弁護士業務実態報告書2020から~7

非経営者弁護士の自己自身案件の受任体系
(経営者でない弁護士は自己事件を受任出来るか、できるとしてどのような形態なのか?)

☆全体の傾向


 ・引受け可、収入は全て自分のものとなる 32.7%
 ・引受け可、一部事務所に納入      51.1%
 ・引受け不可、事務所等受任の上で担当   6.8%
 ・引受け不可                2.7%
 ・その他                  5.3%
 ・分からない                1.2%
 ・無回答                 0.2%

※ 事務所宛に依頼が来たわけではなく、その弁護士に直接依頼したいという依頼者が来た場合に、その依頼者の事件を事務所とは関係なく自分の事件として受任して処理して良いかという問題である。

※ 経営者弁護士からすれば、経営者でない弁護士は事務所の賃料や事務員の給与など事務所を維持する経費を負担していないことから、自己事件を受任することを認めるか、認めるとしてもどういう条件を課すかが問題となる。

※ 全体の傾向としては、2010年調査時と比較して、自己事件引受け可能で収入は全て非経営者弁護士のものとなる形態の割合が41.8%→32.7%とほぼ10%ダウンしている。

※ また、引受け可能であっても、一部を事務所に納入する形態の割合は2010年調査時と比較して42.9%→51.1%となっている。

※ 以上から、非経営者弁護士が事務所経費を負担せずに自己事件を行える割合が減少し、非経営者弁護士が自己事件を行う場合に収益の一部を事務所に納入させる割合が増加していることになる。

※ 経営者弁護士の経営が余裕たっぷりなら、非経営者弁護士に自己事件をさせてその収益が事務所に入らず非経営者弁護士の収入となっても、経営に大きな問題とならないであろうことから考えると、経営者弁護士の事務所経営に余裕が失われつつある傾向にあると見てよいであろう。

☆地域による傾向


※ 引受け可、収入は全て自己(要するに非経営者弁護士にとっては、事務所経費を負担せずに自分で事件を取ってきて処理できるという恵まれた環境~いわゆるノキ弁は除く)の割合は、高裁不所在地が他の地域よりも低い。したがって、誤解を恐れずにわかりやすく言えば自己事件に関して言えば、田舎の方に行けば行くだけ、非経営者弁護士にとって恵まれた環境になりにくいともいえる。

☆期別の傾向


※ 自己事件引受け可、全て自己収入となる割合は、期が若くなるほど減少する傾向に見える。また、自己事件引受け不可(事務所等受任の上担当、引受け不可)の割合は、60期以降に見られ期が若くなるほど自己事件引受け不可の割合が高くなる。特に完全に引受け不可の割合は、70期以降では9.0%(事務所等受任の上担当も含めれば16.7%)にものぼる。つまり、弁護士としての経験が浅いほど、自己事件を自分で受任して自分の収入とすることが許されなくなってきている70期以降では6人に1人は自己事件が引き受けられない状況傾向にあるといえる。

※ 上記の傾向はおそらく、大規模に広告を打って全国展開している弁護士法人の勤務者が若手に多いことも影響していると思われるが、経営者弁護士からみれば、仮に自己事件をやらせて失敗すれば事務所の名前にも傷がつくので、経験の浅い弁護士の処理能力に不安を覚えて自己事件を受任させていない可能性も考えられる。

☆性別による傾向


 男女の間で大きな差は見られないようである。

弁護士業務実態報告書2020から~6

非経営者弁護士の給与体系
(経営者でない弁護士はどんな形式で、ボスから報酬をもらっているのか?)

☆全体の傾向


・毎月一定額の給与・報酬を受け取っている   83.5%
・毎月一定額の給与・報酬を受け取っていない   16.2%
・無回答                    0.2%

※毎月一定額の報酬を得ている経営者でない弁護士の割合は、2010年調査時の78.9%から微増している。


→経営者でない弁護士の2割が定期的な報酬を得られていない。

 おそらく自己事件を受任して処理することで収入を得ているか、事務所から処理を指示される事件を処理してその報酬の何割かを自らの収入にしているものと考えられるが、いずれも安定した収入とは言い難いであろう。

 経営者でない弁護士の自己事件の受任が可能なのかについては、おってアンケート結果を報告する予定である。

☆地域別の傾向

※概ね全体と同様の傾向にあるが、高裁不所在地では、毎月一定額の報酬を得ている経営者で内弁腰の割合は88.4%である。

→田舎の方が、毎月一定額の報酬を払う傾向が強い。

☆期別の傾向

※経営に携わらない66期以降の弁護士のうち、9割以上は、毎月一定額の報酬を受領している。これに対し、65期以前の弁護士は弁護士経験が長くなるにしたがって、一定額の報酬を受けている割合が減少する。
→これは期を重ねることにより自己事件が増加し、また事務所としても事務所を利用して自己事件を行う以上、さらに給与を支払う必要性を感じないためではないかと思われる(私見)。

☆性別による傾向

特に男女差によって、有意な差は見られないとのアンケート結果が出ている。

弁護士業務実態報告書2020から~5

(各事務所の経営者弁護士の数は?)

☆全体の傾向

・1名          45.4%
・2名           15.4%
・3~5名         18.5%
・6~9名          6.9%
・10~19名        5.9%
・20名以上         5.8%
・無回答          2.1%

※2010年調査では経営者弁護士1名の事務所割合は59.1%であったことから、複数人による経営が進んでいる。

☆地域による傾向

※東京の経営者弁護士1名事務所の割合は39.8%で、東京地域の中では最も多い割合だが、他の地域と比較すれば低い。東京での複数人による経営の傾向は進んでいる。また、2010年調査では、東京の経営者弁護士1名の事務所割合は48.8%であったが、さらに複数人での経営傾向が進んでいる。なお、東京では経営者弁護士数6名以上の事務所割合が他の地域よりも高くなっている。
※大阪・愛知においても、経営者弁護士が1名の事務所は41.2%で同地域内ではもっとも比率が高い。2010年調査では60.2%であったことと比較すれば、急速に複数人経営の事務所が増加していることになる。
※高裁所在地、高裁不所在地でも経営者弁護士数が1名の事務所はそれぞれ50%強と最も多い割合であるが、2010年調査ではそれぞれ69.8%、72.4%だったので、やはり急速に複数人経営の事務所が増加していることになる。

いずれの地域でも経営者弁護士の複数化が急速に進行中である。その原因は分析されていないが、私見では、経営環境の悪化から固定費のリスクを分散する必要性が高くなってきたこと、広告等により大規模に集客する弁護士法人の全国展開などが理由ではないかと考えられる。

☆期別による傾向

※70期以降の弁護士が所属している事務所のうち、17.7%が経営者弁護士数20名以上、9.2%が経営者弁護士数10~19名以上であり、70期以降の弁護士のうち1/4以上が経営者弁護士が多い大規模事務所に所属していることが分かる。

→経営者弁護士が多い事務所は一般的に大規模事務所であり、70期以降の弁護士は大規模事務所に所属する傾向が強いということである。おそらく大規模に広告を行って集客する全国展開中の弁護士法人等が、集めた事件を処理するために多くの若手弁護士を吸収しているのではないかと考えられる(私見)。

☆性別による傾向

※経営者弁護士数の観点から、男女の比較を行うと、経営者1名の事務所に所属する男性弁護士は46.7%、女性弁護士39.7%、経営者2名の事務所に所属する男性弁護士は14.5%、女性弁護士20.0%、であり、女性弁護士の方が経営者2名の事務所に所属している傾向が強い。その他の形態の事務所では、男女比率に大差がない。

→私見であるが、男性比率が高い職業であることから、男性経営者弁護士1人の事務所が多いと考えられることから、経営者側としても参加者側としても、異性弁護士と1対1になる状況を避ける傾向があるのではなかろうか。

(続く)

弁護士業務実態報告書2020から~4

(事務所に所属する弁護士数はどのくらいか?)

☆全体の傾向


・ 1名          21.7%
・ 2名           16.6%
・ 3~5名         24.5%
・ 6~9名         13.7%
・ 10~19名        8.4%
・ 20名以上        13.6%
・ 無回答           1.5%

※2010年調査では、弁護士1名事務所の割合が全体で34.1%であり、所属弁護士1名の事務所が激減(34.1%→21.7%)している。
※2010年調査では、弁護士数6~9名の事務所の割合が8.4%であり、所属弁護士6~9名の事務所の割合が大きく増加(8.4%→13.7%)している。

☆地域による傾向

※東京では、
 所属弁護士1名の事務所が2010年調査時には26.2%あったが、2019年調査では17.4%と大きく減少している。
 その反面、
 弁護士数6~9名の事務所は11.4%→15.3%、
 弁護士数20名以上の事務所は18.0%→21.8%に増加している。
※大阪・愛知でも
 所属弁護士1名の事務所は2010年と比較して34.1%→20.6%に大きく減少。
 弁護士数10~19名の事務所は4.7%→8.3%、
 弁護士数20名以上の事務所は5.1%→13.6%に大幅増加。
※高裁所在地では、
 所属弁護士1名の事務所が39.8%→25.7%と減少
 所属弁護士3~5名の事務所は28.1%→36.2%、
 所属弁護士数6~9名の事務所も6.3%→9.9%に増加
※高裁不所在地では、
 所属弁護士1名の事務所が45.7%→27.8%に減少
 所属弁護士6~9名の事務所が4.9%→11.9%
 所属弁護士数10~19名の事務所2.4%→6.0%
 所属弁護士数20名以上の事務所 0.5%→3.4%と増加

以上から、どの地域も、弁護士1人の事務所は減少し、複数の弁護士が所属する事務所、大規模事務所が増加する傾向にある。都会になるほどその傾向は強いと考えられる。

☆期別による傾向

・70期以降の弁護士では、所属弁護士数20名以上の事務所に所属する割合がもっとも高く28.4%、、10~19名の弁護士が所属する事務所に所属する弁護士も含めるとほぼ半数に及ぶ。
・66~69期の弁護士では、弁護士数3~5名の事務所に所属している割合が30.7%で最も高い。次いで、弁護士数20名以上の事務所に所属している割合が19.7%で高くなっている。
・50期以降の弁護士は、概ね66~69期の弁護士の傾向に近い。

※複数弁護士の所属する法律事務所の増加、法律事務所の大規模化傾向に加え、若手弁護士が大規模事務所に多く所属していることが分かる。


 背景には売上の伸び悩みから経費負担リスクの分散の必要性が生じてきたこと、広告等を行い大量に事件を集める全国型弁護士法人が、集めた事件を処理する為に多くの若手弁護士を採用している可能性があるのではないかと思われる(私見)。

☆性別による傾向

※男女別に見ると、所属弁護士数1名の事務所に所属している女性弁護士の割合は男性の約半分の割合(♂23.4%、♀12.8%)となっており、弁護士が1人で事務所を開設する際に女性の割合が少ない傾向が顕著といえそうである。
 一方、弁護士数10~19名、20名以上の事務所に所属する弁護士の男女別の割合はほとんど差がみられない。


 以上から、1人で事務所を開設する弁護士は男性が多い傾向にあると考えられる。

(続く)

弁護士業務実態報告書2020から~3

(事務所の経営形態はどのような傾向にあるか?)

☆全体の傾向
・1名の弁護士のみが経営に携わる事務所  42.2%
・複数の弁護士が経営に携わる事務所     44.4%
・法人経営の事務所             12.7%
・その他                  0.7%

※2010年との比較では法人経営の事務所5.6%→12.7%と倍増している
※2010年との比較では複数人が経営する事務所が増加傾向にある。

☆地域による傾向
※高裁不所在地の比較データしかないが、2010年との比較で
 個人経営事務所が68.0%→47.3%(減少)
 共同経営事務所が23.3%→37.4%(増加)
 法人経営事務所が 7.3%→14.9%(増加)
※ 全国に支店を持つ弁護士法人の増加が関連しているのではないかとの指摘。

☆期別による傾向(法人経営の事務所に所属する割合)
・70期以降    31.9%
・66期~69期  19.7%
・60期~65期  13.2%
・54期以前     7.0%未満

※法人経営形態の事務所で期の若い弁護士が多く活動する傾向がある。

※全国に支店を持つ弁護士法人が、TVCM等を利用して顧客を集め,その事件処理のために期の若い弁護士を多く採用している可能性が考えられる(私見)。

☆性別による傾向
(男性)
・1名の弁護士のみが経営に携わる事務所  43.6%
・複数の弁護士が経営に携わる事務所     42.4%
・法人経営の事務所             13.2%
・その他                  0.8%
(女性)
・1名の弁護士のみが経営に携わる事務所  35.7%
・複数の弁護士が経営に携わる事務所     53.8%
・法人経営の事務所             10.2%
・その他                  0.3%
※複数弁護士が経営に携わる事務所に女性弁護士が所属する割合が高い。この傾向は2010年調査時も同様であるとのこと。
※2010年調査時での法人経営の事務所に所属する弁護士比率は男性・女性とも5.5%であったことと比較すると、法人経営に所属する弁護士の割合が大きく増加しているといえる。

(続く)

弁護士業務実態報告書2020から~2

(弁護士はどんな場所で働いているのか?)

☆全体の傾向
 ・ひまわり基金法律事務所       0.3%
 ・都市型公設事務所          0.4%
 ・法テラス法律事務所         0.7%
 ・企業                7.6%
 ・官庁・自治体             0.3%
 ・外国法共同事業事務所         0.9%
 ・それ以外の一般的な法律事務所    89.3%
 ・その他                0.5%
 ・無回答                0.1%

※10年前と比較すると、企業内弁護士が1.8%→7.6%と増加していることが注目されるが、企業と官庁・自治体を併せても1割に満たないことから、弁護士の働く環境が多様な広がりを見せているとまではいえない。

☆地域による傾向
 東京では、一般的な法律事務所に勤務する弁護士は83.8%(全体と比して5.5%低い。)、企業に勤務する弁護士は12.8%(全体と比して5.2%高い)となっており、東京の弁護士にとっては、企業で弁護士として活動する領域が広がっている。
 しかし、それ以外の地域では、一般的な法律事務所で勤務する弁護士がほぼ94%であり、東京以外では弁護士の活動領域が拡大しているとはいえない。

☆性別による傾向
 女性弁護士が企業内弁護士として活動する割合が14.2%となっており、男性が企業内弁護士として活動する割合6.1%と比較して、女性弁護士が企業内弁護士となる傾向が男性よりも相当高いと見られる。
 官庁・自治体で弁護士として活動する割合も、男性0.3%に対して、女性0.5%となっており、女性弁護士の方が官庁・自治体に所属する比率が高い
 登録間もない弁護士が企業等で活躍する傾向にあることを合わせ考えると、女性の場合出産等のために休業が取りやすい活動先が選択されている可能性が高い(裏を返せば、一般法律事務所では出産等のための休業等を取りにくい可能性があるのかもしれない)。

(続く)

弁護士業務実態報告書2020から~1

(弁護士のうち12人に1人は弁護士業をしていない!)

 日弁連から、「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査報告書2020」の内容で、アンケート調査の結果をまとめた、「自由と正義」の臨時増刊号が届いた。

 アンケートは2020年3月から6月にかけて、層化無作為抽出法で日弁連会員名簿から抽出された、標本数12000に対して郵送で行われ、有効回答数が2192人(回収率18.3%)なのだそうだ。

 そもそも全会員に向けたアンケートでもなく、回収率も2割以下なので、どこまで実態を反映しているのかは明確ではないが、なかなか面白そうな内容がありそうなので、私自身も読みながら紹介していこうと思う。

1.弁護士業務に従事していない弁護士が7.8%も存在する。

 2019年に弁護士活動に従事していたかどうかについてのアンケートでは、弁護士業務に全く(もしくは殆ど従事していなかった)と回答した弁護士が、7.8%を占めている。

 およそ12人に1人の弁護士が、弁護士業務をやっていないということだ。

☆弁護士業務に従事しなかった者の弁護士経験年数


 ・5年未満             10.5%
 ・5年~10年未満          27.5%
 ・10年~15年未満         10.5%
 ・15~20年未満           6.4%
 ・20~25年未満           9.9%
 ・25~30年未満           0.6%
 ・30~35年未満           4.1%
 ・35~40年未満           1.8%
 ・40年以上             28.7%

 ※高齢者と若手に集中していることが分かる。

☆弁護士業務をやらなかった理由については以下のとおり(複数回答)。

 ・年齢上の理由                  37.4%
 ・弁護士以外の事業や経済的活動に専念するため   24.6%
 ・健康上の理由                  22.2%
 ・弁護士として活動しても依頼が少ないため     18.7%
 ・家事、育児、介護に専念するため         15.2%
 ・弁護士の仕事に情熱をもてないため         9.4%
 ・公職に就いているため               7.6%
 ・学業、研究に専念するため             4.1%
 ・その他                     22.2%
 ・特に理由はない                  1.2%

 ※弁護士業務をやらなかった人の内、およそ5人に1人が弁護士として活動しても依頼が少い(生活できるだけの収益が上げられないという意味だと思われる)と答えている点が昨今の弁護士激増による問題点を示しているように思われる。

(続く)

1枚の写真から~29

真夏のゴルフ場でアイフォンで撮影。

新海誠監督の映画の空のような光の帯が印象的だった。

ただし、めちゃくちゃ暑かった。