無理して弁護士数を増やす必要はない

 日弁連や大阪弁護士会は、弁護士の利用が浸透しない理由として、弁護士数が少ないとか偏在があるなどという点を上げたりすることが多いように思う。

 しかし現場の感覚としては、既に弁護士は多すぎるように思う。

 当事務所に来られたお客様にお聞きしても、ネットで調べたら弁護士がたくさんありすぎて、困ったと仰る方が多いのだ。

 つまり、弁護士数が足りないから選べないのではなく、弁護士の情報がありすぎるし、基本的にどの弁護士もインターネットでは良いことばかり書いているので、結局どの弁護士を選んだら良いのか分からないという状況だったという方が多い。

 これまで弁護士をどんどん増やして自由競争させろと、規制改革会議やマスコミも言ってきたが、自由競争とは、お客が提供されるサービスの質を的確に判断できることが大前提である。そうでなければ自由競争によってよい弁護士が選ばれて生き残るということにならないからである。

 そして、弁護士の質は正直言って一般の方には判断できないと思われる。我々同業者であっても、書面を一見しただけでは、弁護士の質を判断することは容易ではない。
 一見ひどい内容の準備書面しか提出してない弁護士であっても、無理筋の事件をボスから命じられるなどして引き受けさせられてしまい、止む無く内容のない書面しか提出できない場合だってあるからだ。

 これまで、マスコミや学者は、弁護士資格をどんどん与えて弁護士も自由競争すべきだと主張し、一般国民の方もその論調に流されてきたように思う。

 しかし、マスコミも学者も、医師だって資格に甘えるべきではないから、医師資格をもどんどん与えて自由競争すべきだ、とは言わない。

 それは、医師資格を濫発して医師にも自由競争を持ち込めば、実力不足の医師が淘汰されるためには、当該医師が医療過誤を頻発して多数の被害者を出さなければ淘汰に至らない。つまり自由競争が成立する過程で多くの被害が出ることが、一般の国民の皆様にも容易に分かるからである。

 そして、仮に多くの犠牲の上に実力不足の医師が淘汰されたとしても、自由競争の名目で医師資格が濫発され続けた場合は、実力不足の医師がさらに医師界にどんどん入り込んでくるから、いつまで経っても淘汰など終わりはしないのである。

 医師と同様に、実力不足の弁護士を大量に生み出せば、一般国民の皆様に与える被害は甚大となる。

 しかし、一般の国民の皆様は、自分が弁護士を利用する機会を容易に想像できない、若しくは自分が弁護士を利用することになる事態に陥ることがあるなどとは思ってもいないため、マスコミや学者がいうところの、弁護士も自由競争すべきだとの主張に流されてしまって、現在の状況に至っているように思う。

 そこが、マスコミなどの狡いところでもある。

 一般の国民の皆様が判断が困難な場面においては、国が資格を与える際にきちんとその実力を計り、国民の皆様にご迷惑をおかけしない実力を持った者しか資格を与えるべきではないのである。

 そうだとすれば、司法試験受験者(途中欠席せず最後まで受験した者)が僅か3664名にすぎないのに、閣議決定で示された1500名に近い1450名も最終合格させている(受験者の平均点以下の得点でも合格できる)司法試験委員会は、資格を与える時点での選別をきちんと行っていないと言われても仕方がないであろう。

 そんなはずはないと仰る方は、現状の短答式試験と平成元年以降の短答式試験を比較してみれば分かるだろう。

 法務省が明らかにしているように、現状の短答式試験は基礎的な問題に限定されて出題されている。
 「その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わない。」と明言されているのだ(平成30年8月3日 司法試験委員会決定)。

 つまり昔の短答式試験問題よりも簡単にしているのだ。

 そして昔の短答式試験では、ほぼ75~80%以上の得点をしなければ合格できない試験であり、そこで5人に1人くらいに絞られ、その短答式試験に合格した者達だけで競う論文式試験でさらに6~7人に1人に絞られたのである。

 確かに、現在の短答式試験は論文式試験と同時に行われるから、現行受験生の方が負担としては大きいともいえる。とはいえ、出題が基礎的な問題に限定されているのなら、やはり75~80%は得点して欲しいところだ。

 175点満点で80%の得点率なら、140点、これを上回った受験生は270人にすぎない。

 同じく75%の得点率なら131.25点、これを上回った受験生は566名しかいない。

 しかし、昨年度の司法試験最終合格者は、1450名なのである。

 もはや、弁護士バッジを当てにすることができない時代が来ているのかもしれない。

 それでも、弁護士数の増加が必要なのだろうか。

これでいいのか?日弁連法曹人口検証本部。

ずいぶん昔にブログに書いた記憶があるのだが、次の簡単な問題を考えて頂きたい。

 ある船に4万人が乗っていた。
 今年1500人乗船し、500人が下船した。
 船に乗っている人の数は増えただろうか、減っただろうか?

 さらにその翌年、同じ船に1000人乗船し、500人が下船した。
 船に乗っている人の数は増えただろうか、減っただろうか?

 答えはいうまでもなく、今年も、その翌年も、その船に乗っている人の数は増えている。
 こんな簡単な問題、馬鹿にするのもいい加減にしろ、と仰る方も多いだろう。

 ところが、同じ問題を司法試験合格者として考えて見ると、この簡単な問題の答えを誤る人が続出するのだ。

 よく司法試験合格者を減らせば、弁護士数(法曹人口)も減少してしまうから、合格者を減らすべきではないという議論を、マスコミや学者から聞いたことがある人も多いと思う。

 しかし、その議論は完全な間違いだ。間違いと知って、敢えて上記のように主張しているのなら、誤導であってさらに罪深い。

 つまり、長年司法試験合格者数は年間500人程度だった(少なくとも平成3年度あたりまで)。そのうち裁判官・検察官になる人を除き、弁護士に300人ほどがなっていたと仮定すると、平成3年に合格し平成5年頃に法曹になった人でも、まだ30年弱程度しか働いていないから、毎年弁護士をやめていく人の数は、おおよそ300人程度と考えることができる。

 仮に今年の司法試験で1500人が合格し、1300人が弁護士になるとすると、弁護士数の増加は1300人。
 今年1年で換算すると、1300人増加し、300人やめるから、年間1000人の弁護士の増加だ。

 では、来年の司法試験合格者を1500人から1000人に減らすと弁護士数は減るのだろうか。

 つまり、司法試験に1000人合格し、そのうち裁判官と検察官になる人を除き800人が弁護士になるとすると、弁護士数は減るのだろうかという問題だ。
 前述したとおり、毎年弁護士をやめていく人の数はおおよそ300人程度と考えることができるから、来年1年で換算すると、800人の弁護士が増加し、300人やめる。

つまり、500人の弁護士が増加するということだ。

 確かに、司法試験の合格者を500人未満にすれば、ほぼ弁護士数は横ばいから減少に転じるだろうが、現在1500人程度の司法試験合格者を1000人に減らしたところで、弁護士数は増え続けるのである。

 ところが、弁護士業をやめる弁護士数を隠したまま、司法試験合格者を1000人に減らせば弁護士数が減ってしまうと主張されると、何となくそうかな~と思えてしまうところが、マスコミや学者の狡いところだ。

 現在、日弁連で法曹人口検証本部が、法曹人口の検証を行っているが、その第6回全体会議取りまとめにおいて、某K副本部長が、上記と同じ誤導を含んだ所見を述べている。

 ご紹介したいが、会員限りの資料なので公表ができないのが残念だ。

 とはいえ、弁護士の方なら、アクセス可能な情報なので、一度確認された方が良いだろうと私は思う。

 K副本部長が冒頭の簡単な問題を誤答するレベルの思考力しかないとは考えにくいから、おそらくK副本部長、そして日弁連執行部は、誤導をしてまで司法試験合格者の減少を阻止しようと考えているのだと思われる。

 合格者増加により、弁護士資格の価値は相当下落している。今の現状を踏まえて、優秀な法曹志願者を増やそうとするなら、資格の価値を上げるほかないだろう。

 優秀な人材を得るには、富か権力か、名誉(地位)を与えるくらいしかない。ヘッドハンティング等でも分かるように、優秀な人材を得るために、やりがいだけでは限界があり、相応のリターンが必要であるのは当然である。人は、自らの仕事で家族を養い、生活していかなければならないからだ。

 日弁連執行部は、さらに弁護士資格の濫発に手を貸して資格の価値を下げ、何をしようと考えているのだろうか。

 一つ考えられるとすれば、法科大学院制度の維持だ。法科大学院制度維持のために予備試験制度をさらに制限する提言までやりかねないだろう。
 

 私に言わせれば、一度法科大学院制度導入に賛成してしまった日弁連執行部が、自らの過ちを認めることができずに、理念という名の竹槍を振りかざしたまま自爆に向かって暴走しているようなものである。

 しかし、そもそも法科大学院制度は、優秀な法曹を輩出するための制度(手段)であって、目的ではない。極論すれば、優秀な法曹が輩出できるのであれば、法科大学院制度など不要なのだ。目的を達成できるなら、手段はどうだっていいのである。

 現実には、司法試験合格率は圧倒的に予備試験組が法科大学院卒業生を上回っているし、大手法律事務所や、裁判所・検察庁でも、予備試験ルートの法曹が多く採用されている。そして、予備試験ルートの法曹に何らかの問題があるなどという話は聞いたことがないばかりか、年々予備試験ルート合格者を囲い込もうとする動きは強まっているように見える。

 つまり、法科大学院やマスコミが「プロセスによる教育」などと、実態のない理念をいくら振り回そうが、実務では法科大学院教育なんてものに価値など置いていないのだ。大手法律事務所が、予備試験ルートの合格者を囲い込もうとしていることからも明らかなように、法科大学院など出ていなくても、しっかり勉強していれば法曹実務家として十分使いものになるのである。

 前述したK副本部長の所見からすれば、日弁連の法曹人口検証本部が、日弁連執行部の意向により、法科大学院維持のために暴走する可能性は相当程度高いと私は見ている。

 いったい何時になったら、日弁連は目が覚めるのだろうか。

 いくら理念を振り回し、万歩譲って仮にその理念に何らかの意味があったとしても、弁護士業界を焼け野原にしてしまえば、意味などないではないか。