裁判官から見た法曹人口の拡大と法曹養成制度改革~その3

(前のブログの続きです)

(意見その5)

指導した修習生は就職先が見つからず、即独を選んだ。即独では事件経験を積むのも難しい。そのため資質の差が登録後さらに拡大していく。増員自体に反対しないが、急に増やしすぎたことが問題だ。もう少し徐々に増やせなかったのかと思う。一般国民は弁護士を選別する能力を有しないから、単純に競争原理が働くというものではない。

(坂野のコメント)

現役裁判官御意見です。ある程度の司法修習生が、即独しなければならない状況であれば弁護士の能力の格差がさらに拡大するのではないかと危惧されています。医師をどれだけ増やしても、手術の機会がなければ手術の上手な医師は育ちません。こんな簡単なことがどうして法科大学院推進者の学者に理解できないのか、未だに私には分かりません。

次に、今すぐ司法試験合格者を現状の半分である1000人にしても、毎年500~600名の法曹が増えていきます。少なくとも今後20年くらいは毎年辞めていく法曹が400~500名位と見込まれるので、合格者と辞めていく人の人数の差だけ法曹人口は増えていくからです。佐藤幸治氏など法科大学院擁護派は、「法曹人口を減らそうという意見があるが、けしからん」と述べる場合がありますが、その主張には誤導の罠が仕組まれています。法曹人口を減らそうとすれば、毎年法曹を辞めていく人の数(400~500名)よりも司法試験合格者を少なくしなければなりません。しかし、司法試験合格者を300名以下にしろと主張する人はまずいません。学者がわざと誤導の罠を仕掛けているのは感心しません。もしわざとでないとすれば、足し算ができない学者ということになりましょうか。

一般の国民の皆様が弁護士を選別することは極めて難しいことにも触れられています。特にたくさんの弁護士の訴訟を拝見されている裁判官の御意見なので、重い意味を持つと思われます。平たくいうと、弁護士の善し悪しは、国民の皆様からは判断つきにくいということです。対象の善し悪しが分からなければ、自由競争はなり立ちません。自由競争は、両者を比較してよりよい者が選別されて生き残るという仮説です。両者の比較ができることが大前提なのです。この点も、学者は自由競争さえ実施すればうまく行くと根拠もなく主張する方が多いのですが、必ずしもそうではありません。

(意見その6)

資格試験に過ぎない司法試験の受験に、金のかかる法科大学院を経なければならないとするのは合理的ではない。この制度では幅広い分野からの人材を確保できない。

(坂野のコメント)

元裁判官からの御意見です。すでに、法学部以外の出身者の比率は、旧司法試験時代と対して変わらなくなってきています。つまり多様な人材の確保を目的とした法科大学院は、その目的を実現することが出来ていないということになります。そのうえ、法科大学院制度は、大学卒業後さらに学費を2~3年支払う必要がありますから、経済的に余裕のある者がより有利になる制度です。2世弁護士が相当増えたという話も聞きます。司法修習生給費の貸与制への変更も加わって、いまや法曹になるには相当高額の費用が必要になってきているのが現状です。その費用が、確実に回収できるのであれば法曹を目指す人も増えるかもしれませんが、この就職難です。法曹資格を得ても就職出来ない可能性も相当あります。だったら優秀な方はなおさら法曹を目指すことを敬遠するでしょう。多彩な人材を確保するはずの法科大学院が足かせになって、優秀な人材が法曹を目指すことを辞めてしまう危険がかなり現実化しているのではないでしょうか。

(意見その7)

司法試験受験資格の回数制限は司法制度審議会の中で議論されたのか。同審議会の手を離れてから回数制限が制度化されたのだとすれば、佐藤先生(筆者注:佐藤幸治氏のこと)は回数制限をどう思われますか?司法試験の受験回数制限も検討し直すべきである。

(坂野のコメント)

元裁判官の御意見です。私も不思議に思って調べてみたところ、司法制度改革審議会の意見書中には、受験回数制限は記載されているようです。佐藤幸治氏も確か審議会のメンバーだったと思うので、抜け目なく、法科大学院制度維持のための記述を記載させたのでありましょう(受験回数制限をしないと、70~80%の合格率はまず達成できないし、その合格率が達成できないとプロセスによる教育という法科大学院のお題目は画餅に帰すからです)。しかし、受験回数制限は、少数精鋭の合格率70~80%の法科大学院制度を前提にした制限であり、制度の前提が違ってきているのに、受験回数制限だけ残してあるのは問題が大きいように思います。

例え合格率が低くても、旧制度のように何度でも受験できる制度の方がよほど良いと思うのですが、法科大学院維持派の学者さん達は、大器晩成型、じっくり実力を貯えるタイプの方は、法曹にならなくても良いとおっしゃっているようで、正直頭にきます。

(続く)

裁判官から見た法曹人口増大と法曹養成制度改革~その2

(昨日の続きです)

(意見その3)

法科大学院と合格者増加による修習生のレベルの格差の大きさには、驚きより不安を覚える。「競争させれば良いものだけが残る」という実証されていない幻想だけで運営されているとしか思えない。

(坂野のコメント)

現役裁判官の御意見です。

法科大学院制度と合格者増により、優秀な志願者が増えてその結果優秀な修習生が増えてくれたら良かったのですが、「(レベルの格差の大きさに)不安を覚える」と書かれていることから、裁判官から見てもこれは問題だと思うほどレベルの低い司法修習生が相当程度裁判修習にきていることが窺えます。

従来の500人よりも4倍に増加された合格者+法科大学院制度なのに、現場の実務家から見て問題があると思わざるを得ないレベルの司法修習生が(不安を覚えるほど)存在するということは、法科大学院制度の失敗を端的に示しているように思います。

このことだけからも、司法試験合格者を増やせば法曹の人気が回復して優秀な人材が集まるはずだという法科大学院関係者の根拠レスな主張が、妄想レベルの誤りであることは明白でしょう。

また自由競争至上主義を幻想である、と一刀両断しているところも、いまだ幻想に包まれ目が覚めない学者の方々よりも、よほど現実をきちんと見ておられる方なのだなと感じます。

(意見その4)

毎期修習生が就職困難に直面している。地方では地元で就職しない限り大都市部での就職は圧倒的に不利である。司法改革の最大の問題点は、無計画で急激な法曹人口増大にあることは明らかである。

(坂野のコメント)

司法修習生の就職難は極めて深刻であり、一括登録時に司法修習生の約1/4が登録できませんでした。その後1月に登録された方もそこそこいらっしゃいますが、それでも多くの司法修習生が登録せず(できず)にいるようです。

そもそも、司法制度改革審議会では、何の根拠もなく、今後は、法的問題が多様化・高度化し多くの問題が生じることが見込まれる、ということを大前提に司法制度改革を組み立てていったようです。しかし、裁判所データブックを見ても、その見込みは誤りで会ったことは明らかになっています。大阪弁護士会でも、知的財産問題や医療過誤などの専門相談制度を設けており、法的問題が多様化・高度化し多くの専門的な法的需要が生じているのであれば、専門相談は大賑わいとなるはずですが、現実には、一般相談よりはるかに少ない相談しかないのが現状です。さらにこれから日本は少子化に向かいます。法的問題が今までの2倍・3倍に増えるとはとても思えません。

それにも関わらず、司法制度改革審議会でそう決まったのだからと、前提の狂った計画を遂行し続けるのは、賢き者の取る途ではないでしょう。素直に、見通しの誤りを認めて軌道修正すべきです。

(続く)

裁判官から見た法曹人口増大と法曹養成制度改革~その1

一般の方には、とんとなじみがないだろうが、私は判例時報という雑誌を買っている。判例時報は、10日に一度、判決録をまとめて掲載している。1冊800円が基本定価で、毎号買っていると結構な負担になるのだが、弁護士である以上、判例時報か同種の雑誌である判例タイムスのどちらかは、おそらく必ず事務所で定期購読しているはずだ。

その判例時報が、2167号から2回シリーズの巻頭特集で、司法制度改革のことを取り上げた。2167号は相変わらず現実無視の佐藤幸治氏の講演録だった。2168号では、パネルディスカッションとその資料が掲載されていた。

私が気になったのは、法曹人口増大と法曹養成制度改革に関しての法曹実務家の意見だ。

肯定的意見も5つ掲載されていたが、中間的意見が3つ、否定的意見は9つ掲載されていた。いずれも法曹実務家(裁判官・弁護士・元裁判官)の意見である。

上記の問題に関する弁護士の意見はあちらこちらで、述べられているが、裁判官の意見は珍しい。

否定的見解の中で、裁判官または元裁判官の意見は7つある。

以下紹介する。

(意見その1)

修習生を一気に増やした結果、資質や能力の面でびっくりするような人が法曹になっている。2回試験で多少はふるいにかけられているが、三回の受験のうちにほぼ例外なく合格しているから、現状では資質面で問題のある法曹が誕生することは不可避だ。就職難などにより法曹全体の魅力が低下すれば、法曹志願者の減少は避けられず、一層の質の低下を招くことになる。

(坂野のコメント)

私がいつも言っていることと全く同じことを、この裁判官の方は感じておられるようです。佐藤幸治氏や法科大学院協会のえら~い教授が何を言おうと、現場を知らない机上の空論に過ぎません。この裁判官が仰るとおり、現実の法曹の現場では恐るべき事態が進行しています。早くそれを止める必要があるのではないでしょうか。

弁護士も自由競争で良いという人もいるようです。しかし、果たしてお医者さんでも同じことがいえるのでしょうか。

実力が足りなくても、ヤブでも、なんでもみんな医者にしてしまえ、競争させればそのうち藪医者は廃業していくからかまわんだろう、と平気で言えるのでしょうか。藪医者が廃業に追い込まれるまでに、助かったはずの命がいくつ失われるのでしょうか。しかもその藪医者に真の医師としての実力がなくても、営業能力が高く、笑顔の素敵な人だったらどうでしょう。自由競争は儲けた者勝ちの世界です。お客を集めて仕事ができなければ、どんなに良い腕のお医者さんでも生き残れません。医師の能力だけで淘汰されるわけではないのです。

自分は弁護士にかかるような事態は考えられないから無責任に、弁護士も自由競争で良いと言ってしまっていないでしょうか。

(意見その2)

法科大学院は予備校化せざるを得ず、法曹養成制度には制度的に致命的な欠陥がある。文科省がそれを糊塗するために法科大学院を締め付ければ締め付けるほど制度として歪んでいく。決して良質の法曹は生まれない。法科大学院は司法試験に合格した人を法曹へ教育する場とするべきであり、早急に、法科大学院→司法試験ではなく、司法試験合格者→法科大学院というように順序を正すべきである。法科大学院の統廃合は社会資本を無駄にし、法曹への途をより狭くするだけで、良質の法曹を産むことにならない。

(坂野のコメント)

元裁判官の御意見です。

法科大学院制度の欠陥を見事に指摘し、小手先の改革で法科大学院を生き延びさせても、税金の無駄になるだけだと明確に主張されています。法科大学院側はどう反論するのでしょうか。いくら法科大学院制度の理念が素晴らしいと主張しても、その理念が実現出来ない制度なら無意味な制度です。

法科大学院で身に付ける知識以外の要素が法曹に必要不可欠な要素であると主張しても、それならどうして大手法律事務所が法科大学院卒ではない予備試験ルートの司法試験合格者を争って採用しようとしているのか、説明がつきません。法科大学院が教養や人間性などが法曹に必要だと大上段に振りかぶっても、それは大手法律事務所から見れば、法科大学院で身に付けられるような資質ではないと考えているか、もしくは実際の現場ではそれよりももっと大事なことがあると考えているかのいずれかではないでしょうか。

結局、実際の現場で意味がない(かもしれない)畳の上の水練を、大金を取って教えることが果たして本当に正しいのでしょうか。

(続く)

デジタルメモ、ポメラ

ついに、ポメラを買ってしまった。

ポメラとは、簡単にいえば、キーボード入力によるメモ機能に特化した、デジタルメモという事務用品だ。

これまで、手でメモを取るよりもキーボードを叩いた方が早くメモが取れると考えた人も多いだろうが、パソコンだと起動に時間がかかりすぐにメモを取れない、ノートパソコンの電池が長時間持たない、というジレンマがあった。

ポメラだと、起動はわずか数秒だし、電池も20時間以上持つようだ。終了も10秒もかからず、早い。

ずいぶん前から欲しいなと思っていた事務用品だが、いかんせん、メモ帳の機能しかないのに、数万円していたので二の足を踏んでいた。

先日、偶然アマゾンで「機動戦士ガンダム」とコラボレーションしている型遅れのモデルがとても安く(39,900円→6,800円)なっているのを見かけて、ついに買ってしまった。

コラボモデルは、3種類あって、シャア・アズナブルモデル(赤)、ジオン軍モデル(黒)、そして私の購入したランバ・ラルモデル(青)が用意されている。

シャア・アズナブルモデルの外箱には「さらにできるようになったな。ポメラ!」

ランバ・ラルモデルの外箱には「ポメラの性能のおかげだということを忘れるな・・・」

ジオン軍モデルの外箱には「敢えて言おう、メモであると!」

などと記載されていて、これだけでも分かる人には、たまらない。

他にも、起動時にガンダム各話のタイトルが出たり、終了画面でランバ・ラルの名台詞が表示されるなど、随所に遊び心満載のデジタルメモだ。

これからどんどん使ってやろうと楽しみにしている。

ミュンヘンの「日本料理 串揚げ 円(えん)」

私は、ミュンヘンのサーカス・クローネが、大のお気に入りであり、ヨーロッパに旅行する機会があれば、ほぼ必ずミュンヘンに寄って見物することにしている。

サーカス・クローネの魅力は、また、追ってお伝えすることがあると思うが、今回ご紹介したいのは、ミュンヘンのお店、「円(えん)」である。

海外での日本料理の定番は、スシ・スキヤキ・テンプラ・テッパンヤキ等であって、まあほとんどの店でスシは出る(私は酢の物は嫌いので寿司は食べないが)。

といってもタイ人・中国人・韓国人さらにはマレーシア人などが経営する日本料理店で怪しい寿司を出す店も多いようで、入店時に「イラッシャ~イマセ」と、変な日本語のイントネーションで言われた日には「ここの日本料理はやばいぜ」、とお店に入ったことを後悔し、貴重な食事の機会を一回無駄にする覚悟を決める必要もあるように思う。

その点、ミュンヘンの「円(えん)」は、何と、美味しい串揚げを提供してくれる貴重なお店だ。しかも、ご主人の松原さんは、地元の食材を生かしながらも、偽物の日本料理は決して出さない、と仰る。海外で日本料理を出す店を何軒も見た上で、本当の日本料理を提供する店があまりにも少ないことに驚き、これでは、真の日本料理が伝わらないのではないかと危機感を感じた、とも話しておられた。

言い換えれば、この「円(えん)」は、真の日本料理を伝えたいと真剣に考えた松原さんが、その想いを貫くために経営されている本気度120%のお店なのだ。

この店は、ヨーロッパの駐在員の方にもよく知られているらしく、イタリアや、イギリスなどからもドイツに行くので是非に、と予約が入るそうだ。

かといって、敷居が高いわけでもなんでもない。また、昼のメニューなどの値段も、こんな安値でこんな料理を頂いて良いのだろうか、と少し気が引けるほど低く抑えられている。思わず「この美味しさで、このお値段は、安すぎないんですか?」と聞いてしまったところ、「ドイツ人はちょっとケチなんでね」と松原さんは苦笑されていた。

あまりにリーズナブルでかつ美味なので、夜・昼・夜と、「円(えん)」に3回連続で食べに行ってしまった。おかげでミュンヘンでは、ドイツ料理を食べ損ねてしまった。

松原さんの貴重な体験談や外から見た日本の印象など、お話を聞いているだけで勉強になることも多く、実は、美味しい料理以外にも魅力溢れるお店と言うべきだろう。

もしミュンヘンに行かれる機会があれば、是非、立ち寄られることをお勧めしたい。

「日本料理 串揚げ 円(えん)」

Barerstraβe 65・80799 Munchen

TEL:089/ 27 37 26 41

営業時間 12:00~15:00/18:00~22:00

月曜がお休み(たぶん)

明けましておめでとうございます

少し遅くなりましたが、皆様、明けましておめでとうございます。

当職も、他のパートナー・アソシエイト同様、皆様のお役に少しでも立てるよう、努力していく所存です。

よろしくお願い致します。

ブログの更新もぼちぼちして行く予定ですが、現在はブログソフトの更新の影響により、書式が上手く整えられない状態が続いております。

従前のようにブログ内に写真が掲載できるかどうかも試行錯誤中です。

お見苦しい点が、多々残っておりますが、ご容赦下さいませ。