損保会社の調査はこわい~4(私の経験から その2)2020/03/23当事務所HP掲載記事を転載

 もう一つの案件は、1階の店舗部分に放火されたという案件でした。

 

 2階に寝ていた店主が逃げ遅れ、消防によってようやく救助されたものの、集中治療室に数日間入院が必要だった事案です。

 これについても、損保会社は、店主の自作自演の放火であると主張して、裁判では調査会社による様々な調査資料を提出してきました。

 お得意の、ガスクロマトグラフィーによる分析の他に、調査会社が現場の見分を行った際に、「灯油臭のする座布団が出火地点付近で発見された、これは放火を示唆する相当有力な証拠である。」旨を主張する写真付きの報告書もありました。

 ところが、調査会社の調査報告書と消防の報告書をつぶさに検討していくと、放火の相当有力な証拠として出された前述の座布団(以下「本件座布団」といいます。)は、実は、消防が実況見分をした際の写真には、本件座布団の発見場所及びその近辺では、全く写っていなかったことが判明しました。

 消防の実況見分は、鎮火したあとで速やかに行われます。調査会社の調査は、場合によりますが、1週間以上経過してから行われることも多いのです。

 だとすると、消防により行われた鎮火直後の実況見分の時には、現場に存在しなかった灯油臭のする本件座布団が、なぜか1週間以上経過した現場から突然現れたということになります。

 そもそも、消防の行う実況見分は、燃えカスなどを丁寧に取り除き相当入念に行われるものです。これは、おそらく一般の方が想像される以上に丁寧に行われていると考えていただいて間違いないでしょう。このような消防の調査の実態からすれば、1週間以上経過してもわかるほどの強い灯油臭を感じる座布団が仮に出火地点付近の現場に残っていたら、調査会社よりもはるかに経験豊富な消防が実況見分の際に見逃すはずがありません。

 だとすれば、本件座布団は、消防の実況見分後に、誰かによって持ち込まれた可能性のほうが高いということになります。

では、だれが持ち込んだのでしょうか。

 確かに、ほぼ全焼に近い火災現場でしたから、全く関係のない第三者が立ち入ることが不可能ではない現場ではありました。しかし、第三者がすでに全焼に近いだけ焼損している現場に入り込み、わざわざ灯油をしみこませた座布団を置いていく必要がどこにあるでしょうか。

 合理的に考えれば、灯油をしみこませた座布団が発見されることで利益を得るものが行ったと考えるのが最も素直ではないでしょうか。

 結局この裁判は、途中で和解することもなく証人尋問の上で判決になりましたが、判決では、本件座布団の存在について不自然であるとの認定がなされ、損保側調査会社の報告書は信用できないと判断されました。

 この裁判では、運よく損保側調査会社の主張と矛盾する消防の実況見分調書が残されていたので助かりましたが、仮にそのような実況見分調書になっていなかったとすれば、結論がどう転んでいたかわかりません。

(続く)

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