昨日の大阪弁護士会常議員会で、法テラス大阪に4人の常駐弁護士をおいて欲しいという日弁連・法テラスからの要望に対する決議がなされた。
実はこの常駐弁護士配置の要望は、しつこく何度も日弁連・法テラスから出されていたものであったが、大阪はもともと委員会活動が盛んで法的弱者救済をきちんと手がけてきていたこと、法テラス大阪の職員が、法テラスなら無料で相談できるなどと明らかに民業圧迫の営業をかけた事件が発生したことなどもあり、これまで、大阪弁護士会は賛成しては来なかった。
「常駐型スタッフ弁護士の増員・新規配置は、いずれも当会としては受け入れられない」とのこれまでの大阪弁護士会の方針を転換し、福田執行部は「法テラスの意向が、当会に対しても常駐型スタッフ弁護士の配置を求めるものである場合、当会はあえてこれに反対しない」との意見を提出したいとのことであった。
私は、4つの理由を挙げて反対した。他にも反対意見を唱える先生もおられたが、決議の結果は賛成多数(しかも大多数?)で可決されてしまった。少なくともズーム参加の常議員の方で反対されたのは私だけだった。賛成された常議員会の先生方は本当に法テラスの言いなりになって良いとお考えだったのだろうか。
ちょっと悔しいので、私の反対理由を以下に示しておく。
(反対理由ここから)
1 必要性がない
・最近5年間の援助決定件数は横ばいから減少傾向(全国・大阪とも)
~法テラスがHPで公開している最近5年間の援助決定件数 資料28
によれば、全国的にも5年前の119,296→107,658件、大阪でも11,927件→10,441件(全国の件数の約1/10を大阪で援助開始している)と横ばいから減少傾向にあり、今まで法テラス案件につき特に大きな問題が生じていない状況で、更に法テラススタッフ弁護士を配置しなければならない必要性がない。
・震災関連と思われる二本松・東松島などの法テラス事務所の閉鎖はともかく、震災関連ではない法テラス事務所を閉鎖する際に、法テラスは、地元弁護士の増加により国が公的支援をする必要性がなくなったことを理由にしている。法テラス松本・八戸閉鎖(閉鎖日は2019.03.31)を伝える日経ネット記事(2018.09.05)は、地元弁護士の増加により国が公的支援をする必要性がなくなったことを理由として記載している。
→この法テラス事務所閉鎖の理由からすれば、弁護士も多く、司法アクセス・司法弱者救済等について特に尽力している大阪では、法テラス事務所を閉鎖しても良いくらいであって、常駐弁護士はなおさら不要といえる。
2 法テラスは採算性を重視してきている
・法テラスは「誰もが、いつでも、どこでも、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会の実現を目指します。」との使命を掲げているが、北海道中頓別簡裁管内の弁護士不足を理由に、日弁連が法テラス7号事務所設立を求めたが、法テラス側は需要が見込めないとして拒否し、日弁連によりオホーツク枝幸ひまわり法律事務所(2019.04開設)が開設された経緯がある。このように法テラスは当初の理念よりも採算性を重視する傾向にあると思われる。
・日本司法支援センター中期目標(R4.2.28法務大臣指示)p10、第6財務内容の改善に関する事項の記載として、自己収入の獲得等が最初に挙げられ、その中で、寄付金受入や有償事件の受任等により、自己収入の獲得確保に努めるとの指示が出されている。
ちなみに多くの弁護士が希望している法テラス経由事件の報酬の引き上げ、つまり算定基準見直しについては、上記中期目標(15頁もある)の最後に、おまけのように3行程度で「多角的視点から検討を行い、その結果の適切な反映を図る」と触れられているだけであり、報酬を上げるとも明言されていない。
・この法務大臣からの目標を受けた法テラスの令和4年度目標にも、有償事件受任等による自己収入確保を目的とする記載がある。
→これらの法テラスの採算重視傾向からすれば、常駐弁護士を配置すれば有償事件を獲得する方向(これは民業圧迫である)に繋がる危険性が高い。大阪での法テラス職員の営業事件も、この採算重視のための事業の一環と見る方が、担当者の独断専行と考えるよりも、合理的である(ちなみに大阪弁護士会はこの事件について、法テラスの言い訳を鵜呑みにして、担当者の独断専行であったと判断しているが、私は自己収入確保の法テラス中期目標達成のために、上層部から指示されて行った行動ではないかと考えている)。
3 そもそも弁護士業に余裕はなく、法テラスは民業圧迫である
裁判所に1年間に持ち込まれる事件は減少傾向にあり、弁護士業に余裕はないことを、最新の状況を私が弁護士登録した頃と比較して示してみる。
全裁判所新受件数
H12:約554万件 弁護士数17707人 1人あたり312.71件
R2: 約336万件(40%減)弁護士数43230人(2.44倍)1人あたり77.41件(75%減)
地裁第1審民事通常訴訟事件(新受)
H12:156,850件(弁護士1人あたり8.9件)
R02:133,427件(弁護士1人あたり3.1件 65%減)
事件数の減少を指摘した場合、弁護士選任率は上がっていると反論する方がいるので敢えて次の資料もつけておく。
民事第1審通常訴訟既済事件中弁護士選任状況(弁護士が就いていた事件数)
H12:15万8779件(弁護士1人あたり8.967件)
R2:12万2749件(弁護士1人あたり2.8394件 68%減)
(以上は全て裁判所データブック2021:法曹会からのデータ引用である)
このように、弁護士業界は相当厳しい状況にあり、法テラスによる民業圧迫を許すだけの余裕はない。
4 天下りの可能性
法テラスの安すぎる報酬に異論がある人が多く、多くの弁護士が赤字を覚悟して法テラス案件の処理を行っている。私もかなり不満がある。しかも、法テラスの中期目標等の記載状況(最後にちょろっと触れるだけ~しかも内容として、「検討結果の適切な反映を図る」とだけ記載され報酬を上げるとも明言されていない~の記載状況)からすれば、適正な報酬に改定されることは相当困難と見込まれる状況にある。
一方、歴代法テラス理事長のうち政治家・官僚を除く、法テラスの理事長は4名いるが、全て法曹であり、日弁連会長経験者、日弁連事務総長経験者で占められている。
一般弁護士が苦労して赤字覚悟で事件処理をしている中、法曹出身の理事長もボランティア的にやってくれているのかと思いきや、法テラス理事長の給与は年額約1,800万円強と相当高額であることに加え、退職金規程も完備されている。法曹出身理事長が、苦労している弁護士会員に配慮して、理事長給与削減を申し出たとか、退職金を辞退したとの情報には、少なくとも私は接していない。
結局、法テラス理事長ポストは、天下り的なポストになりかけているのではないかとの疑念がある。
日弁連執行部は法テラス側の意向を汲むことにより、このポストを維持しようとしているのではないかという懸念を捨てきれない。
5 小括
以上3点、
・事件数の推移及び多くの弁護士が所属し公的支援に従事している現状から見て大阪に法テラス常駐弁護士を配置する必要性がないこと
・法テラスの採算性重視傾向から、民業圧迫に至る可能性が高いこと
・弁護士業界には民業圧迫を許容する余裕はないこと
とプラス1点(天下りの懸念)から大阪弁護士会管内の法テラス常駐弁護士配置に反対する。
(反対理由ここまで)