司法試験合格率を上げれば志願者が増えるのか?

本日の常議員会で、日弁連理事会の報告をH副会長が行った。

ご存じの通り、法曹志願者は激減している。

法科大学院を受験する際に必要な適性試験受験者は、第1回(2003年)は約60000人もの延べ人数がいたが、平成25年実施の適性試験の実受験者数は4945人。年々減少を続けている。

法曹志願者の減少について、弁護士の魅力が少なくなったからか?との理事の質問に対し、日弁連執行部側の発言として次のような発言があったそうだ。

○貸与制、就職難というのが大きい、魅力を訴えていくことも大事。個人的には9割くらい受かればいい。7割を最低基準にしているのでLSに入れば司法試験に受かるということで志望者を増やせるのではないか。

あ~あ、未だに合格率を上げれば志願者が増えると無邪気に信じ込んでいる頑迷な方々が日弁連執行部におられるのですな。そんな方々が執行部に居座っているわけだから、日弁連の将来もお先真っ暗としかいいようがありませんな。

合格率が増えれば志願者が増加するというのであれば、合格率が低いから志願者が増えないということを意味するはずだ。

ならば問おう。

あなたが受験していた頃の旧司法試験は合格率1%台の時代もあったが、志願者が増え続けていたのは何故なのか。旧司法試験時代に比べて、合格率が10倍以上に増加した現在の司法試験で志願者が減り続けていることをどう説明するのか。

法曹志願者の減少理由は簡単だ。法曹になるために莫大な時間と労力が必要であるが、それに見合ったリターンが見込めなくなってきたからだ。

かつて、法曹資格は人生の一発逆転を可能にするプラチナチケットと言われていた。

最難関の国家資格であり、東大・京大出身者でも10~15人に1人くらいしか合格できなかった。合格すれば自己満足度も高く社会的にもある程度の評価を受け、相当程度の生活の可能性が見込まれた。

だから、合格率がわずか数%で、現代の科挙と言われながらも志願者は増加していたのだ(丙案導入時の受け控えを除く)。

だが今は、取得するには原則として法科大学院という時間と金を注がなければならない制度になり、司法修習も貸与制だ。なにより、旧司法試験時代に比べて毎年4倍もの合格者を出してきたのだから、資格取得が容易になり資格の価値が下落した。仮に法曹資格を取得しても就職難。

将来性を見据えたときに、月刊プレジデントからは弁護士はブラック資格とまで評価を下げられている。

以前も書いたことがあるが、宅建の資格だけで生活を成り立たせることは相当難しいはずだ。その宅建資格を、法科大学院に通い3年間の時間と数百万円の学費を費やせば100%の合格率で取得できるとしても、誰も法科大学院経由での宅建資格取得を目指さないだろう。当たり前だ。かけた時間と費用に見合ったリターンが見込めないからだ。

法曹資格も同じことだ。

法曹資格の人気を取り戻し、有為な人材を法曹界に導こうとするのであれば、法曹資格に魅力を与え、かけた時間と費用に見合ったリターンを見込めるようにする他ないはずだ。

どこの世界でも、優れた人材を得るためには、それに見合ったリターンを用意する。当たり前のことだ。そして先を見通せる優れた人材ほど、きちんとリスクとリターンを計算する。民事事件も刑事事件も減少傾向にある中、弁護士人口だけが激増されている昨今、月刊プレジデントは誰にでも予測できる当たり前のことを言っているにすぎない。

それが渦中の日弁連執行部に理解できないはずはないと思うのだが、それはどうやら私の買いかぶりだったようだ。買いかぶりではなく、別の利害関係からそういわざるを得ないとするならば、そのような方が執行部にいること自体が問題だろう。

先ず日弁連執行部の方々には、自らの利害関係はさておき、現実をきちんと見て、本当に解決必要な問題に集中的に取り組んで欲しい。

いいですか、あなたたちが上手く行くと言い張って始めた結果が、この惨状なんですから。

逃げずに責任とれよ。