映画「ブルーサーマル」

「サーマル?なにそれ?」というのが普通の人の反応であろう。
まあ、それだけマイナーな単語だということは否定しない。

 しかし、私のように学生時代グライダーに乗っていた人間にとっては、「サーマル」という言葉を聞くと、何所までも遠く広がる空と、空を滑るように飛行するグライダーを一瞬で思い浮かべるはずだ。

 簡単に言えば、サーマルとは上昇気流のことである。トンビが羽ばたかずにどんどん上昇していくのを見たことがある人も多いと思うが、風は横に吹くだけではなく、縦(上下)にも吹くのである。トンビはその上昇気流の中を旋回するだけで上に向かって吹く風により、どんどん上昇できるのである。

 エンジンのないピュアグライダーが長時間飛べるのも、トンビと同じ理屈である。サーマルを見つけ、その中で旋回することにより高度を稼ぎ、その高度を利用して目的地へと飛行する。私が京大グライダー部在籍中に、関宿滑空場で練習に使用していたASK-13は、1m高度を失う際に28m前進することが出来る(最良滑空比で)。だから、理屈上は100m高度があれば、2800m前進できることになる。

 もちろん飛行する以上は、高度をどんどん失っていくので、目的地に向かう途中で高度が足りなくならないように、サーマルを捉えて高度を稼ぐ必要がある。
 しかし、風が目に見えないのと同じく、サーマルは目に見えない

 周囲の状況(地形・雲の状況・場合によればトンビの状況も含む)やグライダーに伝わる気流の状況(サーマルでは本当に縦に風が吹いているので、例えば飛行中に左翼側が持ち上げられた場合は、左側にサーマルが存在する可能性が高い。)により、目に見えないサーマルをいかに捕まえ、目的地に向かえるかが、グライダーパイロットの腕の見せどころ、というわけである。

 そのようなマイナースポーツを映画化したのが、この映画「ブルーサーマル」である。
 原作漫画を書いた小沢かなさんは、法政大学航空部の出身であるとのことで、この映画の中でも、かなり現実に近い大学での航空部ライフが描かれていると言ってもよい。とはいえ、部活におけるしんどいことや面倒くさいこと等については、相当割愛されているのは、ドキュメントではないので仕方がないところだろう。
 

 そうは言っても、空の美しさ、グライダーから見た、飛行中の他のグライダーの美しさ(太陽の光を翼で弾く様など)は、実によく再現されていた。映画の中で使用されていた練習用複座機ASK-13、ASK-21は、いずれも私が30年以上前に京大グライダー部で乗っていた機体でもあり、とても懐かしい思いが蘇るとともに、両機が未だに現役であることに驚いた。よほど基本設計が素晴らしかったのだろう。

 ウインチ曳航により発進した際に稼いだ高度がちょっと高めだよな~と感じたり、飛行中のバリオメーター(瞬間的な上昇・降下率を操縦士に知らせるための航空機用計器)の動きについ目が行ってしまったり、朝比奈氏の部屋にある模型にブラニックらしき機体があるなあ~等と感じたのは、航空部(京大の場合はグライダー部)経験者としてのサガなのだろう。

 ストーリーについては、ちょっと引っかかる場面もあったが、とにかく真っ直ぐな主人公が気持ち良い

 映画を通して、ああ、私も、この子のように真っ直ぐだった時期があったよなぁ~という思いとともに、機会があれば、また何所までも遠く広がる空に踏み出してみたいな、という気持ちにしてもらえた。

 グライダーを知らなくても、十分楽しく、子供の頃、きっと誰もが感じた空への憧れを呼び覚ましてくれる映画である。


 是非お薦めする。

公式HP https://blue-thermal.jp/
3月4日より公開中

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