司法試験は選別能力を維持できるのか?

 かつて司法試験はなかなか合格できないため、かなりの長期間受験を続ける受験生もいて、10年以上も受験を続けている人もそう珍しくはなかった。

 当時は、合格率2~3%の狭き門であり、現代の科挙とも呼ばれる難関だった。

 1次試験は教養試験で大学の教養課程を修了している者は免除。したがって、受験生が司法試験という場合、大抵は2次試験を意味していた。

 2次試験は、短答式(マークシート方式)、論文式、口述式と3段階に分かれており、短答式で大体5人に1人に絞られ、短答式に合格したものだけが論文式試験を受験できた。短答式試験は法律の知識や事務処理能力が試されていた。合格するには75~80%以上の正答率が必要だった。

 次に、全受験生の5人に1人の割合で合格してきた、短答式合格者が論文試験で競うことになっていた。論文式試験では7~8人に1人しか合格しない。3日間で7科目(その後6科目に試験科目が減らされた)の論文試験は、まさに精根尽き果てるくらい疲労した試験だった。問題文からきちんと法的問題を抽出し、基礎的な法的論述が論理的にできるのかが問われていた。

 論文式試験に合格すると、東京(その後、浦安)で行われる口述試験を受験できた。一流の学者・実務家2名から口頭試問を受けたのだ。ここではその場で法的思考ができるのか、それを的確に相手に伝えることができるのかが試されていた。口述試験に限り、落ちても翌年受験する機会を与えられた。この試験の合格率はほぼ95%くらいだったので、論文試験が天王山といわれていた。

このようにかつての司法試験は、法曹としての知識・素養について3段階でチェックし、かなりの選別能力を有していたといって良いと思う。

 ところが、現在の司法試験においては、法曹に相応しい法的素養をきちんと選別できているのか疑問なしとしない。

 口述試験は廃止されたし、論文式試験は問題傾向が大きく変わったため単純な比較は難しい。

 しかし例えば、今年の司法試験短答式試験では、1科目40%以下の得点しか取れないものは落とされるが、全受験生の平均点が120点のところ、114点以上とれば合格できている。もちろん、現在の司法試験は短答式・論文式が一連の日程で行われるので負担の面から旧司法試験との単純比較はできないが、法的知識と事務処理能力に関して受験生の平均点以下でも短答式試験に合格できるというのでは、法的知識・事務処理能力に関する選別能力が、かなり落ちていることは否めないだろう。

また、平成28年度法科大学院入学者数は、実数で1857名(適性試験受験者実数3286名)と、過去最低に陥った。ここ数年の法科大学院標準年限での修了率は68%であるから、標準年限で修了する法科大学院生は1262名程度と考えてそう大きな誤差は起きないと思う。

 では平成28年度の司法試験最終合格者数はと見ると、1583名だ。

 今年の合格者数が今後も維持されると仮定して、これだけで比較すると、1260名の法科大学院卒業者で1580人の合格者枠を争う?ことになる。

 単純に見れば受験生を全員合格させても、合格者数を維持できない。

 もちろん、実際には、過去4年間に合格できなかった者や、予備試験合格者も、司法試験を受験するが、そうだとしても、司法試験の選別能力が相当落ちていることは否めないだろう。

 悪い言い方をすれば、司法試験はザル、しかもかなり目の荒いザルになってきている可能性が高いということだ。

 そうではないというのであれば、最低点合格者の論文試験答案を公開してもらいたい。おそらく、相当まずい答案でも合格しているはずだ。近時、非公式だが裁判所からも法律のことを知らない、若しくは誤解している弁護士が増えてきているとの指摘もある。司法試験がザルでなければ、このような指摘も生じにくいはずだ。

 このような事態は、最終的にはユーザーである国民の皆様の不利益となる。

 資格をどんどん与えて競争させれば、上手く行くという競争原理の幻想は、いい加減ヤメにした方が良いように思うのだが。

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