「司法を考える会」に参加して来ました~その2

(続き)

和田先生は、他にも様々な疑問を提示しておられた。
例えば次のような疑問点である。

「司法試験の合格者が多いほど、法曹志願者が減るということに、法科大学院側はなぜ気がつかないのか。」

 マスコミや法科大学院側そして、日弁連の法科大学院制度維持派は、未だに「法科大学院志願者が減少しているのは司法試験合格率が低いからであり、司法試験合格者を増やせば志願者は増える」、とトンチンカンな主張を繰り返す場合がある。
 エライ学者さんが、「法曹志願者減少の原因は、司法試験合格率が低いからだ!」といえば、一見正しそうに聞こえるような気もするが、実は、完全な誤りである。

 まず、現在の司法試験は、従来の司法試験(合格率2%程度)に比べて、試験の合格率で見れば10~15倍も合格しやすくなっている。昔の司法試験に比べれば合格率は圧倒的に高くなっているのだ。それにも関わらず法曹志願者は激減している。また、従来の司法試験では、合格率は低かったが丙案導入時の受け控え時期を除き、受験者はほぼ一貫して漸増傾向にあった。つまり昔は、司法試験の合格率が殺人的に低くても、志願者は増えていたのだ。少なくともこの二つの事実だけからでも合格率低迷原因説は誤りだ。

 また冷静に考えてみれば、合格者を増やせば増やすだけ、弁護士の希少価値はなくなる。ここ10年間でほぼ2倍に弁護士が増えたということは、弁護士の希少価値はわずか10年で50%も目減りしたことになる。当然弁護士資格の魅力は薄れていく。
 それでも新人弁護士さんが引く手あまたであり、法律事務所が争って高給で雇ってくれるのであれば、志願者が減少するはずがない。法科大学院に時間と費用をかけなければならないリスクを負ってでも、得られるリターンは大きいものが期待できるからだ。しかし現状はどうか。一括登録時に登録できない新人弁護士の割合は、570人(28%)であり、そこから約2ヶ月経過した今年2月4日時点でもまだ243人が未登録であるという報告がある。つまり、新人弁護士となる資格を持つ人のうち約8人に1人は未だに就職出来ていないのだ。そのような資格を誰が好き好んで多大な時間と費用をかけて取得しようと思うだろうか。

 言い方は良くないが、現在、宅建資格だけでご飯を食べられるかと言えばかなり難しいだろう。また宅建資格を取得したからといって直ちに資格だけを武器に就職出来ると思う人も少ないだろう。仮にそのような宅建資格を取得するのに3年以上の歳月と500万円以上の費用が必要となるように制度が変更されたら、どんなに合格率を上げても、例えば宅建試験の合格率が100%であっても、誰だって取得をあきらめるだろう。リターンに比べてリスクが高すぎるからだ。志願者が減少してあったり前である。それと同じことが司法試験で起きているだけなのだ。

 だから法曹志願者を増やし、優秀な人材を確保しようとするならば、今とは逆に法曹資格を取った場合のリターンを増やすしかないように私は思う。

 このような提案をすると、お前は法曹だからそう言っているだけだろう、法曹資格だけが特別ではない、競争しろ、甘えるなというお叱りの言葉も出るかもしれない。
 しかし、大企業や権力に人権を踏みにじられた場合に、泣き寝入りしないのであれば、最後の拠り所は司法であるはずだ。その最後の拠り所に優秀な人材は不要、適当な裁判で良いじゃないかと、何の不安もなく断言できる方はどれだけいるだろうか。

 また競争しろと言う方も、どんな藪医者でも竹の子医者でも良いから医師増やすべきだ。競争で淘汰されて良い医者が残るはずだからそれでいいだろうとは言わないはずだ。身体をこわしたときの拠り所は医師(宗教の場合もあるかもしれないが)しかいないし、その医者に優秀な人材は不要とは言えないだろう。また、競争淘汰の過程で幾多の助かる命が失われるかもしれないからだ。

 優秀な人材を得ようとすれば、名誉かお金か権力を与える、即ちリターンを増やすしか方法はないだろう。大きなリターンを与えることにより優秀な人材を確保することは、スポーツ選手でもヘッドハンティングでもおなじみの行為であり、何らおかしなものではない。

 こんなに簡単なことなのに、未だに法科大学院側は司法試験合格者を増やして合格率を上げるべきだと主張する。和田先生は、確か、自分の勤め先の法科大学院の合格者を増やすという願望が強すぎるせいもあるではないかと分析されていたが、かなり控えめなお言葉ではないかと感じた。

(続く)

「司法を考える会」に参加して来ました~その1

先日、これからの司法と法曹のあり方を考える弁護士の会(略称「司法を考える会」)の設立の集いに参加して来た。

記念講演として
1 元法曹養成制度検討会議委員の和田吉弘先生
2 立教大学教授の角紀代恵先生
3 ジャーナリストの河野真樹さん
による講演が行われた。

まず、和田先生の講演だが、法曹養成制度検討会議(以下「検討会議」という。)の内輪話も含まれていて極めて興味深く感じた。

和田先生の、極めて真っ当な御意見は、法曹養成制度検討会議の取りまとめにあまり反映されていない結果になっている。民主主義下では、正しい主張が必ずしも支持を得られない場合もあるが、ここまで問題が大きく且つ明確化してきているにも拘わらず、何故もっと現状をきちんと把握・認識して対応しないのかは、いつもながら疑問に思われる。

なお、和田先生の法曹養成制度検討会議で主張された御意見は、「法曹養成制度の問題点と解決策-私の意見」と題して花伝社から出版(1000円+税)されているので、興味ある方は是非ご参照されたい。

さて、和田先生のご講演内容によれば、法曹養成制度検討会議の前身である、法曹養成制度に関するフォーラムから多くの委員が横滑りで入ってきた理由について、和田先生が質問すると、当局は、「1年で結論を出すという点を重視したからだ」と説明したという。
確かに、法曹養成制度について検討するには、ある程度の知識や現状把握が不可欠であり、早期に結論を出そうとすれば、すでにこの問題に関してある程度把握されている方を優先すること自体は、おかしなことではなさそうだ。
しかし、法曹養成制度検討会議のとりまとめは、ほとんどの論点について先送りするだけの内容になってしまっている。せっかく1年で結論を出すために多くの委員を横滑りで入れたのに、結果を見れば、結論先送り(消極的な現状維持肯定と言って良い)の内容しか出せていない。
これまで、抜本的改革を何らできずに、理念は正しいなどと言い張って法科大学院維持を金科玉条として会議を続けてきた方々が、中心メンバーにたくさんいるのだから、ある程度この結論自体予測できていた方も多いのではないだろうか。

ただ、法曹養成制度の改革は待ったなしなど、一方では勇ましいかけ声をかけながらスタートしたものの法曹養成検討会議は、結果から見れば、結論先送り、時間稼ぎのために看板を掛け替えただけだったのではないかと言われても仕方がないように思う。本気で当局が法曹養成制度改革を実行しようと思っていたのであれば、おそらく、今までのフォーラムの委員は外すべきだったし、外されていて当然だった。これまで現状維持しかできず、大した改善策も打ち出せなかった委員達だからだ。
ところが、当局は、フォーラムから多くの委員を横滑りさせた。そして結果的に結論先送りが実現された。これは、当局の意図が実現されたような気がしてならない。

でも、よく考えて見ると、我が国において、有識者の意見を聞くと言って有識者会議を開きながら、公平な人選がなされた例は少ないようにも思う。少なくとも人選する側の意図通りの発言をする委員が多く選ばれ、一応、形の上では公平な議論がなされているかのように仮装される。これは日弁連の委員会においても同じような気がする。

(続く)