依頼者保護給付金制度について~3

2.依頼者保護給付金制度の賛否~その2

N:②弁護士の信頼回復につながらない、という理由なんですけど、これはどういうことなんですか?
O:日弁連は、特定の弁護士の横領事件等の被害者に見舞金を出すことで、弁護士や弁護士会に対する一般の方々の信頼を維持できると主張しているんだけど、果たしてそうなのかという疑問だね。例えばN君が、(不埒な)X弁護士さんに遺産分割の話し合いを依頼したところ、X弁護士さんに横領されて、本来受け取るべきだった遺産の1億円が全てなくなってしまったとしよう。どう思う?

N:X弁護士さんには刑務所に入ってもらうのは当然として、もう弁護士なんかに頼むもんか!って思いますね。もう弁護士全体を信用できないって強く思うんじゃないですか。
O:仮に、真面目に仕事をしている優秀なA弁護士さん、B弁護士さんがいるし、殆どの弁護士さんはきちんと仕事をしてるんだけど、そのことはどう思う?

N:そんなの関係ないですよ!とにかく僕は横領されたんですよ!おじさんには悪いですけど、もう弁護士自体許せない!ってなってしまうと思います。
O:まあ、まあ、仮の話なんだから、そう興奮しないで(笑)。それに大多数の弁護士さんは真面目にきちんと仕事をしているんだから。N君の気持ちは分かるけど、きちんとした弁護士さんも含めて恨むのはちょっと筋が違うんじゃないかな。例えば、君のクラスの誰かが万引きして捕まったときに、君のクラス全員がお店から恨まれたとしたらどう思う?

N:そりゃまあ、言われてみれば、おかしいのは分かりますけど・・・・。気持ちとしてはつい、弁護士許すまじ!ってなってしまいますね。
O:それはさておき、とにかく、N君はX弁護士に横領される被害にあった、弁護士許すまじの気持ちになっているとしよう。そこに弁護士会から、「Nさん、お気の毒でした、お申し出があれば、お見舞い金500万円をお出しさせて頂きます。」と言われたらどう思うかな。

N:1億円なくなっているのに500万円で足りるはずないじゃないですか。残りの9500万円をどうしてくれるんだって言いたいです。誰が500万円で許してやるもんですか。
O:弁護士会から「そこをなんとか。真面目な弁護士も多いので、500万円でまた弁護士を信じて下さい。」とお願いされたらどうする?

N:言い方は悪くなりますが、答えは、「アホぬかせ!!」ですね。到底被害回復に足りないお金だし、悪いX弁護士を野放しにした弁護士会の責任はどうなってるんだ!って逆に問い詰めたいくらいです。
O:弁護士会にX弁護士の横領に関する責任があるかどうかは後で話すとして、おそらく、多くの方の反応は、N君と似たような反応になるんじゃないかと思うね。そうだとすると、お見舞い金を出したところで、弁護士会や弁護士に対する信頼が回復する可能性は高くはないと予想されるのさ。弁護士会や弁護士に対する信頼は、弁護士さんが悪いことをしないで、ずっと活躍し続けることで、少しずつ積み重ねていくしかないんだよ。
   そのためには、悪いことをした弁護士に対するきちんとした処分と、再発防止策を徹底することが必要になる。被害に比較して微々たるお金をお見舞いとしてお渡しすることで弁護士に対する信頼が回復する訳じゃないのさ。

N:なるほど、大事なのは不祥事を起こさないように予防することなんですね。その予防に関する対応はできているんですか?
O:残念ながら、その点に関しては、明確な新規の予防手段は日弁連からは提示されていないようだよ。実際、どんな予防手段をとってもその裏をかいたり、予防手段をかいくぐられればどうしようもない。企業の不祥事や犯罪だって同じだね。法律でいろいろ規制していても、それを踏み越えてこられたら、防ぎようがない。弁護士の不祥事全てに効果的な予防手段はおそらく存在しないと思うよ。仮に効果的な予防手段があれば、もう導入されているとは思うけど、そのようなウルトラCはないようだね。

N:公務員だって警察官だって会社だって、不祥事撲滅とか言っているけど、実際には完全に不祥事をなくすことは不可能ですよね。確かに、何もしないよりはマシかもしれないけれど、お見舞い金制度は弁護士不祥事を防ぐ手段ではないことは理解できました。

(続く)

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