ハンガリーの子供鉄道

 ハンガリーの首都であるブダペストを訪れた際、子供鉄道があると聞きました。

 鉄道ファンでもある私としては見逃せないということで、乗車してみたのですが、これがなかなか、しっかりしてるんですね。小振りなディーゼル機関車に引かれてトロッコのような客車が走っていて、速度は遅いですが、なかなか良い雰囲気です。ただ、狭い線路巾ですので、乗り心地自体は、悪い方です。

 さすがに、機関車を運転するのは大人ですが、それ以外の切符売り、検札、進行管理(出発の合図)は、全て子供達が働いているようです。しかも、その働きぶりが実に良い感じなのです。

 鉄道の仕事を一生懸命にこなしているという自信、自分たちの1人1人がしっかりしなければ運営できないという責任感、そして何より自分がその仕事をやれることに対する誇りなど、仕事に対する素直で真摯な姿勢がストレートに伝わってきました。また、非常に楽しそうに働いているため、見ているこちらも良い気分にさせてもらいました。 きっと辛いときもあるでしょう。暑さ寒さや、うまくいかない人間関係にさらされるときもあるはずです。

 しかし、子供達はそのようなことを乗客には一切見せません。

 ともすれば、口を糊するために仕事をしてしまいがちな大人が多い中、仕事の意味を理解し、プライドを持って自分の仕事に対して一生懸命に向き合うことの尊さ、そしてその一生懸命さが周囲に与える良い影響を、子供達の働きぶりから見せてもらったような気がします。

やはりなかった弁護士需要

 本日、大阪弁護士会所属の弁護士に配布された、月刊大阪弁護士会11月号によると、国内企業3795社に対して、社内に弁護士を採用することを考えている企業は、回答1129社の内、53社しかありませんでした。

 しかもそのうち、14社は、1人採用して様子を見たいというお試し組ですから、弁護士採用に本当に前向きな企業は、1129社の内39社、わずか3.5%もありません。そして、回答した企業1129社の内、今後5年間で弁護士をどれだけ採用する予定があるかという質問に対しては、全て併せても47人~127人しか採用予定がありませんでした。1年あたり、全国の主な企業でわずか10人から25人しか、企業側は弁護士を必要としないと考えているのです。

 全国の企業で5年でわずか47名~127名しか採用が見込めないのですから、弁護士人口を増加させる大きな理由であった、弁護士の需要が大きいという理由は、全く絵空事であったことが明らかになりました。それにも関わらず、日弁連は、弁護士増加にストップをかけようともしません。

 法科大学院側から優秀と太鼓判を押された新60期の修習生ですら、司法研修所教官があきれるほど実力のないものが相当数含まれており、今後更に弁護士の増加を図ろうとすれば、弁護士全体の質は低下するばかりです。 弁護士全体の質が低下してしまえば、国民から弁護士に頼んでもきちんと対応してくれないという不満が噴出し、さらに司法に対する信頼は失われるでしょう。例えば、自分が手術を受けなければならなくなったときに、誰が信頼できない医師に依頼するでしょうか。弁護士が扱う仕事は、依頼者の一生に関わる仕事も多いのです。そのような仕事を任せることができない弁護士が増加したら、国民はもはや信頼できなくなってしまった司法による解決を望まなくなってしまうにちがいありません。そうなってから、慌てても、遅いのです。一度失った信頼を取り戻すことは、非常に困難です。

 このように社会の需要もない上に、法科大学院で法律家の粗製濫造の危険が高まっているのに、なんら手を打たず傍観しようとする日弁連会長平山氏の見識を疑わざるを得ません。

 日弁連会長を含めた日弁連執行部は、こんな簡単なことも理解できず、若しくは分かっていながら、結局、後10年、20年先のことなので高齢者である自分たちには関係ない、とりあえず任期中のメンツさえ守れれば良い、と言わんばかりの状況です。

 いい加減にしないと、本当に第二日弁連構想が若手弁護士から出てくるかも知れません。

大阪弁護士会隠れ?会費

 先日のブログで、年間の弁護士会費50万円以上と書きましたが、同期で金沢で開業しているネクスト法律事務所(http://homepage2.nifty.com/next-law/index.htm)の細見孝次弁護士から、誤っていると指摘を受けました。なお、細見弁護士はダスキン大肉まん訴訟においても中心的な活躍をされた優秀な弁護士です。私の郷里の女性を奥さんにされていることからも親しくお付き合いさせて頂いております。

 大阪弁護士会では、基本会費は(日弁連会費を含めて)50万円程度ですが、隠れ会費が驚くほどあって、弁護士会にピンハネされているというのです。細見弁護士によると、法律相談に一度派遣されると弁護士会から一回につき12000円~16000円支給されますが、実は大阪弁護士会に1.5万円から2万円をピンハネされた残りが支給されているだけなのだそうです。

 また、弁護士会経由で依頼が来た事件については、弁護士着手金・報酬にそれぞれ7%の負担金が課せられます。これまで裁判所から依頼されていたはずで殆どボランティアに近い国選の刑事事件も5%の負担金を弁護士会に納める必要がありますし、裁判所から直接依頼が来る破産管財事件でもなぜか7%の負担金を大阪弁護士会に納入する必要があります。(私もこれらの点を忘れていました。)

 確かに細見弁護士の指摘からすると、大阪弁護士会は隠れ会費を含めて相当高額な弁護士会費を徴収していることになり、その会費を背景に考えれば、(私は建設に反対しましたが多数決で建設が決定した)豪華な弁護士会館を大阪弁護士会の執行部が建設する気にもなっても不思議ではありません。細見弁護士は、金沢弁護士会に登録替えする直前に試算したところ、少なくとも年間100万円くらいは弁護士会費を支払っていることが分かったそうです。

  細見弁護士によると、金沢弁護士会は、大阪弁護士会のように隠れ会費のない明朗会計で、月額約5万円だそうです。それでも隠れ会費を含めて支払っている大阪弁護士会の会費より相当安いと思えるそうです。

 これからは、経営者弁護士の事務所に居候する弁護士(イソ弁)から、事務所の軒先を借りるだけの弁護士(ノキ弁)が多くなり、さらには就職できず自宅でいきなり開業する弁護士(タク弁)が増加するそうですが、いずれ大阪弁護士会のような高額な弁護士会費を平気で徴収している弁護士会では、若手の反乱が起きるかもしれません。

広隆寺 弥勒菩薩半跏思惟像

 国宝第1号としても有名な、広隆寺の弥勒像です。私はこの弥勒様が大好きです。同じくらい好きな仏像に奈良興福寺の阿修羅像がありますが、それについては、いずれ触れたいと思います。

 弥勒菩薩とは一般には、釈迦入滅後56億7千万年のちに現れ、衆生を救うといわれています。

 私は、大学時代に京都にいましたので、時々お寺をまわっては仏像を見ることもありました。その際に、広隆寺で弥勒菩薩像を見たのですが、他の仏像とは何か異なる印象をうけました。

 上手くは言えないのですが、おそらく長い年月信仰の対象とされてきた仏像には、それぞれに信心を捧げた人の思いのようなものがこもっているように感じられることが殆どです。それまで見てきた、仏像はいずれも多くの人の思いがこもっていて、祈りを捧げた人たちが仏像に込めた何らかの力が、仏像から放たれているような感じを受けることが多いのです。

 ところが、広隆寺の弥勒菩薩は、私にはそう感じられませんでした。あくまで優しく、市井の人々のあらゆる思いを、ただひたすらに静かに受け止めているように思えました。

 例えとしては不適切かもしれませんが、人間が誰も足を踏み入れることができず、目にすることも叶わない深い山奥に、澄んだ水をたたえた小さな湖があり、何かを放り込んでも決して水面が乱れることもなく、水も濁らず、また音を立てることもなく、すっとその中にしまい込んでしまうような感じを持っている、といえば多少は私の感じた弥勒菩薩の印象に近いでしょうか。

 もちろん、私の印象に過ぎませんから、きっと違った感じを受ける方も多いでしょう。ただ、あまりにも素晴らしい仏像なので、京都観光の際には必見の仏像の一つであることは間違いないと思います。京都太秦に行かれる際には、映画村も良いですが、是非広隆寺の弥勒様にお会いされることをお勧めします。

「よい子」の苦悩

 少年事件を扱っている際に、事件を起こした少年の両親の反応として意外に多いのは、「あんなに良い子だったのに」というものです。

 そのような少年に接見していると、どうも両親の期待が大きかったり、両親にとって「よい子」を演じすぎてストレスが溜まっていたりすることが多いのです。

 どんな子供でも、自分の親に嫌われたくないと考えています。そこで、親が期待するいわゆる「よい子」を演じることが非常に多いと思われます。ところが、親は子供の必死の演技を見破ることができません。この子は、もともと「よい子」なのだと錯覚してしまいます。そして、親はその子が演じている「よい子」が、本当の子供の姿だと思って、「よい子」であることを前提にさらに、先の課題を与えます。

 ところが、子供にとっては必死で「よい子」を演じて頑張っているのに、その頑張りは当たり前のこととして評価されず、なんらその点については誉められることなく更に次の課題を与えられてしまうのです。

 それでも、親に辛い思いをさせたくない子供は頑張ります。そして親の希望しているであろう内容を実現します。すると、更に次の課題を親は与え、子供は必死に努力してその希望を叶えようとします。そのうち、親は次第になれてきて、「親が希望すればこの子は叶えてくれるのだ」と無意識に思いこみ、親の希望を次々と与えるばかりではなく、その子が努力していても誉めることを忘れ、そればかりか親の希望を叶えられないときは、失望をあらわにします。

 子供としては、親の希望をどれだけ頑張って叶えようとしても、それは当たり前とされ、失敗したときだけ責められるという実にストレスの多い場面に陥っていることがあり得るのです。もともと、心の底から良い子である子供なんて殆どいません。どの子供も親に迷惑をかけたくない、親に好かれたいと思って、一生懸命に良い子であろうとしている子供が殆どです。

 もっと、親がはやく気づいて誉めてあげていれば、ここまで問題が大きくならなかったのではないかと思う場合も少なくありません。

 とはいえ、大人の社会でも、きちんと人を評価することは難しいことです。いつも、ゴミを捨てている人間がたまにゴミを拾っていたりすると、「あいつはええとこもある奴や」と評価されますが、いつもゴミを拾っている人がたまたま急いでいて、落ちているゴミを拾わなかったりすると「あんな奴やとはおもわんかった」と非難されることもあります。

 難しいことですが、生まれながらの良い子などまずいないこと、良い子でいる子は殆どが何らかの形で我慢していることが多いこと、を忘れずに、できるだけその子の努力を分かってあげられるようになりたいものです。

回答を逃げた日弁連会長

私と加藤弁護士が、日弁連会長宛に質問状を出したことは11月9日付のブログに記載しました。

 その質問状に対する回答が届きましたので、書式は若干ずれるかもしれませんが、内容は一切手を加えずに、そのままで掲載します。

(以下回答書)

                                                                                                      2007年11月15日

弁護士  坂 野 真 一 殿
弁護士  加 藤 真 朗 殿

 貴殿らの平山会長宛質問状が、11月8日に日弁連に届きました。
 ご質問事項に関しては、今後の理事会その他の説明において会長が留意させていただくこととしておりますが、会員個人からのご質問に関しては、会長として個別の応答はしないこととしております。おたずねの事項に関しての平山会長の基本的な考え方は、本年9月及び10月の日弁連理事会冒頭の会長挨拶の中で述べられており、日弁連ホームページの会員ページに「理事会報告」として要旨が掲載されていますので、ご覧頂ければと存じます。また、本年11月30日の近畿弁護士会連合会大会の意見交換会において、この問題が検討される予定であることをおしらせいたします。
 なお、平山会長は、いただいた質問状について「熱心に研究され、検討されていることに敬意を表します。」と申していることをお伝えいたします。

                                        日本弁護士連合会
                                               事務総長 明 賀 英 樹

(回答文ここまで)

 そして、会長の基本的考えとして参照するように指示された会長挨拶について、私たちの質問と関連する部分を次に抜粋します。

(第6回理事会議事録概要(2007/9/13・14開催 速報)から抜粋)

(前略) 日弁連は平成12年11月臨時総会で、社会の種々の分野で、国民が必要とする数の法曹を質を維持しつつ確保すると決めた。その際、日弁連は数字は示していない。政府の閣議決定では、平成22年ころ3000人という目標が示された。そのことを尊重し達成のために全力を挙げてきた。急激な増加によって様々な問題が生じつつある。いったん目標が達成された後は、ニーズの充足度、質の維持を検証して、以後について検討すべき。昨年から検証を開始している。弁護士過疎・偏在問題が解決されたら、その後の法曹人口のあり方について、政府に方針変更を求めていきたい。新旧60期の就職問題の解決が第一、過疎偏在の解消に全力を尽くす。 (中略) ニーズの検証を行いつつ、あらゆる分野での業務拡大を図る。質の検証については、新法曹の活動状況を検証していく。これらのことをやれば「これ以上はだめだ」とか、「漸減しなければだめだ」ということを、我が国の人口減少も踏まえて、今後の方針としていくことができる。(後略)

(第7回理事会議事録概要(2007/10/23・24開催 速報)から抜粋)

(前略) 中国弁連は、子供の権利条例の制定を目指してシンポがあり、また司法試験合格者についての議題があった。中部弁連は、裁判員制度の評議方法についてのシンポがあり、適正な弁護士人口に関する決議があった。 (中略) しかし、まだ、法科大学院は2004年にスタートしたばかり、すぐにやめるのかと言われないように。新しい司法制度を完成させるために頑張っていく。2010年(平成22年)ぐらいが大きな分かれ目になる。きちっと、規制改革会議にも言える。実力はこうです。これ以上は無理ですという資料が集まる。その前に政府が資料を集め、もう十分だよと言われればそれでも良い。国民に約束した司法制度改革は緒についたばかり。自らこれをやめたとは言えない。地方ではそう言う実情があるのかもしれない。質が落ちたのかもしれない。大きな司法、法曹養成制度を10年も経たないうちに変えるのはどうかと思う。 (後略)

 ここからは、私の感想ですが、結局日弁連執行部は、3000人増員ありきで、3000人の目標を達成したら、そこから弊害を検討しようという立場に近いように読めます。また、明らかに法科大学院出身の司法修習生の全体のレベルが低下しているにもかかわらず(司法研修所教官がそう述べているのだから間違いないはずです)、すぐにやめようとは言えない立場なのだそうです。

 日弁連執行部は、たとえて言うと『気象専門官も含まれ、現地の気象条件もよく知る乗客たちが「ここ数年ひどく冷え込むので、こんな北の航路を行くと、確実に氷山に遭遇するから危険だ」と騒いでいる中、「平成12年に一度決めたので、その北よりの航路は変更しません」と言い張る船長や航海士』のようです。「事情がどう変わろうと、とにかく一度決めた進路を取り、氷山にぶつかったら考えよう」ということのようです。

 氷山にぶつかった後の船は沈没が避けられません。奇跡的に沈没を免れても大きな損傷を受け、その後の航海が安全に行われるとは到底思えません。氷山に衝突してからでは遅いのです。氷山に衝突する危険が分かっているのであれば、最初の決定にとらわれることなく、進路を正しい方向に取るべきだと思います。

 過ちを正すのに遅すぎることはないのと同じく、早すぎることも、またないと思います。弁護士不足をしきりと喧伝していた経済界も弁護士の採用はわずかです。

 「結局、弁護士がいたら便利だと思って弁護士不足を言ってみたものの、いざ雇用するとなれば費用がかさむのでやめておこうと、経済界にウインドーショッピングされただけではないか」、と私の知人である企業内弁護士も言っていました。その弁護士によると、今後も爆発的に増加する弁護士人口を吸収するだけの企業の雇用は到底見込めないそうです。このように、当初3000人を決めた際の状況と現状は全く異なっています。現実の変化に目を背け、とにかく決まり事だから守っていこうというのは愚か者の選択といわざるを得ないでしょう。

 法曹の質を維持しながら法曹の数を増加させる方法として法科大学院が失敗であるのなら、直ちにやめるべきでしょう。法律家の質を維持できないのであれば、法律家ひいては司法へ対する国民の信頼を失います。国民の信頼を一度失ったら、もはや回復は不可能と考えるべきでしょう。その責任は一体誰が取るのでしょうか。

 日弁連は直ちに法科大学院教員及び、司法研修所教官から忌憚のない意見を集め、法曹の質の維持ができていないことを明確に指摘すべきです。弊害が出てから対処するのは遅すぎるのです。弊害が出ること自体が司法への信頼を揺るがせていることなのですから。

司法特別演習B 懇親会

 先日、関西学院大学法学部で、私が担当している司法特別演習Bの懇親会が行われました。

 私は、友人という存在は、その人の一生の財産になると思っています。しばらく音信不通でも、何かのきっかけで、すぐ以前のように親しく話し合うことも出来ます。その間にお互いがどんなに様々な経験を積み、いろいろな時間を過ごしていても、その経験や時間を一瞬で飛び超えて、以前のように話せることが多いものです。この年になって思うのですが、時の残酷な破壊力に対して、かなりの耐性をもつ、まれな存在の一つが友人関係なのではないでしょうか。

 その友人関係は、大学を卒業して社会に出てからは、なおさら、その価値を増すような気がしています。

 せっかく少人数でアットホームな雰囲気で演習が行われているので、懇親会を通じてお互いを知り、更に友情を深めてもらえれば、きっと学生さん達の将来の財産になるはずです。

 参加してくれた学生さんは、それぞれ個性的で可能性に満ちあふれており、とても楽しい時間を過ごすことが出来ました。これをきっかけに更に、友人関係を広げていってくれれば、いいなと思っています。

 ちょっと写真を撮ってもらう際にVサインを出すには、年を取りすぎたかなと思っている坂野でした(笑)。

悲しいほどお天気

 松任谷由実さんの曲に「悲しいほどお天気」という名曲があります。

 実は、私も、一度だけ高い空にひんやりとした悲しさを感じたことがあります。

 既にブログで書いたかと思いますが、大学時代、私は、体育会グライダー部に所属していました。 

 1993年6月にグライダー部の仲間であり、既に卒業して就職していたM君が尾瀬で遭難し命を落としました。経緯に若干不審な点もあるようにも思えたのですが、当時の私は司法試験受験生にすぎず、何の力もなく、ご家族になにも手助けをして上げることが出来ませんでした。

 グライダー部の友人である辻昭一郎君と相談した結果、二人で尾瀬に出かけて彼が発見された沢の近くまで行って、M君の冥福を祈ろうということになり、お互いの都合がつく10月のある日に尾瀬に出かけたのです。京都から新幹線で東京に行き、当時、虎ノ門病院に勤めていた辻君と合流。更に新幹線で上毛高原まで出て、レンタカーで尾瀬に向かいました。

 私たちが尾瀬の登山口に着いた頃には、もうお昼もまわっており、下山してくる方が殆どで、これから登ろうとするのは私たちくらいでした。秋の日暮れは早いこともあり、急ぎ足で彼の発見された沢への入り口付近に向かい、辻君と二人で黙祷を捧げました。

 その際に、尾瀬ヶ原にも出たので少し休憩したのですが、夕方が近づいていることもあって誰1人周囲に人影は見あたらず、普段は良くしゃべる方の辻君もあまりしゃべらなかったので、尾瀬ヶ原の金色に染まった草原をわたる風と揺れる草の音だけが耳に聞こえていました。

 そのとき見上げた空は、ただひたすらに遠く、そして高く、そして澄み切っていながら、どうしようもく悲しい空でした。どちらが言いだしたのか忘れましたが「そろそろ行こうか」と口に出すまで、二人ともあまりしゃべらなかったような気がします。

 私は、M君から大学時代に、不要になったステレオセットをもらったことがあります。アンプなどはもう駄目になってしまいましたが、スピーカーだけは、片方が鳴らないときもあるものの、20年以上経った今でも使っています。バスレフ型のスピーカーで大きくて重いのですが、柔らかな音が出ます。明るく振る舞うことが好きで、それでいながら周囲への優しさをいつも忘れなかったM君の人柄のような音を出してくれます。今年のM君の命日にも、そのスピーカーを使って音楽を聴きました。

 先日松任谷由実さんの「悲しいほどお天気」を耳にしたので、少し思い出話をしてしまいました。

勉強会「ニワコでドン」

 以前のブログで、京大答練をご紹介しましたが、そこで私を指導してくれた坂口君が、紹介して入れて頂いた司法試験勉強会が「ニワコでドン」という変わった名前の勉強会でした。

 ある司法試験予備校の短答式試験問題を、みんなで頭をひねって解いて最高位を目指したり、論文答案をお互い批評し合ったり、口述試験対策も真夏にやったことを覚えています。司法試験予備校の短答式試験での名前は勉強会のオリジナルメンバーの名前を集めて「田木口ニワ子」としていたと思います(私はオリジナルメンバーではありませんでしたが)。

 「田木口ニワ子」の名前で、予備校が発表する成績では殆どいつも1位を獲得していたため、実在の人物だと思っていた受験生も多かったようです。私が合格後、司法研修所のクラスで「ニワコでドンという勉強会に入っていて、『田木口ニワ子』の成績を上げるためにみんなで、やってました」と話したところ、ある女性の修習生が「(田木口ニワ子が)絶対、実在の人だと思ってました。あんなに予備校の試験で点数がいい人でも合格できないこともあるんだから、自分も頑張ろうと思ってきたのに・・・・・・・。」と言われたこともあります。 つまりニワ子は、その方の合格までサポートしたのだということになりそうです。

 当時私は、勉強に行き詰まりかけていて、ニワ子の皆さんの素直で若々しい考え方が、歪みかけていた私の勉強方針を正してくれたと思っています。おそらく、この勉強会に参加していなければ私の合格はなかったのではないかとも考えています。メンバーもそれぞれ魅力的な方が多くて、本当に素晴らしい勉強会だったと自信を持って言えます。

 たまたま、近年メンバーの相当数が関西にいることが明らかになり、ニワ子を中心的な立場で支えてきてくれた谷口君、高橋さんなどの呼びかけで、同窓会が開かれました。私は東京出張の後、遅れて参加したのですが、幸い皆さんに温かく迎えていただき、旧交を温めることが出来ました。みなさん、変わっておられず、安心すると同時に、お腹の出てきた我が身を振り返ることになってしまいました。

 これを機会に、また交流をどんどん復活させようというお話も谷口君から出ており、今後も勉強会「ニワ子でドン」の仲間とさらに仲良くなれればいいなと思っています。

日弁連会長に対する質問状

 少し前の話になりますが、10月29日付の日本経済新聞朝刊「法務インサイド」という記事において、『(司法試験に)受かっても職がない? 弁護士飽和に危機感』という表題で、司法試験の合格者が急増しているが弁護士になっても就職先がなく、さらに法科大学院進学者のレベルダウンも危惧されている旨の報道がなされました。

 その報道に、日弁連会長平山正剛氏が、「2010年頃まで就職は大丈夫、政府・与党内に年間3000人合格は多すぎるという機運もあるが、政府が見直そうと言ってきたら、考えなおしても良い」という趣旨と受け取れるコメントをされていました。

 もし、社会がもっと弁護士の数を必要としているのであれば、弁護士が就職出来なかったりすることは考えられません。報道によれば既に就職できなかった弁護士も存在するのに、どういう根拠で平山氏が2010年まで就職問題は大丈夫と考えているのかも理解できません。

 周囲の何人かの若手弁護士に意見を求めましたが、平山氏のコメントは本当に弁護士のことを考えているのかという意見すら聞かれました。すなわち、我々からすれば、あまりにも現実を把握されていないコメントだと思われたのです。

 そこで、私と加藤弁護士は、日弁連会長平山正剛氏に、次のような内容の質問状を送りました。その質問状は、11月8日に平山氏に届いたことが配達記録で明らかになっています。

 なお、回答期限は11月20日と指定しましたが、多忙な平山氏のことですから回答が遅れるかもしれませんし、黙殺されるかもしれません。しかし、平山氏の回答があれば、出来るだけ速やかに当ブログにおいて公開させて頂きますので、その際はご覧下さい。

質 問 状

 去る平成19年10月29日付日本経済新聞「法務インサイド」欄に掲載された、平山正剛会長のコメントに関し、坂野が日弁連としての意見としてコメントしたのか、平山氏個人の意見としてコメントしたのか問い合わせたところ、「取材を基に書かれた記事であり、ニュアンスは別として発言内容と異なるとの認識はありません」とのFAXによる回答を10月31日に得ました。
 結局いずれの立場でのコメントか明確にして頂けなかったのですが、少なくとも発言内容と異なる記事が存在しないという前提で、日弁連会長平山氏に対して当職らは質問致します。
 日弁連会長という立場に鑑みれば、日弁連会員の疑問乃至質問に当然答えるべき義務があると考えますが、仮に平山氏がそう考えないとしても、当職らの周辺の若手弁護士に本件記事について聞いてみたところ、相当数の若手弁護士が平山氏の発言に対して疑問乃至反発を感じています。この点に鑑みても平山氏は、本質問状に答えるべきであると考えます。
 なお、本質問については、当事務所ホームページ(アドレス:www.idea-law.jp)内の当職らのブログに公開させて頂くものとし、平山氏の回答もそのまま公開させて頂く予定です。希望があれば写しを配布することも考えておりますので、ご承知おき下さい。
 お手数ですが、回答につきましては11月20日までに頂けますようお願い致します。また、回答については、誤解を避けるため、日弁連会長としての立場での回答であるのか、平山氏個人としての立場での回答であるのか明確にして頂くようお願い致します。

1 
① いわゆる「ロースクール組」の印象について、「実力が分かるのはこれから。仕事を始めて3年程度は経過を見る必要がある。」とコメントしていますが、どのように経過を観察する予定なのでしょうか。また、3年という経過観察期間の根拠はあるのでしょうか。
② 仮に客観的な測定がほぼ不可能なアンケートくらいしか具体的案がないというのであれば、正確な経過観察など不可能なのではないでしょうか。もともと正確な経過観察が不可能であれば、3年間も経過を見ること自体意味がないのではないでしょうか。
③ 3年経過時点で平山氏は会長を退いていると思われますが、日弁連会長としての問題の先送りなのではないでしょうか。

2 「ロースクール組」に関して、司法研修所教官が第34回司法試験管理委員会ヒアリングの概要において次のように述べていますが、日弁連及び平山氏として把握しているのでしょうか。
・ ビジネスロイヤー志向が強く、刑事系科目を軽視している修習生が多いのではないか。
・ 口頭表現能力は高いと言えそうであるが、発言内容が的を得ているかというと必ずしもそうではない。
・ 教官の中で最も一致したのが、全般的に実体法の理解が不足しているということである。単なる知識不足であれば、その後の勉強で補えると思うが、そういう知識不足にとどまらない理解不足、実体法を事案に当てはめて法的な思考をする能力が足りない、そういう意味での実体法の理解不足が目立つ、というのが非常に多くの教官に共通の意見である。

3 2の内容を当然把握されているとの前提で質問を続けます。
① (当職もロースクール組に優秀な人材が含まれていることを否定するものではありませんが、)大量に合格者を増加させた結果、司法修習生自体が「その後の勉強でも補えるレベルの知識不足ではない」と司法研修所教官が指摘する者が多数含まれる集団となったことが明らかになりました。そのような修習生の集団の大多数が弁護士となりますが、「その後の勉強でも補えるレベルの知識不足ではない」修習生が、3年程度の経験があれば弁護士として立派に通用するようになると日弁連及び平山氏は本気で考えているのでしょうか。
② 仮にそのような修習生でも3年間の経験で一人前になると仮定したとして、経験を積むのに必要な3年間に、知識不足の法律家によって弁護過誤が発生する可能性がこれまで以上に高まる(特に現に存在する就職難から、いきなり独立する者が増加することが考えられ、その場合の危険度は更に高まると思われるが)ことを、日弁連及び平山氏としてはどう考えているのでしょうか。

4 また、第34回司法試験管理委員会ヒアリングの概要において法科大学院関係者が第1期は特に優秀な学生が集まったとコメントしているが、その特に優秀な第1期生でも司法研修所教官によれば質問2で記載したレベルの者が多いとされています。第1期に特に優秀な学生が集まったということは、今後法科大学院の学生の全体的レベルが下がることは明白であると考えられると思います。
① 当職は現に法科大学院教員の複数から、法科大学院の学生のレベルダウンが著しいと聞いたことがありますが、日弁連及び平山氏は、法科大学院の学生のレベルダウンが生じているか否かについて事実を把握しているのでしょうか。またその把握する手段はどのような手段なのでしょうか。
② さらに法科大学院進学を希望する者が減少し始めている現在、法曹の質をどう維持していくつもりなのでしょうか。希望者が集まらない以上、法曹人口増加をある程度抑制し、競争の程度を高める以外に解決する方法はあるのでしょうか。
③ 法科大学院制度は、法律家を粗製濫造するための制度ではなく、質の高い法律家を多く輩出するための制度だったはずですが、司法研修所教官もあきれる程レベルの低い修習生が生じているのは法科大学院制度の失敗なのではないですか。

5 
① 法科大学院進学希望者が減少傾向にあることは、法曹に魅力が無くなりつつあることの証明であると考えるのが自然だと思いますが、日弁連及び平山氏としては、法曹の魅力が失われつつある原因が、法曹人口の爆発的増加による将来への不安であるという可能性はあると考えていますか。
② 考えているならば、それに対する具体的な対処方法はどのように考えているのでしょうか。
③ 考えていないのであれば、法科大学院進学希望者の減少の理由をどう説明できるのでしょうか。
④ 法曹に魅力を取り戻す最も効果的な解決は、法曹人口爆発的増加の抑制による法曹の生活安定と職域確保にあると当職は思いますが、その他に法曹に魅力を取り戻す方法があると考えているのであれば、その理由と根拠を明確に示して説明して下さい。

6 
① 実際に旧60期で就職できなかった修習生が存在する(報道による)ことについて、日弁連及び平山氏は知っていますか。
②(就職問題について)2010年まで大丈夫という平山氏乃至日弁連の認識がすでに現状を把握できていないことの表れではないかと思われますが、2010年まで大丈夫というのであればその根拠は何ですか。具体的にお示し下さい。
③ 大丈夫であれば、なぜ就職できない修習生が発生したのか。具体的に説明して下さい。
④ また、2010年まで大丈夫なのであれば、記事に出ていた日弁連弁護士業務総合センター副本部長の「採用枠を前倒しで使った形で来年以降は厳しい」というコメントとの整合性がとれていないのはなぜですか。

7 
① 日弁連の企業・官庁での新たな就職先確保の努力にどのような努力が払われ、どれほどの具体的成果が上げられているのか明確に示して下さい。
② ちなみに当職の知り合いの企業内弁護士からは、とても弁護士大増員を吸収するだけの企業による雇用は見込めないと聞いていますが、企業・官庁の弁護士雇用に関する現状乃至見込みについて、どのように把握しているのか、具体的に示して下さい。
③ また、企業が即戦力として社会人経験者を求めているとしても、現状の研修制度に加えて如何なる研修体制の充実で対応するつもりなのか具体的に示して下さい。
④ さらに、どの程度の研修で企業が即戦力として認めてくれるのか明確な基準があるのか示して下さい。
⑤ 仮に即戦力としての社会人経験者を企業・官庁が求めているとしても、そのニーズ(採用予定人数)はどの程度のものか日弁連として把握しているのか。またその根拠は如何なるものか。企業・官庁のニーズを把握しているとして、如何なる根拠に基づいて現在から今後も続く爆発的法曹人口増加を吸収するだけのニーズがあると判断しているのか明確に示して下さい。

8 「法曹年間増加人数3000人見直し機運が政府にあるが」との質問に対し、平山氏は閣議決定、法科大学院や裁判員制度を理由に10年単位の長い目で改革を見る必要があるとコメントしています。
① そもそも閣議決定を行った政府自体に見直し機運が出ているにもかかわらず、その当時の閣議決定を墨守しようとする理由は何ですか。
② 閣議決定を行った政府内部にすら見直しの機運が出ているということは、当時の閣議決定に過ちがあった可能性が高いからと思われますが、それにも関わらず当時の閣議決定を、(今後就職できない弁護士、就職できても低い給料で働くことを余儀なくされる弁護士を多数生じるとがほぼ確実な状況で)維持しようとする理由は何ですか。換言すれば、その当時の閣議決定を、若手弁護士に犠牲が生じ、弁護士全体を危機に陥らせる危険が明らかになっている現在でも貫かなければならない根拠はどこにあるのですか。
③ 現に新人弁護士の弁護士会費負担軽減を提言している日弁連の態度は、根底には弁護士過剰時代が到来したため新人弁護士の待遇が悪化し、高額な弁護士会費の負担にあえぐ新人の負担軽減にあったと思われますが、その日弁連の態度と、より一層弁護士過剰を招く法曹人口年間3000人増員容認態度とは矛盾しないのですか。
④ 就職に関し、ノキ弁を勧めてみたり、若手向けに「弁護士のための華麗なるキャリアプラン挑戦ガイドブック」などという、今までの弁護士以外の道を勧める日弁連の態度と、より一層弁護士過剰を招く法曹人口年間3000人増員容認態度とは矛盾しないのですか。
⑤ 就職問題に関し、平山氏自身2010年までは大丈夫という発言をしているようですが、裏を返せば就職問題に関して極めて甘い見方をしている平山氏ですら2010年以降の就職問題は困難があるということを認めているのではないですか。2010年以降の就職問題をどうするつもりなのですか。
⑤ それにも関わらず直ちに法曹人口増加にストップをかけない理由は何ですか。特にその法曹人口増加ストップに関するイニシアチブを政府に委ねるかのような態度は日弁連会長としての責任放棄ではないですか。
⑥ また法科大学院や裁判員制度が出来たことが、なぜ10年単位の長い目で改革を見る必要につながるのですか。
⑦ 現に研修所教官があきれる程低レベルの修習生が大量に生じている現実が存在するにもかかわらず、10年単位の長い目で見るという理由で放置する根拠は何ですか。
⑧ 仮に何らかの理由があり10年間放置したとして、低レベルの弁護士が氾濫した社会において、司法への信頼をどのように維持していくのですか。

9 平山氏は3000人増員方針を見直すには(司法改革の)十分な検証が必要と述べておられます。
① 十分な検証とは何をどのように検証するのですか。具体的な検証対象・検証内容・検証方法について明確に説明して下さい。
② 「改革が十分に達成されれば無理に増やす必要はない。」と述べておられますが、改革が十分に達成された状態とは、何がどのように達成された状態なのですか。またその検証方法な具体的にどのような手段で、なにをどう判断するのですか。

平成19年11月7日

日本弁護士連合会 会長 平 山 正 剛 殿

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