初めての遠近両用眼鏡~その1

 先日、ためしてガッテンだったかで緑内障は怖いという番組を見た。その後、どうにも左目がかすむような気がしてきた。気にすれば気にするだけ、かすみがあるような気がしてきた。こいつは不安だ、と思ったので、眼科で診察を受けてみた。

 眼圧検査の他、暗闇の中で赤い点を見つめさせられて、目玉を調べられる検査などを受けた。結果的には、眼圧などの異常はなかったようで、特に病気を指摘されることはなかった。

それはそれで良かったのだが、その際に、S弁護士は眼鏡の度数が合っていないことを指摘された。

そういえば、ずいぶん前に作った度数のまま、変更してなかったので、「それなら新しい眼鏡をつくります」、と答えたところ、眼科の先生から遠近両用眼鏡を勧められてしまった。

遠近両用眼鏡といえば、眼鏡のレンズの下半分に凸レンズがくっついているイメージ。しかも、S弁護士の勝手な、遠近両用の眼鏡をかけている人の印象ときたら、他人とお話しする際には、眼鏡が下側にずり落ちていて、眼鏡のレンズを通さずフレームの上端越しに見られているような、妙な感じ。なんとなく、頑固で意固地な古本屋の親父がかけていて、ときおり客をじろっと睨んでいそうな雰囲気しか記憶にない。

は~、ついに老眼鏡を兼ねた眼鏡か~。

認めたくないけれども、老いぼれてきてるんだなぁ~、とため息をつきながらも、S弁護士は勝ち目のない最後の抵抗を試みる。

S弁護士 「あのう、今までの近眼用の眼鏡だとダメでしょうかね・・・」

先生 「あのね、どっちにしても老眼は40歳半ばから進行してるの。今から慣れておかないと将来、急に遠近両用に変えたって、慣れるのが大変なんだから!階段踏み外すよ~!!あたしだって、ちゃんと遠近両用の眼鏡持ってるし。」

ちゃきちゃきとした眼科の女医さんに、早口でまくし立てられ、バッサリと斬られた。

「いや、でも、先生、持ってはるってゆうても、眼鏡、かけてはらへんやないですか・・・・」と切り捨てられながらも、混ぜっ返したいところをぐっとこらえるS弁護士。

餅は餅屋。訴訟は弁護士。基本はその道の専門家に任せた方が良いのだ。

極度のド近眼のS弁護士は、相当対象に近づかないとピントが合わないため、あまり近くが見にくいということはない気がするのだが、それはあくまで本人がそう思っているだけなのだそうで、老眼は確実に進行しているらしいのだ。

眼科医院の中で、レンズを何枚か差し込める、見た目がかなり間抜けな、マッドサイエンティストがかけていてもおかしくない眼鏡を装着され、レンズをとっかえひっかえし、気分が悪くないか、近くや遠くは見えるか、等と散々質問を受けたあげくに、ようやく処方箋を頂けた。

もう腹は決まった。どんなにアンチエイジングに狂っている人でも、結局は寿命が来る。つまりどうあがいたところで、結局、加齢による老化には勝てないのだ。しかも処方箋までもらっちまった。どうせ人間は生まれながらに老いていく存在なのだ。それなら、年相応に遠近両用眼鏡にトライしてやろうじゃないの。今までどおり、運動するときは使い捨てコンタクトを使えば良いんだし。

たかが眼鏡を作ることを決めただけで、勝手に盛り上がるS弁護士であった。

さて、次は眼鏡の注文だ。

(続く)