書を作ってもらうだけの経済的余裕は、まずありません。

 ガスクロマトグラフィーによる分析に限りませんが、ある程度科学的な分析に見える調査会社の調査報告書が提出され、保険金請求者はそれに反論するだけの専門家を雇うお金もなく、専門的な反証ができないということになれば、よほどずさんな調査報告書以外は、裁判官の判断の根拠とされてしまう危険性が高いように感じます。

(続く)

損保会社の調査はこわい~その1(私の経験からみた損保と調査会社) 2020/03/13当事務所HP掲載記事を転載

 火災保険でよくあるのですが、損保が火災現場の調査にくる場合があります。といっても、私の経験上、損保が直接人員を派遣してくる場合よりも、損保から依頼された調査会社がやってくる場合がほとんどです。

 損保はあくまで表面上はソフトです。

 「なに、大したことありませんよ、保険金をお支払いするために必要な手続きみたいなもので、確認だけですから、すぐに済みます。」

 などと、何気ない顔をして調査会社を送り込んできます。

 ところがこの調査会社による調査が、私の目から見れば、損保側に偏って有利な調査結果を出す場合が多いので、決して侮れません。

  考えてみれば当たり前です。

 損保は、保険金を支払わなければその分、儲けです。

 

 損保は保険金を支払いたくて調査にくるわけではないのです。保険金を支払わなくて済む理由がないかを調査しに来ているのです。

 このように、損保としては、あくまで保険金を支払わなくてもいい理由を調査させているわけですから、損保から見た優秀な調査会社とは、保険金を支払わなくてもよい理由を何とか見つけてくる調査会社ということになります。

 また調査会社としても、損保からお金をもらっています。損保はたくさん事件を抱えていますから、調査会社にとっては上得意です。調査会社もいくつもありますから、せっかくの上得意がお見えになったのに、上得意様の気に入る調査結果を出さなければ、次回は、ほかの調査会社に乗り換えられてしまうかもしれません。

 損保会社にお抱えとなり、調査の仕事が継続的に、またたくさん頂けるのであれば、調査会社にとって、こんなに望ましい事態はありません。調査会社も営利企業であり、儲けるために調査会社を運営しているのですから当然です。

 だとすれば、調査会社としても、損保に、「つかえる調査会社だ」と思ってもらいたいのも当然でしょう。

 そのためには、何とかして、損保が保険金を支払わなくてもよい、という理由を他の調査会社よりも多くの事件で見つけてくることが必要になります。

 このような現状から、私の経験上、損保の依頼する調査会社は、損保の保険金を支払わなくてもいいほうが望ましいという意向を忖度して、損保に有利な調査をする傾向にあります。また、そのような調査を継続して実績を積んできたからこそ、現在でも、損保から依頼をもらっている可能性があるということになります。

(続く)

自然災害に火災保険が使えるか?~2020/02/19 当事務所HP掲載記事を転載

 最近、某損保のTVコマーシャルで、「当社の火災保険では自然災害もカバーします」という趣旨の、宣伝を行っていました。

 これまで、火災保険の相談を多く受けてきた私から見れば、火災保険においては、その多くが自然災害(但し地震・津波・噴火等は除かれることが多い)までカバーする内容となっていることを知っておりますので、どうして某損保が、取り立てて自然災害のカバーを売りにするのかと、不思議に思ったものです。

しかし、一般の方々におかれましては、火災保険とは火災の場合だけに使うもので、自然災害に使えると思い及ばない方も多いのかもしれません。

 この点、火災共済は自然災害までカバーしていない商品もありますので、注意が必要ですが、現在損害保険会社が販売している火災保険の商品には、約款をご覧いただければお分かりだと思いますが、自然災害の場合にも保険金が下りる内容となっているものがとても多いのです。

 自然災害に遭われた方は、火災保険(火災共済)に入っているならまず約款を確認してみることが大事でしょう。

 近時、火災保険が自然災害をカバーしていることに目をつけて、自然災害に会われた方を訪問しては、火災保険金の請求手続きを代行してやるともちかけ、代行手数料を取ることを仕事にしている人もいるようです(かなり法外な手数料を取る場合もあるようです)。

 しかし、このような行為は、保険金請求者を事実上代理して保険金請求という法律行為を行うことに他ならないため、報酬を得る目的で業として行えば、法律事務の弁護士独占を定めた弁護士法72条に違反する違法行為、と評価される可能性が極めて高い行為です。

 弁護士法72条違反の行為は、公序良俗違反で無効とされますから、せっかく高い手数料を払って保険金請求を代行してもらって保険金を得たと思っても、保険会社から弁護士法違反を指摘されて無効を主張された場合に、受け取った保険金が無効にされる恐れがあります。

 また、弁護士法違反をした者は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金となります。

 ですから、手数料をもらって保険金請求を代行してやるという申し出には、十分注意されたほうが良いと思います。

 保険契約は保険会社との約束ですから、自然災害に遭われたときには、約束に従って保険会社から保険金を支払ってもらうことは当然のことです。しかし、保険会社の担当者は、自然災害に火災保険が使えるとは、わざわざ教えてはくれません。

 保険金請求の時効は保険金を請求できるときから3年です。

 自然災害に遭われたときは、まず約款を確認する、約款を読んでもよくわからない場合は、弁護士に相談することが大事ということになるでしょう。