小さいツバメ

 数年前まで、毎年春になると近所の喫茶店のテントの内側で、ツバメのつがいが子育てをしていた。

 テントといっても、キャンプなどで使うものではなく、お店の入り口でお店の名前などを入れて宣伝がてら、お客が雨に濡れないようにしているテントである。

 テントの構造や、喫茶店が営業しているときは人の出入りが激しいので、天敵のヘビやカラスが来ないのだろう。ずいぶん前から毎年、子育てをしている姿を見ることができた。お店の方も、お客への注意書きや、フンが落ちないような受け皿を作るなどツバメを大事にしている様子がうかがえた。。

 ところが、子育て上手のつがいが引退したのか、ここのところ春になっても、ツバメが子育てに来なくなっていた。確か一度、つがいがやってきて以前よりも形の悪い巣を作ったが、あいにく大雨に遭ってしまい巣が落ちてしまったことがあった。それ以降は、ツバメが巣作りをすることもなく、私は、何となく寂しい思いをしていた。

 ひと月ほど前、ジョギングの帰りにテントを覗いてみると、2羽のツバメが、寄り添うようにテントの内側で眠っていた。
 この場所に戻ってきたということは、少なくともどちらかは、以前ここで育ったツバメなのだろう。

 この2羽がつがいならば、新たな巣作りをするかもしれない。私は、少し期待をしていた。

 ところが、2羽で眠っていた姿を確認できていたツバメが、数日ほどで突然姿を見せなくなった。その後何度か覗いたが、やはりツバメはいなかった。

 ところが1週間ほど前に、未練がましい気持ちでテントの内側を覗いてみると、ツバメがいた。

 だが、眠っている姿は、1羽だけだ。

 周囲には、子育てをしているツバメや、子育てを終えたツバメたちもいる中で、そのツバメは、おそらく自分が生まれ育ったテントの中で、一羽で眠っているのである。

 ツバメに何があったのか私にはわからない。一緒に寄り添っていた相方となぜ、どういう理由で一緒にいないのかもわからない。

 巣立ちを終えた若鳥や親鳥は、河川敷や葦原などに集まり集団生活をすると言われているが、この子はどうして集団を離れ一人でここにいるのか、その理由もわからない。

 ただ、私には、そのツバメが、なんだか、とても小さく見えた。

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