ずいぶん昔にブログに書いた記憶があるのだが、次の簡単な問題を考えて頂きたい。
ある船に4万人が乗っていた。
今年1500人乗船し、500人が下船した。
船に乗っている人の数は増えただろうか、減っただろうか?
さらにその翌年、同じ船に1000人乗船し、500人が下船した。
船に乗っている人の数は増えただろうか、減っただろうか?
答えはいうまでもなく、今年も、その翌年も、その船に乗っている人の数は増えている。
こんな簡単な問題、馬鹿にするのもいい加減にしろ、と仰る方も多いだろう。
ところが、同じ問題を司法試験合格者として考えて見ると、この簡単な問題の答えを誤る人が続出するのだ。
よく司法試験合格者を減らせば、弁護士数(法曹人口)も減少してしまうから、合格者を減らすべきではないという議論を、マスコミや学者から聞いたことがある人も多いと思う。
しかし、その議論は完全な間違いだ。間違いと知って、敢えて上記のように主張しているのなら、誤導であってさらに罪深い。
つまり、長年司法試験合格者数は年間500人程度だった(少なくとも平成3年度あたりまで)。そのうち裁判官・検察官になる人を除き、弁護士に300人ほどがなっていたと仮定すると、平成3年に合格し平成5年頃に法曹になった人でも、まだ30年弱程度しか働いていないから、毎年弁護士をやめていく人の数は、おおよそ300人程度と考えることができる。
仮に今年の司法試験で1500人が合格し、1300人が弁護士になるとすると、弁護士数の増加は1300人。
今年1年で換算すると、1300人増加し、300人やめるから、年間1000人の弁護士の増加だ。
では、来年の司法試験合格者を1500人から1000人に減らすと弁護士数は減るのだろうか。
つまり、司法試験に1000人合格し、そのうち裁判官と検察官になる人を除き800人が弁護士になるとすると、弁護士数は減るのだろうかという問題だ。
前述したとおり、毎年弁護士をやめていく人の数はおおよそ300人程度と考えることができるから、来年1年で換算すると、800人の弁護士が増加し、300人やめる。
つまり、500人の弁護士が増加するということだ。
確かに、司法試験の合格者を500人未満にすれば、ほぼ弁護士数は横ばいから減少に転じるだろうが、現在1500人程度の司法試験合格者を1000人に減らしたところで、弁護士数は増え続けるのである。
ところが、弁護士業をやめる弁護士数を隠したまま、司法試験合格者を1000人に減らせば弁護士数が減ってしまうと主張されると、何となくそうかな~と思えてしまうところが、マスコミや学者の狡いところだ。
現在、日弁連で法曹人口検証本部が、法曹人口の検証を行っているが、その第6回全体会議取りまとめにおいて、某K副本部長が、上記と同じ誤導を含んだ所見を述べている。
ご紹介したいが、会員限りの資料なので公表ができないのが残念だ。
とはいえ、弁護士の方なら、アクセス可能な情報なので、一度確認された方が良いだろうと私は思う。
K副本部長が冒頭の簡単な問題を誤答するレベルの思考力しかないとは考えにくいから、おそらくK副本部長、そして日弁連執行部は、誤導をしてまで司法試験合格者の減少を阻止しようと考えているのだと思われる。
合格者増加により、弁護士資格の価値は相当下落している。今の現状を踏まえて、優秀な法曹志願者を増やそうとするなら、資格の価値を上げるほかないだろう。
優秀な人材を得るには、富か権力か、名誉(地位)を与えるくらいしかない。ヘッドハンティング等でも分かるように、優秀な人材を得るために、やりがいだけでは限界があり、相応のリターンが必要であるのは当然である。人は、自らの仕事で家族を養い、生活していかなければならないからだ。
日弁連執行部は、さらに弁護士資格の濫発に手を貸して資格の価値を下げ、何をしようと考えているのだろうか。
一つ考えられるとすれば、法科大学院制度の維持だ。法科大学院制度維持のために予備試験制度をさらに制限する提言までやりかねないだろう。
私に言わせれば、一度法科大学院制度導入に賛成してしまった日弁連執行部が、自らの過ちを認めることができずに、理念という名の竹槍を振りかざしたまま自爆に向かって暴走しているようなものである。
しかし、そもそも法科大学院制度は、優秀な法曹を輩出するための制度(手段)であって、目的ではない。極論すれば、優秀な法曹が輩出できるのであれば、法科大学院制度など不要なのだ。目的を達成できるなら、手段はどうだっていいのである。
現実には、司法試験合格率は圧倒的に予備試験組が法科大学院卒業生を上回っているし、大手法律事務所や、裁判所・検察庁でも、予備試験ルートの法曹が多く採用されている。そして、予備試験ルートの法曹に何らかの問題があるなどという話は聞いたことがないばかりか、年々予備試験ルート合格者を囲い込もうとする動きは強まっているように見える。
つまり、法科大学院やマスコミが「プロセスによる教育」などと、実態のない理念をいくら振り回そうが、実務では法科大学院教育なんてものに価値など置いていないのだ。大手法律事務所が、予備試験ルートの合格者を囲い込もうとしていることからも明らかなように、法科大学院など出ていなくても、しっかり勉強していれば法曹実務家として十分使いものになるのである。
前述したK副本部長の所見からすれば、日弁連の法曹人口検証本部が、日弁連執行部の意向により、法科大学院維持のために暴走する可能性は相当程度高いと私は見ている。
いったい何時になったら、日弁連は目が覚めるのだろうか。
いくら理念を振り回し、万歩譲って仮にその理念に何らかの意味があったとしても、弁護士業界を焼け野原にしてしまえば、意味などないではないか。