面白いぞ!経済同友会の意見。

2013年6月25日に、経済同友会が法曹制度の在り方に関する意見書を出している。

http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2013/130625a.html

この意見書は、最初に、日米の法曹養成制度の違いを指摘して、その差を整理しないまま法科大学院制度を導入したため、問題が生じていると指摘しているようだ。この点については、確かに経済同友会のいうとおりの面もあり、大学側が闇雲に法科大学院制度導入に突進した問題点をついているように思う。

次に法曹ではなく法曹有資格者の問題としてリーガルバックグラウンドを持った人材を多数育成して、そこから優れたビジネスパーソンを輩出することが重要であり、狭義の法曹(裁判官、検察官、弁護士)は、法曹有資格者の一部がなっていく姿を目指すべきとする。そしてアメリカの例を引き、アメリカでは民間機関・産業界に18.1%の弁護士が就職していると指摘した上で、「アメリカ同様に裁判実務家や狭義の法曹以外の新たな分野へと法曹有資格者が進出し、社会の隅々に法の支配の精神を行き渡らせるとともに、日本の企業と経済の競争力を強化していくことが望まれる。」と述べている。

おっとこれは、経済同友会は米国型の訴訟社会でも良いといっているのか。

「社会の隅々まで法の精神を行き渡らせる」ということは、司法制度改革審議会意見書にも「法の支配の理念に基づき、すべての当事者を対等の地位に置き、公平な第三者が適正かつ透明な手続により公正な法的ルール・原理に基づいて判断を示す司法部門が、政治部門と並んで、「公共性の空間」を支える柱とならなければならない。」と書かれていたことからも、当然司法による解決を目指そうということなんだろうし、「アメリカ同様に」と述べているのだから、米国並みのリーガルフィーを日本国内で負担する覚悟があると見て良いのかな。これなら日本の司法も生き返るかも、、、、と考えて、他の経済同友会の提言を少し見てみると、

「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度に関する意見」というものが2013年3月25日に出されていた。

http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2012/130325a.html

何のことはない、アメリカのクラスアクションに比べて濫訴のおそれが低いとされる、日本の集団訴訟制度(法案)に、経済同友会は正面切って反対しているのである。おいおい、経済同友会は、「法の支配を社会の隅々まで」ということを望んでいたんではないのですか?と突っ込みを入れつつこの意見書を読んでいると、さらに面白い記述が出てきた。

上記意見書の6頁にはこうある。

「日本は、自助・共助、それに基づく私的自治によって紛争を解決してきたからこそ、先進国中においても画期的に訴訟の少ない社会になっていると考えられる。安倍首相は、自助と共助が日本の伝統であり、今後も重視すべき価値観である旨指摘しており、この面からも安倍政権の目指す方向性と本制度(集団的消費者被害回復に係る訴訟制度)の導入が整合的かどうか検討すべきである。」

あの~、自助・共助に基づく私的自治の解決(司法に頼らない、訴訟以外の解決)が望ましいのなら、法曹を増やして司法による解決を目指す(「法の支配の精神を社会の隅々まで及ぼす」)こととは、完全に矛盾するように思えるんですけど・・・・・。

経済同友会の「法曹制度の在り方に関する意見書」にはもう少し面白い記事もあるが、それについては次回の予定。

育児期間中の会費減免

常議員会で、育児期間中の日弁連会費減免についての意見照会が議論された。

日弁連は、育児期間中の会員に対し性別を問わず、休業を要件とせずに6ヶ月(出生した子供が2人以上の場合は9ヶ月)の会費免除を行う規定を準備しているという。男女共同参画推進に必要なのだそうだ。

説明委員のお話では、日弁連会費収入に与える影響は約1.5%程度と軽微であるとのことであった。具体的な金額は分からないが、日弁連はきちんとシミュレーションしているはずだとの説明があった。

ただでさえ、弁護士会費はバカ高くて、最近では若手会員の収入減少傾向から、若手会員への会費軽減措置がとられている状況にある。訴訟件数が減少傾向にありながら弁護士激増は止まっていないので、今後も今まで通りにバカ高い弁護士会費を会員が継続的に負担しつつづけることが可能なのか、少なくとも疑問を持っても良い状況だと私は思っている。会費がきちんと納入されないのであれば、弁護士自治だって不可能だ。

配付された資料をよく見てみると、弁護士会会員の増加を年間1805名とするというシミュレーションが記載されていた。その後に、「平成22~26年度は司法試験合格者数2000名程度を前提に新規登録者数を1805名とし、2015年度以降は同合格者数1500名程度を前提に、新規登録者数を1330名とする」との記載が、横棒線で消されていた。この消されたシミュレーションの方がよほど将来実現しそうな数字に私には思えるが、何らかの理由で、そちらは採用しなかったということらしい。

あれほど頭の硬い法曹養成制度改革審議会が、司法試験合格者年間3000名は現実性を欠くとして、その目標数値を撤回するよう発言し始めている昨今、現状の司法試験合格者数を前提にシミュレーションするなんて、そしてその人達が必ずバカ高い弁護士会費を支払い続けてくれるなんて、楽観主義にも程があるんじゃないだろうか。

しかも、その楽観数値を元にシミュレーションした結果、年間1億円弱の会費収入減となる数値、しかも年々その額は増加するという数字が出ていた(非常に小さい字で極めて読みにくい資料であった)。

これでは、空港誘致のために乗客シミュレーションを操作して採算が取れるように見せかけるやり方とあまり変わらないのではないか。普通の企業でも、計画を立てる際には楽観シナリオ、通常シナリオ、悲観シナリオを作成すると思うが、楽観シナリオだけしか出していないように見える。

そもそも、本当に男女共同参画が重要なら、年間1億円弱、弁護士1人頭年間3000円程度を、今の弁護士会費に上乗せして子育て支援のために徴収する、という会費増額提案をする方が、よほどストレートなやり方ではないだろうか。

私は、この日弁連の提案に基本的に賛成する内容である大阪弁護士会の回答には賛成できなかった。前提となるシミュレーションがいい加減だし、一度免除規定を作ってしまうと容易に撤廃ができないから今後の日弁連運営に大きな影響を与えかねないと考えられたし、さらに、子育てしながらしっかり稼げる弁護士もいるはずなので、そのような方への支援までは不要だと思ったからだ。

本当に支援が必要な場合、例えば、子育て期間中と前年度を比較して子育てが原因で当該弁護士が減収になっている場合、一度納めた弁護士会費を還付するという、より会費を無駄にしない支援方法も十分あり得るように思う。

しかし、常議員会では、保留は私を含めて2名、他全員の賛成で日弁連の案に基本的に賛成する意見を出すことに決まってしまった。

弁護士会の収入が今まで通りに入ってこなくなるかもしれないという危機感を、ほとんどの常議員の先生方は持っていないのかもしれない、と思った。

それにしても、弁護士という人種は、男女共同参画という言葉にはめっぽう弱い。

王様は裸だと喝破する本

法曹養成制度検討会議が、パブコメを経て6月6日にとりまとめ案をネットで公表している。

先日、法曹人口問題全国会議のシンポジウムで、法曹養成制度検討会議の委員でもある、和田吉弘弁護士のご報告を聞く機会に恵まれた。

公表されている議事録からもお分かりの通り、法曹養成制度検討会議は多くの委員が法科大学院関係者・擁護者であり、現実に起きている問題点から目を背け、法科大学院維持の結論ありきで議論を進める中、和田委員は、法曹養成制度検討会議の中で現実を踏まえた的確な御意見を主張されていた唯一の存在と言っても過言ではない。

このように書くと、どうせ、弁護士だから弁護士の既得権擁護の発言だろうと仰る御仁もおられるだろう。

しかし、和田委員の経歴をご覧頂きたい。

和田委員は、東大法学部卒業後、東大大学院修士課程在籍中に司法試験に合格され、同大学院博士課程を単位取得退学されたのちに、司法修習生を経て、明治学院大学法学部で教鞭をとり、その後東京地方裁判所で裁判官を経験されたのちに青山学院大学大学院法務研究科(法科大学院)教授を務められた方だ。

実務も法学研究も法科大学院の内部も熟知されている方なのだ。

その和田委員が、意見書を第12回の法曹養成制度検討会議に提出されているが、この意見書の全てをHPに掲載することはできなかったそうだ。

上記意見書の主要部分をまとめた書籍が、今度発売される。

緊急提言「法曹養成制度の問題点と解決策」(花伝社1000円:税別)

である。

シンポジウム会場で先行販売(?)されていたので早速買い求め、帰りの新幹線の中で読んだが、現実を踏まえた的確な問題点の指摘と、その解決策、そして法科大学院の驚くべき内実にも触れられていて、コンパクトながら極めて読み応えのある本だった。

そして改めて思った。当たり前のことを当たり前として認めることが、どうして法曹養成制度検討会議では困難なのか。そして法曹養成制度検討会議のメンバーとして、もっとも現場を知る法曹三者のメンバーがほぼ排除されており、法科大学院関係者・導入賛成者が多数を占めているのは、何故なのか。

そりゃぁ、自分の作った制度が失敗だったなんて誰も認めたがらないぞ。特にプライドのお高い学者の先生だったらなおさらだ。そんな委員ばかり集めて、「有識者の意見です!」と言い張っても、利害関係人による一方的な意見に偏ることくらい誰だって分かるだろうに。

しかも、学者の委員は、実務の現実を知らないことがほとんどだ。現実を知らない人に制度を作らせても、良い制度ができる可能性はまずない。

数々の問題点が発覚しながら、未だに理念は正しいと言い張って、司法の将来を良きものにするという目標ではなく、法科大学院維持だけを目標に全力で取り組んでいる法科大学院擁護派の委員たちは、この和田委員の意見に対して、理念正しい・・・程度の抽象的反論はできるかもしれないが、おそらく具体的且つ説得力のある反論はできないだろう。

例えて言えば、愚か者には見えない服を着ていると信じて行進する裸の王様に対して、堂々と「王様は裸だ!」と喝破した本といっても良いのではないか。

この和田委員の意見を読んでも、態度を変えず、「この服は愚か者には見えないのだ」と言い張って、裸のまま行進を続けている法曹養成制度検討会議のメンバーの意識の偏り具合が、よく分かるはずだ。

法曹養成に興味ある方々には、是非ご一読をお勧めする次第である。