日弁連会長談話の矛盾

本年3月28日に、日弁連の荒会長は、

若手会員への支援の充実・法曹志望者増に向けての会長談話~「法曹人口政策に関する当面の対処方針」取りまとめを踏まえて~

を公表した。

「法曹人口政策に関する当面の対処方針」については、これまで指摘したように、まず結論ありきで作成されていたとしか考えられない。

法科大学院としては、司法試験合格者が減少すれば制度自体を維持できなくなるから、司法試験合格者数は何としても維持して欲しいのだ。

日弁連の描きたい結論は、司法試験合格者を減らす必要などないという意見だ。

この意見は、日弁連執行部が法科大学院とべったり結託しているから、端的に言えば法科大学院の利益を代弁したものである。

しかし、このブログで何度も指摘しているように、法科大学院制度は導入から20年近く経ってもいまだに、その制度の改変を続け、ついには法科大学院での教育半ばで司法試験を受験させるという、「プロセスによる教育という大看板」すら放棄するような内容の制度を導入するに至っている。

また、法科大学院の教育内容の充実が制度導入からずっと叫ばれ続けている。

一般の会社で考えれば、こんな感じだろう。

ある取締役(法科大学院制度導入論者)が、こういう機械(法科大学院制度)を導入して製造(教育)すれば、これまで以上に優秀な製品(法曹)をたくさん生産できると豪語したので、費用(税金)を投入して導入した機械が、その取締役の豪語するような性能も発揮できず機能不全を起こし、機械の半数以上が壊れた(潰れた法科大学院は半数以上)状態になっている。しかもその取締役、20年近く経ってこれだけの惨状が明らかになっているにも関わらず、機械が上手く動けば上手く行くはずだと言って、機械をあれこれいじるだけで何ら結果を出せていない。

まあ、普通の会社なら、その取締役がクビになるのは当然だわな。更にすすんで取締役の業務に関する任務懈怠責任を、会社(国民)から問われても仕方がないだろう。

 ところが、日弁連執行部は法科大学院推進に同調して協力したため、今さら間違っていたとはいえないのだろう。だから、無理をしてでも、会内の相当数の反対を押し切ってでも、法科大学院をアシストすべく、司法試験合格者を減らす必要はないとの意見書を出したのだ。

 要するに、私から見れば、日弁連執行部は、なんの具体的根拠もなく適当な根拠を並べ立てて弁護士の法的需要はあると断言しているのだ。

 (裁判所に持ち込まれる全事件の数は年々減り続けているのに)仮に日弁連がいうとおり、世間には法的需要が有り余っており、弁護士の仕事もたくさんあるのなら、その仕事で食っていけるはずだから、わざわざ会費を支出して若手の支援をする必要などないはずなのだ。

 法的な需要があると言いながら、若手支援に注力するという態度は、完全に矛盾していると私は思う。

 会費を払わず(払えず?)退会命令を受ける会員もいる昨今である。

 会費の無駄使いは会員全員に対する裏切り行為だろう。

 現に私が弁護士になった20年以上前では、若手の支援など誰も言っていなかった。むしろ正月やGWなどに若手が多く当番弁護士を割り当てられたりしていた記憶があるくらいだ。

 もういい加減、日弁連執行部は現実を見ないとダメだ。

 「弁護士であれば、かすみを食ってでも生活できる(んじゃないかな??)」という幻想は今すぐ捨ててもらいたい。

 

法テラススタッフ弁護士配置依頼に対する、大阪弁護士会の回答

 3月15日、16日のブログで、日弁連から法テラススタッフ弁護士を配置するよう依頼されており、大阪弁護士会がどう対応するかに関する記事を記載した。

 先日の常議員会で、大阪弁護士会の日弁連に対する回答が明らかになったので、ご報告する。

 大阪弁護士会の回答は、

『当会は、2011年(令和3年)3月8日付ノキ連合会からの照会に対する回答書において「常駐型スタッフ弁護士の配置に関する当会の方針転換を白紙に戻す」として「常駐型スタッフ弁護士の増員・新規配置は、いずれも当会としては受け入れられない」との回答を致しました。

 今般、上記の回答を変更するかを検討致しましたが、現段階での方針変更は時期尚早であるとの結論に至りました。』(若干の字句修正はありうる)

 というものであった。

 率直にいえば、もっと毅然と断れんもんかねぇ・・・というのが私の感想である。法テラスは民業圧迫行為をしたのである。大阪弁護士会との信頼関係にヒビを入れたのは法テラスの方なのだ。

 しかし今回の回答案は、私から見れば、「日弁連のご意向はごもっともで本当はご意向に沿わせて頂きたいのはやまやまなのですが、いろいろございまして、現時点ではご意向には沿うことが出来ないようで、大変申し訳ございません。いずれそのうち、必ずやご意向に沿って見せます。」と、腰をかがめモミ手をしながら言い訳しているように読める。

 おそらく、大阪弁護士会会長が日弁連副会長を兼ねていることが大阪独自の主張を大きく阻害している一因ではないかと私は考えている。

 そもそも、日弁連副会長は日弁連会長を補佐し、日弁連会長の意向に沿って活動する地位である。日弁連代議員会で何度も見てきたが、日弁連副会長に選任された人たちはほぼ例外なく日弁連会長や日弁連執行部を支えて行くと挨拶する。要するに、日弁連副会長は日弁連会長の意向に逆らえない立場にあるといっても良い。

 一方、大阪弁護士会会長は大阪弁護士会を代表する地位であるから、大阪弁護士会の意見を主張していく立場にある。

 ところが、慣習上大阪弁護士会の会長は、日弁連の副会長を兼任するから、大阪弁護士会の意見を主張する立場でありながら、日弁連会長の意向に逆らえない立場を有するという、矛盾しかねない立場を兼ねることになるのだ。しかも週のうち、半分近くを東京で過ごす必要があるなど大阪弁護士会の職務はその多くを副会長にお願いする状況にもなっているようだ。

 私はずいぶん前から、このような状況はおかしいと思っていて、常議員会の懇親会などで会長や次期会長に対して、大阪弁護士会会長と日弁連副会長はそれぞれ別の人が担当すべきで、現状のように大阪弁護士会会長と日弁連副会長を兼任すると、日弁連の意向に逆らえなくなるなどの問題が生じるのではないかと提言したこともある。

 多くの方は、そうではなく、大阪という大単位会の会員を代表しているという地位が日弁連で大きく意味を持つのだというお考えのようだった。

 果たして本当にそうなのだろうか。

 大阪という大単位会の意向が日弁連にどんどん提案され取り入れてもらえるのならばともかく、私が常議員会で見聞してきたところによれば、大阪弁護士会執行部は日弁連執行部の意見をできるだけそのまま通そうとする傾向が強いように感じている。

 どこかで、変える必要があるように、私としては思うのだが。

一枚の写真から~67

ヴィスビー(スウェーデン)

早朝のヴィスビー。

こんなふうに、廃墟が街に、何の違和感もなく、溶け込んでいる。

一枚の写真から~66

ヴィスビー(スウェーデン)

観光地なのだがシーズンオフだったのでこのとおり。

不思議な感覚で夜の散歩が楽しめた。

法テラス常駐弁護士~日弁連は民業圧迫に賛成なのか?-2

(続き)


 前回記載したように、2020年3月の今川執行部により大阪弁護士会は法テラスの常駐・常勤スタッフ弁護士設置に反対しないとの方針転換を行い、その方針を維持することを同年8月に川下執行部でも確認することになった。

 ところがその3ヶ月後である2020年11月、法テラス大阪地方事務所の事務局長が、大阪弁護士会と連携関係にあった生活保護施設を訪問し、その際に、法テラス大阪地方事務所に常駐型スタッフ弁護士が配置されることになったこと、法テラス大阪事務所においては無料での法律相談の行うことが可能であること等について説明(営業)を行う事態が生じたのである。

 前回ブログのように医師のケースに例えれば、国が設立した病院の事務局長が、別の病院と提携関係にある施設を訪問し、「ウチにも常勤の医師が来ることになりましたから、これからはいつでも無料で診療が受けられますよ。だから、今までの提携関係にあるお医者さんを切って、ウチに来てもらう方がお得なんですよ。」と営業するようなものである。

 このようなことは、完全に民業圧迫であるし、そればかりでなく大阪弁護士会と法テラス大阪地方事務所との信頼関係を完全に破壊する行動と評価されても仕方がないだろう。

 おそらく、法テラス大阪地方事務所の事務局長が自分の考えだけで、このような面倒な営業行為をするとは到底思えないから、おそらく法テラスの上層部の方から、法テラス大阪地方事務所に対して営業するようにとの指示なり圧力があったと考えるのが合理的である。

 法テラスは、経済的に困った方のために国が設けた制度であったはずなのに、採算が取れない地方では地方事務所を閉鎖するなど、次第に採算を重視する傾向が見られるようになってきており、本来の制度目的とは異なる方向に動いているように思われる。

 そのような点に鑑みれば、一旦は「弁護士費用は、無料ですよ~。」と採算度外視で行えることを利用して営業行為を行って集客し、集客後は、そのお客に繋がる人脈等を利用して、採算に繋がる事件を法テラスで受任しようとする意図があったのではないか、と考えざるを得ない。弁護士への事件依頼は、一度受任した人からの紹介によるものが相当部分を占めるからだ。

 この事態を知った、当時の大阪弁護士会川下執行部は(多分)激怒し、2021年1月の日弁連からのスタッフ弁護士配置依頼に対しては、これまでの回答を白紙撤回し、待機期間型常駐弁護士はともかく、常駐型常勤弁護士の増員・新規配置とも受け入れられないとの内容の回答を返している。

 それにもかかわらず、今年も日弁連から令和4年度スタッフ弁護士の配置についての依頼が大阪弁護士会に届いている。

 日弁連執行部には、法テラスが民業圧迫に繋がっているという認識が完全に欠落していると言わざるを得ないだろう。

 確かに民業圧迫よりも経済的弱者の保護を優先したいという見上げた発想に基づいている可能性もなくはないが、仮にそのような自己犠牲をしたいなら、日弁連執行部で法テラス常駐弁護士を提案する人たち(自己犠牲をしたい人たち)で、やれば良いのだ。

 そもそも、日弁連という組織は、弁護士会員の利便のために動くべきではないのか。

 過疎問題に関しても、医師会などは過疎地域での医療に関して経済的に成り立つかをしっかり見極めることが大前提だとするが、弁護士会は過疎解消の美名に酔いしれて、経済面を無視して突進し、自腹を切りまくっているように見える。その負担は各弁護士の納めた弁護士会費から出されるのである。

 この前の日弁連会長選挙で、及川候補を除く主流派の候補2人は、法テラス案件を自分の事件として受任し処理していた経験はなさそうだったが、仮にそうだとすれば、日弁連執行部(主流派)は自己犠牲の精神を高らかに歌い上げながら、自己犠牲を執行部以外の会員に押しつけていることになりはしないか。


 弁護士も職業である。職業は生活の糧を得る手段である。かすみを食って生きるわけにはいかない。

 私の経験から言わせてもらえば、きちんとした法的サービスを提供しようとするなら、法テラス基準の対価では到底不可能で事務所を維持できない。

 ちなみに、私の場合、法テラスは、経済的弱者でどうしてもやむを得ない方については利用するが、民業圧迫の際たるものだと思っているので、常議員会では常に法テラス拡充方向の議案には反対の意見・反対投票してきたつもりである。

 田中執行部がどのような回答を行うのか、後日ご報告する予定である。

(この項終わり)

法テラス常駐弁護士~日弁連は民業圧迫に賛成なのか?-1

 日弁連は、各弁護士会に対し、毎年のように法テラスのスタッフ弁護士の配置に関して意見を求めている。
 意見照会の形を取ってはいるが、表題に「令和4年度スタッフ弁護士の配置について(依頼)」とあるように、実質は、法テラスのスタッフ弁護士を配置してくれというお願いである

 法テラスのスタッフ弁護士は、定額の給与を法テラスから受け取るので、採算を度外視して無報酬でも事件を受任出来る。
 分かりやすく医師に例えれば、国が病院を設立して医師を雇用し、採算度外視(無償)で患者を診る制度といったところである。こんな制度を作られたら普通のお医者さんは食べていけない。

 あからさまに民業圧迫だからであるし、そのような制度を医師会が放置するとは到底思えない。

 しかし、日弁連は、事実上、民業圧迫に繋がりかねない法テラスのスタッフ弁護士を各弁護士会におくように依頼を続けているのである。

 これに対し大阪弁護士会は、委員会活動が活発であり、困った方のために手弁当でも対応する弁護士が比較的多いことなどから、当初は法テラス法律事務所もスタッフ弁護士も不要との立場を取っていた。

 ところが、2012年、法テラス本部から日弁連に対し、大阪に法テラス法律事務所を設置して、各地に赴任するまでの待機期間のみ常勤する待機スタッフ弁護士を配置したいとの要望が出された。当時の大阪弁護士会執行部は、待機期間中の待機スタッフ弁護士であれば異議はない旨の回答を出したため、2013年には法テラス大阪事務所が設置され、待機型常勤弁護士が常駐するようになった。

 私の目から見ればだが、大阪弁護士会執行部は、何年かに一度、日弁連会長を大阪弁護士会から輩出していること、大阪弁護士会会長が日弁連副会長を兼任する慣習があることなどから、日弁連執行部とかなりべったりの関係にある。
 以前法曹人口問題等で執行部に近い先生と意見交換していた頃は、「日弁連への影響力が・・・」等と発言する年輩の先生も複数いたので、よほど日弁連会長・副会長の席に憧れる人が多いのだろう。私なんぞは、仮に大阪弁護士会から日弁連への影響力が残っても、弁護士界全体が沈没したら意味ないじゃないかと思っていたのだが、年輩の先生方の考えは違うようだった。
 そのようなことから、私の目から見れば、大阪弁護士会執行部は日弁連の意向に迎合する場合が多いように感じる。

 閑話休題。

 結局、2013年に日弁連を通じての法テラスの要望に屈した大阪弁護士会であるが、待機型常駐弁護士しか認めていなかったため、さらに毎年のように日弁連から待機型でない常駐・常勤スタッフ弁護士を置いて欲しいという意見照会(お願い)が来ていた。
 そのため、PTで検討させた結果、2020年3月、当時の今川会長執行部が待機期間中ではない常駐の法テラス常勤弁護士の受入に反対しないとの意見に変更し、2020年8月にも当時の川下会長執行部が、同様の意見を日弁連に対して回答した。

 ところが、その3ヶ月後、事件が起きる。

(続く)

映画「ブルーサーマル」

「サーマル?なにそれ?」というのが普通の人の反応であろう。
まあ、それだけマイナーな単語だということは否定しない。

 しかし、私のように学生時代グライダーに乗っていた人間にとっては、「サーマル」という言葉を聞くと、何所までも遠く広がる空と、空を滑るように飛行するグライダーを一瞬で思い浮かべるはずだ。

 簡単に言えば、サーマルとは上昇気流のことである。トンビが羽ばたかずにどんどん上昇していくのを見たことがある人も多いと思うが、風は横に吹くだけではなく、縦(上下)にも吹くのである。トンビはその上昇気流の中を旋回するだけで上に向かって吹く風により、どんどん上昇できるのである。

 エンジンのないピュアグライダーが長時間飛べるのも、トンビと同じ理屈である。サーマルを見つけ、その中で旋回することにより高度を稼ぎ、その高度を利用して目的地へと飛行する。私が京大グライダー部在籍中に、関宿滑空場で練習に使用していたASK-13は、1m高度を失う際に28m前進することが出来る(最良滑空比で)。だから、理屈上は100m高度があれば、2800m前進できることになる。

 もちろん飛行する以上は、高度をどんどん失っていくので、目的地に向かう途中で高度が足りなくならないように、サーマルを捉えて高度を稼ぐ必要がある。
 しかし、風が目に見えないのと同じく、サーマルは目に見えない

 周囲の状況(地形・雲の状況・場合によればトンビの状況も含む)やグライダーに伝わる気流の状況(サーマルでは本当に縦に風が吹いているので、例えば飛行中に左翼側が持ち上げられた場合は、左側にサーマルが存在する可能性が高い。)により、目に見えないサーマルをいかに捕まえ、目的地に向かえるかが、グライダーパイロットの腕の見せどころ、というわけである。

 そのようなマイナースポーツを映画化したのが、この映画「ブルーサーマル」である。
 原作漫画を書いた小沢かなさんは、法政大学航空部の出身であるとのことで、この映画の中でも、かなり現実に近い大学での航空部ライフが描かれていると言ってもよい。とはいえ、部活におけるしんどいことや面倒くさいこと等については、相当割愛されているのは、ドキュメントではないので仕方がないところだろう。
 

 そうは言っても、空の美しさ、グライダーから見た、飛行中の他のグライダーの美しさ(太陽の光を翼で弾く様など)は、実によく再現されていた。映画の中で使用されていた練習用複座機ASK-13、ASK-21は、いずれも私が30年以上前に京大グライダー部で乗っていた機体でもあり、とても懐かしい思いが蘇るとともに、両機が未だに現役であることに驚いた。よほど基本設計が素晴らしかったのだろう。

 ウインチ曳航により発進した際に稼いだ高度がちょっと高めだよな~と感じたり、飛行中のバリオメーター(瞬間的な上昇・降下率を操縦士に知らせるための航空機用計器)の動きについ目が行ってしまったり、朝比奈氏の部屋にある模型にブラニックらしき機体があるなあ~等と感じたのは、航空部(京大の場合はグライダー部)経験者としてのサガなのだろう。

 ストーリーについては、ちょっと引っかかる場面もあったが、とにかく真っ直ぐな主人公が気持ち良い

 映画を通して、ああ、私も、この子のように真っ直ぐだった時期があったよなぁ~という思いとともに、機会があれば、また何所までも遠く広がる空に踏み出してみたいな、という気持ちにしてもらえた。

 グライダーを知らなくても、十分楽しく、子供の頃、きっと誰もが感じた空への憧れを呼び覚ましてくれる映画である。


 是非お薦めする。

公式HP https://blue-thermal.jp/
3月4日より公開中