中学生にも分かる新自由主義2

中学生にも分かる新自由主義2
菊池英博著「新自由主義の自滅」(文春新書)を教科書として

N:前回、フリードマンのお話を聞きましたが、実際の新自由主義はどんな感じになっているのですか?
O:う~ん漠然と新自由主義の「感じ」を聞かれてもね~。そうだ、新自由主義というイデオロギー(思想)を支えるキーワードをきちんと見ていくと、はっきりするかもしれないね。

N:支えるキーワード?
O:新自由主義がどういうものを目指しているのか分かりやすい部分もあるからね。主なものを言うと、「市場万能主義」「小さい政府」「緊縮財政」「トリクルダウン」「フラット税制」「累進課税の廃止」「福祉国家の否定」「金融万能主義(マネタリズム)」「規制緩和」「財政政策の否定」等があげられそうだ。

N:うう。いきなり難しくなっちゃった。本当に中学生にも分かる話なんですか?看板を疑っちゃうなぁ。でも「規制緩和」は聞いたことがありますよ。「小さい政府」も何となく分かる気がします。「福祉国家の否定」は何となく、やばそうな感じを受けますね。他は分かりにくいですね~。なんだか眠くなりそうだ。今日は帰っていいですか?
O:まあ、そうびびるなよ。君たちの年代じゃあ、背伸びして難しい言葉を使いたがる奴もいるんだろ?全てが分からなくても良いんだから。順を追って説明していこうか。

O:最初に「市場万能主義」、これがフリードマンの基本理念とされている。簡単に言えば、自由に商売させれば経済が最もうまく回るという考えだ。経済活動の中心である企業にどんどん自由に活動させれば、失業問題だって解決すると考える。とにかく企業活動を自由にさせることが一番大事で、そのためには様々な規制は緩和していくべきだし、企業を減税して、企業を強くすればいい、と考える訳だね。
N:う~ん。会社がどんどん活発になれば確かに活気づくような気がしますね。その点では正しそうな気がしますが。

O:じゃあ、企業活動が自由になると、良いことづくめと言って良いだろうか?そもそも会社というものは、法律上は営利社団法人といって、儲け(営利)を目的としている団体なんだ。それをヒントに考えてごらん。
N:え~っと、そうですね。まず、世の中は会社務めの人ばかりじゃないですよ。学校の帰り道にある本屋も、最近閉めちゃいましたよ。そこのおばちゃんが、「ネットで買えちゃうんで本が売れなくなっちゃったからね・・・」と寂しそうに言ってました。こんな人どうすればいいんでしょうか。
 それに、全て会社の自由にさせて儲ける競争をさせたら、それこそ、この間の産地偽装のように儲けが全て、儲かるなら多少ズルをしてもいいって感じになってしまうかもしれませんね。仁義なき戦いって奴ですか(笑)。
 会社が儲けるために安い給料でこき使われる人も多く出てきそうですね。

O:さらに、活動をどんどん自由にして企業に儲けさせておきながら、その企業を減税したらどうなるだろうか。
N:え~と、新自由主義には、さらに会社の減税もあったんですよね?儲かっていても会社が減税されるってことは、会社は税金をちょっとしか払わなくていいってことですよね。会社は儲かるから、会社のオーナーは嬉しいでしょうね。
 ん?でも待てよ、確かこの間学校で、日本の国の税収は、所得税15%、消費税15%、法人税10%位だって聞いたように思いますよ。法人税も儲かった会社からじゃないと入らないと聞きました。それでも日本では税金が足りなくて国債を出しているんでしたよね。
 儲かっている会社が税金を支払わないでいいとしたら、だれが税金を払うんでしょうか。税金が足りなくなりませんか?

O:そこで出てくるのが、「小さな政府」「緊縮財政」論だ。規制を緩和して企業に自由にやらせることによって全てがうまく行くのなら、政府が財政政策といって公共事業で仕事を創り出してあげる必要はないし、政府はできるだけ小さくして、政府の支出もできるだけ少なくしようという話だね。
N:「小さな政府」は、分かる気がします。政府を小さくするんですよね。おっきな政府にすれば公務員の給料がたくさんかかるから、政府は小さくても良いような気がしますね。うちの親父なんか、公務員になれば良かったかなぁ~、なんてぼやいていたりしますけど(笑)。それに日本の国の借金は凄いらしいから政府の支出も少なくなれば、それでいいんじゃないですか?

O:そう簡単な話にはならないので問題なんだ。小さな政府と緊縮財政は政府機能と政府支出を縮小させることになるから、不景気になって仕事がないときに公共事業を使って仕事を増やしたりすることはできないし、社会保障の否定にもつながりかねないとの指摘もある。

N:そもそも社会保障って何となくは分かるんですけど、あまり実感わかないですね。
O:社会保障とは、難しく言うなら、最低生活の維持を目的として、国民所得の再分配機能を利用し、国家がすべての国民に最低水準を確保させる政策をいう、とされているよ。具体的には、日本の社会保障体系は、社会保険(医療、年金、雇用、災害補償、介護)、児童手当、公的扶助、社会福祉、公衆衛生、戦争犠牲者援護などからなると言って良いだろうね。年をとった人への年金、障害を受けた人への年金、離婚した母子家庭への援助、失業保険、健康保険など無くなったら困る人が大勢出てくるはずだ。
N君だって、病気になって病院に行ったことあるだろう?そのとき、病院にいくら払ったか覚えているかい?

N:ええっと、この間体調が悪かったときにお医者さんに見てもらいました。確か、体温を測って、5分くらい診察受けて、「風邪ですね。」って言われて多分1500円くらいでしたよ。
O:健康保険は小学生から70歳未満までは確か、3割が個人負担だから、本当の診療費は5000円なんだね。健康保険制度がなければN君は5000円支払う必要があったってことになる。健康保険制度があって、君のお父さんがちゃんと保険料を納めているから1500円で済んでいるのさ。
N:5000円なんですか!お医者さんに診てもらうのは本当は高いんですね。風邪で5000円支払うくらいなら、我慢しちゃうかもしれませんね。そういえば、再放送されていたアニメの「母を訪ねて三千里」でマルコが友達をお医者さんに診てもらおうとするんだけど、お金がないからといって断られていたのを思い出しましたよ。もし、健康保険が無くなったら、お金持ちしかお医者さんに診てもらえないことになるかもしれない・・・・マルコの時代に逆戻りですか?

O:このように社会保障制度は、多くの人にとって大事なものと言えるだろう。この社会保障制度を否定してしまったとするなら、いざというときに国は何にもしてくれなくなるということにもなりかねない。
N:う~んそれは、いけない気がします。困りますよ。僕だってお菓子を買ったら、いやいや消費税払ってますけど、せっかく税金払っていても、いざというとき何にもしてくれないのなら、他所の国に行きたくなりますもん。
O:オーバーだなぁ。大人になると(働き出すと)消費税だけでは済まないんだぜ(笑)。
 話を元に戻すけど、新自由主義論者の「小さな政府」論は、さっき出てきた「市場万能主義」を実現するために政府の機能を小さくして、企業や富裕層から取る税金を減らして、社会保障制度を否定すればいいという主張(福祉国家の否定の主張)にもつながると指摘されている。それでも、新自由主義論者は市場万能主義が実現出来れば、富裕層に富が集中して経済が成長するから、結果的に国家が栄えるはずだと唱える。

N:え~!本当かなぁ。経済が成長したとして、お金持ちはどんどんお金持ちになるから良いんでしょうけど、社会保障が無くなったら普通の人は困りますよね。「小さな政府」でも大丈夫なくらいみんなが栄えるんでしょうか?
O:そこで、新自由主義者が唱えているのが、お金持ちを、もっともっとお金持ちにした方が国が栄えるからいいんだ、という「トリクルダウン理論」だ。

N:トリクルダウン・・・理論?変な名前。
O:変な名前かどうかは人それぞれだけど(笑)、なかなか興味深い理屈だよ。

(続く~不定期ですが連載の予定)

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