司法試験雑感3~真夏のセーター

私が司法試験受験生だった頃、京都大学には、全学共通の総合図書館と、学部の図書館があった。

「司法試験受験生が、図書館を占拠して困る」と苦情がでたくらい、図書館を長時間利用する者が多かった。総合図書館は、明るく若手の受験生が多いという評判で、法学部図書館は落ち着いておりベテラン受験生が多いという噂もあった。私は総合図書館を利用していた。

ある年、5月の短答式試験を終えて、発表があり、幸い合格できた私は、梅雨時でじめじめして暑い日に、ある文献を探しに法学部図書館に入った。

そこで見かけたのは、この蒸し暑いさなかにセーターを着て勉強をしている司法試験受験生の姿だった。タオルで何度も汗を拭いながら基本書を復習するその姿は、鬼気迫るものを感じた。

暑さ対策だった。

当時の論文式試験は、7月後半の梅雨明けの最も暑い時期に行われていた。しかも、会場は京都大学で、ほとんど風が通らない教室で、当然冷房なんて設置されていなかった。そんな教室に、詰め込まれて試験を受けたのだから、受験生の熱気と夏の暑さの相乗効果で、体感気温は40度を等に超えていたと思う。試験の最終日には倒れる人まで出るという(私も見たことがある)、苛酷な試験だった。

途中から、試験会場が同志社大学に変わり冷房が入るようになって助かったが、それまでの京大での論文式試験では、女性の受験生はもう下着丸見えに近いタンクトップで受験していたり、みんな首にタオルを撒いて汗が答案に落ちないよう工夫したり、ヒヤロン(使い捨て冷却剤のはしりのようなもの)を使うなどしながら、汗みどろで戦う壮絶な試験だった。試験官も大変だったろうが、受験生はもっと辛かった。

特に、京大時計台下の法経第1教室(今はもうない)などは、窓が小さく、なおさら風通しが悪いので、受験経験者に聞くなどして、願書を早めに出すと法経第1教室に当たりやすいと聞くと、その教室に当たらないように、願書を出願期限ギリギリに出すなどして、受験生は必死に工夫をしていた。

それだけ、みんな必死で、人生を賭けた試験だった。

司法試験雑感2~サヨナラ答案

先日、ホームラン答案の話をしたが、それと似て非なるものに、サヨナラ答案と言われるものもあった。

何もサヨナラホームランという劇的な逆転の一打というわけではない、その一通だけで不合格を決定づけるだけの答案、すなわち、その年の受験は終わり(サヨナラ)という、悲劇の答案なのだ。昔の司法試験は、実力者がそれこそ合格の順番待ちをしているような状況であり、大きめの失敗一つで十分サヨナラ答案となりえたのだ。

実は、私もサヨナラ答案を書いてしまった、苦い経験がある。確か、司法試験論文式を3度目に受験したときだったと思う。当時の商法の問題は、会社法から1問、手形法から1問という慣例が続いていた。

先に手形法の答案を書き終え、思ったより手形法に手こずったため、会社法の設問が今ひとつピンと来ないまま時間に追われて書き始めてしまったのが躓きの最初だった。

時間に追われていたため、ろくな答案構成もできず、書いて行くうちに形になるやろと思って、書いて行ったのだが、答案用紙の表面を書き終え、裏面の1/4まで来たところで、どうも、これは間違った内容を書いているような気がしてきたのだ。

その気持ちで、問題と答案を見てみると、やはり違う気がする。

こういう時は不思議だ。

なんか変だ

→ひょっとして間違っているのか?

→間違っているような気がする

→やはり間違っている気がする

→間違っている

→間違っているに違いない!

→絶対に間違いや!!

とあっという間に思考が巡る。

間違った答案を長く書いても、全く評価されない。ここは思い切って書き直すしかない。時計を見ると時間は残り15分しかない。

心の中で泣きながら、ここまで苦心して書いてきた答案に×印をつけて、新しく書き始める。

しかし悲劇は終わらない。

新しく書き始めた答案も、途中で読み直すと違っている気がする。×をつけてしまった前の当案で良かったような気がしてきたのだ。

ここでも先ほどと同じように、疑いはあっという間に確信に変わる。

論文試験初日の3科目目という、ほとんど心神耗弱状態だから無理もないが、もう頭の中はパニックを越えてアナーキー状態である。

「うわ~、助けてくれぇ!!!!」

と心の中で叫ぶ声が聞こえる。もはや心の中では号泣状態だ。

それでも、当たり前だが試験会場では誰も助けてくれない。

その後の記憶は、余り残っていない。確か、新しく書いた答案部分に×をつけ、最初につけた×印を取り消しますと書いて、 続きを書いたように思うのだが、余りのショックで記憶が飛んだのか、今思い出そうとしても、どうしても思い出せない。

これがサヨナラ答案という奴か・・・・・。

そう思って、足取り重く家路についたことは覚えている。やけに夕陽がまぶしく、下宿まで時間がかかったような記憶がある。

その年の成績は、当然のごとく、商法は最低の点数評価であった。

サヨナラ答案の破壊力も凄まじいものだった。

御意見募集

もう、大阪弁護士会の皆さんのレターケースに投函されていると思うが、機構改革PTがアンケートで会員の皆様の意見を募集している(緑色の両面印刷のアンケートです)。

こんな無駄があるのではないか、こんなところを改めれば会費が安くなるのではないか、あらゆる御意見を頂戴できればと思っている。

弁護士会費が足りなければ値上げをすればいい、という時代はとうに過ぎ去っている。

弁護士全体の収入が右肩上がりなのであればいざ知らず、そうでない現状では、会費だけで年間50万円以上、隠れ会費も入れれば年間100万円も会費が必要な強制加入団体が、今後存続できるはずがない。

会費の値下げのためには、弁護士会の機構改革がどうしても必要だ。必要な機能を集約して、スリム化を図らなければ、会費負担だけで弁護士が参ってしまう。こんなに金がかかるなら、強制加入団体を辞めた方が良いという意見も出てくるし、そうなれば、弁護士自治はおそらく完全に崩壊する。

そこで、会員の皆様から、こんな無駄やめろ、こんな出費おかしいだろう、という御意見、もっとこうしたら会務がうまく行くのではないかというご提案など、あらゆる御意見を頂戴できればと考えています。

どうせ言っても変わらない、と思わず、どんどん御意見を頂ければと考えています。

今の弁護士会に、弁護士会費に満足ですか?

そうでないなら、御意見を下さい!。

機構改革PTは、会員の皆様の御意見をお待ちしております。

司法試験雑感1

新司法試験が、現在行われている。

今日は試験の中日で、おやすみだそうだ。私の時代は、5月の短答式(マークシート)、7月の論文式、10月の口述式、と3段階の試験があり、短答式を合格しなければ、論文式は受験できず、論文式を合格しなければもちろん口述式試験も受験できなかった。

ところが、新司法試験は、短答式試験と論文式試験をまとめて行うので、試験にも中日を設定したのかもしれない。

私たちの頃は、司法試験は合格率数%の時代だったので、数々の面白い話があった。

論文式試験は、7科目14通、(その後6科目12通に減少)だったので、1通の占める割合が大きい。したがって、ヤマを当てれば、結構なアドバンテージになると信じられていた。受験雑誌なども論文式試験前には、「ヤマ当て本」など、出そうな論点を特集したりしており、懐も寂しいのに、つい買ってしまったりしたものだ。

 しかしたまには本当にヤマを当てる人もいて、ほぼ完璧に準備していた分野が出題されて、自分でも絶対高得点に違いない、と確信する場合もあったようだ。

そのような答案は、当時、ホームラン答案といわれていた。

ホームランは狙って打てるものではないが、打てた場合の破壊力は大きい。

私の大学時代のゼミ友達で、14通中、ホームラン答案を間違いなく8通は書けたといっていた人がいた。受験回数もわずかだった人であったが、論文試験後、「どうしよう、俺、ホンマに受かるかもしれん。」と、動揺していたくらいだ。

もちろん彼は合格した。

試験である以上、当然受験生それぞれにとっての問題の当たり外れはある。得意分野の問題ばかり出る場合もあれば、不得意分野ばかり出て、どうして運命は俺に試練を課すのか!と嘆きたくなる場合もあるはずだ。

いずれにしても、受験生の皆さんの健闘を祈ってやまない。

大阪弁護士会予算案

もう、定時総会上程が常議員会で決定したので構わないと思うが、大阪弁護士会の予算案が作成されている。

その中で支出の40%を占めるのが、弁護士会職員の人件費だ。常議員会の中では二つの意見が出た。

弁護士会職員の雇用条件の不利益変更は慎重にあるべき、との意見と、ここ10年地方公務員だって給料は下がり続けているから減額方向で考えるべきではないのか、との意見。ちなみに、某国立大学のある法律の大家でいらっしゃる先生も、飲み会で、同じようにここ10年給与が減少していると言っておられた。

ちなみに、来年度予算案は、ベースアップ1%を見込んだ予算になっている。ある情報によると大阪弁護士会の職員さんの平均給与は500万円を超えているとの話もある。いまや、多くの新人イソ弁さんの給与を上回る職員給与になりつつある可能性がある。

主人が不景気でおかゆをすすっているときに、お手伝いさんがすき焼きを食べている家庭はどこかおかしい。

もちろん大阪弁護士会に優秀な事務職員の方が多くおられること、かなりお世話になっていること自体は否定はしないが、余りにも今までの弁護士会職員さんへの給与は、大盤振る舞いに過ぎたのではないか。

若手援助のためにOJTを行うことはもちろん大事だが、それよりもまず、高額すぎる弁護士会費の削減が若手への最大の経済的援助になるだろう。今でさえ、若手の弁護士会費は軽減されているが、それでも年間40万円程度は支払う必要があるはずだ。もちろん軽減されていない弁護士の弁護士会費は馬鹿みたいに高い。

弁護士会費削減のためにもどこかで、誰かが決断しなければならないと思う。