ゴルフのこと~3

 IS田会に入れてもらってしばらくは、IS田教授に指定されたゴルフ場で月一回ラウンドすることが恒例となった。
 相変わらず、ゴルフの方は空振りも交えてカス当たりばかりだし、7Iで打ってもPWで打っても距離が変わらない状況だったが、以前と違って、広々としたゴルフ場で休日を過ごすことが意外に心地よいものであることに気付いた。人工的な自然であることに間違いないが、休日に高原の中で力いっぱいクラブを振り回し、グリーンを行ったり来たりして汗をかくことは、デスクワークのストレスを解消してくれる面もあることが分かってきた。

 IS田教授からは、練習した方が良い、とのお話もあったが、S弁護士はもともと健康のために始めただけで、そんなに真面目に取り組んでいなかったこともあり、独自の理論を練習しない言い訳にしていた。

 S弁護士独自の理論は、名付けて「熟成理論」。
 若いワインも放置しているうちに芳醇な香りを放つように、ぼちぼちでもゴルフをやっていりゃあ、そのうち、だんだんスコアが縮んで来るはずだ。という極めてお気楽かつ楽観的な理屈だった。

 別にスコアにこだわるわけでもなく、逆に上手くなったら運動量が減って本来の目的に反する可能性だってある。そういうわけで、スコアなんて別にいいじゃんと当初、S弁護士はそう思っていた。

 大体この頃の、スコアは記憶によれば、S木先生が110前後、IS田教授が110~120前後、S弁護士が140~というもので、それはもうひどいものだったと、今にして思う。

 ところが、ある日、IS田教授は、「スコアが一番悪かった人を部長に任命し、部長と呼びましょう。」と、勝手に決めて宣言したのだ。
 この状況で、ジャンケンならともかく、ハンディもなしでスコア順できめるなんて、まさに仮の評価基準、完全な出来レース、結果が見え見えのコンコンチキである。
 誰が不名誉な部長に就任するかは決まりきっているではないか。
 実質は、20打数以上差がつくS弁護士に対して、IS田教授から直接に「S弁護士を不名誉部長に任命する!」との辞令を交付されたも同然である。

 これはS弁護士に練習させようという親心なのか?それとも、単にS弁護士を嘲笑するための罠なのか?それとも、いぢると面白い(らしい)S弁護士を、更にいぢろうとする娯楽なのか?
 教授の真意は、穏やかな微笑の裏側に隠れ、凡人のS弁護士には見通せない。

 しかもゴルフとは不思議なもので、この方向に打ってはいけないと思えば思うほど、そちらに打球が飛んでいったりするものなのだ。
 IS田教授はそのあたりの心理も熟知しておられて、S弁護士がティーグラウンドに立つと、優しく穏やかな声で、「Sさん、谷がありますね~」とか「Sさん、池が見えますね~」とか、「Sさん、右はOB浅いから気をつけてね~」等と、有り難く注意をしてくれたりもする。
 当然S弁護士は、そちらの方には絶対に打つまいと、心に念じてクラブを振る。

「ちきしょう、その手にはのらね~ぞ。絶対にそっちには打たん!絶対ナイスショットしてやる。この一打に一片の悔い無し!燃えろ~俺のコスモ~!!どうりゃあ~~!!」

 「ペチッ!」

 魂の叫びとは裏腹に、変な音を残して、S弁護士の打球は、谷へ、池へ、OBゾーンへと、まるで操られたかのように飛び込んでいく。S木先生も見ていて面白かったのだろう。同じようにご注意下さるようになった。

 そこで付いたあだ名が、「マリオネットS」。

 自由に動けない操り人形の悲哀を、齢50にしてゴルフ場で味わうことになろうとは夢にも思いませなんだ。

(続く) 

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