崩壊しつつある法曹養成制度2

法科大学院協会の令和元年度アンケート付記意見から


p108
・ 法科大学院に行かず、予備校で勉強したいわゆる予備試験組が学部在学中に合格したり、卒業してすぐに合格しています。法科大学院の教育は試験の合格のためには不要ということが改めて示されています。これらの合格者が何か問題があるのかというと、採用した事務所からは優秀であり評判が良いと聞きます。私のゼミでも、本当に頭がいいと思われる者は皆、予備試験から合格しています。司法修習を廃止して、2年次の3月に司法試験を行い、3年次は実務修習とし卒業を法曹資格取得の要件にし、卒業認定を厳しくするなど抜本的な改革が必要だと思いました。
→(坂野のコメント):司法試験に合格するには法科大学院での教育は不要であること、また法科大学院を経ずに司法試験に合格して実務家になっても何も問題が生じていないばかりか、むしろ、採用した事務所からは優秀であり評判が良いとの指摘があること、という法科大学院側としては認めたくない事実を明確に指摘した意見である。この事実からすれば法科大学院側がいつも振り回す「プロセスによる教育」という理念が、現実には全く意味がないお題目であることが理解できる。そもそもプロセスによる教育が法曹養成に必要だとか、効果があるなどと法科大学院側は主張するが、プロセスによる教育がなんであり、どれだけの効果があるかなど誰も実証できておらず、法科大学院賛成論者が単にそう言い張っているだけの状況なのである。だとすれば、法科大学院制度を高額な税金を投与してまで維持する必要があるのか、大いに疑問があるということになろう。

P112
・ もっとじっくり腰を据えて法律学を習得することに期待するが、試験制度全体が反対の方向を向いているような気がする。3+2年+在学中の試験では、法律学を十分に修得したと言えないのではないか。仮に、このような受験スタイルが主流になるのであれば、従来よりもさらに充実した司法修習(期間+内容)を用意する必要があるように思う。そうでなければ、ますます司法制度が弱体化してしまうのではないかと懸念する。

→(坂野のコメント):法科大学院在学中受験制度に対する危機感を示した意見である。3+2年+在学中の試験では、法律学を十分に修得できないのが普通なのに、その状態で司法試験を受験させ合格させると、レベルの低い合格者がどんどん増加してしまい、司法制度がますます弱体化するとの懸念を示してもいる。既にこの意見を述べた人から見た司法制度は、レベルの低い合格者があふれかえって弱体化が進んでおり、これに加えて在学中受験制度によるレベルダウンによって、さらなる司法の弱体化が進むおそれがあるということである。ちなみに、令和5年度司法試験では、レベル低下が懸念されている状況にありながら合格者数は増加している。さらに、合格者1781名中在学中受験合格者数は637名であった。

本当に大丈夫なのだろうか。

崩壊しつつある法曹養成制度

 法科大学院協会が行っている、法科大学院に対する司法試験に関するアンケート付記意見から、現在の法曹養成制度が崩壊しつつあることが看て取れる。

法科大学院協会平成30年度アンケート付記意見

p89
・3 年次に司法試験を受験できるようにして、卒業と同時に司法修習が 4 月から開始するように変更してもらいたい。合格者の人数は 1000~1200 人程度が適正ではないかと思います。
→(坂野のコメント):平成30年度は1525名が合格したが、この意見を記載した法科大学院教員から見れば、あまりにレベルの低い学生が合格してしまうので、合格者数を減らすべきではないかと提言している。

p92
・ロースクールへの入学者数、受験者数が極めて減少傾向にあるなか、現在の合格者1,500 人の枠は、法曹の質の維持の観点からみて、大いに問題がある。この傾向にあっては、合格者数を 1,000 人程度に制限することが望ましいものと考えられる。
→(坂野のコメント):1500名の合格者では法曹の質の維持ができないことを明言しているコメントである。もはや、1000名程度まで合格者を絞らないと法曹の質が維持できないと考えられるほど、合格者の質の低下は進行しているのである。経営上の観点からいえば、司法試験合格者を増やして欲しいという傾向が強い法科大学院関係者から、このような発言が出ること自体、事態は深刻ということである。

p92
予備試験に関しては、国家試験の公平性、優秀な人材の確保、法曹の質の維持の観点から、今後、さらに合格者枠を増大することが必要である。
→(坂野のコメント):法科大学院関係者が基本的に敵視し続けている、予備試験合格者を増やさないと、優秀な人材も確保できないし、法曹の質も維持できないとのコメントである。法科大学院制度維持だけを念頭に置けば、合格率でどの法科大学院よりも圧倒的に上回る予備試験合格者を制限せよとの立場を取ることになるのが普通であり、多くの法科大学院教員はその立場を取る。しかし、法科大学院制度は優秀な法曹を排出するあくまで手段にすぎないのであり、目的はあくまで優秀な法曹を世に送り出すことなのだから、優秀な法曹を世に送り出すために法科大学院制度が桎梏となっているのなら、予備試験ルートの門戸を広げるべきであるとする大局を見据えた意見である。法科大学院維持に傾きがちな法科大学院関係者から、このような発言が出されていることは注目すべきであろう。

p96
・近い将来、在校生に受験資格を与える制度改革がなされるようであるが、法科大学院制度を根底から覆しかねない制度改革であると思料する。一方で、5 年先の効果を見越した取組を要求され(文科省)、他方で、5 年先に抜本的なカリキュラム改正が必要となる制度改革を行う(法務省)という、両立不能な対応を、教育現場である法科大学院に一方的に押し付けているという認識を持って頂きたい。
一部の法科大学院を中心に、そこのみが受け入れ可能な司法試験制度改革を行い、他の法科大学院には自主撤退せざるを得ない状況に追い込み、制度設計者が責任を負わずに各法科大学院に責任をとらせるようなやり方には、およそ納得がいかない。
責任の所在を曖昧にするような制度改革をするくらいなら、制度設計のミスを認め、「法科大学院+現行司法試験」という現行制度を廃止し、「法学部+旧司法試験」という旧体制に戻す方が、崩壊しかけている法曹養成システムの立て直しに資すると思料する。

→(坂野のコメント):もともと法務省・最高裁が関与していた法曹養成制度に、文科省が関係するようになったことから、省庁間の権力争いもあって、法科大学院が憂き目に遭い、法曹養成システムが崩壊しかけていることの指摘である。法曹養成制度に法科大学院制度を導入した制度設計がミスであると堂々と喝破し、旧司法試験制度にもどした方が、法曹養成システムの崩壊を止められるとまで述べている。それほど現在の法科大学院を中心とした法曹養成制度の現状は崩壊していることの証左であろう。

 以上のような付記意見が、法科大学院関係者から出ていることに注目すべきだ。

 法科大学院関係者であるということは、法科大学院が維持されないと困るから、法科大学院制度万歳、法科大学院による法曹養成制度は全くもって素晴らしい、と主張していてもおかしくはない立場にある人たちである。

 現に、中教審の法科大学院等特別委員会の委員である法科大学院教員のほぼ全ては、法科大学院による法曹養成制度は全くもって素晴らしい、となんの根拠もなく主張を続け、素晴らしい制度といいながらも、改善が必要であるとして15年以上も改善の主張を継続し続けるも成果が上がらず、予備試験ルート受験生に惨敗を続け、弥縫策に終始しているように私には見える。

 法曹養成という大局的な面から見て、手段としての法科大学院が成果をあげられないのなら、法曹の質の低下という国民の利益を損ないかねない問題を解決すべく法科大学院制度廃止を含めた大胆な手術が必要なのではないか。

 私は上記の付記意見を提出した、法科大学院関係者の方の慧眼に敬服する。