京大答練

 私が司法試験を受験していた頃に、京大の司法研究会というところが主催していた答案練習会があり、通称「京大答練(きょうだいとうれん)」と言われていました。

 教授や司法試験合格者が出題する論文試験問題を、解答する練習会で、模擬試験のようなものと考えて頂ければ良いかと思います。但し、単に答案を作成して採点してもらうだけではなく、合格者がチューターとなって答案の検討会をしてくれるというのが、最大のメリットでした。答案の検討会では添削だけでは理解しにくい答案作成のノウハウや、合格者の視点から見た自分の答案の欠点が指摘され、また他人の答案も見せてもらえるなど、とても役に立ったことを覚えています。

 現在では法律家への道は、法科大学院が主流となりつつありますので、今でも京大答練が残っているのかはちょっと分かりません。しかし、合格者に教えてもらい、自分が合格すればそのノウハウを頑張っている受験生に伝えるという、良き伝統のようなものが当時の京大答練にはありました。

 私も合格後、他の2名の合格者の方と半年ほど検討会のチューターをしましたが、そこの検討会で頑張っていた方は、途中で就職された方を除いて、全員が合格し、法律家になりました。

 先日最後に合格された方が、2回試験に合格されたので、少し京大答練のことを懐かしく思い出しました。

 私は京大答練の他、「ニワコでドン」という変わった名前の勉強会にも参加させて頂いていたのですが、そのお話は、また後日紹介させて頂きます。

60期司法修習生考試(2回試験) 71人不合格

 今朝の新聞に、司法修習生考試(2回試験)の結果が出ていました。不合格者71名で合格率95.2%ということでした。

 昨年の59期司法修習生がほぼ同数の修習生が受験をしながら107名の合格留保者が出たことと比較すると、よく頑張ったというべきかもしれません。しかし、きつい言い方をすれば、それだけ危機感を持って頑張っても、やはりこれだけ不合格になってしまうのかとも言えます。

 一発試験なので、体調の不良やその他の原因も関係しますから、2回試験の結果だけから即断することは避けなければなりませんが、やはり合格者を増加させた結果、上位陣はともかく、下位の者の質が低下したことの、一徴表だと見ることは可能でしょう。私自身も受験生時代、司法試験で1500番程度には結構早い時期に到達しましたが、そこから上位に上がるのが大変だった記憶があります。もしその頃に1500番くらいで合格していたら、何も分かっていないまま2回試験を受験していたかも知れず、まかり間違って弁護士になってしまっていたらどうなっていたかと少し怖さを感じます。

 昨年までの合格留保制度(不合格の科目だけ追試を受けられる制度)がなくなりましたので、不合格者の方は、次回の司法修習生考試を受験して全科目で合格しなければなりません。ただ、わずかに救いなのは次回の司法修習生考試が、新60期向けに11~12月頃開催されるので、丸々一年間浪人する必要がない点です。負担は大きいかも知れませんが、試験である以上、運が左右する面もあり、実力が発揮できなかった方としてはラッキーと言うべきでしょう。合格できなかった方は大変でしょうが、あと少しです。頑張って法律家への扉を開いて下さい。

2回試験お疲れ様でした。

 60期司法修習生の皆様、2回試験お疲れ様でした。 不安でしょうが、教わったとおりのことが大体できていれば、さほど心配することはないと思います。合格発表は郵送による方法になったとも聞いたのですが、ちょっと定かではありません。郵送だとプライバシーは保護されますが、万一の場合、友人から何の配慮もなく話しかけられてしまうことも考えられ、今までの方法とどちらがよいかは、分かりませんね。いずれにせよ、答案を提出した時点で修習生の出来ることは終わっています。過度に心配せず、残された期間を有意義に過ごされることを祈っております。

 なお、この間、新60期の修習生と話したところ、「2回試験の合格基準が上がる」とか「少なくとも数百人落とすことが決まっているようだ」などというデマが飛んでいると言うことですが、司法修習終了のための要件として位置づけられ、「実務法曹として、その職務の遂行に必要な能力を有しているかを問う」という司法修習生考試の性格からすれば、何人落とすかを先に決定しているはずもなく、おそらくは、合格基準を可能な限り下げない姿勢を司法修習生考試委員会が見せていそうだという程度の意味なのでしょう。

 ただ、2006年新司法試験の民事系論文問題において、債権譲渡の第3者対抗要件の問題と、債務者への対抗要件の問題を受験生の約3分の2が間違えていたそうです(法務省HP新司法試験考査委員へのヒアリング参照)。私の受験時代でしたら、そのような基本的知識に関する間違いを論文試験で書いた瞬間に、その年の合格はなくなっていたでしょう(いわゆる「さよなら答案」)。また、現在の2回試験でも、上記のような誤りを書けばその科目で落第点がつく可能性は大です。

 新60期を担当された研修所教官からも、実体法の理解が不足しているとの意見が多く寄せられていることから考えると、上位の方はともかく、相当数の新60期の修習生の方は、基本的知識を補充しながら修習生活を送っておられなければ、2回試験は大変だということになるかもしれません。今からでもまだ時間はありますので、不安な方、知識不足を指摘されたことのある方は、基礎的知識の再チェックをそろそろ始めておかれることをお勧めします。 実務においても知識の有無が勝負に直結する場合もあり、決してその勉強は無駄にはなりません。

60期司法修習生 2回試験

 以前このブログでも書きましたが、司法試験に合格後、司法修習を経て、最後に司法研修所を卒業して法曹資格を手にするための試練が2回試験(修習生考試)です。

 昨年度の59期でかなり大量の合格留保者が発生したため、現在試験を間近に控えている60期修習生の方々は、かなりの緊張感で勉強をされていることと思います。聞くところによると来週より60期の2回試験が行われるということですが、きちんと修習をされてきた方であれば、特に問題はないと思います。法曹としての最低限度を満たしているかを検査するだけで、合格レベルを特に上げるわけでもないようですから、あくまで一定レベルを示せばいいのであって、99点を取っても100点を取る人が多ければ落とされる競争試験ではありません。

 私の場合、クラス担当の検察教官の「どんなに低空でも良いからとにかく飛んでいろ。しがみつけ。落ちさえしなければいい。変に高く舞い上がろうとするな。どうせたいした力はないんだから。」という励まし(指導?)を信じ、変に高く舞い上がろうとしないよう心がけました。

 また、あとで聞いたのですが、基本的には復習を十分やっておけば足りるそうです。実務修習では修習内容にばらつきがあるので、不公平にならないよう、2回試験ではこれまで一度出した内容(若しくはその類題や組合わせ問題)から出すことが多いとのことでした。

 私のクラスでは、検察教官の教えの成果がでたのか、幸い合格留保者が0で、打ち上げも非常に楽しい ものになりました。

 60期の皆さんのご健闘を祈ります。

第34回司法試験委員会会議議事要旨掲載場所

 私が、7月20日にブログにアップした、法科大学院卒の司法修習生に関する印象を記載した、法務省HPの記事の場所が分かりにくいという話を聞きましたので、ご紹介しておきます。

 法務省HP→審議会情報→司法試験委員会(かなり下の方にあります。)→司法試験委員会会議→第34回会議→関係者に対するヒアリング、です。

 なお、先日のブログでは「的を得る」と記載しました(正しくは的を射る)が、これは関係者に関するヒアリングに記載されたとおりに引用しただけですので、念のため。

 他にも、新司法試験委員に対するヒアリングなども過去の議事録には残されており、司法試験委員がどのような答案を求めているかについても触れている部分があります。なかなか面白いので、受験生は一読されてもよろしいかと思います。

司法試験論文式試験受験者の方へ

 とにかくお疲れ様でした。よく頑張られましたね。私も論文試験を何度も受験して、不眠症や円形脱毛症になったりもしましたので、その精神的・肉体的な苦しさは分かるつもりです。

 まずは、試験で疲れた心身をいたわって上げて下さい。論文式試験は想像以上に体力と精神力を使います。栄養のあるものを食べて、睡眠を十分にとって、たまっている疲労をとるよう心がけて下さい。

 予備校の模範解答も出回っていることと思いますが、必ずしもその解答が正しいとは限りません。模範解答を見てしまっても、自信を失わない方だけごらんになればいいと思います。もう、合否は試験委員に委ねられているのですから、論文試験の失敗した点を悔やむ必要はありません(失敗の分析と反省は必要です。悔やむだけなら意味がないということです。)。

 一息ついたら、口述試験の準備を必ず行って下さい。そのまま夏休みモードに入ってしまうと、せっかく司法試験向けに研ぎ澄まされたあなたの頭脳を、鈍らせてしまいます。1人ではなかなか気が乗らないことが多いでしょうから、友達と何人かで口述ゼミを組んで、口述問題を試験形式で行うのも非常に有効です(私もやりました)。

 口述試験が3科目になってから、商法・会社法の細かい知識は口述試験では不要になりましたが、その分、1科目のウエイトが重くなっています。1科目の失敗でも大変な違いになってしまいます。そうだとすれば、口述試験対策を怠るわけにはいかないはずです。よく合格体験記で、口述対策はしていなかったなどと書かれる方がいますが、それはたまたま運良く口述プロパーの問題が出なかっただけに過ぎません。

 また、法律家にとって知識は、非常に大切です。すでに弁護士過剰状態に陥り始めていますから、知識はあるだけ有利になります。研修所での2回試験においても知識不足は致命傷になりかねません。「研修所に入ってから身につければいいや。」と思っていると、思いの外、修習生活が忙しくて、そのような余裕を持てずに2回試験に臨まなければならなくなります。

 辛いかもしれませんが、もう一頑張りです。論文試験を受験された全ての方に合格可能性があることを忘れないで下さい。

旧司法試験 論文式試験受験生の方へ

 暑い日が続きますが、頑張っておられることと思います。

 論文試験が迫ってきましたが、調子はどうですか?

 論文試験はこれまでも言ってきたとおりです。
 自分を必要以上に飾り立てると自滅します。
 自分の実力で問題文を必死で分析し、その実力を試験官に対してわかりやすく示してくればよいのです。

 まず問題文を読み違えないように、落ち着いて良く読むことです。
 簡単そうに見えても問題文を読み違えないで読むことは意外に大変です。しかし、読み間違いのないように意識して読めば大丈夫です。

 次に何を聞いているのか、何をどう答えなくてはならないのかをはっきりとさせて下さい。
 例えば「いかなる主張ができるか」という問であれば、「~という主張ができる」というのが答となるでしょう。「○と△を比較して論ぜよ」と言う問であれば必ず比較して論じている部分がなくてはなりません。

 それから、結論、おそらく皆さんのリーガルマインドからすれば妥当な結論は分かると思いますので、その結論を導くに至った思考過程を表す方法を考えます(答案構成ですね)。

 出発はあくまで条文です。特に憲法で忘れがちなので注意して下さい。

 どの条文のどの文言がどういう形で問題になり、その条文(文言)をどのような理由でどう解釈していくのか、そして、その解釈した結果に事例を当てはめればどのような結果になるのか、順を追ってていねいに説明してやることです。

 論文試験の解答は、論文という以上、論理的な文章である必要があります。つまり、最初のひと文字から最後の句読点に至るまで論理的に繋がっていなくてはなりませんし、書く必然性があるから書いたものでなくてはなりません。書く必然性がないものを書けばそれだけで論理性に疑いをもたれる危険があります。
答案の価値は基礎的な知識を正確に論理的に表現しているか否かで判断されるものであって、決して書いた量で計り得るものではありません。
 隣の受験生がたくさん書いていたとしても、気にしないことです。むしろかわいそうにと思ってあげても良いくらいでしょう。  

 ただ、あくまで書面審査ですので、読みやすく、接続詞まで配慮して書いてやることです。何百枚もの答案を夏の暑い盛りに読む試験委員のことを考えれば、接続詞で上手に繋がっていればそれだけでも印象はよいはずです。この点に注意するだけでも随分違うと思います。

 試験中には必ず、逃げたくなるときがあります。
 前提論点で少数説で逃げればよく知らない論点を書かずに済む場合などです。
 この場合結論的にいえば、逃げずに何とか妥当な結論を導こうと苦慮していることを示した方が、私の経験上では高評価だったように思います。

 また、終わった科目で致命的な失敗に気付くこともあります。しかし結果は発表まで分かりません。特に合格者のレベルが大幅に低下している昨今、致命的なミスの一つ・二つくらいは誰でもやっていることと思われます。

 以前から言ってきたと思いますが、問題に逃げずに正面からぶつかって真剣に考え、その過程を素直に自分を飾らずに表現してくれば良いと思います。

 自分の真の姿を偽っても、結局自分以上にはなれません。他人がどうであれ、素直に自分の精一杯の力を見てもらってきて下さい。そのためには、最後の最後まで問題に食らいついて諦めずに戦うことです。

 それができれば上出来だと思います。

 論文試験前の私の励ましは、これが最後になります。読んで下さった皆さんの健闘をお祈りしております。

頑張れ論文受験生

 司法試験の論文式試験まであと、10日ほどになりました。

 最後の論文式試験の模試も今週末くらいに実施されると思います。

 みなさんは、これまで一生懸命に頑張ってこられたものと思います。これからは、体調管理に十分気を配ることです。睡眠を十分とって試験時間に頭が働くように生活のリズムを作って下さい。夜寝る直前に頭をあまり使いすぎると、私の経験上、頭が冴えて眠れなくなることがありますので、ご注意下さい。試験直前に眠れなくても、ベッドに横になって目をつむり休息するだけで、疲れはとれていきます。

 ひとりひとり、背負っているものは違いますが、試験の条件は皆同じです。実力以上を出す必要もありませんし、出せることはまずありません。みなさんの持っている力を発揮できれば、それでいいのです。そう考えれば、試験を心配する気持ちも少しは楽になると思います。

 そして万一、眠れなくても気にしないことです。眠れるにこしたことはありませんが、眠れなくても試験にはそんなに影響しないものです。

 但し何度も言いますが、体調だけには十分気を配って下さい。寝苦しい夜が続く時期ですので寝冷えなどなさらぬよう。

答案練習会の添削

答案練習会の添削

 
 先だって、知人から刑事訴訟法の答案練習会で「おとり捜査」が出題されたのだけれど、強制捜査と任意捜査の区別を書くよう添削され、かなり減点されたことがあるという話を聞きました。
 
 皆さんご存じのとおり、現在「おとり捜査」は任意捜査としてほぼ争いはありません。有斐閣新書「注釈刑事訴訟法」では任意捜査の限界問題として扱い、有斐閣「刑事訴訟法(田宮裕)」では任意捜査の規制の項目で扱われています。また、司法修習生必携といわれる青林書院「新実例刑訴Ⅰ」においては、堂々と「刑事訴訟法上、おとり捜査は任意捜査と認められるが・・・・」と記載されています。
 ところが、かつての予備校本の中には、 おとり捜査は任意捜査か強制捜査かという論点を記載したものがあったらしく、その本で勉強して合格した方が基本書等で確認することなく、「おとり捜査」の問題→「任意捜査か強制捜査の論点を書く」と覚えてしまっていたのでしょう。おそらくその方は運良く刑事訴訟法で「おとり捜査」の出題がなかったので合格できたのでしょうが、もし出題されていれば、書く必要のない部分を書いてしまった答案ということになり、やばかったはずです。

 このように、合格者といえども必ずしも全ての科目について全ての論点を正確に理解しているとは限りません。
 また、論文試験直前の答案練習会においては、採点者の確保が大変らしく、採点者1人1人の負担が大きいという噂も聞いております。したがって、必然的に添削にかける時間もそう多くはとれないことになるでしょう。私の経験ですが、ひどい添削者にあたると、ろくに添削をせず答案に大きな○を数個うっておいて、「大体良いでしょう、25点」とだけ書かれていたということもあります。

 このような採点者の状況下で、添削を受けているのだということを受験生の方々は理解され、添削を鵜呑みにされず、おかしいと思えば必ず確認することをお勧めします。また、点数は相当いい加減に付けられますので、ほとんど参考にする必要はないでしょう。
 ただ、形式面に関する添削や、論理がつながっていない、記載されている意味が不明確であるという指摘があった場合は十分注意して下さい。あなたの頭の中では論理がつながっていても、文章として表現できていない可能性が高いからです。添削者に論理的な道筋が理解できない論文式答案を、一流の法律家・学識者である司法試験委員に対して、一読で理解してもらおうとしても、無理な話です。十分検討して、あなたの思考を論理的に文章で表現する手法を考える必要があると思います。

 前回も言いましたが、合格してみれば、こんなレベルで良かったのか、と感じるはずです。
司法試験の合格レベルはエベレストレベルではありません。富士山レベルです。遊んでいては登れませんし、確かにしんどいですが、登山道をはずれずに歩けば、普通の体力の方でも十分登れます。但し、登山道を登らずに自己流で突っ走ると樹海をさまよいかねません。常に自分が登山道をはずれていないか、チェックしながら登って下さい。自分でチェックしにくい場合は他人に見てもらうのが一番です。最近のガイド(添削者・合格者)は大量合格のため、さほど実力がない方が混じっている場合もありうるので、間違って樹海に連れて行かれる危険がないとも言えませんが、地図(基本書)で確認すれば、大怪我は避けられます。

 直前答案練習会の復習をされる場合には、具体的でない添削者のコメントや点数は基本的に気にせずに、しかし、論理の飛躍の指摘や、表現に関する指摘があった場合は十分注意してなされることをお勧めします。

論文式試験の心構え

 前回のブログで、論文式試験で司法試験考査委員が何を見ているかについて、簡単に説明いたしました。

 しかし、私の経験から言うと、実力者であっても 論文式試験で必ず合格できるとは限りません。身につけた実力が素直に発揮できるとは限らないからです。

 そこで、今回は、論文式試験に臨む心構えについて、私の体験から得たものを説明したいと思います。

 私の、結構な回数の受験歴から考えれば、論文式試験に臨む心構えとしては、①自分を飾らない、②絶対に逃げない、③試験委員を思いやる、この3点に尽きるのではないかと思います。

 ①自分を飾らないということですが、論文式試験では何とかして、試験委員に自分の実力を評価してもらいたいあまり、背伸びして自分の実力はもっと上なのだと表現したくなることが多いと思います。しかし、どんなに知識を披瀝して自分を飾ってみても、本当の自分の実力が上がるわけではありません。それどころか多数の答案を見る試験委員からすれば、これは分かったふりをしているなと簡単に見透かされることがほとんどでしょう。そうであれば、無理に自分を飾らず、本当の自分の実力を素直に見てもらおうと考えて試験に臨んだ方が、より素直に実力を発揮でき、また、不要な論点まで書いて墓穴を掘る最悪な事態を避けうる場合が多いと思われます。仮に自分の実力を偽装して合格しても、研修所の2回試験に合格できなくなるかもしれませんし、そこをすり抜けても将来弁護過誤で大きな問題を起こしてしまうかもしれません。そうであれば、なおさら、素直に実力を見てもらった方が良いと思うのです。

 ②の絶対に逃げないということですが、これは、論文式試験の問いに答える上で、決して逃げないということです。どんな受験生でも完璧に勉強を完了している受験生などいません。誰もが弱点を持ち、知らない論点を持っているものです。ですから、論文式試験の12問のうち、誰しも必ず、何問かについては、「しまった、やっておかなかった」「もう少し復習しておけば」等という問題に直面します。その際に、よく知らない少数説なら簡単に書けたような気がするので少数説に乗り換えようとか、この論点を知らんふりして通り過ぎれば良いのではないか、という誘惑にかられることもあります。しかし、そこで逃げるべきではないと思います。少数説で簡単に書けるとしても、今まで自分がとってきた説で堂々と不都合を手当てしながら主張すれば足ると思いますし、答案に迫力が出ると思います。また、知らんふりして逃げるのは、そもそも問題点すら把握できないのかと思われる危険があります。幸い、受験生には条文という最強の味方がいます。法律問題の出発点は条文ですから、その条文を使って、必死に戦うべきだと思います。

 ①・②の結果、「この問題について、私なりに妥当な結論を導こうと全力で考えた結果、このような答案になりました。今の私はこれ以上でも、これ以下でもありません。この私の答案で不合格であるというのであれば、私の実力不足なので仕方がありません。しかし、私は法曹になりたいという強い意志を持っており、合格させて頂いた後は更に精進して立派な法曹になります。決してご期待を裏切ることはありません。」というような心境で受験できれば、かなり実力を素直に出せるのではないかと思います。

 ③の試験委員を思いやるということですが、言い換えれば、できるだけ読みやすくわかりやすい答案を書くことです。真夏の暑い盛りにたくさんの答案を読まされる(読みたくて読むわけではなく、読まされるという心境だそうです)試験委員の苦労を考えると、受験生としては一読即解の答案を当然目指すことになります。文字の上手下手は仕方がありませんが、下手でも読みやすい字を書くように心がけることです。また、細字のペンを使うか太字のペンを使うかで読みやすさが異なりますから、他の人に読んでもらって、読みやすいペンの字を使うべきです。

 上記のことはあくまで私の経験から出たもので、全ての方に妥当するとは限りませんが、何らかの参考になればと考えております。