日弁連会長選挙公聴会をちょっと覗いて見た

 新型コロナウイルスが猛威をふるっている昨今であるが、日弁連会長選挙は進行中である。
 通常であれば、各地(北海道・東北・関東・中部・近畿・中国四国・九州)で公聴会が開かれ、候補者の声をじかに聞けるものなのだが、今回はコロナウイルスの影響もあってか、インターネット経由のリモートで開催されているようだ。

 上記の日弁連会長選挙公聴会は、弁護士なら日弁連の会員専用サイトで視聴することができ、現在(2022.01.28)、東北・北海道・中部・近畿・九州を対象とする公聴会について公開されている。

 近畿公聴会の質問の中で、私がブログで何度も、その内容が欺瞞と過ちに満ちていると指摘している日弁連法曹人口検証本部取りまとめ案に賛成するかとの質問があった。

 及川候補は、弁護士の需要は拡大していないこと、単位会の相当数の反対があること、検証本部の人選の偏り、架空の需要可能性を前提に結論を出している等から、取りまとめ案に反対する意向を明確にした。

 小林候補・高中候補は、取りまとめ案に賛成している内容の回答だった。
 まあ、日弁連主流派の流れを汲む両候補からすれば、反対などと言ったりしたら、たちまちのうちに主流派内での支持を失って、「はい、消えた!」となってしまうだろうから、口が裂けても反対できないのだろう。しかし、この取りまとめ案に賛成するということは、私が指摘したように判断根拠等に虚偽の内容が満ちている偏向した内容の取りまとめ案について、取りまとめ案に相当数の単位会が反対している事実を無視してゴリ押しすることに繋がるから、まあどちらが会長になっても今までの日弁連とおんなじやり方を踏襲するだろうということだ。
 高い会費を取っておきながら、日弁連は弁護士のための組織ではないのか、日弁連に会員の意見が反映されていないではないかという、弁護士に広がっていると思われる潜在的不満に対して、何ら意を払わない可能性があるだろう。

 さらに、法曹志願者の激減について、弁護士の経済的基盤が崩壊しているからではないのかという質問に対して、

 及川候補からは、弁護士業だって仕事であり、弁護士業で生計を立てていく必要があること、日弁連は20年以上前から業務拡大に取り組んできたが、成果が上がっていないこと等の問題点を指摘し、司法試験合格者を減員すべきだと主張している(誤解なきよう申し上げるが、司法試験合格者を現状の1500人前後から1000人前後に減少しても弁護士数は増加し続ける)。

 小林候補は、弁護士にも経済的基盤は大事であることは認めているが、魅力をアピールして志願者を増やせばいいとの回答だった。

 高中候補は、法曹の魅力(得に女性、中高生)を幅広く発信すればいいし、経済的基盤については活動領域の拡大をすれば良いとの回答だった。

 この点については、及川候補だけが正しい現状認識を踏まえた返答をしていると感じている。
 おそらく小林候補も高中候補も、本心では弁護士全体として見た場合、業務の拡大を大幅に上回る弁護士数増加の影響で、多くの弁護士の業務基盤が傷んでいることは理解しているはずだと思う。税務統計等からも弁護士業の収入の凋落ぶりは、相当程度明らかになっているのだから、仮に本当に、多くの弁護士が潤っていると考えているのなら、現状把握能力が全くない、「頭の中がタンポポ畑のお人」と考えざるを得ないからだ。
 しかし、両候補とも、その事実を認めるとこれまで日弁連を牛耳ってきた主流派方針が誤りだったということに繋がるため、やはり、認めるとはいえないのだ

 及川候補の言うとおり、日弁連は私が弁護士になった頃には既に、業務拡大の必要があるから、その努力をしていると言い続けてきたし、そこそこの会費を投入してきたはずである。しかし実際には、業務拡大どころか、司法書士の簡易裁判所代理権が認められてしまうなど、他士業からの浸食を抑制できていない。そればかりか、消費者系弁護士が勝ち取った過払金判決によって過払金バブルが生じたことから、問題を先送りしてしまい、結果的に弁護士数の増大に見合った弁護士業務の拡大ができていないと評価せざるを得ない。

 小林候補も、高中候補も弁護士業の魅力のアピールで法曹志願者が回復すると主張するが、既に日弁連は法科大学院と組んで弁護士業のアピールを相当の会費を突っ込んで何度も実施してきている。
 その上で、なお、司法試験受験者は減少し続けている傾向にあるのだ。

 いくらやりがいがあっても、仕事は生活の糧を稼ぐ手段でもある。食べられないのなら、その仕事を継続することはできない。

 中高生だってその事実は知っているし、だからこそ、現時点で唯一資格で食っていける可能性が高い医師、つまり医学部がどんどん難化しているにもかかわらず、人気がより高まりつつあるのだ。

 大学生は自分の進路についてシビアに考える。本当に魅力があって、生活ができる仕事なら、どれだけ難関であっても、志願者は集まる。かつて法曹資格がプラチナ資格と言われていた旧司法試験時代は、合格率数%であっても、志願者は増え続けていたのである。

 かつては合格率数%であった司法試験の昨年の合格率は40%を超えた
 しかも、受験生平均点よりも約40点も低い点数で合格できる試験になっているのだ。

 これだけ合格しやすくなっても志願者が増加しないのは、端的に言えば、資格に魅力がないからである。そして、弁護士業が仕事として大きく変貌したわけでもないのに、その魅力が減少した根源の問題は、及川候補が主張し、小林候補も少しだけ触れているが経済的基盤が崩壊している点にあると分析するのが、最も合理的だ。

 

 そろそろ、建前ではなく、本音で弁護士のことを考えてくれる日弁連会長が生まれてくれると嬉しいのだが。

今年も職業講話に呼んで頂きました。

 先週の土曜日、今年も大阪市立高倉中学校の職業講話の講師として呼んで頂いたので、講師を務めてきた。

 職業講話は、様々な職業を知ることで、職業観・勤労観を育むとともに、主体的に自らの進路を切り開く能力を身に付けさせることを狙いとしているそうだ。

 私が高倉中学校に初めて呼んで頂いたのはだいぶ前で、私のパソコンに2007年のレジュメが保存されているので、少なくとも15年前から呼んで頂いていることになる。
 途中どうしても避けられない用事で数回欠席したことはあるが、それ以外は、毎年講師を依頼され、努めさせて頂いているように思う。


 ほぼ毎年、伺うことになっているが、他の講師の方々は大体変わられるので、おそらく一番の古株は私であるのは間違いないだろう。

 生徒さんは、中学1年生であり、まだ生意気になっておらず、小学校7年生という感じで、かわいいものである。

 そこで弁護士の仕事内容や、勉強の仕方等を話させてもらうのだ。

 私は、小学校のローマ字のテストで0点しか取れなかった経験があるので、「ローマ字0点でも私くらいにはなれます。0点でなかった人はもっと上に行ける可能性がありますよ。」と話すと、子供の顔が明るくなることもある。

 そして私なりの勉強の仕方などを、普通の子向け、勉強が苦手な子向け、優秀層向けの3つに分けて紹介する。

 しかし、毎年、一番強調していることは、目標を立てることは大事だが、目標から近づいてきてくれることはない、ということである。

 学校の先生は、目標を立てるように言ってはくれるが、目標を立てただけではダメで、自分から目標に近づいていかないと永遠に目標に届かないという最も大事な点は、強調してくれないことが多いのだ。

 目標を立てること、立てた目標に向かって勇気を持って歩き始めること、そして歩き始めたら歩き続けること、これを頭の隅にいつも置いておくように生徒さんにはお願いしている。

 もちろん講師料は、僅かである。
 しかし、生徒さんの様々な感想文が送られてくるのが楽しみで、毎年続けている。

 さて、今年の感想文はどんな内容のものが届くのだろうか・・・。

一枚の写真から~55

NZ南島 テカポ周辺で

どこか遠くまで電力を届けているのだろう。

極めて簡素な電線なので、電線の向こう側に大きな施設があるとは思えない。

遙か彼方まで続いている電線の向こうに、きっとつつしまやかな人の生活があるに違いない。

晩秋の風に吹かれて、音を立てる電線が、子守歌でも歌っているようだった。

大学受験生の皆さんへ

 明日から、大学入試共通テストがはじまる。

 私も30年以上前、共通一次試験に臨んだことがあるので、直前の緊迫感はいまだに覚えている。

 特に私の高校(新宮高校)は、三重県との県境に位置しており、和歌山市にある和歌山大学に設置されていた試験会場には、JRの特急でも3時間以上かかったので、自宅から直接通う形での受験はできない状況にあった。
 そこで、高校では共通一次試験を受ける受験生のために、何人かの先生が引率して、前日から和歌山市内のホテル宿泊するというツアーを企画してくれ、それに参加する方法を採らざるを得なかった。
 当時の共通一次は国公立大学受験のための試験で、私の記憶では、三年生の約一割程度が共通一次を受けたように思う。

 試験時の印象は余り残っていない。おそらく、とにかく無我夢中であったということなのだろう。

 ずいぶん前になる私の経験が参考になるかどうか分からないが、受験では、諦めずに最後まで粘り倒すことが何より大事であると私は思っている。

 どんなに失敗したと思っても、大多数がもっと出来が悪い場合だってある

 私は京都大学法学部を現役・一浪と受験した。
 現役受験の時に確か5問中3問前後くらい解答できていた数学で、一浪受験時には一問も完答できなかった。
 京大の文系数学は確か一問30点の配点だったので、数学だけで現役時点より50点以上は低い結果になっていたはずだ。
 数学が終わった後は、頭が真っ白で、失敗した!もうダメだ!!と思い、しばし呆然としていた。仮にどんなに問題が難しくても、京大受験生は最低2問は解くだろうから、数学だけで50点以上も差がついてしまえば、他の科目で取り返すことなど到底無理だからだ。

 しかし、奇跡は起きうるのである。

 どういうわけか、その年の数学は異常に難しく、多くの受験生が数学で点を伸ばすことができなかった。そのため、数学が普通に得意な受験生も大した点数が取れていなかったようで、数学を抜群に得意としている一部の受験生を除き、数学では致命的な差がつかなかったのだ。
 私は、なんとか(おそらく滑り込みで)、合格ができたのである。

 京大で同じゼミだった、大阪の国立進学校出身の超優秀な女性も、入試の数学は全くできなかった、もうダメだと思った、数学が終わったときに泣きたかったと、私と全く同じ感想を述べていた。

 このように試験の結果というものは、受けた時点では分かりゃしないのである。仮に私が数学の失敗で合格を諦め、残りの科目を投げやりに受験していたら、絶対に合格はできていない。

 だから、ある科目で失敗したと思っても、引きずらず、次で自分の力を発揮することだけを考えるのだ。全ての科目が終わるまで、粘って粘って粘り倒すのだ。

 既に頑張っている皆さんに、敢えてガンバレとは言わない。
 受験生の皆さんには、絶対にあきらめずに、これまで貯えた力を十分に発揮してもらいたいと思っている。

美しい対局姿勢

 昨日、夕食後に動画サイトを覗いたところ、将棋の谷川浩司九段と深浦康市九段のライブ対局(順位戦B2)があったのでつい見てしまった。

 現在、将棋界は藤井聡太四冠という超天才が現れ、大いに盛り上がっており、私もかなり注目して藤井四冠の対局はかなり見ているが、どの棋士のファンかと問われれば、未だに谷川浩司九段のファンであると答えるだろう。

 谷川九段の対局姿勢は、とにかく美しい。

 姿勢はもちろんだが、所作にも澱みがないし、駒の動かし方も駒と将棋盤の絆を一手、一手深めていくように動かしていく。
 相手の駒を取る場合も、自分の駒台をきちんと整理し、取る予定の駒を置くスペースをきちんと作ってから相手の駒を取るので、駒台に手をやるとおそらく次に相手の駒を取るのだろうと予想がついたりもする。

 純粋な将棋の強さであれば、現時点の将棋界では藤井四冠が最強だろうが、対局の美しさという点においては、谷川九段の将棋は藤井四冠の将棋に勝っていると私は感じている。

 将棋の内容は、深浦九段がかなり押していたようだったが、1九の飛車を角で取った深浦九段の手が疑問手だったようで、谷川九段の逆転勝ちになったようだった。

 残念ながら全盛期の強さを発揮する機会が減り、映像で見られることが少なくなってきた谷川九段ではあるが、昨日の勝利で四連勝と調子を上げつつあるようにも見える。

 谷川九段のさらなるご活躍を願いつつ、美しい将棋の対局所作を御覧になりたいのであれば、谷川九段の将棋を是非見て頂きたいと、切に思うのである。

男女共同参画からの提案に弱い常議員会?

 男女共同参画推進本部(以下「共同参画」という。)から、常議員会に会費免除に関する提案がなされ常議員会で議論、採決がなされた。

 現在、大阪弁護士会では育児期間中の会費免除の制度はあるが、育児期間中に弁護士業務を休業していないと免除が適用されていない。共同参画は、この休業要件を撤廃し、育児期間中に弁護士業務を行って売上を上げていても、会費免除を認める内容にすべきだというのである。休業要件撤廃を要求する理由は、「育児期間中における会員の負担軽減を図り、育児参加を促進する(その結果、男性の育児参加を促進することになる)ための積極的施策」として行いたいとのことであった。

 大阪弁護士会の会費免除規定には、疾病の場合の規定もあるが、この場合は常議員会で調査小委員会を編成し、調査小委員会が本人・主治医等に意見を直接聞くなどして、本当に業務ができない状態かを厳格に判断し、弁護士業務遂行が不可能で真にやむを得ないと判断された場合でないと会費の免除は受けられない。近親者の疾病や老親の介護の必要性があって、弁護士業務の大半を休む必要がある弁護士がいても、その会費は免除対象にすらなっていない。

 弁護士会費は弁護士会維持存続のための不可欠な財源であり会費収入は極めて重要である。会社と同じで弁護士会もお金が無ければ何もできない。

 その会費収入の重要性からすれば、会費免除は真にやむを得ない事由がある場合に限るべきであり、疾病の場合の厳格な調査は会費収入の重要性に鑑みれば相当なものであると考えられる。なぜならこのように厳格な判断を行わないのであれば、どの程度の事由があれば免除されるのかという限界が不明確となり、ずるずると会費免除される場面が拡大していき、弁護士会の経済的基盤が崩壊する危険性があるからである。

 また、上記の通り会費収入の重要性に鑑みるならば、今回の共同参画からの提案にように、何らかの政策目的を実現するための積極目的での会費免除は、可能な限り認めるべきではない。
 なぜなら、積極目的での会費免除を認めれば、どのような積極目的であれば免除が相当なのかという点が全く不明確となるからである。


 例えば、今回の提案を受け入れ、育児の男性協力は素晴らしいからそれに繋がる育児期間中の会費免除に休業要件をなくしてよい、という判断をした場合、その後、家族の看病・介護を行うことは素晴らしいことだから看病・介護の負担を負う会員は、弁護士業ができていても会費免除しようという主張が出てきた場合、どうするのか。男性の育児参加促進のための会費免除はOKだが、家族の看病・介護のための会費免除はNOであるという判断ができるのか。
 さらに、積極目的での会費免除を認めるのであれば、今回の共同参画のように声の大きな委員会の意見ばかり通る危険性も否定できない。

 私の個人的意見にはなるが、育児期間中とはいえ、弁護士業務を実際にやっているのであれば、大阪弁護士会の会員として弁護士業務を行って売上を上げていることになる以上、大阪の弁護士をまとめている大阪弁護士会に何らかの負担を負わせていることになるから、その経費である弁護士会費を支払うのは当然だと思う。また、売上を上げている以上、会費負担能力も認められるであろう。

 誤解して欲しくないのだが、私自身、男性の育児参加促進を否定しているわけではない。仮にある積極目的(例えば今回のように、男性の育児参加促進)を達成するために、該当会員に対して会費免除相当額の援助が必要なら、そのような制度を作り特別会費を徴収して援助を実行すれば良いのであって、会費免除という目立たない手段で、結果的に弁護士会の存続の基盤である経済的基礎を揺るがす危険のある方策を取るべきではないという意見なのである。

 将来の弁護士業界の悪化に伴う会費減少の事態に陥るなどして、会費免除を廃止する必要性が出た場合には、疾病で働けない弁護士の会費免除は維持しつつ、積極目的での会費免除から停止・廃止すべきであることは当然であろうと思われる。この場合、特別会費を徴収する手段で行っておけば、その積極目的の会費免除について廃止する可能性についてもその制度の中に予め定めておきやすく、廃止しやすいとも考えられる。


 ところが、共同参画側の提案者もしたたかであり、新たな会費を徴収する制度を提案すれば、多くの会員から反対にあう可能性が高いことは分かりきっているから、できるだけ目立たない会費免除という手段をとっているのである。また、総会では大量の委任状等で決議できるから、常議員会さえ通過できれば、なんとかなるという目算もあるのだろう。

 共同参画からの提案理由の中には、財政的になんとかなるという検討結果や、他の弁護士会が休業要件を撤廃していることなども理由に上げられていたが、私はそれらの理由は何ら根拠になっていないと考えている。

 仮に今回の会費免除を追加して行っても問題ないほど弁護士会費が潤沢に残っているというのであれば、それは本来会費の取り過ぎであり、全会員に還元すべきものであるはずだ。


 休業要件の撤廃について他の弁護士会と平仄を合わせる必要あるという理由なら、国選・管財事件の負担金制度を取っていない弁護士会もあるのだから、そちらと合わせるべきだろうし、ラックの持込案件まで会費負担を負わせているのは日本中で大阪弁護士会だけのはずだから、その負担金制度も廃止すべきという議論にならないとおかしいではないか。

 以上のような主張を常議員会で行ったが、この議案を総会に提案するかどうかの採決で反対したのは、インターネット参加の常議員では私1人だけだった(会場参加の方の賛否は不明)。インターネット参加の常議員の方で保留された方が4名いらっしゃったことが救いだったが、多くの常議員の先生方は、あっさり賛成されていた。

 私は10年以上継続して常議員を務めさせて頂いているが、総じて男女共同参画推進本部からの提案について、異論を述べる先生や反対される先生は極めて少ない。


 私の目から見れば、常議員会は、男女共同参画からの提案に、すこぶる弱いのである。

弁護士は社会生活上の医師ではない

 よく、「弁護士は社会生活上の医師として・・・・」などと言われることがある。司法制度改革を断行してきた政府や日弁連も大好きなフレーズである。


 確かに弁護士が社会生活上の医師であって、社会生活上の問題をみんなのために解決してくれるのであれば、社会生活の健康をも守るためにも弁護士の数は多い方がいいという主張にも一理あるのかもしれない。

 しかし、「弁護士は社会生活上の医師」であるという主張に関して、私は全くナンセンスだと思っている。

 基本的に、医師の敵は病気である。

 人間にとっての共通の敵である病気を攻撃して殲滅できれば、患者にも人類にとってもプラスである。要するに、医師の病気を治癒しようとする戦い(仕事)は、病気をやっつければやっつけるだけ、賞められ、人類全体のプラスになる、絶対的正義と言って良い。

 これに対して、弁護士の敵は、基本的には依頼者の相手方である。

 弁護士が自分に弁護士費用を支払ってくれた依頼者の利益のために、相手方を攻撃して成功すれば、依頼者にとってはプラスであるが、相手方にとってはその分マイナスとなるのである。

 つまり、仮に私が、依頼者の為に裁判で奮戦して勝訴判決を得た場合、私の依頼者にとっての私は、自分の言い分をかなえてくれた救世主的弁護士である。しかしその一方、敗訴した相手方にとっての私は、自分の言い分をことごとく粉砕して被害を与えてきた悪徳弁護士に他ならない。

 ぶっちゃけて言えば、弁護士稼業は、相手方をやっつければやっつけるだけ依頼者からは喜ばれるが、相手方からは恨みを買う仕事である。

 要するに弁護士が仕事上で達成できる正義は、あくまで依頼者にとっての正義、すなわち相対的正義に過ぎないのであって、医師のように人類全体にとっての絶対的正義の実現ではない。

 このように、弁護士は基本的には、依頼者にとっての正義を追求する仕事を行うものであるから、人々の社会生活全般に利益を与える行動を取るとは限らないのであって、弁護士が社会生活上の医師と名乗ること自体おこがましいこと極まりない、と私は思っている。

 むしろ、弁護士の仕事の実態から評価すれば、「こんな日弁連に誰がした(講談社α新書)」の著者である小林正啓先生がかつて評価されたように、「弁護士は社会生活上の傭兵」であると考えた方が、よほど現状に即した評価であろうと思われる。

 仮に弁護士が社会生活上の医師であって、社会の全てにおいて絶対的正義を実現してくれる存在であれば、その数は多い方が正義が実現されて良いではないかと考えることも可能である。
 しかし、弁護士の実態が社会生活上の傭兵であり、あくまで依頼者の正義(相対的正義)しか実現できない存在であるとした場合、弁護士を増やしすぎるということは、相手方からいつ傭兵を差し向けられ攻撃されるかも分からない状況を作り出すことであり、また、仮にそうでないとしても、食うに困った傭兵どもが社会内をうろうろしている状況を作り出すことでもある。

 そのような社会を国民の皆様が望んでいるのだろうかと考えた場合、答えは否ではないかと、私は思うのだが・・・・。

日弁連法曹人口検証本部取りまとめ案の偏向

 各単位会に意見照会をした結果、相当数の単位会が反対するなどしたため、再度内容を訂正していた日弁連法曹人口検証本部だが、やはり司法試験合格者1500人を維持する方向での声明(現時点では合格者を減員する理由はないとする声明)を出したいようだ。


 結論を導く理由について読んでみると、まあ偏った判断が並んでいる。自分達の声明に不利な方向の根拠は理由がないとか確認できないとかの理由で切り捨てながら、自分達の声明に有利な方向の根拠は推測だろうと何だろうと取り入れていく。

 特に客観的な資料の引用に、偏向を感じる部分が明確に出る。

 例えば、検証本部は、裁判所が新たに受けた事件数(新受件数)に関して、概ね「地裁民事通常訴訟事件の新受件数自体は微増にとどまり,裁判関係業務の業務量に大きな変化はうかがわれない。」と評価しているようである。

 しかし客観的データから見ると、民事通常事件は微増もしていないし、家事事件を除き裁判関係業務は大幅に減少している。

 最高裁事務総局が編集している「裁判所データブック2021」によると、地裁民事通常訴訟事件の新受件数について10年前である平成23年と令和2年で比較すれば次のとおりである。
 平成23年 地裁民事通常事件新受件数  196,366件
 令和2年  地裁民事通常事件新受件数  133,427件(▲32.05%)

 つまり、客観的な資料から、10年前と比較して30%以上も減少している新受件数を、検証本部は微増と評価しているのである。

 百歩譲って、検証本部が日弁連の2012年(平成24年)提言後の事情に限定して検討をしていると仮定しても、
 平成24年 地裁民事通常事件新受件数  161,313件
 令和2年  地裁民事通常事件新受件数  133,427件(▲17.29%)
 であって、地裁民事通常事件の新受件数は、どこをどう見ても大幅に減少しているのであって微増などではない。

 このように、前述の検証本部のこの部分に関する記載は完全な虚偽である。小学生でも分かる欺瞞を、検証本部は平気で行っているというほかない。

 ところで、弁護士の業務量を推定するのに様々な資料は考え得るが、弁護士の業務量は基本的には法的紛争の量が反映されるから、最も客観的で信頼できる資料は、どれだけの事件が裁判所に持ち込まれたかであると考えられる。

 前記の民事通常事件だけではなく、民事行政を併せた新受件数、刑事事件新受件数(人)、家事事件新受件数、少年事件新受件数(人)を10年前と比較すると、次のとおりである。

民事・行政事件 1,985,302件 →1,350,254件(▲31.99%)
刑事事件    1,105,829人 →  852,267人(▲22.93%)
家事事件      815,524件 →1,105,407件(+35.55%)
少年事件      153,128件 →   52,765件(▲65.54%)
合計      4,059,783件 →3,360,756件(▲17.22%)
※合計は、全裁判所に持ち込まれる全新受件数である。

 裁判所に持ち込まれる件数が、10年前と比較して約2割弱も減少している客観的データがあり、そしてここ10年で弁護士数が1万人以上増加している現状がある。

 単純に、裁判所全新受件数を当時の弁護士数に割り当ててみると、10年前の弁護士数は約30,000人、令和2年の弁護士数は約42,000人なので、
 平成24年:4,059,783÷30,000≑135.33(件)
 令和2年 :3,360,756÷42,000≑80.02(件)

 つまり裁判所に持ち込まれる事件数を弁護士数で割ってみた数値は10年前と比較してなんと40.87%も減少している。

 客観的データがあるにも関わらず、検証本部の取りまとめは、弁護士の裁判関係の業務量に大きな変化は見られないと断言しているのだ。

 少なくとも裁判所データブックのような客観的データがありながら、その評価として、弁護士の裁判関係業務量に変化がないと断言する奴は、客観的に見て、データを理解できない阿呆か、ある方向の結論を出すため偏向しているとしか言いようがないことは、ご理解頂けるだろう。

 検証本部で真剣に議論された先生方には、大変ご苦労なさったと思われるが、本部のとりまとめがこのような欺瞞に満ちた内容になるのでは、何のために時間と労力を費やしたのかと徒労感も大きいところだろう。

 検証本部のとりまとめを行う立場の委員に申し上げる。
 偏向するな!

日弁連会長選挙が始まる

 日弁連会長選挙は2年に一度行われる。

 今年の立候補者は、1月6日18:00時点では、日弁連のHPに告示されてはいないようだが、少なくとも50音順で以下の3氏の立候補は確実だと思われる。

 及川智志氏
 小林元治氏
 髙中正彦氏

 私は大阪弁護士会内においても会派に何ら所属しておらず、妖しい裏の事情などさっぱり分からないので、あくまで素人目から見た三者の感想である。

 及川智志氏は、前回に引き続き再度の立候補である。東京・大阪等の大弁護士会の派閥の力を全く使わず、独自の活動で今までの大弁護士会の主流派優先ですすめられてきた弁護士会運営に疑問を投げかける。
 私は及川氏とは、宇都宮氏が日弁連会長であったときに開催された、法曹人口問題政策会議(だったかな?)のメンバーとして面識を得ている。熱く真っ直ぐな人で、権威を恐れず直球で勝負する方である。ご自身の名誉など全く考慮外で、弁護士を職業として維持して行くためにどうすべきかを真剣に考えておられた。市民目線を言われることから生じる、ちょっと左がかっているかもしれないという周囲の偏見・思い込みを打破できれば、若さは武器でもあるし、面白いかもしれない。

 小林元治氏は、賛同者を見ると日弁連元会長や大阪弁護士会の元会長などの有力者が名前を連ね、主流派からの候補者であろうと思われる。前回の日弁連会長選挙前にも政策団体を立ち上げるなどして立候補の予定を窺わせる行動を取っていたが途中で立候補しない方針に変更したと聞いた記憶がある。まあ主流派の中でいろいろな駆け引きなどがあり、前回は我慢したので今回こそは当選させてもらうという意向なのだろう。1月4日時点の賛同者は4000名を超えると、同陣営(政策団体)から送られてきたFAXには記載がある。
 残念ながら私は小林元治氏とは多分面識はない。しかし、有力者の多さから見て、主流派候補の本流ではないかと考えられる。おそらくは今回の選挙の本命と目されている方だろう。

 高中正彦氏の賛同者にも、日弁連元会長や大阪弁護士会の元会長などが名前を連ねているようであり、主流派の流れを汲むのかとも思われるが、有力者の名前が少なく感じられることから考えて、主流派の本流ではないのかもしれない。しかし、1月4日時点の賛同者は3300名を超えると、同陣営(政策団体)から送られてきたFAXには記載がある。
 ずいぶん前だが、元大阪弁護士会会長から日弁連会長も務めた中本和洋先生のご紹介で高中氏とお話ししたことがあるが、気さくで話がとても面白いお方だった。確か法曹人口政策会議にも出ておられたと記憶するが、法曹人口問題は当時の主流派と同じ意見であり、合格者減員を言わなくっても・・・という感じだったような記憶がある。

 仮に主流派が、まとまりきれずに小林氏(本命)と高中氏(対抗)に分裂しているのであれば、及川氏(大穴)が割って入る事態も起こりうるかもしれず、そこそこ面白い選挙戦になるかもしれない。

 日弁連の政策は、会長が誰になるかによって大きく変わりうる。だから、各弁護士の一票は大事なのである。

 仮にボスから投票先を命令されても、秘密投票なので、投票時に面従腹背は可能である。そもそも投票先を命令するボスなど部下の意思を無視している危険なボスかもしれないし、そのようなボスがあなたの未来を必ず守ってくれるとは限らないだろう。

 もちろん私は、イソ弁である永井君に、投票先の指示などしたことはない。