日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その11

(続き)

5月22日

 午前11時30分に、空港までの送迎お迎えが来るとGさんから聞いていたので、その15分前にロビーに集合しましょうという話になる。Y弁護士とは9時には朝食に一緒にいこうと話しており、9時に部屋まで呼びに来てくれることになっていた。なんと、Y弁護士の部屋にはバスタブがあったそうだ。これは、ホテルの部屋のくじ引きで、Y弁護士が1等、S弁護士が2等を引き当てたのかもしれない。

 朝になり、カーテンを開けて青島市街を一望しようとしたところ、スモッグか雲かわからないが、真っ白で視界が効かない。昨日は、視界の端の方に見えていた海も今日は見えない。一面真っ白の世界だ。

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(朝の部屋~真っ白でまるで外が見えない)

 朝食は、ビュッフェ形式。初めて洋食系の料理がある朝食となる。生野菜と目玉焼きと野菜炒め、ベーコン、春巻きなどを食べる。結構おいしくて何度かお代わりしてしまう。嬉しいことに、コーヒーやジュースがおいてあった。やはり朝はコーヒーが飲みたいものだ。

 あとからビュッフェにやって来たGさんにお礼を言ってしばらくお話しをする。X教授のご指摘どおり自ら認める面食いらしい。美人系がすきなのだそうだ。自動車も好きでシボレーがいいと言っている。

 部屋に戻る際に、エレベーターのところで、Y弁護士が、Gさんに、杜甫の春望(国破れて山河あり・・・)は日本でも有名だ、と話しかけているが、Gさんは原文がわからないので、ちょっとわからないと返していた。日本人のイメージする中国・中国国民と現実のそれとは、当然ギャップがある。もちろん逆もそうだろう。こういうことは実際に中国の方とお話ししないと分からないものだ。

 部屋に戻って荷造りをする。行きの飛行機に乗った際、エコノミー席でも足下が少し広い席を見つけておいたので、アイパッドミニを経由したオンラインチェックインで、その席の窓側を押さえる。そういえば、電気のスイッチが壁の穴と少しずれている部分があるなど、微妙に杜撰な設備もあったが、ホテルのwi-fiは、しっかり使えた。

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(微妙にずれたスイッチ群。)

 荷造りを終えて、少し時間があるので部屋で、ぼーっとする。未だに、霧は晴れず視界が効かないが、寝やすいベッドだったので、もっとゆっくりできたらよかったのにと思ってしまう。

 11時15分ジャストにロビーに到着。すでにY弁護士とX教授がいる。
 珍しくGさんが遅れてきた。

 チェックアウトして、有力弁護士さんのイソ弁さんがレンジローバーで待っているところへ荷物を運ぶ。イソ弁さんが、昨日の大トラさんからのお土産だと言って大きな貝殻を2種類ずつ持ってきたくれた。

 2種類の貝殻を一つずつ各自が頂くが、本当に持ち帰って大丈夫な貝殻なのか、よく分からんけど、ワシントン条約かなんかで引っかかるのではないか、と3人とも結構心配になる。しかも、リュックに入れてみると結構でかいため、貝殻の尖った部分がリュックの生地を突き破って出てくるではないか。

 「怪しいものでも持っていませんか?」と関空で税関に聞かれて、満面の笑顔で「いいえ」と答えても、リュックの生地を突き破って出ている象牙色の突起を税関職員に見られたら、「ちょっとあちらでお話ししましょうね~」と別室に連れ去られるような予感がする。う~んホンマに大丈夫なんやろうか。。。

 敢えて、「相手も弁護士だからそれくらいは考えてくれてるんじゃないですかね~」、と独り言っぽく希望的観測をいってみたところ、X教授とY弁護士から、そろって、「それはない!」と瞬殺されてしまった。・・・やはりね。大トラさんでしたものね、そうですよね・・・。

 空港に向かう車内の中でGさんの電話が鳴り、Gさんが何かしゃべっている。なんと、昨日の大トラさんが空港近くのお店に、出来立ての青島ビールを運ばせることができるので、そこでお昼と一緒に食べないかと誘っているとのこと。

 S弁護士は中華料理は結構好きだし、特にランチに必須と思われるチャーハンなんぞ血糖値に悪いことは分かっていても大好きである。しかし、今回は、フライトまで時間があまりない。

 なにより、トラが出てくるのは夜だけとは限らない。昼間に大トラに襲われたら、それこそ今日中に日本には帰れまい。

 そこはX教授が、「また今度お願いしますと伝えておいて」、と即座にGさんに賢明な指令を出し、お断りする。まさに「虎口を脱する」とはこのことか。

 そういえば大トラはX教授のことを昨日、兄貴と呼んでいたりしたから、かなり気に入られていたのではないだろうか。X教授によると、中国人は友人となったらとにかく歓待してくれるのだそうだ。半分冗談かもしれないが、「日中戦争になっても、あの弁護士さんに助けてくれと言えばきっと助けてくれますよ。」とまで言っている。

 確かに、その話が冗談ではないように思えるほど、私達は献身的な歓待を受けていたように思う。徹底した反日教育がなされ、中国国民はみんな感化されているかのようイメージを日本のマスコミは報道しているが、一体どうなっているんだろうか。

 青島空港の入り口で、Gさんに御礼をいってお別れし、その後は、出国手続きを行うまで自由行動となった。本当にGさんが何もかもお膳立てしてくれたから、楽しく中国を満喫できたのであり、単独の旅行であればとても、こんなにお気楽に過ごせることはなかっただろう。感謝の極みである。

 チンタオ空港でS弁護士は、中国のナショナルジオグラフィックのような雑誌と、中国の自然景観100選だと思われる本を買った。ファストフードに造詣の深いY弁護士は、中国のマクドナルドで、チキンのバーガーを買って実地検証していたようだった。う~んでも、世界のどこでも同じ味を提供するのがマクドナルドじゃなかったっけかな~。

 出国手続きも、入国のときと同じく人民軍のような制服を着た係官がいて、無表情でパスポートをチェックしている。昨日の宴会のときに粗相をしなかったこともあって、幸いにもパスポートに「恥」という漢字は押されていなかった。

 搭乗までの間に、免税店で事務員さんには小さな香水のセット、喫煙者のイソ弁君にはタバコ。父親には烏龍茶、母親には美人の店員さんに翻弄されつつスカーフを買った。X教授が昨日、味付のピーナッツを買っていたことに影響されて、豆のお菓子も買ってみたが、これは帰国後に開けて見ると、ものすごい上げ底仕様で、やられた感が半端ない商品だった。

 上げ底という手段は、昔の日本のお土産でも良くあった手口だが、勝った方の「がっかり度」は、かなりでかい。もう二度と買わねえぞ!と固く決意してしまうくらいだから、長い目で見ると、きっと損なのだろうと、あとで思った。

 記憶がはっきりしないのだが、搭乗前にX教授は、パスタ入りミートソース?を食べたといっていた。なんでもパスタとミートソースの比率が通常の逆だったそうだ。それならそれで食べてみたかったという気もするが、聞いたのが搭乗直前であり断念。

 搭乗してみると機体は、行きと同じくボーイング737型。座席は狙いどおり足下が少し広いエコノミーで一番前の席の窓側。幸いにも3人掛けの真ん中には誰も乗ってこない様子だ。
 

 機内では、専らポメラを使って今回の旅日記を書いていた。通路側の席に座っていたのは、ツアコンと思われる青年で、たくさんの入国用書類を1人で黙々と仕上げていた。ときどきちらっとこっちを見るのが気になったが、飛行機が着陸態勢に入り、S弁護士がポメラを仕舞おうとしたところ、「ソレハナンデスカ?」と興味津々で聞いてきた。なんだ、ポメラが気になっていたのか。

 ポメラはデジタルメモ専用機で、パソコンとつながる機能はないこと、しかし即起動、即メモが可能であること、乾電池電源で場所を選ばないこと、SDカードに記録すればパソコンなどにデータは移せることなどを説明する。「中国語ノハ、ナイノデショウカ?」と聞かれるが、あいにく知らないが、電気量販店で聞いてみたらどうだろうと返事をしておく。

 ちなみに、S弁護士が愛用するポメラは、5年ほど前に安くなっていたところをアマゾンで6,200円で買った、ガンダムコラボシリーズのランバラル仕様(限定品)である。元値が3万円程度と書いてあった上に、今でも15,000円位の値段のようだから、ほぼ底値で買えたという点でも嬉しい一品であった。

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(帰路の軌跡)

 関空に着陸後、モノレールに乗り、入国審査場の方まで到着するが、X教授とY弁護士がやってこない。仕方がないので、入国審査場の前で待っていると、3分ほどしてX教授とY弁護士がやってくるようだ。X教授が「Sさんはねぇ~・・・」とY弁護士に話しているのが聞こえる。

 X教授に「また、僕の悪口でも言っていたんでしょ・・・?」と鎌をかけると、「いやいや、Sさんプレミアムエコノミーに乗ったようだよ、お金持ちだね~と話していたんです、、、」とのこと。
 確かに、よそから見れば足下が少し広いあの席は、エコノミーの中でもラッキーな席に見えたのかもしれない。

 「でも、その認識、間違ってます。第一、私がお金持ちだという点が大きく間違ってますし。それよりなにより、この便にプレミアムエコノミーの設定がないですし・・・・。」とソクラテスの弁明よろしく説明するも、X教授は、笑顔で「まあ、いいじゃないですか」でまとめてしまった。確かに、まあいいことなんだけど、Y弁護士が変な誤解していないかだけが、ちょっと心配だ。

 荷物をターンテーブルから受け取って、ここで解散しましょうということになる。X教授とY弁護士に御礼をいって、税関に向かう。貝殻の突起は無理矢理ビニールを噛ませて、リュックの生地から出ないように細工しておいたが、いつその細工も破れるか分かったモンじゃない。若干ひやひやしながらの税関検査になったが、あっさり、「どうぞ」で終わってしまった。考えて見れば象牙でもないし、生きた貝でもないから、そこまで神経質になる必要もなかったかもしれない。

 関空構内で、多分しばらく使うことがないだろう人民元を日本円に両替する。ところが100元札が一枚だけどうしても機械を通らない。両替屋さんから、偽札とは断言できないけど、本物と確認できないからうちでは両替できないといわれてしまった。さすが中国、最後まで何があるのか分からないところだった。

 それでも、人々のパワーはものすごく感じられる国だった。人々の潜在的パワーだけで考えると、多分日本は、いろいろな面で適わないようにも感じた。
 Gさん、X教授のおかげで、とても歓待して頂いたこともあるが、今までの中国の人に対して抱いていたイメージが、かなり変わった。

 やはり、勝手に想像しているだけではなく、実際に会ってみることは大事だと強く感じた、貴重な体験であった。

 改めて、このような貴重な機会を与えて下さった、X教授と、Gさんに感謝したいと思います。
 本当に有り難うございました。

(このシリーズはこれで終了です。)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その10

(続き)

 立派なホテル?のような宴会場につれて行かれる。駐車場の両脇も外車だ。

 格差社会だな~中国も。あとで聞くと、国賓等が来た際にも使われる場所だそうだ。そんなところに、着替えもせず汗くさい格好で乗り込むのは、かなり気まずいが、ここまで来たら仕方がない。そもそもこちらから宴会をして欲しいって頼んだ訳じゃないし。

 ところがホスト弁護士がおおトラ!だった。

 青島ビールの出来立てを、製造工場から直接持ってこさせるなど、実力者らしいが、飲めば飲むほど虎度がます。大学の理事でもあるそうだ。

 青島市は海沿いなので、海鮮の中華が勢揃い。それと共にチンタオビールも林立している。ああ、お酒がなくてゆっくり食べられるのなら良いのになあ~。と子供のようなことを考えつつ席に着く。

 有名な青島ビールはキンキンに冷えているわけじゃない。確かに冷たいがぬるい感じの冷たさだ。結局勧められて断れず、ビールを呑まされて、速攻頭痛に悩まされながらもこっちも、もうやけくそだ。

 盛り上がりたいんならやってやろうじゃないの。原潜見学でもらった帽子をかぶって敬礼したり、肩組んで写真撮ったり、やるだけやってやった。

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(チンタオの有力弁護士さんと~1)

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(チンタオの有力弁護士さんと~2)

 さらに大トラは乾杯を繰り返すことにより、トラ度がパワーアップして、結構絡んできた。中国語はよく分からんが、充血しかかった眼でこちらを見つめながら何かを言っている。もちろん意味など分からない。

 「わかった、わかった、○○先生最高!」といって、肩をバンバン叩くと相手も、にやっと笑って、グラスを差し出す。

 相手はお酒、こっちは強炭酸のミネラルウォーターで乾杯する。アルコールの影響による頭痛に悩まされながら、もうどうだって良いんだ。仲良くできたらきっとそれで良いんだ。世界は一つ、人類はみな兄弟なんだ。一日一善だ。もうどうにでもしてやってくれ~。

 しかし、そのうち大トラが近寄ってきて、太ももをスリスリと撫でられたときには、さすがに身の危険を感じた。やばい、目が座ってる。ほんまもんのトラになっとる。通訳してくれるGさんも他の弁護士と乾杯してるし、X教授も何かを食べていて、こっちに気付かない。舌なめずりするトラの前に放置されたヒヨコ状態だ。

 なんとかしてこのピンチを抜け出すには・・・。どうすればいい?

 ここは、あれだ、X教授から教わった最終手段を使うしかない。
 「ツ、ツァーサ、サイナア~リ」

 そういって、そそくさと席を立とうとすると、袖を引っ張られ、椅子にどんと座らされた。

 ??

 何が起こったのか分からないS弁護士に対して、身振りで、ここでやればいいと、大トラ。

 トイレという生理現象を尊重するのは万国共通。厳粛な裁判の尋問中だって、お腹が痛いからトイレに行きたい言えば、休憩を入れてくれたりするなど尊重してくれるもんだ。つまり最強の必殺技のはずだった。

 その最強の必殺技のはずが、それが通じない・・・。マジか!

 スペシウム光線をゼットンに跳ね返されたウルトラマンのように、倒れるしかないのか・・・。ゼットンを倒してくれる科特隊もここにはいない。孤立無援状態なのだ。

 もちろん国賓が来るところでそんなコトしちゃったら、国際問題だ。「やらかしました」では、たぶん済まない。運良く拘束されなくても、パスポートの表紙から裏表紙まで全頁にわたって「恥」というスタンプを押されるかもしれん。「日本の弁護士、中国で大失態!」などとワイドショーや週刊誌で報道されたら、懲戒されるかもしれん。

 やはり、ここは譲れない。

 勇気をふるって今度は毅然と「ツァーサ・サイナーリ!」といったら、聞きつけた隣の若い弁護士さんが連れ出してくれ、なんとかピンチは脱した。多分ゆっくりトイレを済まして戻れば、もう忘れているはずだ。

 しばらくして落ち着いたので戻ったら、大トラは、こっちのことは忘れていてくれたようだが、さらにパワーアップして絶好調。X教授にあなたを兄貴と呼ぶとかなんとか言ってからんでいる。しまいにはX教授の手をとって接吻をしたりしはじめた。

 しかしX教授の肝臓は凄い。あまた襲いかかる乾杯の嵐を平然と受け止め、底なしに飲んでいく。X教授がいてくれて宴会の場は本当に助かった。

 ようやく締めの時間になったようで、大トラとX教授が挨拶をする。しかし、それが終わると、大トラさんの記憶が瞬時に消去されるのか、再度また乾杯やらなんやら言い出して飲み始めて振り出しに戻る。リピート再生のように宴会が終わらない。

 何度目かの挨拶のあと、やっとこさ、宴会の終了となった。

 ホテルに帰ろうとしても,駐車場で大トラは、こっちの車に乗るんだと言って聞かず、かなり苦労した。

 開いている車の窓に取りすがって、X教授に向かって「あなたを兄貴と呼ぶ。兄貴ったら兄貴なんだよう!(S弁護士の推測による意訳)」と叫び続ける大トラさん。一瞬の隙をついてパワーウインドウでシャットアウトし、ようやく大トラを引きはがし、ホテルに向かって車が出発できたときには、かなり安堵の気持ちで一杯だった。

 帰りの車で、Y弁護士と凄いトラがいたもんだと話していたら、隣からX教授が「あいつは大したことがない。ただの酒が弱いだけの奴ですよ~」、と仰る。「そうですね~」、と答えると、「いやいや、本当にあいつは大したことがない。ただの酒が弱いだけです・・・」と、今度はX教授がリピート再生。

アイアンレバーを有するX教授も、酒精の影響は避けられないご様子だった。

 さらに、X教授はホテルの直前でGさんに「カラオケにいきましょう。おねーちゃんのいるカラオケがいい」、と言いだした。Y弁護士もカラオケならいいですと言っていたがおねーちゃんが来ると聞いて断固拒否。

 それでも、「いやいや中国のカラオケにはおねーちゃんはつきものなんです。だからそれが普通なんです。だから普通のカラオケなんです。普通のカラオケに行こうといっているだけなんです・・・」等とX教授。一見、見事な三段論法?で説得的だが、スタート時点でオネーチャンのいるカラオケの方が良いと言ってしまったことで、「普通のカラオケ=オネーチャンのいるカラオケ」という前提が成り立ちにくい。やはり酒精の影響か前提からして微妙に違っているような気がしないでもない。

 本当に中国のカラオケはおねーちゃんとセットなのが普通かどうかはよく知らないが、アルコールが体内でエネルギーに変換されるX教授と違って、飲めないお酒を飲んだせいで頭痛がしているS弁護士では、残念ながら中国カラオケの真髄を確かめに行くには、X教授のような体力が既に残っていない。

 さすがにX教授も大人なので、最後は折れてくれ、ホテルの部屋に戻れましたが、X教授のパワーには脱帽です。

 子虎がここにおりましたか・・・。(スミマセン!)

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その9

(続き)

 ホテルから地元有力弁護士のいそ弁さんが運転するレンジローバーで、迎賓館見学。その後、かつての総督府?のようなところや検察庁を外から見学。

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(迎賓館)

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(青島市市南区人民検察院)

 郵便博物館ではY弁護士が封筒を100元で買っていた。わざわざ博物館の人を呼んでショーケースの中の物と同じものを所望している様子。もちろん消印が押されて、使えもしない切手と封筒なんだけれど。

 X教授とS弁護士はその価値が理解できなかった。Y弁護士によれば「貼ってあるパンダとコアラの切手のデザインが可愛くて、お母さんへのおみやげにいい」、とのことで、少しだけは納得ができた。

 それから海沿いの道へ案内されたが、ミニストップでX教授が味付けピーナッツ、Y弁護士が10元のスイーツを買う。Y弁護士はかなりご満悦のご様子。ただ、かなり歩いているので、だんだん疲れてきてはいる。

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(海沿いの道から)

 その次は、監獄博物館、司法資料館を見学。X教授がかつて中国で、731部隊の博物館で怪しげな展示を見せられた上に、反省の気分に陥りそうになっているところに、その気分に乗じて偽物を売りつけられそうになった際のお話を聞く。あまり話さないけれど、X教授には秘められた武勇伝は結構ありそうだ。

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(監獄博物館)

 気温はそう高くないようだけど、日向を歩くとかなり暑い。湿度がそう高くないのか日陰は涼しいが、歩き続けていると疲れとともに暑さがこたえてくる。

 海沿いを歩いていると、原潜が係留されているとのこと。しかも、海軍博物館にいけば、その原潜に乗れるのだそうだ。

 何を隠そう、S弁護士は潜水艦が好きである。古くはヴェルヌの小説「海底2万里」、小さい頃に父親と見た映画「眼下の敵」では、ドイツ軍Uボートとアメリカ駆逐艦の死闘に胸を躍らせ、トム・クランシーの「レッドオクトーバーを追え」、福井晴敏の「終戦のローレライ」などの潜水艦小説を読み、かわぐちかいじの漫画「沈黙の艦隊」を全巻大人買いした経歴からすれば、原潜に乗れるなんてテンション上がることこの上ない。「うわー、いいなあ」といっていたら、Gさんが聞いてくれていたらしく、そこに連れて行ってくれる様子。途中で、車を呼んでくれる。

 海軍博物館の入り口は以外に遠く、乗せてもらって大正解だった。海軍博物館のくせに、飛行機・戦車も野外展示されていて、人民軍博物館という方が正確だろうと思う。T34中戦車が3台展示されていた。

 小学生の頃、お小遣いを少しずつ貯めて、タミヤ模型の戦車プラモデル(1/35でリモコン操作のできるやつ)を、幾つか作った経験のあるS弁護士としては、たまらない。本当はドイツ軍のティーガーⅠ重戦車が大好きなのだが、それと互角に渡り合ったT34中戦車(ソ連製)だと思うと、感慨ひとしお。年がいもなく、砲塔によじ登って写真を撮ってもらう。

 軍艦の係留展示は、駆逐艦など4隻。そのうち2隻と原潜には乗れるが、原潜に乗るには別に100元が必要とのこと。Y弁護士のようにパンダとコアラの切手を貼った封筒に100元払う価値はわからないが、退役したとはいえ本物の原潜に乗れるなんて、こんな機会、多分死ぬまでない。100元の価値は十分ある。しかし、ほかの3人は、待っているとのこと。ああ、もったいない。。。

 100元で申し込むと、窓口の姉ちゃんが英語の説明はないよ、という英語の説明をした上で、ギフト、といって青い帽子と白手袋をくれた。おお、なんか盛り上がるな。気分はすでにサブマリナーやん。そのまま入ろうとしたがゲートのところで押し戻された。5時からだということのよう。案内がつくらしい。

 チケットには、おそらく原潜の名前だろう、長征一号と記載してある。 あとで調べてみたところ、長征一号はNATOのコードネームで漢級の攻撃型原潜であった。

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(繋留展示されている漢級攻撃型原潜「長征一号」)

 駆逐艦などをおざなりにみて、5時前に入り口に集合。どうやら荷物をロッカーに預けるらしい。パスポートだけあわてて取り出してポケットにつっこみ、見よう見まねで荷物をロッカーに入れる。横目で他人の行動を観察すると、赤いボタンを押すと空いているロッカーのドアが開き、荷物を入れて閉めると、紙がでてくる方式らしい。暗証番号を入れるそぶりもなかったし、中国語なんて読んでもわからないし、不安いっぱいだったが、「万一出せなかったらGさんに頼めばいいだろう、原潜体験はそれに勝る!」と自分を鼓舞してボタンをおし、荷物とカメラを放り込んで閉じる。予想通り紙片がでてきた。バーコード付きだから、多分これをかざせば開くんだろう。そう信じよう。

 原潜に関する中国語の説明はわかるわけがないが、案内の人は説明をだらだらしながらゆっくり歩く。原潜まで5分くらいかかってようやく到着。

 原潜にはいるハッチはとても狭く、両手でハッチのバーをつかんでよいしょっと体をいれ込んでいく感じ。中はとても狭い。

 アメリカ映画で敵潜水艦に遭遇したときに、警報に反応して兵士が潜水艦内を走り回ってた場面があったが、少なくともこの原潜では、無理。

 猫並に障害物を避ける能力があるなら別だが、警報に反応して走り回ったりしたら、顔面骨折、歯の折損、体中の打撲を負って、戦闘前に戦闘不能になるのが落ちだろう。

 最初は魚雷装填区、次は居住区、厨房、発電区など様々な箇所をみてまわったはずだが、説明がわからなかったせいもあり、艦橋部分がよくわからなかったのが残念。

 かなり満足して戻ってくると、X教授が「Sさんが、こんなにミリオタなんて知りませんでした。一番テンション高かったんじゃないですか?」と仰る。

 う~んそう見えたのかな。しかし、S弁護士としては自分がミリオタという自覚は全くない。小学生の頃、戦艦や戦車のプラモデル作りが流行っていたので、自然とある程度の戦艦・戦車についての知識がついただけだったのだ。決して普通のミリオタさんのように詳しい知識があるわけではないのである。

 確かに小学生ながら、子供向けの「大和と武蔵」という本の他、豊田穣の「撃墜」・「撃沈」や、伊藤正徳の「連合艦隊の栄光」、吉村昭の「戦艦武蔵」・「零式戦闘機」等の文庫本を読みあさってはいたが、その頃は、どこの小学生も同じように興味があるものだと思っていた。

 海軍博物館を出たあとは、時間が押しているということで、そのまま宴会会場に向かうことになる。

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その8

(続き)

5月21日

 7時に朝食をとり、できるだけ早く出発しようという指令をX教授から受けていたので、7時直前に1階ロビーに出向く。しかしY弁護士しかいない。Gさんも来られたので、先に食べることにする。昨日と同じ中華だが、少しメニューが違うようだ。
大体10分くらい遅れてX教授が登場。

 朝食をとりながらX教授は、列車に乗れなくなるといけないから7時45分にはロビーに集合しましょうと仰る。もちろん異議なく了解だ。

 部屋の忘れ物がないか確認して、45分直前にロビーにつくと、やはりY弁護士しかいない。さて、X教授はなんと言って現れるでしょうか?というクイズを出すと、Y弁護士は、「多分なにもおっしゃらないでしょう」、と即答。
 チェックアウトに関してもGさんにお任せなので、我々はカードを渡すだけ。
 X教授の登場はやはり、5分ちょい遅れ。大物はやはり違うのだ。クイズはY弁護士の大正解だった。すぐに車に乗って、済南駅まで。

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(済南市内で見たバス~たぶん日本のTV番組「あいのり」の中国バージョン?)

市内は、そこそこ渋滞している。道路工事中のため、歩行者用通路が設定されているのだが、そこを強引に突っ走って突破するタクシーをみる。駅前辺りの道路が、かなり混んでおり、駐車場にまではとても入れている時間がないということで、慌てて駅前の路上で降りることになる。

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(済南市駅前のバスターミナル~このあたりの渋滞が動かない!)

 Gさんがパスポートを持って切符を買いに行ってくれる。なかなか戻ってこないので、前回チンタオで乗り遅れかけたことから少し心配する。済南市駅では青島駅と異なり物乞いはいなかったが、特別警察の詰め所が駅前にあることは、同様のようだ。

 荷物チェックなどはかなりスムーズにすすみ、待合いで座って待つこともできた。X教授がオレンジジュースを買っている。改札は自動改札。出発7分前くらいに列車が入ってくる。一瞬早すぎないかと思ったが、乗ってから荷物を網棚に載せるまでが大混雑。

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(済南市駅のホーム)

 車両の前寄りの席のくせに、でかいトランク引っ張って、後ろの乗車口から乗ってくる人やその逆の人が多く、車内が大渋滞。生憎私達の席は車両のほぼ真ん中。渋滞にはまってしまい、交差する乗客の持ち上げたトランクの車輪にこすられながら、「全く自分の席に近い乗車口から乗れよ!」と小言を言いたくなった。

 何とか荷物を網棚に載せ、席に着いたのとほぼ同時に発車。停車時間を多めに取っていたのは、こういうことなのか、と理由がわかる。

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(車内の様子~やはり車両間のドアは開いている。)

 車両は前回乗ったものよりも新しいのか、窓もきれいで汚れていないのは好感が持てる。行きと同じく窓側はX教授通路側はS弁護士。Y弁護士が気を使って3人席の真ん中に座ってくれる。車両は行きに乗ったものよりも新型のようだ。先頭車両の外見は、ドイツのICE4に似ている気がする。やはり時速200キロは超えない。おそらく線路の性能の問題なのではないだろうか。
 車内で、ポメラを使ってメモを書いたり寝たりしているうちに、12時前にチンタオに到着。終着駅だからゆっくり降りられる。折り返し北京行きになるようだ。

 駅前で少し待っていると青島に来たときにお世話になった若手弁護士のKさんが、レンジローバーでお出迎え。ホテルまで案内してくれる。ホテルはかなり高層の高そうなホテル(青島ファーグローリーレジデンスホテル)。表示されている宿泊費は1500元。
 海のみえる部屋が2つしかないとGさんがいうが、あまり気にしないので、くじ引きでいいんじゃないですかと、話しておく。実際にGさんが四つカードキーを持ってきて、どうぞと、くじびきになった。X教授は、じゃあ奥から3番目といって、カードキーを取る。そのとなりを私がとり、Y弁護士、Gさんの順でキーを取る。部屋のドアをあけてのお楽しみ。

 部屋はかなり広く多分当たり。キッチン、洗濯機、冷蔵庫、食器洗い機もついていた。翌日チェックアウトの直前にドアの裏側の表示で見てみると、隣のX教授の部屋より、広そうだった。残念ながらバスタブはなかった。

 すぐに昼食ということで、24階のレストランに行く。外を見るとレストランの窓とほぼ同じ高さまで凧が揚がっている。高層ビルと凧というアンバランスが面白かった。

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(高層ホテルから見た凧)

 メニューにビジネスランチがあったので、ステーキっぽいビジネスランチにする。X教授はカツカレーランチ、Y弁護士とGさんは、タンタン麺セット。注文の際に、ボーイさんから、「ここのタンタン麺はふつうより辛いがどの辛さを注文するか」と脅されて、普通の辛さを二人は選択したらしい。しかし、いざ担々麺がやってきてみると、全然辛くないとぶつぶつ言っている。ただ、しばらく食べていると、汗がでてきたそうで、やはり辛さはあったようだ。ステーキは結構固め。サラダのドレッシングなしを言ったのに、しっかりドレッシングがかけられており困った。

 X教授は完食。まあ美味しかったですよ、とのことだった。
 お腹も満たしたし、青島観光に出発だ。

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その7

(続き)

 大明湖は、市民の憩いの場という感じで結構な人出がある。湖風が吹くと涼しい。柳の街路樹をみて、Y弁護士が、「おお~、心惹かれる」としみじみ言う。中国風の建物もあり、「やっと中国って感じがします」、とY弁護士が喜ぶ。

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(大明湖)

 ムンちゃんの彼氏も日本語ができるそうなので、彼氏にも日本語で話しかけるが、彼氏の方は照れているのか日本語で返してくれない。

 それでもめげずに話しかけていると、彼氏がムンちゃんを介して「先生は、関西人ですか?」といきなり切り込んできた。

 中国でも関西人は著名なのだろうか・・?一体彼氏の頭の中に想起されている関西人とはどんな人物像なのか・・・?疑問は浮かぶが、まあいいや。ここは中国、4000年の歴史。細かいことはどーでも良いのだ。

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(大明湖付近の中国風建物~家の前に人々が出て涼んでいる?)

 湖畔のお土産屋さん街には、なんと猫カフェがあった。ムンちゃんがへばりつくようにして入りたそうな気配を見せるが、彼氏以外全員スルー、ムンちゃんには申し訳ないが、これが形式的な男女平等かも。

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(猫カフェ~「八尾猫 珈琲館」というお店らしい。。。。たぶん)

 遊歩道の脇に選挙のときのように、顔写真がたくさん貼ったボードが置いてあった。聞いてみるとこの辺りの共産党の有力者の方々の写真なのだそうだ。やはり中国・共産党支配なんだという気がする。

 帰りの車が待ち合わせ場所になかなかこず、かなり待たされる。ようやく車に乗り込みホテルに向かう。

 法律事務所の方では是非とも事務所を見てもらいたいとのことだそうで、汗をかいた服を着替える余裕もなく、ホテルの6号館前の駐車場で乗り換えることに。そこで姜先生を待つ間に、朝に撮影した記念写真をもらえた。なかなか大きく立派。着替えもできず汗くさい軽装のまま、法律事務所にいくことになる。せめて名刺入れでも取りに行きたかったが、時間がないということでそれも却下。
 財布に名刺二枚しか入ってないよ・・・。

 法律事務所は、高層ビルのワンフロアーをど~んと占有してある。ぴかぴかに磨かれた床には自分の姿が映るくらいだ。ガラスにも埃のかけら一つもついていない。

 通路の両脇に飾ってある、高さ2m程もあろう、どでかい壷を倒さないように気を使う。万が一にでもカバンのヒモを引っかけて倒して割っちゃったなら、おそらく、数百万円の損害賠償は必至であると思われる。しかも、相手は凄腕ローファーム軍団なのだ。

 それにしてもオフィスは、映画に出てきてもおかしくないくらい格好いい。個室からトム・クルーズが出てきて「Hey! Sakano!」と声をかけられても全く違和感を感じないくらいだ。

 パートナーは約20名、アソシエイトは約50名くらいとのこと。パートナーは個室がもらえるが、アソシエイトはオーブンスペース。受験時代の参考書と思われる書籍をおいてある机もあった。

 休みの日だったが、アソシエイト数名が働いていた。所長室はやはり立派で、格差社会を痛感させるものだった。

 事務所内を案内されたあと、事務所紹介のビデオを見せてもらい、どのような仕事をしているかなどについてお互いが話す。お土産に、その事務所で特別にこしらえた茶器をお土産に頂く。

 その後、食事をご馳走してくれることに。
 中華もあるが鉄板焼もあるような店で、個室での会食。水木金などと曜日を表す名前が個室についていて、我々は「金」の部屋。机の上に注文するための用紙がおいてあり、それに記入して注文するシステムらしい。注文用紙には肉の焼いた物などがそこに載っており、野菜や魚介が苦手なY弁護士も、肉が食べられそうだと言うことで元気が出てきた様子。室内にある円形の中華テーブルの周りに椅子が並べてあるが、誰がどこの席にするかについては、パートナーの先生が決める。

 どうやら、酒席を設けるあるじが、一番奥の中心に座り、その右手に1番目の客、左手に2番目の客、という順番があるようだ。年齢順にX教授、S弁護士、Y弁護士の順序で座るよう指示を受ける。

 アルコール度52度の酒で乾杯をするらしいが、飲めない。飲め飲めと促されて、仕方なく、少しだけ飲む。シンナーのようななアルコール臭がする上に、のどがカット燃える。

 案の定、すぐに頭痛に襲われた。これは飲んべえの方には分からない辛さだろう。

 ステーキ肉、麻婆豆腐、回鍋肉など、少し辛いがおいしい。ただし、なぜか最後のラーメンだけは味がしなかった。

 途中で、トイレに立った際に、お店の人に「ツァーサ・サイナーリ」と言ってみた。1度目は??という感じだったが、再度大声で言ってみると、トイレを教えてくれた。おお、覚えておいて良かったぞ。X教授の教えに感謝するS弁護士だった。

 チャン先生?というおもしろい大学教授?も途中から参加。
 少し石原慎太郎の若い頃に似ていて、日本語がめちゃくちゃ上手い。これだけ日本語ができれば、日本人だといっても誰も疑わないだろう。「日本語上達の秘訣は、とにかく勉強よりも遊ぶことだよ!」と豪快に笑っていた。これだけ日本語がお上手だと妙に説得力がある。

 昨夜の歓迎会と同じく、ここでも何度も乾杯することは変わらない。それ以外にも、1対1で乾杯するところは同じだ。

 アルコールを飲むと頭痛がする私、アルコールに極めて弱いY弁護士は共にかなり厳しい状況。X教授の肝臓が丈夫で本当に良かった。そうでないと、3人とも歓待してくれるのに無礼な対応になりかねないところだった。ほんと、中国でのお付き合いにはアルコールに強いことが必須の条件である可能性が高い。

 帰りの車内で、Gさんと話していたX教授から、明日の夕食も宴会に決まりましたと告げられる。

 どうやら明日は、青島の有力弁護士さんがご馳走してくれることになったらしい。最後くらいはのんびりしたかったが、お誘い頂いた以上、もう行くしかないだろ。どうにでもなっちまえと、S弁護士は、飲めないアルコールを無理して少し呑んだために、がんがん痛む頭のなかで、半ばやけっぱちになって考えていた。

 ホテルに戻った際にX教授にエアコンをみてもらった。どうやら、太陽マークに見えたのは雪のマークで、雪のマークがついていれば冷房になっているとのこと。「まったく紛らわしい表示だな。」と自分の観察眼のなさを棚に上げて、昨晩の悲劇を振り返る。これで今日は安心して眠れそうだ。

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その6

  開会式の挨拶のあと、まずは記念撮影ということで外にでる。ハンドメガホンを持った写真屋さんがいて、あれこれ指示を出している。カメラ自体が回転しながらシャッターが下りるという特殊カメラを使ったものだった。多分横に広い、パノラマのような写真ができるのだろう。

 しかし、日差しがまぶしくて目をきちんと開けていられない。

 確かこの間、新調した眼鏡はUVカットのはずだが、、、、と一瞬思ったが、良く考えるとUVは目に見えないのであって、いくらUVをカットしてもまぶしい可視光線を防ぐ効果は全くなかったのだ。つまりは、当たり前のことなのだと妙に納得する。

 おかげで目が痛くなってしまった。

 それにしても、背の低い人のために踏み台にする箱を、写真屋さんが用意していて、身長差による凸凹を調整するのが、昔っぽくておもしろい。

 無事記念撮影は終了したが、このあと、すぐに発表なので気が気ではない。

 会場に戻ると机が並び変えられていた。

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(S弁護士の席。微妙に坂の字が中華っぽい?)

 会場では、通訳ですという北京大学の女子大生の挨拶を受ける。京大に留学していたそうで、流ちょうな日本語を話す。

「へー、Gさんと二人でダブル通訳なんだ」と独り言をいうと、

「いえ、私は、ディスカッションの通訳なんです。」とのお答え。

 ディスカッション?!

 質問はあるかもしれないと聞いてはいたが、ディスカッションなんて聞いてなかったぞ。

 質問以上のディスカッションまで想定され、しかもディスカッション用の通訳まで準備されているとは、こっちにとっては、さらに想定外。

 もうどうにでもしてくれという気になってきた。ここは中国。ラーメンのCMだと4000年の歴史の国だ。細かいことは気にした方がダメなんだろう。

 席は左からGさん、X教授、S弁護士、Y弁護士、女子大生通訳のムンちゃん。

 いよいよシンポジウム開始。昨日の夕食時となりにいた姜先生が、司会。何か注意をしているが、もちろん中国語なので、分からない。
 Gさんによると、どうやら発表時間を20分に制限することになったとのこと。

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(シンポジウム開始の図。~左端が司会の姜教授)

 早速、山東政法学院の李先生(女性)が発表を開始した。発表順は中国の李先生、X教授、S弁護士、Y弁護士、韓国の張教授、中国の芳先生となっている。

 もちろん、李先生が何をいっているのか分からない。

 しかし、今は自分の発表が優先だ。だがここまでどうやって発表するのかも聞かされていない。同時通訳なのか、普通にしゃべって通訳してまたしゃべる方式なのかも分からない。

 質問に加えてディスカッションも予定されているなどと、最初の話と相当違ってきている気もするが、乗りかかった船どころか既に出航している船だ。今更、おうちに帰るとも言い出せない。

 とにかく発表時間が制限されたことから、蛍光ペンで発表原稿から、割愛する部分をチェックし始める。
 他人の発表なぞ聞いている暇はない。

 X教授が発表開始。

 どうやら、同時通訳ではないようだ。発表者が日本語で発表し、区切りの良いところでGさんが中国語に通訳する。しかしこれなら、20分の発表でも通訳に半分時間がかかるから、実質10分の発表時間しかないことになる。

 原稿自体の中国語訳は配布されていると聞いているので、要点だけ発表するしかないと腹をくくって、バッサリと割愛する部分に×印をつけて切り捨てる作業をする。

 そして、ついに、S弁護士の発表となった。

 発表自体は、堂々としていろというX教授の指示と、できるだけゆっくり話したこと、緊張していたこともあって、あっという間だった。

 かなり割愛したが、何とかまとめきる。

 続いてY弁護士の発表だ。

 Y弁護士の紹介がなされるとなぜか、まばらな拍手が。おお、これまでの発表者は紹介されても誰も拍手なんてなかったが、どうしてY弁護士だけ拍手があるんだろう。

 発表を終えて安心したせいか、どうでもいいことが気になるな。
 理由は分からない。
 
 X教授がY弁護士の横について、割愛する部分などを指示する。Y弁護士も無事にまとめきったようだ。

 Y弁護士は発表後、他の先生の発表原稿を女子大生通訳ムンちゃんに翻訳してもらっている様子。どんどん席が接近している。ほとんど肩を寄せ合った状態になっている。どうでもいいけど、ちょっと羨ましいぞ。

 Y弁護士は聞き上手でもあって、女子大生の通訳にうんうんと頷いて聞いている。しかし、Y弁護士が頷くと、頷きアクションに合わせて、Y弁護士の椅子がギシギシいう。少し椅子の立て付けが悪いようだ。

 「こらこら、Y弁護士、女子大生と一緒になって椅子をギシギシ言わせたらあかんやろ。」とちょっと誤解を招きかねない、不埒かつ不適切な表現が頭に浮かぶS弁護士であった(失礼!)。

 他の先生方の発表中は、X教授は教え子のGさんとなにやら話しているし、Y弁護士はムンちゃんと接近遭遇しているし、両者の真ん中でぽつんと、意味もなく、100年の孤独を感じるS弁護士であった。

 
 S弁護士が、「ガルシア・マルケスの100年の孤独っていったって、中国は4000年の歴史なんだよな~」と、ぼーっと考えていたところ、突然停電が起きた。

 どうやら建物全体が停電しているようだ。「最近はこんなこと無かったんですがね~」とGさん。誰も騒がない。どうせそのうち復旧するさ。騒いだって意味ないよ、という感じがいかにも大陸風に感じられる。

 エアコンも止まり次第に暑くなる。

 しかし発表中である韓国の張教授は、原稿も見ずに、暗闇の中、淡々と発表を続ける。ある意味凄い。10分ほどで停電は回復。空調も効き始めた。

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(突然の停電)

 会場のトイレは和式。廊下に飲み物・果物などがおかれているテーブルがあったが、食欲がないことと、食べていいのかわからなかったことで今回はパスした。
最後の山東学院の方のご挨拶がかなり長かった。結局時間が押したせいか、質問もディスカッションもなかった。

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(無事発表を終えて)

 X教授のご命令でY弁護士とムンちゃんのツーショット写真を撮る。Y弁護士へのX教授の命令は、連絡先を聞きだしてS弁護士が撮影した写真をムンちゃんに送ること。

 なるほど、若者達への配慮ですな~。X教授の心遣い、ニクイじゃないですか。

 その後、前の日に夕食を食べた1号館に移動してバイキング方式の昼食。ここで食券が使えた。入る際にも並んでいる学生よりも先に通してもらう。

 発表が終わって気が緩んだのか、箸を落としてしまい、換えをもらおうとするが、食器置き場の箸がもうなくなっていて、困る。料理を追加する前に食器をまず補充せんかいな。結局、格好は悪いが長さと色の違うハシを組み合わせてしのぐ。

 観光について、Gさんが、軽い登山になるが、仏像がたくさんあるという山寺への参拝を提案するが、X教授が「暑いでしょ、行きたければどうぞ。私、下で待ってますから」と即時に却下。このまま観光しなくてもいいという話まであったが、Gさんも残念そうだったので、協議の結果、済南市民の憩いの場、大明湖に行くことになる。

 3時集合。それまでは部屋に戻って準備とのこと。シャワーを浴びて少しさっぱりするが、寝てしまうと起きられない可能性がある。危険と思って我慢する。

 集合場所に来てみると、どこかの法律事務所から是非会ってお話ししたいとの申し入れが来ているそうで、あまり時間がないらしい。急いで大明湖に向けてでかけようとするが、呼んでいるはずのタクシーがこない。Gさんいろいろ連絡するも、どうもうまくいかないようす。

 通訳女子大生ムンちゃんも一緒に行くことになった様子で、彼氏と一緒にきていた。

 中国当局からハニートラップを仕掛けられたのではないかという噂もある、と噂で聞いたX教授が、独身のY弁護士に「いやいや、彼氏がいても、日本の弁護士はもてますから・・・」などと、いつもの笑顔を浮かべながら、その笑顔にそぐわない不穏な発言をしている。

 そういえば、X教授も弁護士登録をしている。X教授は中国渡航歴も多いし、中国人女性が日本の弁護士を見る目について詳しいのかもしれない。しかし、今日は、中国のバレンタインデーだ。恋人達を祝福すべき日のはずだ。

 「X先生、今日は中国のバレンタインデーでっせ!そんな恋人達の聖日に、それは、ないんとちがいますか!」、と心の中で義憤に駆られたS弁護士は、Y弁護士に小声でこう告げるのであった。

「Y君、、、、、X先生の言うとおりやで・・・。日本の弁護士の魅力、見せつけてやらなあかんで・・・。」

ナイスガイのY弁護士は、S弁護士の心からの忠告を、笑顔で右から左へと受け流したようだった。

 待ち合わせの6号館前あたりまで歩くが流しのタクシーもない。ホテルの参道みたいな道だから、しかたがないのか。

 Gさんが、どういう関係かわからないが、なんとか車を2台捕まえ、湖まででかけることになる。Gさん、X教授、S弁護士が白い車。日本の弁護士の魅力を発揮せよと、X教授の勅命を受けたY弁護士と、ムンちゃん達カップルが青い車に分乗。

市内は結構込んでいる。 

 もうすぐ着きますという、Gさんの言葉とは裏腹に、渋滞する市内をかなり走るがまだ大明湖にはつかない。

 その間に、車内でX教授と、格差について議論。

 いつも思うのだが、頭のいい人と議論すると、こちらの考えも上手く整理できる気がする。

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その5

5月20日

 朝食は,X教授に指定されて、七時の予定。遅れてはいけないので、5分前に部屋を出てエレベーターに向かうと、エレベーターホールでたまたまY弁護士と一緒になる。

 1階のホールで少し待っていたが、X教授がやってこない。仕方がないので、先に朝食をとることにする。部屋のキーカードを見せるだけで入れた。昨日もらった資料の中に、食券が入っていたが、それはどうも昼と夜に使うものらしい。

 食事は中華バイキング。コーヒーもお茶もない。粥で水分を取るようにということらしい。昨日逢った偉い方とまたお会いしたので、挨拶を交わす。朝から結構濃い味付けのようで、血圧に影響しないか少し心配。心持ち野菜を多めにとるようにする。

 少しして、Gさんもやってきて、飲み物はないのかなという話になるが、やはり、粥で取るようだ。
 さらに時間がたってX教授登場。食事は7時と決めたのはX教授だが、その時間に、登場しないのが大人物たるゆえんか。

 朝食後に部屋に戻り、服装について考える。今日は発表でもあるから、やはりスーツで行くべきだと思う。しかし暑いのは間違いないので、上着は部屋に置いて、ネクタイだけはしておくことにした。
 これなら、みんながスーツでも、暑いから上着を着ていないだけですよ、という言い訳が可能だし、みんながラフな格好の中で、上着までスーツを着たままで浮いてしまうこともあるまい。
 和解でいうなら折衷案、まあ両面作戦だ。

 待ち合わせの1階ロビーに到着すると、Y弁護士は、上着まで着込んだスーツ姿。「すごいな、暑くない?」と聞くとやはり「少し暑いです。」との返答。そりゃそうだろう。外はかんかん照りだぜ。

 一方、X教授はラフなシャツにノーネクタイ。Gさんもラフなシャツ。シンポジウム会場の6号館まで歩いてみると、かなり暑いので、ラフな格好で来なかったことをかなり後悔する。

 途中、花で飾り付けられたマセラッティと、ドアミラーにリボンを着けたベンツが何台も止まっている。Gさんによると、結婚式なのだそうだ。しかし、自動車の側面には結構泥とかがついていて、綺麗ではない。

 門出にしては、ちょっとなんだな~と思ったが、そんな細かいことに気を使うのは日本人くらいですよ、と米英に留学経験のあるX教授がいう。
 X教授によれば、英国では駐車するときにバンパーをぶつけて隙間を空けて出入りするのが普通なんだとのこと。「『そのためのバンパーでしょ』、とイギリス人は言うんですよ。」と仰る。英国では確かにそうかもしれないが、なかなか日本ではそうは、いかんだろう。

 また5月20日は中国のバレンタインデーのようなものだから結婚式が多いのかもしれない、という説明をGさんから聞く。理由は、5月20日の中国語での発音が、アイラブユーに似ているから、バレンタインデーのようなことになっているのだとか。こんな暑いときにチョコレートをあげても溶けるだけじゃないのだろうか。溶けてベタベタになったら大変だぞ・・・。と数多の離婚事件に携わったS弁護士は、他人事ながら少し心配になる。

 ちなみに、Gさんに聞くと、本命にはチョコレートのプレゼントだが、義理チョコの風習はないそうだ。義理チョコの代わりに脈がない人にはリンゴを渡す風習になっているのだとか。

 やはり今日も暑い。歩いているだけで十分に汗をかく。ハンカチは持っているが、タオルの方が良かった。

 会場である6号館の入り口の外に、兵隊さんのような人が2名立っている。入り口内側にはチャイナドレスの女性が二人立っている。ともに微動だにしない。万が一軍関係の人だと怖いので撮影はしない。Gさんからも、軍関係の撮影はしないように釘を刺されている。良くてカメラ没収、悪ければどこかに連れて行かれるのだそうだ。その「どこか」が分からないだけになお怖い。

 撮影はできなかったが、しばらく見ていると瞬きはしていた。Gさんによると、このホテルは軍部が使うこともあるそうなので、その名残なのだろうかと勝手に考える。

 入ったところには、大きな毛沢東の絵が掲げてある。

 発表者は受付での署名は不要だったので、特にチェックされることもなく会場がある2階にあがる。

 会場は広かった。名札がおいてあり、最前列にS弁護士とY弁護士の名札。他にも着席順は決まっている。X教授とGさんは発表者側の席。いわゆる雛壇の上だ。
 冷房がそこそこ利いている。これならスーツでもなんとか耐えられそうだ。

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(開会式前の会場)

 開会式の時間になって雛壇の上の人たちがやってくると、全員上着まで着用したスーツ姿だった。まあ、国際会議みたいなもんだし、そうだろうなぁ。少しだけネクタイをしてきたことにホッとする。ひな壇でスーツじゃないのは、X教授とGさんだけ。だが、何故かそう強い違和感を感じない。「学会なんだから、勉強が目的でしょ。勉強に適した服装ですが、なにか?」という感じで、逆に、そこはかとなく大物の風格が漂っていたりする。

 しかし、大物ならともかく、一介の弁護士にすぎないS弁護士は別だ。やはりもうすこし貫禄がつかないと、ああはできない。形式的と言われようが、ネクタイ着用はやはり必要だ。

 普段は、お釈迦様の手のひらから脱出できない孫悟空のように、X教授の手のひらの上で踊らされる存在にすぎないS弁護士ではあるが、ここは自分を信じて正解だった。

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(ひな壇の上のエライ人達)

 開会の挨拶だろう。主催者側の中国、日本、韓国の順番になされる。X教授は老子か荘子の言葉を引用して、上手いスピーチをしていた。さすがに場慣れしている。

 正面の壁一面に大きな大会の看板が設置されていて。想像していたよりも相当大きなシンポジウムであることに驚く。しかも配布されたプログラムによると、開会式が行われた会場で発表しなくてはならないことがわかっている。多分一番大きな会場だろう。あ~早く発表が終わってくれんかな。

 とにかく、義務を負ったままだと何も楽しくはない。S弁護士は発表のことばかり考えていた。

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その4

 15:19発で、済南市には、大体18時過ぎに到着。予定よりも20分ほど遅れたようだが、特に車内アナウンスもなかったように思う。

 出口を出るためにも切符を見せる必要がある。

 結局、駅に入る際、ホームに入る際、車内検札、駅を出る際、の合計4回のチェックを受けたことになる。

 夕方に近くなっているにも関わらず、青島よりも相当暑い。

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(済南市駅~出口と入り口は完全に別と思われる)

 山東政法学院の大学院生が、迎えにきてくれていて、ペットボトルの水をくれる。多くの人がペットボトルの水を携帯しているようだ。日本のように水道水がそのまま飲めることが、とても有難いことなのだと痛感する。

 駅からは車で移動。Gさん曰く、中国で一番渋滞がひどい街だということらしい。宿泊先のホテルは、軍も使用しているとのこと。軍が使用するくらいなら上等なのか、それとも質実剛健で簡素なものなのか、肝心なところが分からない。

 車の窓から外を見ると、歩道をバイクが、ガンガン走っている。電動自転車、電動バイクが多く、エンジン音を響かせるバイクは少ない。そういえば、犬や猫、鳩、カラスまで見ていないような気がする。しかし、どこに行ってもマクドナルドとケンタッキーは目につく。

 渋滞がひどいと聞いてはいたが、一応流れていて、身動き取れないという状態までひどいわけではない。

 中国の歴史にも詳しいY弁護士は、道路標識に書かれている文字を見て、「おお~、●●がある・・・」と独り言を言ったり、「○○は△△の時代の××ですか?!」などと、Gさんに聞いたりしているが、GさんよりY弁護士の方が中国の歴史や古典に詳しいらしく、話があまり弾んでいかない。

 たしかに、こっちも、外国人から源氏物語の第九帖にはしびれますよ、舞台はこのあたりなんですかね~とか、平家物語の小督のくだりは感動ですよね~、片折戸していた家があったのは嵐山のこの辺なんですかね~とかマニアックなことを聞かれても困るわな。

 明日の観光について、Gさんがどこか行ってみたいところがあるか聞いてくれる。

 T君が「黄河はこの近くで見れるんですか!?」と歴史に彩られた黄河を見たいといわんばかりの期待に充ち満ちた発言をしたが、X教授は間髪を入れずに「黄河なんて、ただの川ですから」、と、抜けば玉散る氷の刃(やいば)!

 血が出る間もなく一刀両断された、Y弁護士の歴史への憧憬は、一瞬で次回に持ち越し決定だ。結局、明日考えましょうか、という良くある結論に落ち着いた。

 車内では、Gさんがしきりに電話連絡を取っている。電車が遅延したため、予定よりかなり我々の到着が遅れているようだ。

 ようやく、ホテルについたがフロントに荷物を預けるだけで、着替える暇も与えられず、そのまま夕食会場へ。Y弁護士は、移動を前提としたラフな格好だし、X教授もポロシャツなので、かなりラフな日本代表となってしまった。

 歓迎会場は、大きな中華テーブルが据えてあった。もちろん料理は中華料理。「中華テーブルの発祥は日本と聞いていますね。」、とY弁護士が教えてくれる。確かに、S弁護士もテレビのクイズ番組で、目黒雅叙園が発祥だというような話を聞いた気もする。しかし、X教授はそんなことはないでしょう、と仰るし真相は不明。

 巨大なナマコはちょっとつらかったが、他は、さすがは本場中国、4000年の歴史。なかなか美味しい料理がそろっている。

 もともとS弁護士は偏食である。酢の物が苦手、漬け物が苦手、梅干しも苦手であり、日本人のくせに寿司も食べない。当然納豆のように腐敗した(ように思える)物も食べない。「大人になって一番嬉しかったのは、食べたくない物を無理に食べなくてもよくなったことだ」と、海外で、好んで芋虫などのゲテモノ食いをする医学生の甥っ子に話したりするくらいである。

 食べたい物を食べたいだけとって食べる中華テーブル方式は、極めて理に適っていて、偏食人間には有難いところだ。

 ところで、歓迎夕食会では最初に一番エライ人が「#$%’#”~?!”$%#・・・・」とスピーチして乾杯!となるが、それだけでは終わらない。次に誰かが立ち上がってまた「’%&$#$$%#’()・・・・」とスピーチしてまた、乾杯! 

 何人かの人が乾杯の音頭をとったら、また最初のエライ人が乾杯!っとやるので、一人が3~4回乾杯の音頭をとる。

 また1対1でも、多分「あなたの健康に・・・」なんて言いながらだろうけど、乾杯している。

 どうして何度も乾杯するのはよくわからないが、そういう風習らしい。

 山東省方式が中国のスタンダードなんだとの説明を誰かがしていた。

 もともと、アルコールを少し摂取しただけで頭痛に襲われるS弁護士とすれば、乾杯の嵐に襲われたら、幾つ肝臓があってもたりやしない。

 どっかで聞いた話だが、日本人には縄文人系と大陸からきた弥生人系の人がいて、縄文人系の人はアルコール分解酵素をあまり持たないのでアルコールに弱いという話を聞いたことがある。その話が正しければ、ここは大陸。アルコール強者の巣窟である。

 ところがS弁護士に輪をかけて、Y弁護士も下戸である。X教授がアルコールに強いことにすがって、アルコール弱者の二人はなんとか宴会を乗り切ることを決意したのであった。

 乾杯の嵐を、お茶での乾杯という荒技でお茶を濁しつつ、山東省法学会の副会長さん、韓中法学会の会長さん、近隣の大学の教授など、偉い人と名刺交換をする。

 隣の先生は、愛媛大学と愛知大学に留学して勉強していた煙台大学の姜教授とのことだった。日本語がかなり分かってくれる方なので、司法試験の合格率についてお話ししたりする。

 韓国チームは、見た目がちょっと怖い感じで、明日質問してこないかちょっと心配。

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(歓迎夕食会のあと~巨大な中華テーブル)

 宴会の後、いよいよ明日に迫ったシンポジウムでの服装を確認すると、「みんな暑いからどうせポロシャツ程度ですよ。アロハでも良いくらいなんじゃないですか。」とX教授が断言。

 確かにアロハはハワイの正装だそうだけど、中国でそれをやって良いのだろうか。とはいえ、主催者側のGさんも「暑いですからね~、そんなもんですよ。」と太鼓判を押すので、一瞬ポロシャツで出ようかと考えてしまった。

 質問を受けなきゃならないのかについて、Gさんに聞く。確か、X教授からお誘いを受けたときは、「発表するだけで良いから」とのお話しだったし、S弁護士も当然そのつもりで来ているから、一応確認のつもりだった。

 するとGさんが、「質問あるのは当たり前ですね。S先生の発表する敵対的買収は、司会の姜先生も専門家ですね。他にも韓国の先生とか、いっぱい専門家、来てますから。」と超怖いことを言う。

 おいおい、そんな話聞いてませんよ。X教授の顔を「約束が違いませんかね?」という意味で、ちらっと見たが、「国際シンポジウムなんだから、質問があることくらいは当たり前でしょ~」といわんばかりの穏やかな、いつもの笑顔がそこにある。

 うう、ゴルフのときだけでなく、ここでもX教授に、してやられたか。ゴルフのときにマリオネットSと呼ばれた屈辱の日々が蘇る。しかし、ここは、X教授の笑顔の裏を読み切れなかったこっちが悪い。

 ただ、別に日本語ならやり合えるが、中国語や韓国語で言われても的確に対応できるのか少し不安だ。

 さすがに、X教授も難しい顔になったS弁護士の気落ちを察したのか、「まあ、どうせみんな日本語なんか分かりませんから、適当にしゃべってくれたら、G君が上手にまとめてくれますよ。」と慰めてくれる。一瞬、その手があったか!とも思ったのだが、司会の姜教授は日本に留学していたんだよな~、適当なことをしたらばれるじゃないか。

 しかしここまで来たら、開き直ってやるしかない。質問を受けたら日本の現状をきちんと説明してやれば良いんだし。そう考えたら、少しは気が晴れた。人間、気の持ちようなんだな~と妙に納得したりするS弁護士だった。

 ホテルの部屋はダブルベッドの二人部屋のシングルユース。かなり立派だ。軍部は良いホテルを使えたりするのだということを感じる。

 部屋の中では、一応ワイファイがつながる。

 明日は、7時に朝食会場で待ち合わせの予定。

追記

 夜中に暑くて目が覚めた。エアコンを見ると27度。これは暑いや、と思ってエアコンをいじっていたがうまく行かない。

 お日様のようなマークが液晶に表示されているが、それはお日様に照らされて暑いときにそれを押せばいいのか、お日様に照らされるように暑くするためにその位置にするのか、がわからない。

 寝ぼけ眼で、10分ほど、あれこれボタンを押して格闘していると、そのうちだんだん気温が上がり、ついにエアコン表示は29.5度になってしまった。

 これでは発表前に脱水症状を起こして命が持たないかもしれない。鏡で見たら眼は寝不足で充血している。
電話でフロントを呼ぼうにも、どの漢字がフロントを示しているのかわからない。つまり何番がフロントかわからないので、かけられない。もちろん、既に夜中の2時だから、部屋番号は分かっているが、Y弁護士をたたき起こすこともできない。

 しかたない。人事は尽くした。しかしもうダメだ。

 いじれば温度が上がっていくイケズなエアコンはストップだ。

 ぬるいシャワーを浴びて体温を下げ、窓を開けて寝ることにした。幸い網戸はついている。室内よりは外の方がすこしだけ涼しいようだった。

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その3

 Kさんが連れてきてくれたのは、半地下の喫茶店。

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 そこで、Gさんの通訳で中国には弁護士補のようなものがあり、Kさんは理系の大学を出てすぐに司法試験に合格して弁護士に成ったばかりであることを知る。弁護士補の身分証明書は青で、1年経てば赤の身分証明書になるそうだ。S弁護士が日弁連の、Y弁護士が大阪弁護士会の身分証明書を出し、身分証明書の話で少し盛り上がる。

 最初にレモンを浮かべた水が出てくるが、中国の水道水は飲めないと聞いている。Gさんに確認すると、水道水を蒸留した水を使うので大丈夫とのこと。メニューは写真入りで手作り感満載。出されたぬるい水を飲みながら考える。

 注文は、暑かったのでアイスコーヒー。X教授も同じ。GさんとKさんはホットコーヒー。

 しばらくたってやってきたアイスコーヒーは、日本のアイスコーヒーとは違っている。まず氷が見えない。飲んでみても冷たい!という感じはない。小さく溶けかけた氷を一つ見つけたが、ここでのアイスコーヒーとは、「熱くはないコーヒー」という意味のようだった。

 スイーツ好きのY弁護士はスイーツ1択。感想は、「意外にいけます」というものだった。しばらく時間をつぶして、お手洗いを完了し、青島駅に向かうことになる。

 喫茶店のカウンターの後ろには、チェ・ゲバラのポスターが貼ってあった。ゲバラはカストロと共に、革命によりキューバに社会主義国家を建設した英雄の一人とされている。中国なら毛沢東でもおかしくないところだが、なぜか、ゲバラだ。ちなみに、「キューバは格差社会ではない」との旅行記を読んだことがあるから、現代中国の格差社会へのささやかな反抗なのかもしれない。

 店を出る際に指さして、チェ・ゲバラ、というと入れ墨をした店員の兄ちゃんが頷いて笑っていた。

 駅まで送ってもらってKさんといったんお別れ。

 Gさんが、チケットを受け取ってきますと言ってパスポートを持って駅の切符売り場の方に行く。その間しばらく、時間がかかるとのこと。

 駅前の広場を見ると、遠くにケンタッキー、マクドナルドが見える。それに「李先生」という店は、中国のファストフードであることを教わる。さっきまで暑かったが、日陰に入って風が吹くと意外にひんやりする。湿度が低いのかもしれない。

 物乞いが2度もやってきて小額紙幣を握りしめた拳を突き出して何か言っていたが、生憎小額紙幣の持ち合わせはない。かといって、六枚しかない100元札を大盤振る舞いするほど豪気でもない。またX教授が、「一度お金を渡すとすぐに情報がまわって10人ぐらいが、あっという間にたかってきますよ。」と注意してくれる。

心は決まった。

スミマセンが、もっとお金持ちの方にお願いするか、頑張って働いて下さいね、だ。

 駅の真ん前に「青鉄特警」と大書した、でかい警察官詰め所がある。拳銃ではなく、自動小銃を肩から下げた警官らしき人が、そのバルコニーのようなところを巡回して睨みをきかせている。

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(向こう側に巡回したときに急いで撮影)

 ちょっと怖いですね~と話すと、「中国ですからね。いろいろ弾圧してるんでしょう。外に出てないだけで。」と、怖~いことをX教授がさらっと仰る。

 そういえばハリウッド映画「2012」で、地球滅亡が予測された後、一部の富裕層・政治家などが庶民を見捨てて自分達だけ脱出しようと、一般に知られないように情報統制しつつ人類の箱船を造船していたが、その造船場所が中国だったという話があった。大量に人員動員が可能でかつ情報統制もできる可能性がある国が存在するとしたら、その国は中国である、という設定が全世界的にも最も説得力があったということなんだろうが、そんな感じなのだろうか。

 ここで、X教授から、一番大事な言葉を覚えておくようにと指示が出た。ツァーサ・サイナーリという言葉だ。??と思っていると、「トイレはどこですか」という意味だそうだ。確かに大事だ。特に水が悪いとお腹を壊しやすいし、中国でトイレットと英語で言っても、ほぼ誰も分かってくれないらしい。何度か声に出して、覚えようとするが、なかなか覚えられないのは年のせいか。

 Gさんがチケットを手にして戻ってくる。チケットにはパスポートナンバーと氏名が印刷されている。確か当初は青島から済南まで高速道路で移動する予定だったそうだが、当局から、安全面から高速道路はまかり成らんとのお達しがあったそうで、結局鉄道になったとのことだった。そんなところまで当局が関与してくるところは、やはり社会主義国家の片鱗が見え隠れする。

 当局がどうして高速道路を走らせてくれないのかはよく分からんが、鉄道好きのS弁護士としては有難い。

 青島駅に入場するにも厳重なチェックが必要。

 パスポートとチケットの確認をしてようやく駅構内に入れる。→空港のような荷物検査→チケット確認して改札を通してもらいやっとホームに入れる。

 しかも、乗車が遅れると、まだ乗客が並んでいても、おいて行かれるのだそうだ。

 さすがにおいて行かれたらお手上げだ。本当は整列乗車が好きなんだが、そんな贅沢言っていられない。郷にいれば郷に従う、これが旅行の鉄則だ。荷物を引き吊り、足を踏まれたりしながら、列も何もない感じで改札口突破を目指す。

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(我先に改札を突破しようとする人々)

 ホームに出ると一安心だと思ったが、発車時間までに乗らないと置いていかれるそうなので、指定車両に急ぐ。

 指定車両に乗り込むと、既に荷物棚は荷物で一杯。X教授やY弁護士のでかいスーツケースを乗せるため、スペースを空けてなんとか積み込む。

 車内では再度パスポートとチケットの確認、ふん!という感じで愛想はない。車内販売も黙って通り過ぎるときもあり、やる気のない感じ。

 X教授が水を一本、Gさんに買ってもらった。

 車両間のドアは常に開いている。どういう理由があるのか知らないが、日本では閉じているので違和感がある。速度表示があるが、200キロをどうしても超えない。Gさんからは、300キロくらい出る性能があると聞いていたが、何度見ても200キロまで届かない。197キロが最高だったように思う。おそらく線路の性能の問題なのだろう。

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(何故か車両間のドアを開けっ放しで走行する列車)

 車内はほぼ満席。電話でしゃべる奴、端末からイヤホンをはずして周りに聞こえる音を止めない奴などいるが、だーれも注意しない。
マナーが悪いのか、人の自由を尊重しているのか。よく分からない。

 ふと横を見ると、X教授とY弁護士が爆眠していた。

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その2~

(続き)

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(上空より見る明石海峡大橋)

 ところが、離陸してしばらくして分かったのだが、この中国人の子供が難敵だった。

 子供のくせに肘掛けに両手を乗せて、両側の肘掛けを占領する、もたれ掛かってくる、靴を履いたまま横座りをして、靴底をこちらのズボンに押しつけてくる・・・など、かなり傍若無人。

 日本に旅行に来ている中国人なので、きっと富裕層なのだと思うけれど、マナー悪過ぎやろ。
 金はあるけど他はないよ、って感じと違うか。
 このままではろくな大人になれんぞ。日中友好にヒビが入るぞ!と心の中でぼやく。

 ゴン、と軽い頭突きを食らったほどに、余りに勢いをつけて、もたれ掛かられたので、さすがに、一度だけ肩をつついて日本語で注意したが、どこまでわかったものやら。母親も知らんぷりだ。途中で寝てくれたから良かったものの、そうでなければ、機内でかなりのストレスがかかったはずだ。

 昼食はえびとホタテのドリア、野菜、肉団子、小さなパンケーキとなぜかブルボンのあられの小袋。熱々のドリアが食べられるのも電子レンジのおかげだなぁ~と思いつつ、しっかり食べる。日本茶をもらい、うたた寝をしたりしていると、もうチンタオだ。

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(昼食のドリアなど)

 着陸態勢に入ると、山が見える。日本のように山全体が緑に覆われている感じではなく、岩肌が結構見えているところが面白い。概ね飛行時間は2時間50分くらいか。

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(関空から青島までの飛行ルート)

 時差はマイナス一時間。結構暑い。

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(青島付近の山の様子)

 入国手続きの書類を機内で書く際に、宿泊先については、まだGさんから聞いていないとX教授。「地球の歩き方の一番上に載っているシャングリラホテルでいいよ、それに入国目的は「観光」にチェックしておいた方が問題が生じないからいい」、と、経験から得た対処法を教えてくれる。

 何事にも先達あらまほしきものなれ。経験者の言うことの方が基本的には正しい。特に相手は中国。人民軍がいるところだ。用心するに越したことはない。X教授のお話を反対解釈すれば、観光以外の記載だといろいろ聞かれて面倒になるということだろう。問題が起きかねない道は避けるべきだ。結局X教授のご指導に従って、事実とは異なるが、目的:観光、青島での宿泊先:シャングリラホテル、と記入することにする。

 ホテルの漢字表記を記載するためにX教授から借りた地球の歩き方のコピーを参考に、シャングリラホテルと記入する。

 しかし、そのお借りしたコピーを機内に忘れてしまった。早速やらかしてしまった。平謝りのS弁護士だったが、X教授は笑って許してくれた。

 入国審査場では、なんだか人民軍の制服を着たような人が、無表情でパスポートの表紙を見て「そっちへ行け」とばかりに、指をさす。入国審査官も人民軍の制服のような服を着用している。どちらの人も、どこかで訓練してきたかのように、無表情だ。

 S弁護士はひげ面である。特に最近はおつむの毛が寂しくなってきたせいもあって、髭は大事にしている。しかし、ある学校で職業講話をしたときに、その髭のせいで教室に入った際に、「弁護士が来た~」ではなく、「タリバンが来た~」と中学生に騒がれた経験があることも事実である。しかも、今はイスラム国によるテロも多発している状況にある。

 「おい、おまえ、生意気にもヒゲ面しやがって、見るからに怪しいな。本当に、シャングリラホテルに泊まるのか?本当に観光なのか?」などと入国審査官から聞かれて、「すみません。嘘ついていました。本当は学会参加でホテルも未定なんです。」と本当のことを言ったら、やばいような気がする。そのときはX教授に強要されたと言えば助かるかもしれんが、自らの非を認めない奴として、逆に重く処罰されちゃうかも・・・と少し緊張したが、入国審査は審査官の無表情と無言のまま、特に問題なく通り抜けることができた。

 荷物はせっかく「壊れ物あり」にしたのに、3人の中では一番遅く出てきた。まあこういうときもあるさ。荷物を受け取ったあと、入国者出口から空港のロビーに出る。中国語や韓国語のプラカードを持っている人が何人かいたが、日本語のプラカードは、見あたらない。遠くにマクドナルドと味千ラーメンの看板が見える。

 しばらくしても迎えにきているはずのGさんが来ない。X教授がライン?のようなアプリを使って、連絡を取っているが、上手く連絡できない様子だ。10分ほどして、Gさんともう一人の方がやってきた。

 お話によれば、Gさんは、X教授の教え子で、山東政法学院で先生をしているとのこと。もう1人は、青島の有力弁護士野ところに勤務する、Kさんという弁護士になってすぐの人とのこと。お二人と挨拶した後、Kさんのボス弁の所有だというレンジローバーにのせてもらって、チンタオ駅方面に向かう。

途中、でかい橋を見る。なんでもアジアで一番大きな橋だそうだ。

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(Gさんの説明によるとアジアで一番長い橋)

 道路には、日本車、ドイツ車、韓国車、フランス車まで走っている。走っている車だけを見れば、ヨーロッパの道路と変わらない。その昔、NHK特集「シルクロード」で見た中国とは完全に違う。わずか数十年で、経済的に、ものすごい進歩を遂げているのだろう。

 高速は風がひどい。結構ほこりっぽい感じもする。

 しかし、暑いから窓を開けておく方が良い。額から頭頂部にかけて、かなり寂しくなってきたS弁護士の頭髪を、ほこりっぽい風になぶらせながら、車は青島市内へと向かう。

 列車の時間が15:19ということで、「3時間近くあるので食事にしますか」とGさんが提案する。遠慮した方が良いのか迷っていると、X教授が「機内で食事をしたばかりなので、お茶で良いよ」とさくっと指令を出す。

 おお、さすがにX先生、師匠って感じやな。。。。と、X教授を頼もしく思うS弁護士であった。

 青島市内はドイツの居留地でもあったこともあり、欧風の建物がたくさんある。中国語の看板さえ見なければどこかのヨーロッパの町並みと言っても通用しそうだ。

(続く)