投資詐欺の相談

 これまで何件か、投資詐欺に引っかかってしまった方の相談に応じたことがある。

 最初に申し上げておくが、投資詐欺であることが発覚した後、投資金額を回収できることは希であると思った方が良い。投資詐欺であることが早めに発覚した場合には、まだ回収可能性がある方だ(私も回収できた経験はある)が、通常は相当困難である。

 まず相手の居場所が分からないことが多いし、仮に分かって民事裁判を提起して、勝訴判決を得ても、相手がすっからかんであれば、強制執行しても結局回収できない。投資詐欺が判明する頃には、詐欺犯も資金繰りに行き詰まっていることが多いから、なおさら回収は困難を極めるのである。

 したがって、投資詐欺に引っかからないことがまず大事なのだ。

 元本保証、年間投資金額の10%以上のリターンが確実にある等との美味しい話を言葉巧みに告げられ、大丈夫と思って投資したつもりが、詐欺だったりするのだ。投資先は不動産だったり、聞いたこともないような名前の暗号資産が公開前だから安く手に入る、公開されれば数十倍になるとの話だったりする。

 さらには、友人から毎月の配当金が支払われるからと強く誘われて、少額を投資したところ、確かに1~2度配当金が支払われたので、信用できると思ってさらに高額の投資を行い、大損してしまった例もある。もちろん友人との仲もそれで終わったそうだ。

 冷静になって考えて頂ければお分かりのとおり、元本保証で年間10%以上のリターンのある投資案件がもしあるのなら、投資の募集をしている会社や人が、金融機関から安い金利でお金を借りて投資すれば良いだけの話しなのである。

 現時点での日本政策金融公庫中小企業への貸付金利は、貸付期間5年以内で1.06%~0.30%なのだから、本当に元本保証で投資金額の10%以上のリターンがあるのなら、日本政策金融公庫から借りて投資しても、元本が保証された上で、約9%以上のリターンが安全に手に入ることになる。

 敢えて、てまひまかけて他人から投資を募る必要などないのである。

 だから、まず元本保証で高利率の投資話(10%以上の高配当は嘘くさいので、3~5%の場合もある)があったら、99.99%は詐欺だと思った方が良い。

 しかし、友人が、自分も儲けたので、あなたにだけ秘密に教えるからなどと言われた際には、心が大きく動くこともあるだろう。
 そして、心が動いているときに、難しい内容の契約書を見せられて説明されると、なんだか良く分からないけど難しそうな内容だから大丈夫なんじゃないかと自分を鼓舞して契約してしまった人もいたりする。

 
 そのような契約を求められた場合、契約書を受け取っても、「これは大事なことだから良く考えてから契約するかを決めます」などと言って、まず即断しないこと、これが一番である。

 次に、契約書を弁護士に見てもらう事である。

 私がこれまで見てきた投資詐欺の案件では、7割以上の案件において、契約書に不備な点や妙な記載があったりした。おそらくインターネットなどで流れている契約書のひな形を流用しながら作成されたものだと思われるが、詐欺犯にも法律知識に乏しい者もいて、そのような変な記載内容になっていたものと思われる。

 契約書の記載を、この記載はこういう意味ですからと説明し、おかしな点を指摘すると、「そういう意味だったんですか!確かにおかしいですね!」と納得される方もそこそこいた。

 さらに言えば、不特定多数の者に対して、元本保証を謳って出資を募っているのであれば出資法違反の可能性もあり、違反者には懲役までありうるのだ。

 仮に契約書に妙な点がなくても、ものの道理の分かった弁護士なら、そのような投資話がほぼ100%詐欺であるからやめるよう忠告してくれるはずだ。

 弁護士への法律相談では大体30分5000円くらい(税別)かかるが、その後で、何百万~何千万も損してしまう危険を避けることを思えば、安い費用である。

 仮に、投資詐欺にかかったかもしれないと思ったら、とにかく早く弁護士に相談することだ。
 前述したとおり、主犯者の資金繰りが悪くなってから投資詐欺が発覚する場合が多く、その場合は被害者も多数生じている上、詐欺犯の手持ち資金も尽きかけているから、相談が遅れれば遅れるだけ、投資金の回収可能性は減っていくと考えた方が良いからだ。

弁護士業務実態報告書2020から~6

非経営者弁護士の給与体系
(経営者でない弁護士はどんな形式で、ボスから報酬をもらっているのか?)

☆全体の傾向


・毎月一定額の給与・報酬を受け取っている   83.5%
・毎月一定額の給与・報酬を受け取っていない   16.2%
・無回答                    0.2%

※毎月一定額の報酬を得ている経営者でない弁護士の割合は、2010年調査時の78.9%から微増している。


→経営者でない弁護士の2割が定期的な報酬を得られていない。

 おそらく自己事件を受任して処理することで収入を得ているか、事務所から処理を指示される事件を処理してその報酬の何割かを自らの収入にしているものと考えられるが、いずれも安定した収入とは言い難いであろう。

 経営者でない弁護士の自己事件の受任が可能なのかについては、おってアンケート結果を報告する予定である。

☆地域別の傾向

※概ね全体と同様の傾向にあるが、高裁不所在地では、毎月一定額の報酬を得ている経営者で内弁腰の割合は88.4%である。

→田舎の方が、毎月一定額の報酬を払う傾向が強い。

☆期別の傾向

※経営に携わらない66期以降の弁護士のうち、9割以上は、毎月一定額の報酬を受領している。これに対し、65期以前の弁護士は弁護士経験が長くなるにしたがって、一定額の報酬を受けている割合が減少する。
→これは期を重ねることにより自己事件が増加し、また事務所としても事務所を利用して自己事件を行う以上、さらに給与を支払う必要性を感じないためではないかと思われる(私見)。

☆性別による傾向

特に男女差によって、有意な差は見られないとのアンケート結果が出ている。

令和2年司法試験の採点実感~公法系第2問から

 公法系第1問(憲法)でも相当恐ろしい答案が続出していたようだが、公法系第2問(行政法)は、なお恐ろしい答案が続出していたようであるのでいくつか引用する。

・法律や判例等に関する知識以前の基本的な用語について理解していない答案,不作為の違法確認訴訟の本案審理の内容が何かを理解していない答案,政省令を裁量基準(法的拘束力を有しない裁量基準)と誤解している答案,運用指針が法令であると誤解している答案などが多く見られた。これらは,司法試験を受験する上で最低限理解しておくべき行政法の常識的な知識ともいうべきものである。

・例年のことではあるが,問題文中に書かれている指示に従って一つ一つ議論を積み重ねることのできた答案は極めて少なかった。このことは,型どおりの解答はできるが,それ以上に問題に即した事案を分析することを苦手とし,問われたことに柔軟に対応する力が欠けている受験生が多いことを示しているのではないかと考えられた。

・問題文や会議録には解答のヒントや誘導が盛り込まれており,これらを丁寧に読むことは,解答の必要条件である。それにもかかわらず,問題文の事実や指示を読んでいないか,あるいは事案等を正確に理解せず,問題文が何を要求しているかについての論理的な理解が甘いまま解答しているのではないかと思われる答案が多く見られた。問題文をきちんと読んで,何を論じ,解答すべきかを把握した上で答案を作成することは,試験対策ということを超えて法律家としての必須の素質でもあることを認識してほしい。

・自己が採る結論をなぜ導けるのかということを説得的に記載することが最も大切であるのに,問題文中の事実を指摘しただけで,さしたる根拠も論理もなく突如として結論が現れる答案が多く見られた。

・本年度は,解答が終了していないいわゆる途中答案がかなり見られ,特に,設問2については,ほとんど解答がされていないものや,全く解答がないものが少なくなかった。

・処分性の判定に当たり,公権力性の有無に一切言及しない,また,公権力性の有無について係争行為を行った主体が「国又は公共団体」であるか否かで判断するなど,基本概念の理解ないし用法が十分ではない答案が多かった。

・少なくとも主要な判例について,その内容を正確に理解することは行政法の学習においては重要であり,基本的な学習が不十分ではないかと考えられる。

・成熟性についてはそもそも論点として検討すること自体していない答案が多く,問題文を読んでいるのか疑問があった。

・条文を引用し,問題文の事案を丁寧に拾って要件への当てはめをするという形式的なことができていない答案が多かった。

・会議録にある「本件農地についての別の処分を申請して,その拒否処分に対して取消訴訟を提起する」という会話文中の「別の処分」が何なのかを考えずにそのまま書き写しているだけの答案や,同じく(中略)会話文を書き写し,法令のどの要件との関係が問題になるかを示すことなく,「したがって考慮不尽に当たる」といった結論めいたことを書いている答案など,会話文が持つ法的含意を余り考えない安易な答案も数多くあった。

・多くの答案が裁量権濫用の問題として捉えており,このために判断のポイントを十分に押さえきれていない論述となっていた。条文をよく読んだ上で論理的に考えれば,裁量権濫用の問題でないことは分かるはずであり,問題の論理的構造を把握する能力が不足していると言わざるを得ない。

さらに採点実感は次のような内容を法科大学院教育に要望している(一部抜粋)。

・ 単に判例の知識を詰め込むような知識偏重の教育は必要ないであろうが,主要な判例については,当該判例の内容や射程についての理解を正確に身に付けることは重要と思われる。


・ 実体的な違法性の検討においては,多くの答案は裁量論に(のみ)重点を置いており,多くの受験生にとっては,個別法に沿った解釈論を組み立てる能力の涵養について,手薄となっているように思われる。(中略)法科大学院においては,このような分野についてもトレーニングが行われる必要があると考えられる。

・ 法科大学院には,基礎知識をおろそかにしない教育,事実を規範に丁寧に当てはめ,それを的確に表現する能力を養う教育を期待したい。

・ これまでも繰り返し言われていることだろうが,行政法の基本的な概念・仕組みと重要な最高裁判例の内容・射程を確実に理解した上で,それらの知識を前提にして,事例問題の演習を行うことが求められるように思われる。事例問題の演習においては,条文をきちんと読み,問題文の中から関係する事実を拾い出して,それを条文に当てはめたり法的に評価したりする作業を丁寧に行うことなどを意識すべきだろう。

・ 法曹実務家は現実の紛争解決に有効な法理論を身に付けることが求められる。(中略)そのためには基本的な法理論を土台ないし根本から深く理解することが重要であり,「応用力」というのはその発現形態にすぎない。すなわち法理の基本に立ち返って深く掘り下げることができるような思考力を涵養することが,真の応用力を身に付ける早道と思うので,そのような観点からの教育を期待したい。

・ 今回の答案の全体的な傾向は,法律家としての思考が表現されている答案が少なかったことにあるように思う。生の事実をただ拾うのではなく,それが法的にどのような意味を持つのか,どの法令のどの文言との関係で問題となるのかなどについて,考え,表現する癖を付ける教育が望まれる。

・ 設問への解答において行政裁量を論じる必要があるか否かをよく考えずに裁量の有無,裁量の逸脱・濫用を検討する答案が目立った。本案における行政処分の適法性の検討においては事案のいかんを問わずとにかく行政裁量を論じれば良いと考えているのではないかと疑われる答案が,全体としては優秀な答案の中にも少なからず見られ,事案を具体的に検討することなく,裁量の有無,裁量の逸脱・濫用に関する一般論の展開に終始する答案も少なくないなど,行政裁量の問題が飽くまでも法律解釈の問題の一部であるという基本的な事柄が理解されていないと実感した。行政裁量に関する基本的な学習に問題があることが,このような設問によって逆に明らかになったように思われるが,これまでの行政法総論の学習,教育の在り方全体を見直す必要があるのではないかという気がした。

水を飲む犬と猫

 注意してご覧になった方はお気づきだと思うが、犬と猫では水の飲み方が全く違う。私の印象だが、犬は、ジャブジャブ音を立て、水しぶきを飛ばしながら水を飲むが、猫は、水面をチロチロとなめるように飲む。

 アメリカの大学の研究者が、猫の水の飲み方を超高速カメラで撮影し、その秘密を明らかにしたそうだ。

 報道によると、猫は丸めた舌先の裏側を飲み物の表面に軽く触れさせた後、素早く引き上げる。すると舌の裏側に張り付いた水が持ち上げられ、小さな水柱となる。猫は、この瞬間に口を閉じて飲んでいたのだそうだ。

 
 一方、犬は舌を飲み物の中に突き刺し、コップのように丸めて直接すくい上げるようにして飲んでいるとのことである。

 一度ナショナル・ジオグラフィックTVで犬の水飲みを高速度撮影した映像を見たことがあるが、そのときの私の記憶では、犬は、水に舌を突き刺し、舌を裏側に丸めるように水をすくい、口に運んでいた。私は、犬の舌は表側に丸まって水をすくって口に運ぶと勝手に思い込んでいたので、犬の舌が裏側に丸まって水をすくっているとは思いもよらなかった。

 いずれも、舌の裏側を上手に利用した飲み方であるが、こんな身近なことが、明らかになっていなかったことも、また驚きである。