1+1=1?! 法テラスの変な報酬計算

 法テラスの報酬算定基準によると、離婚調停で離婚を成立させた場合の報酬は最高で12万円(税別)となるそうだ。
 また、家事調停で、財産的給付を受けた場合、基本的には、その財産給付を受けた額の10%(税別)を報酬として決定してもらうことができるそうだ。

 では、問題です。

 離婚調停を成立させ、120万円の解決金を得ました。法テラス報酬算定基準で計算すると弁護士報酬は幾らになりますか?

 普通の人なら、おそらくこう考えるだろう。
 離婚を成立させたのだから12万円だろ。
 120万円の給付を認めさせたのだからその10%で12万円だろ。
 合計24万円になるんじゃないの?

 ところが、である。

 法テラス基準によればこの場合は、12万円にしかならないのだ。

 離婚調停を成立させたが1円も解決金を得られなくても12万円。
 離婚調停成立できず、婚費120万円を得たとしても12万円。

 それなのに、離婚調停を成立させて解決金120万円を得たとしても12万円。

 不服を伝えに行った法テラスの担当委員の先生も、どうして離婚だけこういう規定になってるのか分からないと述べていた。

 当たり前だ。

 1+1が、なぜか1にしかならない、極めて不合理な規定なのだから。

一応法テラス側の根拠は法テラス基準別表3である。
☆家事事件の報酬基準には、
 1.金銭その他の財産的給付がない、又は、当面取立てができない事件の報酬金は64,800~129,600円とする。
 3.1.に関わらず、金銭給付のある場合には金銭事件に準ずる。
☆金銭事件の報酬基準
 1.現実に入手した金銭が、3,000万円まではその10%(税別)を基準とする。

 再度述べるが、どうしてこんな訳のわからん規定になっているのか理解に苦しむ。
 「1.に関わらず」、とせずに、「1.に加えて~加算する」とすればいいはずだ。だって、離婚をまとめた上に財産給付も得るのだから弁護士の活動が評価されて然るべき場面だからだ。
 しかし、現実にはそう規定されていない。弁護士の仕事を全く知らない奴が勝手に規定したとしか考えられない。
 (私見ではあるが、ある一定の場合には回避できる方法はありそうだが、そこを主張しすぎると調停成立が難しくなる場合が生じる気がする。)

 さらに、法テラス案件は、弁護士の負担としても劣悪だ。
 前にも述べたが、離婚事件に関して大阪弁護士会法律相談センター基準では、着手金の他、離婚成立させた場合は着手金と同額の報酬が認められるし、さらに金銭的給付を得た場合は、得られた利益の24%(300万円以下の場合)も報酬として請求可能だ。

離婚調停を成立させ、120万円の解決金を得た場合、

法律相談センター基準なら

着手金50万円
報酬金50万円(離婚成立分)
   28.8万円(120万円に対する報酬分)
で128.8万円の弁護士費用が請求できる計算になる。

ところが、法テラスになれば最大でも
着手金12万円
報酬金12万円(離婚と財産給付分込)
合計24万円になってしまう。(法律相談センター基準の18.6%)

驚くなかれ弁護士会法律相談センター基準の2割以下である。

 こんなの医者に例えれば、健康保険診療の個人負担分(30%)の費用すら出さないで、全ての治療を手抜きせずに行え、というものだ。
 どの医師だってペイしないだろう。健康保険による診療も後で7割の診療費が健康保険から支払われるからこそ受診者の3割負担が維持できているはずであって、それを患者がその場で支払わない7割全てを医師の自己負担とするならば、3割負担希望者はご遠慮下さいとの看板があふれかえることは容易に想像がつく。医師だって個人事業者だから当たり前だ。医師だって診療報酬でご飯を食べ、子供を育てなければならないからだ。こんな当たり前のことがどうして、弁護士のことになると顧みられないのか不思議でならない。

 更に近時は、これまで法テラスが立て替えて弁護士に支払い、法テラスが依頼者に請求していた点についても、依頼者が金銭給付を受ける際には、依頼者から弁護士が直接交渉して回収するように勝手に変更し、法テラスが回収の面倒を避けるような規定になっている。分割払いなら金利を払うのが普通だが、法テラス案件になればそれも弁護士負担になってしまうのだ。しかも回収の手間とリスクは弁護士が負えというわけだから、いい加減にしろとも言いたくなる。

 法テラスは、弁護士の報酬を引き下げるための制度ではない。そのことは、法テラスの報酬決定に意見を述べに行ったときに確認したら、法テラス関係者も認めていた。
 だったら、早急に正当な報酬に改めるべきだ。正当な報酬に改定しないから、既にインターネットでは、「弁護士費用を安くする裏技」などとして、法テラス利用が紹介されたりしているのだ。世間は弁護士報酬を引き下げるための制度として法テラスを利用し始めているとも言えるのだ。

 法テラスの制度趣旨自体は賛成だが、あまりにも弁護士の善意に頼り切った運営と、これまで以上に面倒を弁護士に押しつけてくるやり方には我慢も限界に近づいてきた。
 それに、私の仕事に正当な費用をお支払い下さるクライアントの方に対する逆差別にもなる危険もあるだろう。

 今までは、「どうしても」とお願いされた場合には、法テラス案件も受任してきたが、今後、法テラス案件は、よほどのことがないと受けられないかもしれない。

 でもそれは私が悪人だからではない。

 私が、時間と努力を費やして身に付けてきた知識と経験に基づいて提供するサービスに、半ば強制的にダンピングを求める法テラスのやり方が、私の仕事に対する侮辱ともいえるからなのだ。

法テラスに怒り

(平成28年4月15日に記載したブログは誤解があったようなので削除しました。これはそのブログ記事とは別の記事となります。)

 ○○がらみの離婚事件(特定防止のため伏せ字)で、昨年●月から夫婦関係調整(離婚)・婚費請求の調停を法テラスを使って受任した。 ○○がらみだけあって、相当難航する調停であり、調停も毎回長かった。調停間に本人とも何度も打ち合わせ、さらに相手方代理人と何度も調整を行い、6度目の調停期日で、5時間以上すったもんだしたあげく、10ヶ月以上かかって、ようやく調停が成立した。

 法テラスに事件終結の報告を事件終了後数日内に提出したところ、報酬決定は相手方からの金銭給付が行われてから考えるとの返事。通常の事件では事件が終了しているのだから、終結時点で支払うのが当然であり(大阪弁護士会法律相談センターの定型契約書でもそうなっている)、支払わないのなら法テラスが遅延損害金を支払うのが筋だとは思うが、そこは百歩譲って法テラスだから仕方ないかと我慢してやった。

 そして、本日報酬決定通知が来た。
 その決定内容が問題だ。

 20万円振り込まれたようだから
 弁護士報酬を2万1600円と決定する。
 受領した20万円から差し引いて17万8400円を依頼者に返せ。
(その後、依頼者に振り込まれる予定の100万円の10%も報酬として認めるが、振り込まれたら依頼者からもらえ。そのもらい方については弁護士が依頼者と勝手に協議しろ。)
以上

  久しぶりに怒った。

 終結報告書には、20万円は弁護士ではなく依頼者に振り込まれるものと明記してあるし、その旨の調停調書もつけてある(やむを得ず依頼者に振り込まれることになっている)。そもそも、依頼者に17万8400円を返せといわれても、私は20万円受け取っていない。これだけでもバカにしやがってと思うところだが、より大きな問題はそれ以外にある。
 法テラスは、金銭給付以外に、調停自体をまとめたこと、動産の財産分与を受けたこと等について全く考慮していないのだ。

 参考までに大阪弁護士会法律相談センターの離婚調停についての報酬基準は
①着手金50万円以下
②報酬金50万円以下
③財産的給付を受けた場合には、300万円以下の場合は8%の着手金・16%の報酬金の範囲内で適正な報酬を受領することができる。更に複雑な事案の場合は適正な額まで増額も可能。
となっている。
 つまり離婚調停はまとめるのが難しいからこそ、調停をまとめた際の報酬金が認められているのだ。
 上記②③で計算した場合、動産の財産分与を除いても報酬だけで78万8000円の範囲内で請求できたはずだ(事案が複雑な場合は更に請求可能だが、それは措く)。

 加えて言えば、本件の場合、法テラスの決めた着手金は調停を2件合わせて20万2000円だ。
 これだけでも、法律相談センター基準着手金の4割しか支給されていない。
 そもそも法テラス制度は、弁護士費用の立て替えをして法的サービスを受けやすくする制度であり、弁護士報酬の引き下げをする制度ではないはずだ。

 もし、法テラスが調停自体をまとめたことを報酬に評価しないのなら、今後の法テラス経由の調停案件が来たら着手だけして着手金を受領し、1回目の期日において、「私の判断からすれば調停成立の見込みが無い。調停成立は無理、不可能だ。」と述べて10分で不調にして終わる方がよほどいい。苦労に苦労を重ねて真面目に調停をまとめても全く評価されないのなら、6回も家裁に通って調停期日だけで20時間以上も費やして、真面目に調停をまとめなくても、法テラスが弁護士に文句をいう資格はないだろう。だって法テラス自体が調停をまとめることに評価するだけの意味を見出していないんだから。意味ないことを弁護士がしたって無駄なだけだろ。

 マスコミにも文句は言わせない。これまでマスコミは弁護士に自由競争しろと何度も言ってきた。自由競争しろとは、要するに儲けた者勝ちの社会で競えということだ。その儲けた者勝ちの社会の中では、儲かるように(損失を出さないように)工夫することは違法な行為でない限り、基本的には正義と見なされる。そして違法・不当な処理をする弁護士がいても、それは自由競争の中で淘汰されるはずだからとして、その過程の犠牲者は顧みないのが自由競争だ。だから、上記のような調停の扱いを(私はしないが)仮に実行した弁護士Aがいたとしても、マスコミはその弁護士Aを非難するよりは「お気の毒ですが、自由競争の範囲内ですね、そういう弁護士はいずれ自由競争で淘汰されますよ。」と冷たく述べて突き放すほうが姿勢として一貫するはずだ。それに、新聞を読みたい経済的困窮者のために「新聞法テラス」という公的制度ができたとして、一部160円で販売している新聞を、経済的困窮者で新聞を読みたい者に新聞法テラス価格の64円(定価の4割)で販売しろ、と言われて新聞社が納得するのだろうか。
 おそらく民業圧迫だと大反対するはずだ。

 弁護士だって個人事業者だ。依頼者の方から頂く正当な着手金・報酬金で生計を立てているのだ。国選弁護も法テラスも弁護士が金のなる木と暇な時間を持っているという前提で設計されているとしか思えない。
 
 当然上記の決定には不服を申し立てることにしている。
 正当な報酬も支払ってもらえずに何が社会生活の医師だ。

 ふざけるな法テラス。

桜満開

 京都鴨川沿いの桜がほぼ満開だ。

 昨夜10時過ぎに、軽いジョギングをしながら、川沿いに白くボンヤリ浮かび上がるソメイヨシノを堪能した。

 夜も遅く、少し寒かったためか、賀茂川沿いの遊歩道には殆ど人はいなかった。

 誰が見上げているわけでもなく、誰が愛でているわけではない。平日の夜であり、花見と称した酒盛りが開かれているわけでもない。

 走りながら見たほぼ満開のメイヨシノは、見事だった。

 見事に咲いた桜について、咲きほこるという言葉があるが、私が昨夜見た桜には、その言葉のように自ら傲ったところは微塵も感じられなかった。

 私には、昼に比べて少しだけまなじりをあげて、きっと唇を結び、悲壮な気配を少しだけ漂わせながらも前だけを見て、冷たい夜風に吹かれつつ、その場でしっかりと精一杯咲いているように見えた。やがて散りゆく運命を、自ら受け容れ、見据えているのかもしれなかった。

 やはり満開の桜は夜に映える。

 私は、あと何度このような、桜花を目にすることができるのだろう。