日弁連会長選挙公聴会をちょっと覗いて見た

 新型コロナウイルスが猛威をふるっている昨今であるが、日弁連会長選挙は進行中である。
 通常であれば、各地(北海道・東北・関東・中部・近畿・中国四国・九州)で公聴会が開かれ、候補者の声をじかに聞けるものなのだが、今回はコロナウイルスの影響もあってか、インターネット経由のリモートで開催されているようだ。

 上記の日弁連会長選挙公聴会は、弁護士なら日弁連の会員専用サイトで視聴することができ、現在(2022.01.28)、東北・北海道・中部・近畿・九州を対象とする公聴会について公開されている。

 近畿公聴会の質問の中で、私がブログで何度も、その内容が欺瞞と過ちに満ちていると指摘している日弁連法曹人口検証本部取りまとめ案に賛成するかとの質問があった。

 及川候補は、弁護士の需要は拡大していないこと、単位会の相当数の反対があること、検証本部の人選の偏り、架空の需要可能性を前提に結論を出している等から、取りまとめ案に反対する意向を明確にした。

 小林候補・高中候補は、取りまとめ案に賛成している内容の回答だった。
 まあ、日弁連主流派の流れを汲む両候補からすれば、反対などと言ったりしたら、たちまちのうちに主流派内での支持を失って、「はい、消えた!」となってしまうだろうから、口が裂けても反対できないのだろう。しかし、この取りまとめ案に賛成するということは、私が指摘したように判断根拠等に虚偽の内容が満ちている偏向した内容の取りまとめ案について、取りまとめ案に相当数の単位会が反対している事実を無視してゴリ押しすることに繋がるから、まあどちらが会長になっても今までの日弁連とおんなじやり方を踏襲するだろうということだ。
 高い会費を取っておきながら、日弁連は弁護士のための組織ではないのか、日弁連に会員の意見が反映されていないではないかという、弁護士に広がっていると思われる潜在的不満に対して、何ら意を払わない可能性があるだろう。

 さらに、法曹志願者の激減について、弁護士の経済的基盤が崩壊しているからではないのかという質問に対して、

 及川候補からは、弁護士業だって仕事であり、弁護士業で生計を立てていく必要があること、日弁連は20年以上前から業務拡大に取り組んできたが、成果が上がっていないこと等の問題点を指摘し、司法試験合格者を減員すべきだと主張している(誤解なきよう申し上げるが、司法試験合格者を現状の1500人前後から1000人前後に減少しても弁護士数は増加し続ける)。

 小林候補は、弁護士にも経済的基盤は大事であることは認めているが、魅力をアピールして志願者を増やせばいいとの回答だった。

 高中候補は、法曹の魅力(得に女性、中高生)を幅広く発信すればいいし、経済的基盤については活動領域の拡大をすれば良いとの回答だった。

 この点については、及川候補だけが正しい現状認識を踏まえた返答をしていると感じている。
 おそらく小林候補も高中候補も、本心では弁護士全体として見た場合、業務の拡大を大幅に上回る弁護士数増加の影響で、多くの弁護士の業務基盤が傷んでいることは理解しているはずだと思う。税務統計等からも弁護士業の収入の凋落ぶりは、相当程度明らかになっているのだから、仮に本当に、多くの弁護士が潤っていると考えているのなら、現状把握能力が全くない、「頭の中がタンポポ畑のお人」と考えざるを得ないからだ。
 しかし、両候補とも、その事実を認めるとこれまで日弁連を牛耳ってきた主流派方針が誤りだったということに繋がるため、やはり、認めるとはいえないのだ

 及川候補の言うとおり、日弁連は私が弁護士になった頃には既に、業務拡大の必要があるから、その努力をしていると言い続けてきたし、そこそこの会費を投入してきたはずである。しかし実際には、業務拡大どころか、司法書士の簡易裁判所代理権が認められてしまうなど、他士業からの浸食を抑制できていない。そればかりか、消費者系弁護士が勝ち取った過払金判決によって過払金バブルが生じたことから、問題を先送りしてしまい、結果的に弁護士数の増大に見合った弁護士業務の拡大ができていないと評価せざるを得ない。

 小林候補も、高中候補も弁護士業の魅力のアピールで法曹志願者が回復すると主張するが、既に日弁連は法科大学院と組んで弁護士業のアピールを相当の会費を突っ込んで何度も実施してきている。
 その上で、なお、司法試験受験者は減少し続けている傾向にあるのだ。

 いくらやりがいがあっても、仕事は生活の糧を稼ぐ手段でもある。食べられないのなら、その仕事を継続することはできない。

 中高生だってその事実は知っているし、だからこそ、現時点で唯一資格で食っていける可能性が高い医師、つまり医学部がどんどん難化しているにもかかわらず、人気がより高まりつつあるのだ。

 大学生は自分の進路についてシビアに考える。本当に魅力があって、生活ができる仕事なら、どれだけ難関であっても、志願者は集まる。かつて法曹資格がプラチナ資格と言われていた旧司法試験時代は、合格率数%であっても、志願者は増え続けていたのである。

 かつては合格率数%であった司法試験の昨年の合格率は40%を超えた
 しかも、受験生平均点よりも約40点も低い点数で合格できる試験になっているのだ。

 これだけ合格しやすくなっても志願者が増加しないのは、端的に言えば、資格に魅力がないからである。そして、弁護士業が仕事として大きく変貌したわけでもないのに、その魅力が減少した根源の問題は、及川候補が主張し、小林候補も少しだけ触れているが経済的基盤が崩壊している点にあると分析するのが、最も合理的だ。

 

 そろそろ、建前ではなく、本音で弁護士のことを考えてくれる日弁連会長が生まれてくれると嬉しいのだが。

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