悲しいほどお天気

 松任谷由実さんの曲に「悲しいほどお天気」という名曲があります。

 実は、私も、一度だけ高い空にひんやりとした悲しさを感じたことがあります。

 既にブログで書いたかと思いますが、大学時代、私は、体育会グライダー部に所属していました。 

 1993年6月にグライダー部の仲間であり、既に卒業して就職していたM君が尾瀬で遭難し命を落としました。経緯に若干不審な点もあるようにも思えたのですが、当時の私は司法試験受験生にすぎず、何の力もなく、ご家族になにも手助けをして上げることが出来ませんでした。

 グライダー部の友人である辻昭一郎君と相談した結果、二人で尾瀬に出かけて彼が発見された沢の近くまで行って、M君の冥福を祈ろうということになり、お互いの都合がつく10月のある日に尾瀬に出かけたのです。京都から新幹線で東京に行き、当時、虎ノ門病院に勤めていた辻君と合流。更に新幹線で上毛高原まで出て、レンタカーで尾瀬に向かいました。

 私たちが尾瀬の登山口に着いた頃には、もうお昼もまわっており、下山してくる方が殆どで、これから登ろうとするのは私たちくらいでした。秋の日暮れは早いこともあり、急ぎ足で彼の発見された沢への入り口付近に向かい、辻君と二人で黙祷を捧げました。

 その際に、尾瀬ヶ原にも出たので少し休憩したのですが、夕方が近づいていることもあって誰1人周囲に人影は見あたらず、普段は良くしゃべる方の辻君もあまりしゃべらなかったので、尾瀬ヶ原の金色に染まった草原をわたる風と揺れる草の音だけが耳に聞こえていました。

 そのとき見上げた空は、ただひたすらに遠く、そして高く、そして澄み切っていながら、どうしようもく悲しい空でした。どちらが言いだしたのか忘れましたが「そろそろ行こうか」と口に出すまで、二人ともあまりしゃべらなかったような気がします。

 私は、M君から大学時代に、不要になったステレオセットをもらったことがあります。アンプなどはもう駄目になってしまいましたが、スピーカーだけは、片方が鳴らないときもあるものの、20年以上経った今でも使っています。バスレフ型のスピーカーで大きくて重いのですが、柔らかな音が出ます。明るく振る舞うことが好きで、それでいながら周囲への優しさをいつも忘れなかったM君の人柄のような音を出してくれます。今年のM君の命日にも、そのスピーカーを使って音楽を聴きました。

 先日松任谷由実さんの「悲しいほどお天気」を耳にしたので、少し思い出話をしてしまいました。

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