読み応えあり!春秋会50周年記念誌~その2

 その1のシンポジウムの続きは、第2回シンポジウムです。これは、「市民に聞く!法曹人口問題とこれからの司法の役割」というものです。

 その中で、弁護士費用についても高いか低いかという点についての議論がでています。

 これまで、法曹人口を増やせば競争が高まって、弁護士費用が安くなるのではないかという説を聞かれた方がおられると思います。そうだとすれば、圧倒的に弁護士人口が多いアメリカは、最もリーズナブルな弁護士費用となっていなければならないはずです。

 ところが・・・・・。

 某メガバンクの法務部長の発言によりますと、欧米での裁判の経験から、日本の弁護士がいかにリーズナブルな請求しかしていないかということを痛感しているとのことです。

 その銀行は大手銀行同士の合併の際に、アメリカでも現地の合併手続などが必要で、アメリカの弁護士に結構な金額を支払ったが、国内で弁護士に支払った額はそれよりもケタが複数小さい額だった、とのことです。だからその方は、「日本の弁護士報酬が極めて高いとは思わない、ただ、日本人はどことなく安全とサービスはタダだと思っているところがあり、その部分の請求が難しい」と述べておられます。

 また、別の方の話ですが、例えば日本の某大企業が世界中で合計10億円以上の弁護士費用を支払っているが、その8~9割がアメリカ、1割ぐらいがヨーロッパで、日本は数%であると言う記事もあったようです。

 法曹人口を激増して、法化社会を目指すのであれば、当然そのコストは利用者が負担しなければならなくなります。企業が負担するとしてもその費用は当然その企業が作る商品の価格に跳ね返り、結局国民の皆様の負担になっていきます。

 そのような未来を国民の多くのかたは、望んでおられるのでしょうか?

読み応えあり!春秋会50周年記念誌~その1

 ご存じの方も多いでしょうが、大阪弁護士会には7つくらいの会派があります。そして、会派ごとに広報誌を作って大阪弁護士会所属の弁護士全員に配布してくれます。

 大抵は、将来会長・副会長を目指す方の事前活動が多いように思えます。ある方の露出が異常に多くなってくると、多分選挙に出るんだろうなという推測すらできてしまいます。

 このように、会派活動をしない無所属の私にとっては普段はあまり読む気がしない広報誌ですが、今回の春秋会の50年記念誌は、「司法改革と法曹人口の増員」というシンポジウムが掲載されており、読み応えがあります。記念式典などの偉い方のお話は飛ばして、シンポジウムの箇所だけでも読んで頂きたいと思います。

 凄いですよ。元日弁連会長の久保井弁護士が、司法試験合格者3000人の問題について、「3000人のあとの問題については意見を用意していませんが、国民に公約した数字でもあるし(中略)、ニーズがないのに箱だけ先に作るということではなく、箱を先に作ればそれに見合ったニーズが付いてきます」「仮に今仕事がなくても、法化社会が進化することにより解決していきます。」と言い切っています。

 ちょっと無茶ですが、久保井氏の話を大学にあてはめるとこうなりますか。

 「大学で学びたい学生がいなくても、大学さえ作ればそれに見合った数の学生がやってきます。」

 「 仮に今(少子化で大学の定員を満たすだけの)学生がいなくても、もっと高学歴社会になるので(大学経営は)解決していきます。」

・・・・・・・・・2つの意味で「そんな馬鹿な」と誰もが思うのではないでしょうか。

 全く根拠もなく極めて希望的観測に過ぎない見方をされているということが1点、そして、そのような方が日弁連会長として平成12年の日弁連決議の中心にいたということがもう1点です。 

 ちなみに2002年3月19日閣議決定の「司法制度改革推進計画」には、

「法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成22年頃には司法試験合格者数を年間3000人程度とすることを目指す。」とあります。

 閣議決定はあくまで、状況を見定めつつ、目指すという努力目標を掲げただけと読むのが素直ですが、久保井氏にとってみれば公約ということなのでしょう(古い日弁連の決議にあるのかもしれませんが)。

その他

 「少なくとも弁護士が赤字にならない制度を作って行かなければ需要は掘り起こせない。そのためには法律扶助の飛躍的拡大がなければならない。」と主張される森下弘弁護士。

 相変わらず鋭い切り込みで、若手の意見を主張される増田尚弁護士。

などなど、非常に面白い議論が展開されています。

 他にも様々な方が発言しておられ、非常に読み応えがあります。

 いつもの会報か、と思って捨ててしまうのはあまりにもったいないので、是非ご一読下さい。

国際NGO ヒューマン・ライツ・ウオッチ

 私達のときから、司法修習が2年→1年6ヶ月に短縮されました。

 つまり、司法試験合格後、司法研修所で前記修習を3ヶ月程行い、各地に配属されて実務修習を1年間行い、再度司法研修所で後期修習を3ヶ月行って、卒業試験(2回試験)を受けるという日程で司法修習を行ったことになります。

 司法研修所では、クラスごとに教室が割り当てられ、名前の順番で席も決まっていました。ですから研修所で教室に出て行くと必ずクラスメートがいて、一緒に講義を受けますから、大学時代よりもクラスメートとずいぶん仲良くなりやすい環境にありました。

 今でもかつて程、頻繁にメールが交わされるわけではありませんがクラスメート用のメーリングリストが残っています。私も53期6組のメーリングリストに入っており、時々クラスメートの様子が投稿されるのを、楽しみにしていたりします。

 そのクラスメートに、土井香苗さんがいます。

 後期司法修習の席では私のすぐ斜め前の席に座っていました。私は、あまりひんぱんにお話しさせて頂いたわけではないのですが、土井さんが最年少で司法試験合格後に、すぐに司法修習を受けずに、アフリカのエリトリアという国の法律改正に携わった、非常に優秀かつ実行力がある方(しかも美人)であることは知っていました。

 その土井香苗さんから、国際NGOヒューマン・ライツ・ウオッチの東京オフィス開設と、東京オフィスの代表に土井さんが就かれるという知らせを頂きました。

 4月9日に東京オフィス開設記念チャリティ・ディナーが行われるということで、お誘い頂いたのですが、私は当日所用があって、参加できそうにありません。おそらく、司法研修所のクラスメートも何人も集まるのでしょうから、2次会とかさらに楽しい会になるだろうと思うのですが残念です。

 国際NGOヒューマン・ライツ・ウオッチは、世界の人々の権利と尊厳を守る、世界的な人権NGO(非政府組織)です。一度ホームページをご覧頂ければその活動の一端がお分かりになるかと思います(下記のURL参照)。活動に賛同される方の寄付も受け付けているようですので、是非活動を一度ご覧頂ければ幸いです。

http://www.hrw.org/

 今思うと、53期6組は、教官にも恵まれ、幸い2回試験にも全員が一発で合格しました。手前ミソかもしれませんが土井さんの他にも多彩な人材が数多く所属していたクラスだったように思います。

 私もクラスメートの方々に負けないように、ゆっくりですが前に進んでいこうと思っています。

卒業旅行の季節

 岸和田の法律相談に行こうとしたところ、時間的にぴったりの電車がラピートβ(南海電車の関空行き特急)しかありませんでした。指定料金が500円かかりちょっと贅沢ですが、使うことにしました。

 車内の清掃が済むのをホームで待っていると、若い女性の5~6人組がはしゃぎながら、歩いてきました。おそらく、卒業旅行で海外に行くのでしょう。真新しいスーツケースを引っ張っている人もいます。とても楽しそうに見えました。

 私といえば、せっかく頂いた就職内定をお断りしたあと、大学を留年・休学しながら司法試験の受験を続けていました。結局、大学卒業といっても司法試験の勉強をしながら卒業式のあと、しばらく経ってから卒業証書をもらいに行っただけでした。

 女子学生の華やかな羽織・袴姿を見ることもなく、総長・学部長の式辞を聞くこともなかったのです。卒業したときも、「ああこれで学生ではなくなったんだ、これからは身分を証明してくれるところもないんだ」と自分が何物でもなくなったかのような不安だけがありました。

 ですから、司法試験に合格した後であっても、なんとなく、私が体験できなかった卒業旅行を楽しんでいる大学生を見ると、羨ましく思っていたのです。

 ただ、私も最近は、良い思い出になるようにいろいろ体験できるといいね、と思うようになりました。

 星新一さんのショートショートで、鍵を拾った男が、人生を掛けてその鍵に会う錠を探すという話があったように思います。

 (記憶がはっきりしませんが)確か、ずいぶん長い年月にわたり様々な錠を試したりしたあげく、最後に男は鍵に会う錠を自ら作ります。そして、部屋にその錠を掛けたとたん、どんな願いでも叶えるから望みを言いなさいと語りかける存在が現れます(間違っていたら済みません)。

 その男は、黙ってしばらく考えた後に、「私が欲しいのは想い出だけだ、でもそれはもう持っている」と答えた、というお話だったと思います。

 私も、少しだけ、その男の気持ちが分かる歳になってきたのでしょうか・・・・・。

裁判とTVの裏話

 TVで良く写されるのが、○○会社が提訴されましたとか、○○市長が提訴されましたということで、弁護士が何人か裁判所に歩いて入ってきて、訴状を受付係に提出し、担当書記官がチェックをする、つまり提訴の場面です。

 刑事裁判でこのようなことはないでしょうが、民事裁判で話題性のありそうな裁判の場合は、取材陣から「こっちの方から歩いてきて下さい」と、裁判所に歩いて入っていくシーンに注文をつけられたりします。私の経験では、裁判所からわざわざ外に出て、弁護団で集合した上で、歩いて裁判所に入っていくシーンを撮ったこともあります。意外にみんな恥ずかしがり屋で、後ろの方に並びたがるのが、妙に面白かったように思います。私は、多分一番後ろの方から歩きました。

 また話題性の高い訴訟の場合、訴状を提出した時点で裁判所書記官から形式的なミスを指摘されて訴状の出し直しとなっては困るので、事前に大まかに目を通しておいてもらうこともあるようです。

 私達の場合、押しつけあったあげく、訴状提出は女性の方がTVに映えるだろうということで、女性の弁護団員が裁判所書記官に訴状を提出する役目になりました。

 あと、良く弁護団事件であるのが、「完全勝訴」とか「不当判決」という垂れ幕を持って、弁護士が法廷から取材陣と弁護団関係者の方に向かって走り出てくるシーンです。

 これもどこで取材陣と関係者が待ちかまえているかの打ち合わせが先にあります。ただ、判決はどうなるか事前には分からないので、予想される内容「完全勝訴」・「一部勝訴」・「不当判決」などの内容の垂れ幕を準備し、それぞれ担当の若手弁護士に渡して待機させておくのだそうです。一人に沢山渡しておくと間違いがあっては困るので、そのようにやっていると聞きました。結構緊張するものだそうです。

 若手弁護士は、傍聴席の後ろの方で判決の内容を聞き、弁護団の指示を受けて、法廷を飛び出し、関係者の方に走り出すという案配です。走りながら、上下を間違わないように確認するとかしないとか・・・・。

 当たり前のようにTVで見られる光景ですが、そのウラにはいろいろなことがあるのです。

勉強不足でした!

 以前、法務副大臣であられた河井克行衆議院議員が、現在進行中の司法改革がいかに歪んでいるのか、いかに国民の皆様のためにならない異常なものなのかをつぶさに語った、「司法の崩壊」という本をご紹介させて頂きました。

 再読してみるといろいろ面白いことを発見することが出来ます。私が驚いてしまった内容のひとつを引用します。

 「いずれにしろ、いま世界中を探しても、法科大学院がある国は日本、アメリカ、カナダだけである。ほかに韓国が、厳格な法科大学院の定員数管理や法科大学院と法学部の併設解消など、日本の制度を反面教師とした制度を設計し、法科大学院を2009年3月から始めようとしている。だが、いま韓国の法曹界では、日本の法曹養成制度がいかに失敗しているかをつぶさに調査中だとも聞いている。」(河井克行著「司法の崩壊」p57より引用)

 なんとなく、(それが実際に出来ているかどうかは別として)法科大学院のうたい文句である「プロセスとしての法曹養成=法科大学院制度」が、世界的スタンダードなのかと勝手に思っていたのですが、実は違ったようです。ちなみに、単なる法学部をロースクールという場合もあるそうなので、あくまで法科大学院制度ということで河井議員は仰っているのだと思います。

 さて、カナダの弁護士はどうか知りませんが、プロセスとしての法曹養成を経たはずのアメリカの弁護士業界は、非常に頻繁にジョークで取り上げられて皮肉られる程、問題が顕在化(法律を徹底的に儲けの手段として考える弁護士の存在、異常に高額な弁護士費用・リーガルコスト、濫訴の頻発、アンビュランスチェイサーなど)しているところです。

 韓国では、つい先日、法科大学院制度を前提としたと思われる弁護士試験法改正案が、否決されたそうです。弁護士試験の応試回数を5年以内3回に限定したこと、受験資格を法科大学院卒業者に限定したことが問題視されたようです。

 とにかく急いで、法科大学院制度に飛びついてしまった日本は、早急に今の制度が本当に正しく機能しているのか、本当に国民の方々にとって利益になる制度なのかを検証し、改めるべき点はすぐに改める必要があるかと思います。極論すれば、弁護士が揶揄されるようになった国の制度をまねているのですから・・・・・・。

ちょっと嬉しいこと

 先日、私が、弁護士森本志磨子先生と共同で担当した少年事件の少年から、大学に合格したとの連絡を頂きました。

 こういうとき、弁護士としてはとても嬉しいものです。審判後の活動は、ほぼ森本先生と森本先生のお知り合いの井上先生のご活躍にお任せしてしまったこともあり、私は殆ど少年に影響を与えることは出来なかったと思いますが、それでも、私が関わった少年が投げ出さずに頑張ってくれたこと、それ自体がとてつもなく嬉しいことなのです。

 その日、帰宅する際には京都は寒く、雪が降っていました。鴨川に架かる橋は次第に白くなりつつありました。でも、私は、なんだか嬉しくて、降る雪を見上げながら傘も差さずに、ニコニコしながら歩いて帰りました。

 まだまだ、少年には、これから長い人生が待っています。つまづいて、少し遅れたかもしれませんが、十分追いつけます。頑張って下さった森本先生と井上先生に感謝しつつも、少年には、焦らずに、着実に前に進んでいって欲しいと思っています。

裁判は真実を明らかにしてくれるのか?

 民事事件で、相談者の方が、「証拠は何一つありませんが、真実は私が言っているとおりです。相手は嘘を言っています。だから裁判官はきっと分かってくれるはずです。」と仰る場合があります。

 おそらく、その相談者の方のように、「裁判所は、本当のことを見つけてくれて、きちんと正しい判断をしてくれる存在なのだ」と信じておられる方も結構いるのではないでしょうか。

 しかしそれは誤解と言わざるを得ません。

 裁判所が、ドラえもんの魔法の鏡を持っていて、磨けば事件当時の状況を間違いなく映し出してくれるのであれば、裁判所が真実を見抜いて判断することも可能でしょう。しかし、実際はそうではありません。お互いの言い分が食い違っているから裁判になっているはずですし、その紛争の起きた時点で、真実はどうだったのかを、誰も実際に見て確かめることは出来ないのです。

 非常に簡単に言えば、裁判所は、当事者が提出した証拠のうち、どの証拠が信頼できるか判断し、その信頼できる証拠からどのような事実があったのかを組み立て、その組み立てた事実に法律を適用して、どちらの言い分が通るのか、判断を下します(その他、立証責任という問題もありますが難しくなりますのでここではふれません)。

 したがって、証拠がなければ、裁判所としては事実を組み立てることも出来ません。証拠がなければ非常に裁判を戦うことは困難になります。

 ときに、私達も、「この人の言っていることは、おそらく本当だろう。しかし、相手に有利な証拠はたくさんあるが、こちらに有利な証拠は何一つ無い。」という状況に、苦労することもあります。そのような状況を、ひっくり返すことは、極めて困難です。

 したがって、「裁判は真実を明らかにしてくれるのか?」という質問に対しては、「みんながそれを目指しているが、残念ながら限界がある。」というお答えしかできないのが正直なところではないでしょうか。

武本先生お疲れ様でした。

 兵庫県弁護士会の会長選挙に出ておられた、弁護士武本夕香子先生から、選挙結果のご報告を頂きました。

 結果は残念なものでしたが、わずかな準備期間にもかかわらず、有効投票数のうち、ほぼ40%弱の得票を勝ち得ておられます。

 武本先生の目標は、本当に国民のためになる弁護士制度、弁護士が弁護士として誇りを持って生きていける制度、を目指すことです。会長に立候補されたのは、その実現のための手段に過ぎません。

 武本先生の姿勢は今後もゆらぐことはないでしょう。

 私も、武本先生をはじめ、諸先生方にご教示頂きながら、少しずつ前に進んでいきたいと思っております。

 武本先生、お疲れ様でした。

石ころがおもちゃ?

 私は、大体7:20頃に起床し、TVを見ながら朝食を取ることが多いのですが、朝のTV番組の中でお気に入りなのが、8チャンネルで放映されている「めざましテレビ」の中にある「きょうのわんこ」コーナーです。犬好きの私にはたまらないコーナーなのですが、日本犬が余り出てこないのが少し残念です。

 さて、今日のわんこは、日本犬(川上犬)でした。その犬が、石ころをおもちゃにしており、大事に何年も使っているというお話でした。

 その犬だけの特別な習性のように思われるかもしれませんが、私は違うと思います。冗談のようですが、動物は石ころをおもちゃにすることがあるのです。

 私が昔、有馬わんわんランドでレンタルしていた紀州犬(うめぞう君)も、散歩の途中で石ころを拾って、それで遊ぶことが何度もありました。私としては、石に噛みついたりして遊ぶと、歯を痛めるように思われたので、やめさせようとしたのですが、石を取り上げようとすると、うめぞう君は物凄く抵抗することが常でした。ただの石ころなのですが、一度遊び始めると、愛着がわくようなのです。

 京都市動物園でも、たぬき(ホンドタヌキ)が、おりの中で石ころをおもちゃにして遊んでいるところを目撃したことがあります。他の動物を見物した後に、もう一度見に行ってみると、そのタヌキはその石ころを大事そうに抱えて寝ていました。

 考えてみると、私も小さい頃、何の変哲もない石を宝物にしていたり、一つの石をけり続けながら帰り道を歩いたことがあったように思います。

 石ころをおもちゃにしている動物たちを笑えませんね。