依頼者保護給付金制度について~2

2.依頼者保護給付金制度の賛否~その1

N:でも、悪い弁護士さんの被害にあった人にお見舞いのお金を支払うのなら、良いことのように思えるのだけれど、どうして反対する人がいるの?
O:そうだね、いろいろ理由はあるけれど、①そもそも弁護士不祥事の対策にはならない、②弁護士の信頼回復につながらない、③そもそも弁護士会が損害のお見舞い金を出す法的理由がない、④不良弁護士の尻ぬぐいを真っ当な弁護士がするのはおかしい、⑤将来の弁護士会財政に対する不安、⑥税金面の問題などがあげられているようだよ。

N:ふーん。たくさん理由があるんだね。まず①はどういうことなの?
O:不祥事を起こした弁護士の被害者に、日弁連がお見舞いのお金を渡すことで、弁護士の不祥事がなくなるか、ということだね。N君はどう思う?

N:そうですね~。不祥事を起こすかどうかは弁護士さん次第ですよね。どんなに困っても不祥事を起こさない人もいれば、ギャンブルにはまって他人のお金に手を出してしまう人もいる。そうだとすれば、悪いことをしそうな弁護士に仕事をさせないようにすることが、弁護士の不祥事をなくすために必要なんじゃないですか?
O:そうだね。確かに弁護士の不祥事で被害を受けた方は本当に気の毒だ。この制度に反対している弁護士さんがその気持ちを失っている訳じゃない。でも、Nくんも気付いたように、お見舞い金を渡すこと自体では弁護士の不祥事をなくすことには直接つながらないんだね。
   また少し脱線するけど、弁護士の数が物凄く増えたことも背景にはあるだろう。裁判所に持ち込まれる事件は減少の一途だが、弁護士だけは爆発的に増加し続けているからね。TVドラマの中と違って弁護士も相当大変なのさ。背に腹は代えられないという諺もあるように、ご飯が食べらず餓死寸前の人に、目の前の預かっているパンを食べるな、といってもなかなか守れないだろう?

N:そんなこと、弁護士さんを増やそうとする前に、分からなかったことなの?
O:いや、おおよそ分かっていた事態だと思うね。法科大学院を設置して弁護士を爆発的に増やす制度を創ろうとしていたときに、そのことを指摘していた人達もいたんだよ。

N:じゃあなぜ止められなかったの?マスコミはどういっていたの?
O:マスコミは、弁護士も競争するべきだといっていたのさ。弁護士は資格に守られてのんびりしているから、弁護士もどんどん資格を与えて競争させればいい。競争すれば、悪い弁護士には誰も頼まなくなるからそれで良いんだという理屈だね。でもこの理屈は大切なことを見落としていた。

N:何を見落としていたの?競争すれば良い弁護士さんが残るんじゃないの?
O:話を分かりやすくするために、お医者さんに例えてみようか。お医者さんも資格に守られて儲けているから、実力不足でもいいので、どんどん資格を与えて増やして競争させればいい。そうすれば、藪医者には誰も頼まなくなるから、良いお医者さんが残る、といわれた時にどう思う?

N:う~ん、一見、正しそうに思うけど。お医者さんも競争した方が良いお医者さんが残るんじゃないのかなぁ。
O:ヒントを出そうか。良いお医者さんが残るためには、藪医者がはっきりしないとダメだよね。この先生、藪医者だな~と分かるためにはどういうことが必要なんだろう?

N:藪医者がはっきりするためには・・・。誤診とか医療過誤とかを何回も繰り返せば藪医者と分かりますけど・・・・・。あっそうか、藪医者が藪医者であると世間に分かるまでには、誤診とか医療過誤でひどい目に遭う人がたくさんでないといけないんだ。
O:わかるかい。医者も競争すれば良いという発想は、競争で藪医者が淘汰されるまでに被害に遭う人のことを完全に無視しているのさ。それだけじゃないぞ。お医者さんの良し悪しなんて本当に素人に分かるものだろうか。テレビに出ているから信頼できそうとか、人当たりの良い院長先生だから等という単純な基準で評価していないだろうか。

N:う~ん確かに、お蕎麦屋さんなら、すぐ美味しいかどうか分かりますが、お医者さんのホントの腕の良し悪しは、なかなか分かりませんよね。よく「様子を見ましょう」とかいわれますけど、何の病気が分からなくてそういっているのか本当に様子を見た方が良いのか、僕には分かりませんしね。
O:医療行為は専門的な事柄だから、一般人には良し悪しが判断できないことが多いのだろうね。良し悪しが判断できないのなら、競争させても、良い医者かどうかは分からないということになるね。そうなると、競争させても判断する人が分からないのだから、必ず腕の良いお医者が残るという訳でもないことは分かるだろう?

N:そうですね。何か怖くなってきた。
O:更に怖いのは、今までより基準を緩めて資格をどんどん与えるわけだから、当然質の悪いお医者さんもどんどん生まれてくることになる。つまり、一部の藪医者が淘汰されたとしても、また新しく藪医者候補がどんどん世の中に追加されてくるってことさ。そうなると、いつまで経っても良いお医者さんだけ残るということにはならないよね。

N:そうですね。医師の資格を持っている以上、その資格に見合った実力を持っていることを信頼できないと怖くて病院にも行けません。単純に競争させれば良いというものでもなかったんですね。
O:ちょっと脱線が過ぎたね。話を戻そうか。

(続く)

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