質 問 状
法科大学院協会特別顧問 奥島孝康 殿
前略
去る平成23年5月31日付朝日新聞「オピニオン~法科大学院は必要か」欄に掲載された、記事に関し、少なくとも奥島氏の発言内容と異なる記事が掲載されていないという前提で、法科大学院協会特別顧問奥島孝康氏に対し、失礼を顧みず、当職は質問させて頂きます。
法曹養成に携わる法科大学院協会特別顧問という奥島氏のお立場に鑑みれば、当職の質問に当然お答えいただく義務があると考えますが、仮に奥島氏がそう考えないとしても、全国紙に於いて御意見を公表されておられるのですから、本質問状にご回答頂くべきであると考えます。
なお、本質問については、到達後に当事務所(アドレス:www.idea-law.jp)内の当職のブログ(http://www.idea-law.jp/sakano/blog/index.html)に公開させて頂くものとし、奥島氏の回答もそのまま公開させて頂く予定です。希望があれば写しを配布することも考えておりますので、ご承知おき下さい。
お忙しい中恐縮ですが、回答につきましては6月20日までに頂戴できれば幸いです。
また、回答については、誤解を避けるため、法科大学院協会特別顧問としての立場での回答であるのか、奥島氏個人としての立場での回答であるのか明確にして頂ければ助かります。
1 ロースクール卒業生に対する司法研修所教官の意見について
「ロースクールを卒業した司法修習生」に関して、司法研修所教官が第34回司法試験管理委員会ヒアリングの概要において次のように述べていますが、法科大学院協会及び奥島氏としてその事実を把握しているのでしょうか。
・ ビジネスロイヤー志向が強く、刑事系科目を軽視している修習生が多いのではないか。
・ 口頭表現能力は高いと言えそうであるが、発言内容が的を射ているかというと必ずしもそうではない。
・ 教官の中で最も一致したのが、全般的に実体法の理解が不足しているということである。単なる知識不足であれば、その後の勉強で補えると思うが、そういう知識不足にとどまらない理解不足、実体法を事案に当てはめて法的な思考をする能力が足りない、そういう意味での実体法の理解不足が目立つ、というのが非常に多くの教官に共通の意見である。
2 1に関連する質問1の内容を当然把握されているとの前提で質問を続けます。
(当職もロースクール卒業生に優秀な人材が含まれていることを否定するものではありませんが、)大量に合格者を増加させた結果、司法修習生自体が「その後の勉強でも補えるレベルの知識不足ではない」と司法研修所教官が指摘する者が多数含まれる集団となったことが明らかになりました。そのような修習生の集団の大多数が弁護士となります。「その後の勉強でも補えるレベルの知識不足ではない」修習生が、知識不足のまま法律家になった場合、弁護過誤が発生する可能性がこれまで以上に高まる(特に現に存在する就職難から、いきなり独立する者が増加することが考えられ、その場合の危険度は更に高まると思われるが)と考えられることを、法科大学院協会及び奥島氏としてはどう考えているのでしょうか。
3 法科大学院の学生のレベルダウンのおそれに関する質問
また、第34回司法試験管理委員会ヒアリングの概要において法科大学院関係者が第1期は特に優秀な学生が集まったとコメントしているが、その特に優秀な第1期生でも司法研修所教官によれば質問2で記載したレベルの者が多いとされています。第1期に特に優秀な学生が集まったということは、今後法科大学院の学生の全体的レベルが下がることは明白であり、適性試験受験者が激減している現状ではさらに法科大学院の学生のレベルダウンは顕著になると考えられます。
① 当職は現に法科大学院教員の複数から、法科大学院の学生のレベルダウンが著しいと聞いたことがありますが、法科大学院及び奥島氏は、法科大学院の学生のレベルダウンが生じているか否かについて事実を把握しているのでしょうか。またその把握する手段はどのような手段なのでしょうか。
② さらに法科大学院進学を希望する者が激減している現在、法曹の質をどう維持していくつもりなのでしょうか。志願者が集まらない以上、法曹人口増加のペースをある程度抑制し、司法試験での競争の程度を高める以外に解決する方法はあるのでしょうか。
③ 法科大学院制度は、法律家を粗製濫造するための制度ではなく、質の高い法律家を多く輩出するための制度だったはずですが、司法研修所教官もあきれる程レベルの低い修習生が生じてしまったのは、端的にいえば法科大学院制度の失敗なのではないですか。
4 朝日新聞上での奥島氏の記事に関する質問1
① 奥島氏は「地方はまだまだ弁護士が少ない」と記事で書かれていますが、具体的にどの地方でどれだけの弁護士が不足しているのか、具体的根拠を示してご教示下さい。すでに多くの地方弁護士会から、弁護士過剰の報告が来ていることについてはどうお考えですか。
② 奥島氏は「地方では法的トラブルが発生しても弁護士が少ないため、ヤクザや地方の有力者に仲裁を頼んで紛争を解決する人がたくさんいます。」と記事で書かれていますが、具体的にどの地方のどなたがそのようなことをしていますか。また、そのような方々は弁護士に依頼しようとしてもどうしても依頼できなかった方々ですか。ご教示下さい。さらに、その「たくさんいる」人の住所・氏名を当職にご教示頂ければ、その困っている方々のお住まいの弁護士会会長に当職が責任を持って直接連絡し、きちんとした対処をお願いさせて頂きますので、是非ともご教示下さい(当職には職務上守秘義務がございますので他人に洩れることはございませんし、その方々の本当の救済にも役立つと思われますので是非お願いします。)。
5 朝日新聞上での奥島氏の記事に関する質問2
① 日弁連や各弁護士会が企業・官庁での新たな就職先確保のため様々な努力をしていることをご存じですか?その日弁連・各弁護士会の取り組みよっても企業内弁護士がわずかしか増加していない現状を、打破する効果的な施策があれば是非ご教示下さい。
② ちなみに当職の知り合いの企業内弁護士からは、とても弁護士大増員を吸収するだけの企業による雇用は見込めないと聞いていますが、奥島氏は記事の中で「企業内弁護士として企業が抱える法的リスクを未然に防ぐ分野ももっと開拓すべきです」と書かれています。企業・官庁の弁護士雇用が弁護士人口の激増に見合うだけ増加する見込みがあるかについて、何を根拠にどのように予測しているのか、具体的に示して下さい。
③ また、法科大学院が有用な教育をしており、かつ厳格な卒業認定を行っている以上、法科大学院卒業者は司法試験に合格しなくても法務担当者、法律知識ある者等として企業・官庁で争って採用されてもおかしくないと思いますが、司法試験に合格しなかった法科大学院卒業者を企業・官庁は争って採用している状況にありますか。その状況を具体的根拠を示してご教示下さい。
④ 法科大学院適性試験の受験者(すなわち法曹志願者)の延べ人数が、2003年の59393名から、今年の13329名(重複受験者を考慮すれば法科大学院志願者の実数は多くても8000人前後と考えられます)となっている理由はなんだとお考えですか。旧司法試験では合格率数%でも志願者が基本的に増加していたことと比較してお答え下さい。
6 朝日新聞上での奥島氏の記事に関する質問3
奥島氏は、「昔の予備校中心の法曹養成では自分の頭で考えることの出来る法曹が育たないから法科大学院を作ったのです。」と記事で述べられていますが、最新の新司法試験採点雑感に関する意見(特に奥島氏がご専門の憲法を例にとります。)によれば、以下の指摘が見られます。
「要求されるのは、パターン化した思考ではなく、事案についての適切な分析能力や柔軟な法解釈能力である」という意見、
「表面的・抽象的・観念的記述のもとで、あらかじめ用意してある目的・手段審査のパターンの範囲内で答案を作成しようとする傾向が見られる。」という意見、
「問題の内容を検討することなく、パターン化した答案構成をするものが目立った。」という意見、
「文章作成能力は法曹にとって重要かつ必須の能力であるが、この能力が要求される水準に達していない答案が多かった。中には、論理的一貫性や整合性に難点があるに止まらず判読自体が困難なものや文意が不明であるものも見受けられた。」という意見、
「(在外邦人選挙権訴訟は)立法不作為が違憲違法とされる要件についても重要な判断を示している。そのため当該判決に関しては、法科大学院の授業でも扱われていると思われるが、どう判決について意識しない答案が極めて多数に上った。」という意見、
「(問題文中にヒントがあるにもかかわらず)選挙権の行使が妨げられたことについて、立法不作為の意見を理由とする国家賠償請求訴訟の可能性に全く言及しない答案も相当数にあった。」という意見、
まとめとして「法科大学院では、審査基準(三段階審査とか比例原則という言葉)の定型的・観念的使用を戒めるとともに、それらの内容の精確な理解(問題点を含めて)を学生に深めさせる教育が求められる。」という意見があります。
以上の意見からすれば、法科大学院卒業の新司法試験受験生でも、その多くが基礎的知識に問題があるばかりか、自分の頭で考えることが出来ているとは到底思えない指摘がなされていますが、この点については如何お考えですか。
7 朝日新聞上での奥島氏の記事に関する質問4
① 奥島氏は、事前規制型の行政国家から事後救済型の司法国家へというのが司法制度改革の理念であったと述べておられます。弁護士人口増大は実現されましたが、民事法律扶助の飛躍的拡充や、民事司法制度の改革、裁判官・検察官の大幅増員、司法予算の大幅拡充など、司法国家に向けた制度がほとんど実現されていない現状について如何お考えですか。司法予算も増やさず、救済のための法整備も不十分な状態なのに、弁護士人口増大だけで司法制度改革の目指した事後的救済型司法国家が実現できるのでしょうか。
② 諸外国との比較において、我が国固有の隣接士業(税理士・弁理士・司法書士・行政書士など)の存在を敢えて無視して記載されているのはなぜですか。
③ 最高裁判所事務総局が1996年時点での、法曹一人あたりの民事第一審訴訟件数(法曹が一年間にどれだけの民事訴訟を担当するか)を比較調査した結果、次の通りだったとのことです。
フランス 31.2件
イギリス 28.3件
ドイツ1 8.9件
アメリカ 16.2件
日本 21.4件
訴訟の手間にもよりますが、法曹一人あたりの民事訴訟の件数から判断すると、既に1996年時点で日本には諸外国と比べても、民事訴訟を十分担うだけの法曹(弁護士)が既に存在していたことになります。なお、1996年から現在まで弁護士はおよそ2倍に増加していますが、このデータについてはどうお考えですか。
以上の質問に対するご回答を、よろしくお願い致します。
草 々
平成23年5月31日
〒530-0047
大阪市北区西天満4丁目11番22号阪神神明ビル901号
イデア綜合法律事務所弁護士 坂 野 真 一
電 話 06-6360-6110
FAX 06-6360-6120
※ なお当質問書の送付は、当職独自に行うものであり、当事務所の他のいかなる弁護士にも関係はございません。
以上の質問状が6月2日に相手方に届きましたので、公開致します。
回答が楽しみですね。
法科大学院協会特別顧問奥島孝康氏が、でまかせを言うとは思えないので、奥島氏が朝日新聞紙上で「地方では法的トラブルが発生しても弁護士が少ないため、ヤクザや地方の有力者に仲裁を頼んで紛争を解決する人がたくさんいます。」と言う以上、そのような方からの直接の苦情や申入れがたくさん奥島氏に届いていることでしょう。その方々の連絡先を教えて頂ければ私の方で、責任を持って各弁護士会の会長宛に善処するよう申入れさせて頂きます。
回答が頂ければ、このブログに掲載致します。