ゴルフのこと~4

 不名誉部長に任命されたどころか「マリオネットS」という有難くない徒名まで頂戴して、さすがにS弁護士も、熟成理論にこだわっていることが出来なくなってきた。

 部長と呼ばれ、マリオネットのようにOBを打ちまくり、顔で笑って心で泣き、秘かに屈辱に堪え忍ぶ日々を送っていたS弁護士であった。
 しかし、2015年1月7日のIS田会、「大宝塚ゴルフクラブ」で前半63,後半83、合計146(もちろんパー72である。)と驚異のスコアをたたき出してしまったことをきっかけに、これまですがっていた熟成理論をうち捨て、ついに打ちっ放しに練習に行ってみることにしたのだ。

 新生S弁護士(ゴルフに前向きver.)の誕生である。

 しかし、練習に行ったからといって、身体が入れ替わるわけではなく、能力がすぐに身につくわけでもない。つまり、心を入れ替えて練習に励むつもりで臨んでも、直ちにクラブにボールがきちんと当たってくれるほどゴルフは生やさしいものではない。

 張り切って真冬の練習場に乗り込んだものの、打ちっ放しに敷いてある人工芝を通して、コンクリートの床をドン!・ガン!とぶったたく、まるで道路工事のような騒音を立てる練習となった。
 あまりの音に、S弁護士の近くで練習していた人が2階の打席に移動したくらいだった。冷え切った固いコンクリートの床と戦い、悴む手を温めながら騒音を立て続けるS弁護士も自分の手首に痛みを感じていた。
 ボールはやっぱり、まともには飛んでくれない。
 たまに早めに帰宅できた日には、寒い中を震えながら、2時間ほど練習場に通ってみたものの上達する気配は全くない。

 やはり、不名誉部長の返上は適わないのか・・・・。
 打球を打ってはいけない方向をささやかれ、その悪魔の囁きにあらがえず、悪魔の期待通りに囁かれた方向に打ってしまい、肩を落としながら悲嘆に暮れるS弁護士の後ろで、同伴者達が交わし合っている(と思われる)楽しそうな笑みが目に浮かぶ。
 そもそも、IS田教授なんかレッスンプロに習っているくせに、部長制度を創るなんて狡いじゃないか。などと、自らがゴルフレッスンをやめたはずなのに、八つ当たり的な発想もS弁護士の脳裏をよぎる。

・・・・・悔しい・・・。

 全然あかんわ~と、ゴルフ歴の長い友人のM弁護士に愚痴ったところ、「やっぱ、コースに出なあかんで。」とのこと。
「練習場ではあかん?」
「そりゃあ全然違うはずやで。練習も必要やけど、どんどんコースに出なあかんわ。」

 何事にも先達あらまほしきものなれ。
 経験者の言葉は傾聴に値するものだ。
 それならばコースに出てやろうではないか。

 かといってゴルフは、基本4人一組、どんなに少なくても2人一組で回るもの。なかなか1人でというわけにはいかない。
 さりとて、同期の弁護士たちはとっくの昔からゴルフをやっていて、大差が付いている。しかも弁護士という人種は基本的にはわがままだから、下手すぎる人と一緒に回ることを嫌がる奴もいるし、寒い冬や暑い夏はゴルフをやらない人も多い。
 くどいようだが、S弁護士の直前のスコアは146。このスコアで「下手ではない」と主張しても裁判では、「原告の主張は客観的な証拠に沿わない独自の主張と言うべきであって、当裁判所の認定を左右しない。」とあっさり下手くそ認定されるはずである。しかも、今は冬である。

 思案に暮れていたS弁護士だが、インターネットによれば、1人でもゴルフをしたい人を集めてゴルフをさせてくれる、1人予約という便利な制度があることが分かった。

 子細に見てみてみたが、少なくとも、「下手な人はお断り」とは書いていない。
 ということは、不幸にもS弁護士と同じ組になって、S弁護士の秘奥義「無念芝刈り斬~球飛ばずver.」等の珍プレーを見せつけられたとしても、それは制度の問題であってS弁護士のせいではない。

 かの宮本武蔵だって、他流試合で実力を付けたと書いてあったような気がするし、仕事柄、初対面の人と話すことは、苦にしないほうだ。

これだ。
やってみよう。

 物事には、いつかやろうと思っていても、「いつか」なんて来ないこともある。やろうと思ったら多少無理してでもやっておいた方が後悔は少ないというのがS弁護士の持論である。
 S弁護士は、20歳代で中学の友人を2名、大学のクラブの友人を1名、事故で亡くしており、さらに40歳代大学の同級生の友人・知人を既に2名ほど食道癌で亡くしているので、その思いは比較的強い方だと思う。

 思い起こせば、高3のときに、好意を抱いていた同級生に告白して轟沈したが、それも今となっては、良い想い出になっているではないか。

よくやった、そのときの俺!
人生なんて、所詮うたかたの夢、邯鄲の夢枕。いつ終わっちまうか分かったものではない。
よし、やってみよう。

と、たかがゴルフの予約を入れるのに、散々自分を鼓舞したうえで、S弁護士は緊張する手で日曜日の1人予約を入れたのであった。

やると決めたんだ、やってみよう。

(続く)

中学生にも分かる新自由主義3

中学生にも分かる新自由主義3
菊池英博著「新自由主義の自滅」(文春新書)を教科書として

O:トリクルダウンとは、もともと「滴り落ちる」、という意味なんだ。富裕層に富を集中させれば富裕層がどんどんお金を使ってくれるから、世の中にお金がまわり、中間層以下の人々はその「おこぼれ」に預かれる。その結果、経済が活性化して万事うまく行く、そういう理屈なんだ。富裕層に富を集中させるには、所得税と法人税を減税して、これまで大きい政府のために集められていた税金を政府ではなく富裕層に集中すればいい、という考えさ。トリクルダウン「理論」と言われているが、歴史上そのようなことが起きたことはないようだし、現実には誰もそのようなことが起きるか分からないから、実際には理論というより学者が言い出した単なる仮説に過ぎないのだとの指摘もあるけれどね・・・・。

N:ちょっと待って下さいよ。それ、何かおかしくないですか。お金持ちを更にお金持ちにしたらみんながハッピーになれるんですか?お金持ちのところにお金が集まったら、他の人はそれだけ貧乏になっちゃうんじゃないですか?会社だって従業員にたくさん給料を払ったら、儲けが減りますよね。納得いかないなぁ。
それに、政府に税金としてお金が入っていれば、そのお金は、いずれみんなのために使ってくれそうだけど、お金持ちにお金が集まっても、そのお金を、お金持ちは確実にみんなのために使ってくれるんですか?
僕なら、自分のためにしか使わないかもしれないなぁ。
それに、おこぼれってのが一番嫌だなぁ。プライドが傷ついちゃう。

O:N君はお金の話になると元気が出るな。それに正直だ(笑)。まあ、おこぼれはともかく、トリクルダウンとはそういう理屈(仮説)さ。

N:う~ん、トリクルダウン理論って怪しい気がしますよ。僕の印象からすれば、その昔、王様や貴族が富を圧倒的に握っていた時代に、一般人が経済的に豊かでハッピーだったとは到底思えないんですけどね。現代なら、そして、企業活動が自由になれば、それが可能になるんでしょうか。本当に学者が、そんな理屈を言い出したんですか?

O:まあ、これは経済に関する仮説のようだし、素直に考えればN君の疑問はもっともだ。でも、新自由主義者は確かにトリクルダウン理論を主張していたようだよ。それだけじゃない。所得税の減税を正当化する理論として「ラッファー理論」も用いられているとの話もある。

N:また理論ですかぁ。変な理屈じゃないといいんだけど。今度は、一体どんな理論なんですか?

O:簡単にいえば、最適な税率を設定することにより政府は最大の税収を得ることができるという理屈だね。

N:よく分かりませんが。

O:そうだね。例えば、税率0%だったら政府に税金の収入はないよね。そんな国で生活したいかい?

N:そんなの当たり前ですよ~。税金がかからないってことですから。

O:でも、政府にお金が無いとしたら、警察も消防も動かないかもしれないよ。道路も管理されないだろうし、犯罪者がいても誰も咎められないかもしれない。ゴミの収集だってできない。揉め事が起こっても裁判することもできない・・・・。

N:あ、そうか。それは嫌だなぁ。やっぱりやめておきます。多少税金がかかっても、ちゃんとした国に住みたいです。

O:では、税率100%の国があったとしたら、そこに住んでみたいかい?

N:税率100%ってことは、一所懸命働いても、全部税金で持って行かれるということですね。働くだけ損じゃないですか。滅相もない。お断りです。もしそんな国に生まれたら、「働いたら負け」って感じがしちゃいますね。

O:ちょっと極端な例だったけど、そのようなことから、0%-100%のうちのどこかに、最大の税収を得られる最適な税率があるはずだと考えるんだね。そして、もし現在の税率がその「最適な税率」を超える水準にあるのであれば、減税によって税率を「最適な税率」にすることで、税収を増やすことができるとする。とても簡単にして言えば、「減税したら人はやる気を出してもっと働くので、税収が増える」との考えで、所得税減税の理屈として使えるのさ。

N:本当かなぁ。自分で商売している人ならともかく、サラリーマンがやる気を出して働いても働いた分だけ給料が上がるとは限らないような気がしますが。仮にラッファー理論が正しいとすれば、逆も言えますか?「やる気を失わない程度の増税は税収が増える」とか。

O:当たり前だけど(笑)、そうも言えるだろうね。ただし、ラッファー理論はアメリカのレーガン政権下で減税の理屈として用いられたといわれている。レーガンの前のカーター政権のときは、個人の所得税は14~70%、法人税の最高税率は46%だったそうだ。レーガンはその税率を下げていき、個人の所得税の最高税率を28%まで下げ、法人税最高税率も34%に下げるなど、大胆な減税を行ったそうだ。

N:うわ~、70%から28%ですか!10億円儲けた人の税金が7億円から2億8000万円に減るんだ。4億2000万円もお得ですよ。出血大サービスじゃないですか。それで、それで?
  税収は増えたんですか?

O:累進課税だから、そう単純な計算にはならないけどね。さて肝心の税収の方なんだが、この減税によってアメリカの税収は激減したといわれている。

N:なにそれ・・・。大失敗じゃないですか。とすれば、ラッファー理論によれば、減税前の税率だって、最適な税率を超えていなかったことになりますよね。失敗したのなら、どうして税率を戻さないんでしょうか。都合のいいところだけラッファー理論を使っているように感じちゃいますね。

O:アメリカの事情には詳しくないけど、一般に増税は選挙の際にはなかなかプラスに働かないからね。一旦下げた税率を上げていくのは相当難しいのかもしれないね。君だって一度下がった税金がまた上がるのは嫌だろう?消費税を上げると言っていても、選挙の前に増税は延期しますといってくれる政党があったら、支持したくなるだろ(笑)。

N:確かにそうですね、最近どこかの国の選挙で聞いたような気もしますが(笑)・・・・・。でもそれだと、まずいんですよね。税収が激減したんだから・・・・。国はどんどん借金が増えることになるんですよね。結局、国の借金が増えて、その中で一番得したのはお金持ちってことになるのかな・・・。
 あ、そうだ。さっき言ってたトリクルダウン理論はどうなったんですか。富裕層の最高税率を下げたんだから、トリクルダウンからすれば経済がうまく回ってみんなが豊かになるんでしょ。

O:ところが、トリクルダウン理論は機能しなかったといわれている。アメリカの財政収支は大幅な赤字に陥った。

N:げー、最悪じゃん。

(不定期ですが、連載する予定)

中学生にも分かる新自由主義2

中学生にも分かる新自由主義2
菊池英博著「新自由主義の自滅」(文春新書)を教科書として

N:前回、フリードマンのお話を聞きましたが、実際の新自由主義はどんな感じになっているのですか?
O:う~ん漠然と新自由主義の「感じ」を聞かれてもね~。そうだ、新自由主義というイデオロギー(思想)を支えるキーワードをきちんと見ていくと、はっきりするかもしれないね。

N:支えるキーワード?
O:新自由主義がどういうものを目指しているのか分かりやすい部分もあるからね。主なものを言うと、「市場万能主義」「小さい政府」「緊縮財政」「トリクルダウン」「フラット税制」「累進課税の廃止」「福祉国家の否定」「金融万能主義(マネタリズム)」「規制緩和」「財政政策の否定」等があげられそうだ。

N:うう。いきなり難しくなっちゃった。本当に中学生にも分かる話なんですか?看板を疑っちゃうなぁ。でも「規制緩和」は聞いたことがありますよ。「小さい政府」も何となく分かる気がします。「福祉国家の否定」は何となく、やばそうな感じを受けますね。他は分かりにくいですね~。なんだか眠くなりそうだ。今日は帰っていいですか?
O:まあ、そうびびるなよ。君たちの年代じゃあ、背伸びして難しい言葉を使いたがる奴もいるんだろ?全てが分からなくても良いんだから。順を追って説明していこうか。

O:最初に「市場万能主義」、これがフリードマンの基本理念とされている。簡単に言えば、自由に商売させれば経済が最もうまく回るという考えだ。経済活動の中心である企業にどんどん自由に活動させれば、失業問題だって解決すると考える。とにかく企業活動を自由にさせることが一番大事で、そのためには様々な規制は緩和していくべきだし、企業を減税して、企業を強くすればいい、と考える訳だね。
N:う~ん。会社がどんどん活発になれば確かに活気づくような気がしますね。その点では正しそうな気がしますが。

O:じゃあ、企業活動が自由になると、良いことづくめと言って良いだろうか?そもそも会社というものは、法律上は営利社団法人といって、儲け(営利)を目的としている団体なんだ。それをヒントに考えてごらん。
N:え~っと、そうですね。まず、世の中は会社務めの人ばかりじゃないですよ。学校の帰り道にある本屋も、最近閉めちゃいましたよ。そこのおばちゃんが、「ネットで買えちゃうんで本が売れなくなっちゃったからね・・・」と寂しそうに言ってました。こんな人どうすればいいんでしょうか。
 それに、全て会社の自由にさせて儲ける競争をさせたら、それこそ、この間の産地偽装のように儲けが全て、儲かるなら多少ズルをしてもいいって感じになってしまうかもしれませんね。仁義なき戦いって奴ですか(笑)。
 会社が儲けるために安い給料でこき使われる人も多く出てきそうですね。

O:さらに、活動をどんどん自由にして企業に儲けさせておきながら、その企業を減税したらどうなるだろうか。
N:え~と、新自由主義には、さらに会社の減税もあったんですよね?儲かっていても会社が減税されるってことは、会社は税金をちょっとしか払わなくていいってことですよね。会社は儲かるから、会社のオーナーは嬉しいでしょうね。
 ん?でも待てよ、確かこの間学校で、日本の国の税収は、所得税15%、消費税15%、法人税10%位だって聞いたように思いますよ。法人税も儲かった会社からじゃないと入らないと聞きました。それでも日本では税金が足りなくて国債を出しているんでしたよね。
 儲かっている会社が税金を支払わないでいいとしたら、だれが税金を払うんでしょうか。税金が足りなくなりませんか?

O:そこで出てくるのが、「小さな政府」「緊縮財政」論だ。規制を緩和して企業に自由にやらせることによって全てがうまく行くのなら、政府が財政政策といって公共事業で仕事を創り出してあげる必要はないし、政府はできるだけ小さくして、政府の支出もできるだけ少なくしようという話だね。
N:「小さな政府」は、分かる気がします。政府を小さくするんですよね。おっきな政府にすれば公務員の給料がたくさんかかるから、政府は小さくても良いような気がしますね。うちの親父なんか、公務員になれば良かったかなぁ~、なんてぼやいていたりしますけど(笑)。それに日本の国の借金は凄いらしいから政府の支出も少なくなれば、それでいいんじゃないですか?

O:そう簡単な話にはならないので問題なんだ。小さな政府と緊縮財政は政府機能と政府支出を縮小させることになるから、不景気になって仕事がないときに公共事業を使って仕事を増やしたりすることはできないし、社会保障の否定にもつながりかねないとの指摘もある。

N:そもそも社会保障って何となくは分かるんですけど、あまり実感わかないですね。
O:社会保障とは、難しく言うなら、最低生活の維持を目的として、国民所得の再分配機能を利用し、国家がすべての国民に最低水準を確保させる政策をいう、とされているよ。具体的には、日本の社会保障体系は、社会保険(医療、年金、雇用、災害補償、介護)、児童手当、公的扶助、社会福祉、公衆衛生、戦争犠牲者援護などからなると言って良いだろうね。年をとった人への年金、障害を受けた人への年金、離婚した母子家庭への援助、失業保険、健康保険など無くなったら困る人が大勢出てくるはずだ。
N君だって、病気になって病院に行ったことあるだろう?そのとき、病院にいくら払ったか覚えているかい?

N:ええっと、この間体調が悪かったときにお医者さんに見てもらいました。確か、体温を測って、5分くらい診察受けて、「風邪ですね。」って言われて多分1500円くらいでしたよ。
O:健康保険は小学生から70歳未満までは確か、3割が個人負担だから、本当の診療費は5000円なんだね。健康保険制度がなければN君は5000円支払う必要があったってことになる。健康保険制度があって、君のお父さんがちゃんと保険料を納めているから1500円で済んでいるのさ。
N:5000円なんですか!お医者さんに診てもらうのは本当は高いんですね。風邪で5000円支払うくらいなら、我慢しちゃうかもしれませんね。そういえば、再放送されていたアニメの「母を訪ねて三千里」でマルコが友達をお医者さんに診てもらおうとするんだけど、お金がないからといって断られていたのを思い出しましたよ。もし、健康保険が無くなったら、お金持ちしかお医者さんに診てもらえないことになるかもしれない・・・・マルコの時代に逆戻りですか?

O:このように社会保障制度は、多くの人にとって大事なものと言えるだろう。この社会保障制度を否定してしまったとするなら、いざというときに国は何にもしてくれなくなるということにもなりかねない。
N:う~んそれは、いけない気がします。困りますよ。僕だってお菓子を買ったら、いやいや消費税払ってますけど、せっかく税金払っていても、いざというとき何にもしてくれないのなら、他所の国に行きたくなりますもん。
O:オーバーだなぁ。大人になると(働き出すと)消費税だけでは済まないんだぜ(笑)。
 話を元に戻すけど、新自由主義論者の「小さな政府」論は、さっき出てきた「市場万能主義」を実現するために政府の機能を小さくして、企業や富裕層から取る税金を減らして、社会保障制度を否定すればいいという主張(福祉国家の否定の主張)にもつながると指摘されている。それでも、新自由主義論者は市場万能主義が実現出来れば、富裕層に富が集中して経済が成長するから、結果的に国家が栄えるはずだと唱える。

N:え~!本当かなぁ。経済が成長したとして、お金持ちはどんどんお金持ちになるから良いんでしょうけど、社会保障が無くなったら普通の人は困りますよね。「小さな政府」でも大丈夫なくらいみんなが栄えるんでしょうか?
O:そこで、新自由主義者が唱えているのが、お金持ちを、もっともっとお金持ちにした方が国が栄えるからいいんだ、という「トリクルダウン理論」だ。

N:トリクルダウン・・・理論?変な名前。
O:変な名前かどうかは人それぞれだけど(笑)、なかなか興味深い理屈だよ。

(続く~不定期ですが連載の予定)

ゴルフのこと~3

 IS田会に入れてもらってしばらくは、IS田教授に指定されたゴルフ場で月一回ラウンドすることが恒例となった。
 相変わらず、ゴルフの方は空振りも交えてカス当たりばかりだし、7Iで打ってもPWで打っても距離が変わらない状況だったが、以前と違って、広々としたゴルフ場で休日を過ごすことが意外に心地よいものであることに気付いた。人工的な自然であることに間違いないが、休日に高原の中で力いっぱいクラブを振り回し、グリーンを行ったり来たりして汗をかくことは、デスクワークのストレスを解消してくれる面もあることが分かってきた。

 IS田教授からは、練習した方が良い、とのお話もあったが、S弁護士はもともと健康のために始めただけで、そんなに真面目に取り組んでいなかったこともあり、独自の理論を練習しない言い訳にしていた。

 S弁護士独自の理論は、名付けて「熟成理論」。
 若いワインも放置しているうちに芳醇な香りを放つように、ぼちぼちでもゴルフをやっていりゃあ、そのうち、だんだんスコアが縮んで来るはずだ。という極めてお気楽かつ楽観的な理屈だった。

 別にスコアにこだわるわけでもなく、逆に上手くなったら運動量が減って本来の目的に反する可能性だってある。そういうわけで、スコアなんて別にいいじゃんと当初、S弁護士はそう思っていた。

 大体この頃の、スコアは記憶によれば、S木先生が110前後、IS田教授が110~120前後、S弁護士が140~というもので、それはもうひどいものだったと、今にして思う。

 ところが、ある日、IS田教授は、「スコアが一番悪かった人を部長に任命し、部長と呼びましょう。」と、勝手に決めて宣言したのだ。
 この状況で、ジャンケンならともかく、ハンディもなしでスコア順できめるなんて、まさに仮の評価基準、完全な出来レース、結果が見え見えのコンコンチキである。
 誰が不名誉な部長に就任するかは決まりきっているではないか。
 実質は、20打数以上差がつくS弁護士に対して、IS田教授から直接に「S弁護士を不名誉部長に任命する!」との辞令を交付されたも同然である。

 これはS弁護士に練習させようという親心なのか?それとも、単にS弁護士を嘲笑するための罠なのか?それとも、いぢると面白い(らしい)S弁護士を、更にいぢろうとする娯楽なのか?
 教授の真意は、穏やかな微笑の裏側に隠れ、凡人のS弁護士には見通せない。

 しかもゴルフとは不思議なもので、この方向に打ってはいけないと思えば思うほど、そちらに打球が飛んでいったりするものなのだ。
 IS田教授はそのあたりの心理も熟知しておられて、S弁護士がティーグラウンドに立つと、優しく穏やかな声で、「Sさん、谷がありますね~」とか「Sさん、池が見えますね~」とか、「Sさん、右はOB浅いから気をつけてね~」等と、有り難く注意をしてくれたりもする。
 当然S弁護士は、そちらの方には絶対に打つまいと、心に念じてクラブを振る。

「ちきしょう、その手にはのらね~ぞ。絶対にそっちには打たん!絶対ナイスショットしてやる。この一打に一片の悔い無し!燃えろ~俺のコスモ~!!どうりゃあ~~!!」

 「ペチッ!」

 魂の叫びとは裏腹に、変な音を残して、S弁護士の打球は、谷へ、池へ、OBゾーンへと、まるで操られたかのように飛び込んでいく。S木先生も見ていて面白かったのだろう。同じようにご注意下さるようになった。

 そこで付いたあだ名が、「マリオネットS」。

 自由に動けない操り人形の悲哀を、齢50にしてゴルフ場で味わうことになろうとは夢にも思いませなんだ。

(続く) 

ゴルフのこと~2

(続き)

「HbA1cが高めです。」

とかかりつけのお医者様が、血液検査の結果を睨みながら冷たくS弁護士に宣った。
血糖が高いとそうなるらしい。

う~ん、そうなのか。S弁護士の頭の中では、原因探求が始まる。

確かに仕事のストレスはある。
不規則な生活になりがちだ。
9~17時の定時勤務なんて絶対に無理なのは、弁護士稼業をしていれば誰だって分かることだ。
弁護士をやめない限り、これは変えられまい。

両親も糖尿の気があるそうだし、遺伝的にも弱いのかもしれん。

でも納得いかんぞ。

夕食にはだいたい野菜をかなり食べるようにしている。
通勤時だって早足で歩くよう心がけている。

もともと飲めないタチだから酒も飲まないし、タバコも吸わない。この歳になると、ねーちゃんの機嫌とるよりも犬とのんびりしたいくらいだから(飼ってないけど・・・)、北新地で遊んだりもしない。
個人の感想らしいが、毎日一杯で健康が劇的に改善すると謳っていた、まずい青汁だって、嫌々だが毎朝事務所で飲んでいる。
・・・宗教には入っていない。

とS弁護士が考えていたところにお医者様が「運動ですな。有酸素運動、例えば歩くとか。」と仰った。

単純に歩くなんざ、面白くも何ともないぜ。絶対に続かないだろうな~。と意外にも、冷静に自己分析のできるS弁護士には、みえみえの結末がすぐ浮かぶ。

なんとか、自分から運動するように持ち込めないか。

そういえば、将棋の大山康晴15世名人も体調を崩されてから、ゴルフを始めて、どんどん歩き、体調を回復させたことを何かの本で読んだことがあった。
大山名人と言えば、将棋界の第一線に長らく君臨し続けてきた巨星。
その巨星が健康維持のために活用したのなら、凡人のS弁護士にだって、健康維持になりそうである。
しかも、将棋ファンのS弁護士は、倉敷に行ったときに大山名人記念館を見学し、職員の方に珈琲をご馳走になってしまい、そのまま帰れずに、谷川九段のファンであるにも関わらず、つい大山名人の扇子を買って帰ってきてしまったという経緯もある。

よ~し、これだ。

幸い、以前からお付き合いさせて頂いているIS田教授が最近ゴルフを始めていると聞いていた。
伺ってみると、なんとプロについて習っているらしい。それに、公認会計士のS木先生と一緒に、月一ラウンドをしているそうではないか。

IS田会に入って、血糖値を下げよう!

これがゴルフ再開のきっかけになった。

(続く)