よくある相続の落とし穴① ~母親に相続させるために子供が相続放棄をする場合~

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(相談者A、弁護士S)

A:先生、先日父が亡くなってようやく最近落ち着いてきたのですが、ちょっと相続放棄でご相談したいことがあるのです。

S:お父様は急に亡くなられたとお聞きしたので、いろいろ大変だったでしょう。相続放棄ということは、お父様に借金などがあったということなのでしょうか?

A:いえ、いえ、父は堅実なタイプなので、相当額の資産を残してくれていますし借金もありません。ただ、私も弟も事業がうまくいっていますし、経済的にも問題がないので、兄弟2人で相談した結果、全部母親に相続してもらおうと思っています。父の弟の叔父さんが親切にも相談に乗ってくれ、「それなら相続放棄が簡単でいいらしいぞ」、と教えてくれましたので、相続放棄の手続きをお願いしようと相談に来ました。

S:それは、大変! Aさんの叔父さんは、お金に困っているのではありませんか?Aさんのご親戚のことを悪くいいたくありませんが、相続の落とし穴が仕掛けられている可能性がありますよ。

A:ええっ!どういうことでしょうか!?

<解説>

 確かに、父親が亡くなって、母親と子供2人が相続人である場合に、子供2人が相続を放棄すれば、全て母親が相続できそうにも思えます。母親を大事に思って母親のためにと思い相続放棄を考えている人もいるでしょう。

しかし、それは大きな勘違いです。子供2人が相続放棄をしたばっかりに、別の人間が関与してきて、紛争が起きてしまうこともあるのです。

 つまりはこういうことです。

 相続放棄をした場合、「相続放棄をした者は、その相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなす」と扱われます(民法939条)。要するに、父親の相続に関して母親と子供2人が相続人である場合に、子供2人が相続放棄をすれば、父親の相続に関しては、子供2人はこの世に存在しない状態として扱われてしまうです。平たくいえば、子供のいない夫婦がいて、その夫が死亡した状態と同じものとして扱われるのです。

 子供のいない夫婦がいて、その夫が死亡した場合、妻は当然に相続人ですが、子供がいないため、第2順位として夫の両親(相続分は妻が2/3、両親が1/3)が法定相続人になってきます。夫の両親が既に死亡している場合は、第3順位として夫の兄弟姉妹(相続分は妻が3/4、夫の兄弟姉妹が1/4)が法定相続人となってきます(民法889条)。

 以上から、Aさんのケースは、母親と子供2人が相続人である状況ですから、子供2人が相続放棄をした場合には、子供がいない夫婦の1人が死亡した場合と同様に扱われ、Aさんの亡父親の兄弟姉妹が相続人として名乗りを上げてくるということになるのです。

 相続放棄は撤回ができません(民法919条1項)から、Aさんと弟さんが相続放棄をした後で、叔父さんが「わしも相続人なのだから遺産の1/4をよこせ」といってきても拒めない、というかなり悲惨な状況が想定されます。

 親孝行のつもりで相続放棄をしたばかりに、思いがけない相続人が財産をよこせといってくる根拠を与えてしまうこともあります。

 相続放棄をする際には、必ず弁護士さんに相談した方が良いでしょう。

 大阪弁護士会所属 弁護士 坂野 真一