最新の法科大学院等特別委員会で配布された資料には、「法科大学院改革の取り組み状況」というものがあるので見てみた。
そもそも法科大学院制度が2004年に創設されてから、すでに16年経過しているにも関わらず、発足当時から現在に至るまでずっ~~~と改革が必要と言われ続けているという、極めてお粗末な状態だが、今回はそれを措くとして、上記資料の中に、なぜか予備試験の項目があり、予備試験を敵視するかのような次のような指摘が記載されている。
ご丁寧にも、下記のような引用もなされているので紹介する。
(引用開始)
参考:法曹養成制度改革推進会議決定 第4 司法試験 1 予備試験(抄)) 予備試験受験者の半数近くを法科大学院生や大学生が占める上、予備試験合格者の多くが法科大学院在学中の者や大学在学中の者であり、しかも、その人数が予備試験合格者の約8割を占めるまでに年々増加し、法科大学院教育に重大な影響を及ぼして いることが指摘されている。このことから、予備試験制度創設の趣旨と現在の利用状況がかい離している点に鑑み、本来の趣旨を踏まえて予備試験制度の在り方を早急に検討し、その結果に基づき所要の方策を講ずるべきとの指摘がされている。
(引用ここまで)
回りくどい言い方をしているので、私なりに簡単に言ってやると、予備試験ルートの受験生は圧倒的に法科大学院ルートの受験生よりも司法試験合格率が高い。だから、優秀な学生は予備試験を目指しがちであり、法科大学院制度に来てくれない。優秀な学生が来てくれないと司法試験合格率を上げられない、つまり法科大学院にとって予備試験制度は敵である。だから法科大学院が生き残るために、予備試験を何とかしてください、はっきり言えば制限してくれ、できれば廃止してください、ってことだ。
ケチをつけるなら、もともと法科大学院だって入試を行って、法曹になれる可能性のある学生を選抜しているはずだ。だから、仮に優秀な学生が予備試験に合格して中退していっても、残された学生だって、もともと法曹になれる可能性のある学生として入試で選抜されているはずだから、きちんと教育してやれば司法試験に合格させるだけの力を身につけさせることができなければおかしい。優秀な学生が来なければ合格者を増やせないというのは、自らの教育能力のなさを自認するに等しいとても恥ずかしい主張のはずだ。
それはさておき、司法制度改革の目的は、質・量とも豊かな法曹を生み出すのが目的であり、法科大学院制度はその手段として想定された。これは、いくら法科大学院万歳の学者先生であっても認めてざるを得まい。
そうだとすれば、手段は重要ではない。要は、目的さえ達成できていればいいのである。
予備試験が現状通りであっても、質・量とも豊かな法曹が生み出されているのであれば、何の問題もない。再度述べるが、目的が達成されているのであれば、手段はどうだっていいのである。
法科大学院が何とかの一つ覚えのように振り回す、「プロセスによる教育の理念」だって、プロセスによる教育が優れている、優れた結果を出せるという証明は何一つなされておらず、実際には法科大学院側の学者が、そのように言いつのっているだけなのだ。
私の知る限り、プロセスによる教育が法曹に必須であるなどという主張に、何の根拠もないのである。
何の根拠もないプロセスによる教育理念に縋り付き、それを振り回して現実を見ようせず、さらには法科大学院制度維持のために意固地に予備試験の制限すら求める学者先生から、プロセスによる(ある程度の長期間かかる)教育を施された法科大学院生に、他人に共感する力や豊かな人間性が身につくのだろうか。
私は、むしろ疑問に思う。
いつも言っているように思うが、学者の先生方には、本当にプロセスによる教育が法曹養成にとって必須なのかについて、はっきり示してから、「法曹教育にはプロセスによる教育が必須であり、だから予備試験ではその点で問題がある」と、堂々と主張していただきたいものだ。
単に(正しいかどうか証明されてもいない)理念に反する、というのでは理由にならないはずだ。
理念に反していても、目的を達成に役立つならそれは有用なのである。理念に沿っていても目的達成に役立たない制度ならそれは無用の長物なのだ。
今では、プロセスによる教育課程を経ていない予備試験ルートの法曹実務家はすでにたくさん世に出ている。
もし本当にプロセスを経ていない予備試験経由の法曹に、なんらかの問題が生じているのなら、その事実を簡単に証明できるはずだ。
但し、現実には、ずいぶん前から大手事務所が競って予備試験ルートの合格者を採用しようとする態度を続けているし、予備試験ルートの司法修習生が裁判官、検察官に多く採用されている事実からみても、私には、予備試験ルートの法曹に特に問題があるとは思えない。
それどころか実務界では高く評価されているといってもいいだろう。
この私の評価が正しければ、結局プロセスによる教育は法曹養成に必須ではなく、したがって、法科大学院制度自体が不要、ということになると思う。
上記のような現実を知っていて、なお、法曹養成には法科大学院におけるプロセスによる教育が必須であると主張しているのであれば、法科大学院を維持することだけが目的となった、学者先生(もしくは利害関係者)による身勝手なド厚かましい主張といわざるを得ないだろう。また、知らないのであれば、法科大学院等特別委員会の委員たる資格はないだろう。
国民の皆様も、必要も効用もない制度に多額の税金を投入されるのは、もうごめんだとお考えになると思うんだけどなぁ・・・。