時給3000円でも赤字になる理由

 国選事件が時給3000円なら、学生のバイトに比べればずいぶんいい収入ではないか、どうして赤字になるのだろうか、と不思議に思われる方もあるでしょう。

 しかし、時給3000円でも経営者弁護士には確実に赤字です。なぜなら、事務所経費がかかるからです。
 仮に事務所経費(家賃・リース代・光熱費・事務員さんの給与など)が、ひと月100万円だと仮定してみます(もちろんそれ以上の経費を負担している弁護士も沢山います)。事務所経費は弁護士が病気で仕事ができない場合であれ、交通事故で入院しているときであれ、発生します。事務員さんの生活もありますし、家賃をためて事務所を出て行けと家主に言われると困るので、借金してでも毎月それだけは必ず支払う必要があるお金です。

 そこで、一般的な給与所得者の方のように、土・日・祝日を休日にして、一日8時間労働だとすると、平成20年3月においては、祝日1日、土日10日なので、働ける日は20日間、お金を稼ぐために使える時間は、8×20=160時間になります(実際には、給与所得者の方も、弁護士も間違いなくもっともっと長時間働いていますが、わかりやすくするためこのように仮定して話を進めます)。
 すると、100万円の事務所経費を稼ぐためには、100万円÷160=6250円となるので、時給6250円で働かなければなりません。

 つまり、事務所経費がひと月100万円だとすると、時給6250円以上で働く必要があります。仮に時給6250円きっちりで働いても、事務所経費しか稼げません。自分の生活費としては1円も残らないのです。ですから、自分が食べていこうとすれば、どうしても時給6250円以上で働く必要があることになります。

 仮に、生活費を30万円(もちろん弁護士には住宅手当などありませんから、ここから自宅の家賃も出さなければなりません。)を使えるようにしようとすれば、税金・健康保険料・年金等も考えれば月額40万円は事務所経費以上に売り上げなければなりません。弁護士会費が約5万円くらいですし通勤定期の費用も考えると、最低でも月額150万円くらいは売り上げる必要が出てきます。この場合、150万円÷160=9375円は1時間に稼がなくてはならない計算になります。

 そこに時給3000円にしかならない国選事件がやってくると、1時間つきに6375円ずつ赤字が出ることになります。仮に国選事件で生活費すら儲けようと思わず、自分の懐に入るお金をゼロにして純粋にボランティアでやったとしても、1時間につき3250円が赤字になります。その赤字を解消するには他に事件を解決すべく働くしかありません。しかも国選事件は概ね報酬が決まっており、幾ら時間をかけても努力しても、その報酬はわずかしか上がりません。つまり、時間をかければかけるだけ国選事件の時給も下がりますし、時間をかければかけるだけ、より弁護士にとっての赤字幅が大きくなるのです。

 ですから、経営者弁護士になると国選事件をやらなく(やれなく)なっていくことは、決して不自然ではないことが、これでお分かりになるかと思います。国選事件でペイしようとするなら、とにかく時間をかけないように手を抜くしか方法がないはずです。
 もちろん、事務所経費を負担しない勤務弁護士(イソ弁)さんであれば、ペイするかもしれません。しかし、イソ弁の方が国選事件に時間を割くと、事務所でボスから処理を命じられる事件に費やすことのできる時間が削られ、結局事務所の事件を解決するためにどんどん残業することになっていきます。しかも、一生懸命に専門的知識を勉強して、資格を取り、しかも仕事の責任が非常に重いのに、通訳人の方の4分の1しか国選事件で評価されないのであれば、例えペイしても気が滅入るというものです。

 国選事件の担い手を増やしたいのであれば、国選事件の報酬を増額するほかありません。

 マスコミは、弁護士増員を言う前に、このように自らを犠牲にしてでも刑事弁護を維持している方達を、なぜ擁護しないのでしょうか。

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