日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その1

ふとしたことから、X教授のお誘いで、Y弁護士と一緒に、2017年5月20日に中国山東省済南市で開催された、日中韓FTAシンポジウムに参加して来ました。

シンポジウムよりも中国旅行に焦点を当ててご報告したいと思います。

事実に基づいた、フィクションとしてお楽しみ下さい。

登場人物(紹介)

X教授:某大学法学部教授・弁護士

Y弁護士:弁護士(某大学法学部非常勤講師)

S弁護士:弁護士(某大学法学部・同大学院非常勤講師)

2017年5月19日

5時30分に起床。
朝食をとり、河原町今出川でタクシーを拾って、京都駅まで向かう。
時間の余裕を持ちすぎて、6:15くらいに京都駅についてしまった。かすかに期待していた、旅情と郷愁をかき立てる立ち食いそば屋も開いていない。

かつて高校時代、列車で通学していたS弁護士は学校からの帰り道、お小遣いに余裕があるときには、新宮駅で立ち食いそばを食べることもあった。立ち食いそばは、まだ未来が茫洋として何となく不安に駆られていた当時の自分を思い出させてくれる鍵でもあるのだ。

仕方なく待合いで時間をつぶし、関西空港行き「特急はるか」に乗車。乗客には外人が多い。途中からは結構乗ってきて、込んできた。昨晩、旅行の準備で寝不足だったので寝る。
8:18に関空着。

DSCF6025.JPG

(発車前の特急はるか)

待ち合わせ場所に指定された4階出発ロビー、ANAカウンター前に向かう。
誰も見つからない。少しうろうろしているとX教授を発見。

すでにチェックインして、荷物を預けたとのこと。集合場所と時間は決まっていたが、荷物を預けてから集合とは聞いていなかった。あわてて手荷物を預ける。今までの経験上、預ける荷物について、壊れ物ありにしておいた方が、到着地で早めに出てくる傾向があったことと、手荷物に実際デジタルメモを入れていたことから,壊れ物ありにしてもらう。

S弁護士が荷物を預け終えた頃、Y弁護士登場。かなりでかいスーツケースを引っ張っていて驚く。
Y弁護士も荷物を預けて早速、手荷物検査場へ。

X教授は落ち着いているが、初の中国となる他の二人は落ち着かない。

Y弁護士は、目的地を北京と言い間違えたりする。

荷物検査を終えて、出国手続きをすることになるが、X教授は、指紋認証を登録しているということでさっさと終える。
X教授、Y弁護士が買い物をするということで、S弁護士は先にラウンジに行っておく。

途中で人民元に両替。

1万円あまりで600元。結構レートは良くない。最初1万円を両替するよう依頼したところ587元くらいだったようで、「これでも両替できますが、日本円を少し足せば600元ちょうどになります」との説明。日本円を少し足したところ100元札が六枚来た。100元札一枚分は、もうすこし小額の紙幣に換えて欲しいとお願いすると、100元単位の両替だからできないなどという。

おいおい、ついさっき、1万円を端数のある人民元に両替できると言ったところじゃないか。それなら1万円きっかりを人民元に変えて欲しいという希望に添った両替をこの店はやらないってことなのか?そんな注意書きどこにも出てないぞ。100元単位でしか両替できないなんて、そんな馬鹿なことはないだろう。筋の通らないことを言う担当者だ。本当は面倒くさいだけなんだろう!と、S弁護士は一瞬で担当者の、余分な仕事はしたくない、という思惑を察知したが、ここで喧嘩しても意味がない。

ふっ、本来であれば切って捨てるところだが、まあ今日のところは捨て置いてやる。運が良かったな、両替屋の兄ちゃん・・・と心の中で呟きながら、S弁護士は両替商の窓口を去る。

しかし、よくよく考えると、両替手数料もしっかり取る上に、レートも売り・買いでいじるなんて、実際ぼったくり以外なにものでもないように思える。その上、顧客の要望にも応じないとは、サービス業としてどうなんだ、とも思うS弁護士だった。

クレジットカードで入れるラウンジは、結構しょぼかった。オレンジジュースを飲もうとしたが、売り切れで、仕方なく、野菜ジュースを3杯ほど飲んでしまう。海外旅行出発で盛り上がっている団体がいてうるさい。

途中からラウンジにX教授もやってきて、ゼミで教えているという法実証主義や功利主義等について、少し話す。
Y弁護士が心配だというX教授のお話で、少し早いがゲートまで。

そこでY弁護士と落ち合って、搭乗を待つ。
ゲートに止まっているのはボーイング737-700、大体120席くらいのかなり小さな機体だ。

DSCF6033.JPG

(青島行き ANA NH977便)

中国では水道水が飲めないと聞いていたので、念のため水を一本買っておく。
S弁護士は窓から見る外の景色を楽しみにもしているので、飛行機は、取れる限り窓側の席を取る。今回も前日のオンラインチェックインを使って窓側を押さえておいた。

搭乗すると、横が中国人の子供、通路側がそのお母さんと思われる女性だった。

DSCF6035.JPG

(搭乗中のX教授とY弁護士)

(続く)

初めての遠近両用眼鏡~その3

 量販店では、たくさんのフレームが並んでいる。

 正直言ってどれが似合うかさっぱり分からない。一応、試着はできる。
 しかし、当たり前だが、そのためには今かけている眼鏡を外さないとできない。そうなるとド近眼のS弁護士には、鏡に映った自分の姿もボケボケで、どれだけ似合っているのか分からないのだ。

 思えば高校の身体測定のときに、視力検査で、視力検査表の一番上の文字を読むように言われた高校生Sは、必死に眼を細めて読もうとしても、どうしても解読できず、「わかりません・・・」と返答した際に、同級生から「え~、あんなに、でかい文字も見えへんのか!」というどよめきが起きたこともそういえばあった。
 そこから、検査表の文字が読めるまで視力検査表に近づくよう指示されるのだが、かなり近づいてもまだ「わかりません・・」という高校生Sの返答に、さらに大きな周囲のどよめきが起きたことは言うまでもない。別に屈辱を感じる必要はないのだが、高校生というのは結構残酷なもので「見えね~んだってよ。」と笑い出す同級生もいて、何故だかかなりの屈辱感を感じたようにも記憶している。
 ちきしょう、俺だって好きで「見えない」って言ってんじゃねーんだよ。と思ったものだが、根性出したところで検査表の文字が読めるようになるわけでもない。そういうわけで視力検査は結構ストレスではあった。

 さて、話を戻すと、フレームの選択である。
 前述の通りド近眼のS弁護士には鏡に映る自分の姿もかなりのピンぼけでしか、わからない。

「う~ん、似合ってますかね~」
「もちろん良くお似合いですよ~」

という、量販店のおじさんの営業トークに抗う術はもはやS弁護士には残されていない。
 こうなれば、売れ残りを売りつけられようが、どうなろうがわかりゃしないが、ここは大阪、古来より商人の街。売り手良し、買い手良し、世間良し、の三方良しは近江商人の心意気だったと思うが、商人であるならそのくらいの心意気は、あるだろう。それに、この量販店は、安心価格・懇切丁寧も標語に上げているようだから、信じてみてもええんやないか・・・。心の中で迷いはあったものの、結局選択肢はあまり残されていない。

勧められるままに、「じゃあ、これで良いです」と、フレームを選び、レンズはできるだけ薄いタイプを選んで、さあ注文だ。
出来上がりは一週間後。

一週間経って、少しドキドキしながら量販店に向かう。
早速始めての遠近両用眼鏡を装着してもらう。

??

なんだか、眼鏡の左右の周縁付近が歪んで見えるな。
足下がなんだか普段より遠く見える気がするぞ。
これは確かに、階段とか危ないかもしれないな。
このように、違和感は結構あった。

しかし、眼鏡レンズの中心部分においては、そんなに歪んではいない。眼鏡上部で遠いところを見つめると今までよりはっきり見える。一方、視線をだんだんと下げていき眼鏡の下部で近いところを見ても、そんなにきつくはない。

つまり、遠いところも、近いところもシームレス(つなぎ目なし)で緩やかに、無段階に見える仕掛けになっているのだ。昔の古本屋の親父のように、眼鏡の下半分に老眼用レンズがついていて、明確に遠用部分、近用部分と分かれているわけではない。無段階に変化するということは、距離に応じた最適なレンズ屈折部分が視線のどこかに存在するということとほぼ同義だ。これは単焦点眼鏡にはない利点だろう。恐るべし現代の遠近両用レンズ。
ある意味感動だ。

 このように、昔の遠近両用レンズを想像していたS弁護士は、技術の進歩に驚かされることになったのだった。

 しかし、未だに読書や裁判用書面の起案の際には、以前からの単焦点眼鏡の方が使いやすい気がして、S弁護士はそれを用いている。
せっかく便利な遠近両用眼鏡を入手した物の、S弁護士が慣れるには、もう少し時間が必要のようである。

初めての遠近両用眼鏡~その2

眼鏡の購入といえば、昔は●●時計店という時計や宝石を売っているお店の眼鏡部で、一本3万円以上もする眼鏡を買うのが普通だったように記憶している。よくよく考えてみると、時計店で宝石や眼鏡を扱うという形態が世界的には珍しいようにも思うが、昔はそれが当たり前だった。そこでは、フレームを選んだ後、視力を計り、レンズを選択して作成してもらうものだった。注文してから数時間かかることもあったように記憶している。

そもそも、S弁護士の眼鏡歴は長い。小学1年生当時の視力は2.0だったのに、何故か急に悪くなって小学5年生頃にはもう近視用の眼鏡をかけていた。

父親にも、母親にも近視の傾向はなく、遺伝ではないと信じ切っていた両親からは、テレビの見過ぎではないかとあらぬ疑いをかけられたりもしたものだ。

確かにテレビにリモコンがない時代に、親がやってくるとすぐにスイッチを切って勉強しているふりをする必要があったため、かなり画面の近くでテレビを見ざるを得なかったという、今どきの子供には理解しがたい理由もあるにはあった。

しかしその後、弟や妹も近視傾向があることが分かり、S弁護士だけがテレビを見過ぎているという疑いはそのうち薄れていった。

それはさておき、眼鏡や自動車のタイヤのように滅多に買い換えないものは、えてして価格が高くなるものだ。買い換え需要がそんなにない以上、限られた需要で経営を賄わざるを得ないから、必然的に1個あたりの利益を上げざるを得ない。

S弁護士が弁護士に成り立ての際に、ボスの受任した大きな眼鏡屋問屋さんの破産管財業務を手伝わされたが、眼鏡小売店の店長達はこぞって、アフターサービスや問屋さんの問題を非難して、なかなか売掛金を支払ってくれなかった。また、時間のある(悪い言い方をすれば暇な)店主が多いらしく、担当者のS弁護士に電話をかけてきて散々問屋さんの問題に関する非難と、売掛金を請求される理不尽さを訴える人もかなり多くいたものである。そんなことに時間を割いていても眼鏡店の経営が成り立っていたのだから、牧歌的な時代だったのかもしれない。

最終的には、合計120件以上の売掛先に訴訟を提起し、10件以上の売掛先に差押をかけ、かなりの部分を回収したのだが、眼鏡屋さんの店主との攻防は本当に時間を割かれるものだった。

ところが、いまは眼鏡も量販店の時代で、フレームとレンズがセットで幾らという販売形態の方が多いようなのだ。まあ、その方がお値段も明快だし、買いやすい。量販店だから品質が悪いという噂もない。

それなら、量販店でも問題はあるまい。

処方箋を持って、S弁護士は、勤務先近くの眼鏡量販店の一つに向かったのだった。

ゴルフの1人予約における、一人目女性無料制度

 ゴルフは通常、3~4人が、一緒にプレーすることが多い。

 ところがゴルフをしたくても仲間や友人が3人集まらないこともある。そのような場合であっても、ゴルフをしたい人のために、一人でもゴルフをしたい人をネットで集めてゴルフをさせるよう取りはからっているのが、一人予約制度である。

 実際にS弁護士が利用してみると、なかなか良い制度であって、最初の恥ずかしさを乗り越えれば、初心者だってなんとかやっていける。みんなゴルフ好きなので話題にも事欠かないし、ゴルフを楽しみに来ている人ばかりということもあり、身勝手な方には、ほとんど会ったことがない。

 ゴルフ場にとっても、ゴルファーにとっても、メリットのある制度であって、考えたやつはえらいなぁと思う。

 現在では、バリューゴルフ・楽天・GDOなど、いくつかのサイトが一人予約制度を取り入れている。大体予約方法は似たようなかんじで、ゴルフをしたい日時とゴルフ場の地域を選択して検索すれば、一人予約を提供しているゴルフ場が表示され、その中から選択して申し込むという方式である。

 ところが、一つ気にくわないことがある。

 ゴルフ場によっては、一人目の予約者が女性である場合は、その女性のプレー料金を無料に設定しているところがあるのだ。

 そのようなゴルフ場の受付欄には、一人目のところには女性がダーッと予約を既に入れており、後に続く男性参加者を待ち受けている状況になっていることが殆どだ。

 重ねていうが、これが、S弁護士には気にくわない。

①まず、予約者を集めたいのなら男女問わず一人目を半額にする、プレー料金を下げる等の方法もあるはずで、特に一人目女性のプレー料金を無料にする理由はないように思われる。仮に一般的傾向として女性の収入が少ない場合が多いから、それに対する配慮だというのであれば、収入が少ない男性にだって割引すべきだから筋が通らない。そんなこんなで、差別的取扱に感じられて理不尽だとS弁護士は思っている。ついでにいうなら、男女差別撤廃を叫ぶのなら、女性が不当に有利に扱われている場合も、その有利な扱いを撤廃すべきと主張するのが筋だと思うが、そのような主張はあまり男女差別撤廃論者から聞いた記憶がないような気がする。仮に、有利なところは黙ったままで、不利なところだけを是正しろというのであるなら、ちょっと狡いのではないかと思ったりもする。

②そして、女性のプレー料金を無料にしたところで女性にゴルフ場を利用させてプレーさせるわけでから、施設の利用に関する負担が当然生じるわけで、それをゴルフ場が全て負担するとは思えないから、おそらく当該女性分の負担は、一緒にプレーする男性に負担させられるような仕組みになっている気がする。仮にそうだとすれば、なんで他人の楽しみの対価を自分が負担しなきゃならんのかが理解できない。

③なにより、「女性が入っているから男性も釣られて予約するだろう、どうせあなたは女性とゴルフしたいんでしょ?」というゴルフ場側の策略にみすみす引っかかったようで嫌だし、他人からスケベ心混じりでゴルフに来たと見られるようならば、心外だ。

④これは勝手な思い込みであまりいいたくないのだが、やはりスポーツにおいては、女性に負けたら恥ずかしいものだ、という変な思い込みが、S弁護士の心の中のどこかにあるようなのだ。もちろん、ゴルフは体力だけの勝負ではなくハンディやレディースティなど女性が男性と対等に戦える配慮もなされているし、始めてまだ2年のヒヨコが何をほざいているんだという面もあるのだが、それであっても女性に負かされると何故だか悔しい。

 このような理由、特に③、(少しは④?)の理由から、S弁護士は一人目女性無料のゴルフ場での一人予約は可能な限り避けるようにしている。

 しかし、一人予約の方とのラウンド中の昼食休憩時に、時折このような話題になるのであるが、中には、一人目予約の女性が20歳台、30歳代なら許せる、と仰る御仁もおられたりする。

 だとすれば、ゴルフ場の策略としては一人目女性無料の制度は、あながち間違っていないのかもしれず、S弁護士としては、女性とのことになると男性はやっぱり馬鹿なところがあったりするんだなぁということを再認識しつつ、そこが残念でもあり、またおかしかったり

不思議な体験~2

 前回のブログにも書いたように、霊的なものについては極めて鈍感なS弁護士だが、どうにも説明が付かない不思議体験が、実は、もう一つある。

 男子学生なら誰しも、女性と二人きりでドライブしたいと思うものだ。しかも、できれば、夜中の方がなぜか嬉しいものである。もちろん学生Sも例にもれなかった。

 京都の学生がドライブするコースなら、たくさん考えられるが、ワインディングを楽しむのなら、山中越え・途中越えの他に、周山街道という手段もあった。周山街道は国道162号線が京都市から北へと伸びていくもので、そのまま日本海まで行けてしまうルートである。

 当時読んでいたバイク雑誌で、周山街道には幽霊が出るという噂もある、という記事も読んだ記憶もあったが、もちろんそんなことは信じていなかった。

 さてある日の深夜、学生Sは、お付き合い中の女性を助手席に乗せて、周山街道を気持ちよく北に向かって走っていた。確か、夜食でも食べようと誘ったかなにかで、あまり北に走りすぎると京都市内のラーメン店がしまってしまうかもしれず、ある程度のところでUターンをして、京都市内に向かって走っていた時のことだった。

 もちろん深夜なので、対向車はほとんど通らない。対向車があってもライトの光でかなり手前から気付くので、以外に安全なのだ。たわいもない話をしながら、学生Sは気分よく、制限速度+αのスピードでコーナーをクリアしていくのを楽しんでいた。
 おそらく学生Sは自分の大したこともない腕前に酔っており、助手席の女性は横Gをかけられすぎて車に酔っていたのかもしれなかった。

 トンネルを越えて、すこし進んだところの左カーブ。
 スピードがそこそこ出ていたためか、学生Sが、やや膨らみ気味にカーブを曲がったその瞬間だった。

 突然、白い車が目の前に現れた。
 やばい!
 直感的にそう思った学生Sは、「うわっ」と叫び声を上げ、助手席の女性は「きゃっ」と声を上げる。学生Sは、さらに左にハンドルを切ってかわそうとする。

 幸いにも、白い車はそのまま、至近距離を対抗車線をすーっと通り過ぎていった。
 運転手は、やけにしろっぽい顔をした、血の気の薄い印象の男性だったが、真っ直ぐ前を向いてこちらの挙動など気にしていない様子で、そのまま通り過ぎていった。

 危なかった~。

 衝突を避けられたことに安堵して、すこしスピードを緩めつつ、車の時計を見ると2:22だった。
 しかしである。
 何か、違和感があった。何かが変だと、学生Sの直感が叫んでいた。

 すこし運転を続けているうちに、別の車がエンジン音を響かせて対抗車線を通り過ぎていった。学生Sは、そこで初めて異常な事態が生じていたことに気付くことになる。

 つまりこうなのだ。

 いくら学生Sの運転が、同乗者を乗り物酔いさせるようなものであっても、無茶はしないのだ。対抗車が来るのを分かっていながら左カーブをやや膨らんで走行することなどは、絶対にしないのである。

 それにも関わらず、左カーブをやや膨らんでしまうスピードで走行したのは、学生Sは、対抗車線にライトの明かりが全くなかったことから、対向車が来ないことを確信していたからなのだった。

 つまり、対向車は、ライトを点灯させずに、走行していたのだ。そして、そのことに、そこで初めて気付いたのだった。

 「ちょっと、さっきの危なかった車、ライト点いてなかったよな」と確認してみたところ、両手でシートベルトを握ったまま、助手席に座っていた女性は2~3度肯き、間違いないという。怖がり、嫌がる女性を説き伏せつつ、怖いもの知らずの学生Sは、現場に戻って自動車が来ないことを確認の上、ライトを消してみた。

 何も見えない漆黒の闇である。

 ちょうどその現場は、街灯が途切れており、道路を照らす明かりが全くないのである。しかも山の中であり、月も出ていない深夜である。道路の中央線ですら分からない位なのだ。
 無灯火では、危なくてとても自動車を運転できるような状態ではない。

 また、自動車がすれ違う際には何らかの音が聞こえるものだ。風を切る音やエンジンの音などである。
 しかし、思い返してみても、その白い車とのすれ違いでは、そのような音を聞いた記憶がどうしても見つからないのである。

 周山街道では、妙に血の気の薄い男性が、運転席で真っ直ぐ前を見据えたまま、音も立てずに漆黒の闇の中を、無灯火で白い自動車を走らせている・・・・・?

 しかし、カーブの多い周山街道を深夜、街灯もない闇の中でライトもつけずに自動車を走らせるなど、現実的には不可能である。

 この一瞬のすれ違いは、どうにも説明できない体験として、未だにS弁護士の記憶には残っている。

不思議な体験

 もともとS弁護士は、たぶん霊感なんか一切ない方であり、座敷わらしに会っていたいなどという不埒な願望を持ちながらも、霊的なものについては極めて鈍感な男であると自負している。

 ただ、説明の付かない不思議な夢は、体験したことがある。

 ある日、司法試験の受験勉強を夜通しやっていて疲れてしまい、夕方に仮眠を取っていた時のことだ。

 ふと気付くと、深い蒼色に充たされた世界に受験生Sはいた。蒼くて暗いのだが、ド近眼の受験生Sにも、なぜか遠くまで見通せる。
 空間それ自体が蒼い色に染まり、その蒼い空間それ自体からぼんやりと明るさが出ているような不思議な世界だった。

 もちろん、当の本人は夢の世界なので、そのときは、なんの不思議も感じていない。

 どうやら受験生Sは、長く続く大きな階段の途中に腰掛けているらしい。
 その、階段の両脇には杉の巨木が列をなして植わっている。樹齢にして何百年も経過していることがなぜだか、受験生Sには感じられる。

 そして、その階段を、続々と人が上ってきて、ゆっくりと受験生Sのそばを通り過ぎていく。

 なぜか全員がうつむいて、黙り込んでいる。

 うつむいて黙ったまま、黙々と、階段を上ってくる。
 思い返してみても、その人達の顔を見たような記憶がない。

 しかも、全員が白い着物を着ているのだ。

 これだけの人数が歩いているのだから、人のざわめきや衣擦れの音が聞こえても良いはずなのだが、なぜか、音が、全くといって良いほど聞こえない。

 振り返って上の方を見てみても、やはり白い着物を着た大勢の人がずっとつながって階段を登っている。薄い霧がかかっているような感じがして、上の方は遠くまでは見えない。

 というあたりで目が覚めた。

 目が覚めた受験生Sは、夕食を一緒に食べた友人に、この不思議な夢の話をした。友人は、ひとしきり受験生Sの話を聞いた後、「変わった夢やね。」と大して興味もなさそうに言った。

 そして、夜になり受験生Sは寝床につき、寝入った。
 
 ゴーッ

 妙な音を聞いた気がして、受験生Sは目を覚ました。
 ベッドの中で耳を澄ましてみたが、しかし、現実には、音は聞こえないようだ。
 「やれやれ、最近は神経が高ぶっているのかな」と思ってもう一度寝ようとしたその瞬間だった。

 大きな揺れが襲ってきた。

 大きな被害を出した阪神淡路大震災だった。

 「後からおもえば、あのとき不思議な夢を見ていた」と言う人はよくいるが、受験生Sの場合は、その前日に友人と不思議な夢について話していたという点で、地震の半日前に不思議な夢を見ていたことについての証人がいることになる。

 その頃は、精神的に不安定だったのか受験生Sの見る夢は、なぜか変なものが多く、中国の飛行機が落ちて電話を探す変な夢を見たと友人に話した数日後に中国の飛行機が墜落したりして、我ながら予知能力があるのでは、と少し疑ったこともあった。

 しかし、もちろんそんなことはなく、それっきり何かを暗示するような夢は見なくなっており、やはり自分に霊感を感じることはない。

 けれどもごく希に、その友人と震災の前日に見た夢の話を話題にして、不思議なこともあるものだ、と夢の話題で話すことは、未だにあったりする。

ゴルフのこと~番外編3

(続き)

 昼食時も、話題はゴルフだ。まあ考えて見れば当たり前で、ゴルフ好きがやってきて初対面で話すのはゴルフの話題くらいしかないだろう。しかし、S弁護士は表面上はゴルフ談義に興じながらも、ハーフ45の出来に、躍る心を抑えきれず、秘かに自分に暗示を掛けていた。

「よろこぶな、俺。まだハーフが残っている。ベストスコアの可能性はあるが、欲を出さずに、プレーに集中するんだ。」

 以前、ハーフ41という好スコアを出しながら、後半64と崩れたこともあった。食事のあとは何かが変わってしまうことも多いのだ。しかも経験上、悪い方向に変わってしまうことの方が多い。

「落ち着け俺。今までのペースを維持するんだ。これまで何度も落とし穴に落ちてきたじゃないか。」

普段はだらだらすることも多いS弁護士だが、今回は、柄にもなく、珍しく、昼食後にも練習場でアイアンとパターの感触を確かめたりもした。

1番(370Y・par4:ボギー)

右ドッグレッグのかなりの打ち下ろしコース。ショートカットを狙うと右の山のOBゾーンが危険。

c01[1].gif

1打目 他のお三方のナイスショットに引っ張られるように、ど真ん中にナイスショット、傾斜もあって残り110Yくらいまで転がる。

2打目 池にびびって、右のサブグリーンにオン

3打目 ウエッジでオン

2パット

ボギーは私にとって上出来だが、還暦さんは8m程のパットを沈めてバーディ!前半同点だった還暦さんに2打の差をつけられた。まあ、そもそもの腕が違うのでしょうがない。

「凄いですね!糸を引いたように入りましたね!」とS弁護士が感想を述べると、2打差に突き放して余裕が出たのか、還暦さんも「実は糸引いてました(笑)」とおどけてくれる。S弁護士も調子に乗って「ちょっと、ボール、改めさせてもらいます(笑)」と返したりする。

2番(350Y・par4:バーディ)

グリーンが見えない左ドッグレッグのホール。左に曲がったあたりからはそこそこの傾斜で左下方向へ下っていくため、2打目は打ちにくいことが多い。

c02[1].gif
1打目 ドライバーが、スコンと変な音を立てた。やや右に出てさらにスライスしていく。それを見て本間さんが「こすったな。まあ大丈夫やけど。」とぽつり。かなり右に出たと思ったが、ナイスキックだったらしくフェアウェイ真ん中にボールが止まっている。

2打目 9アイアンでピン手前にオン

長いバーディパットが入っちゃった。S弁護士、思わずガッツポーズ。「おいおい、今日は、えらいことになるんちゃうか~」と大御所さん。

3番(118Y・par3:ボギー)

打ち下ろしのショート。左はすぐOB。グリーン脇の大きな樹には注意が必要。

c03[1].gif

1打目 先程のバーディで、何と最初に打つことに。クラブ選択で迷っていたら、大御所さんが「あんなあ、S、迷ったら攻めやで」。この一言で、攻めのクラブに変更。変更したら変更したで、大御所さんが「まあ、攻めすぎてもあかんけどな~。」 お~い、一体どっちやねん!

 オナーってのは名誉って意味だよな~。確かにこのお三方相手にオナーって凄いかも。と自分を誉めていたら、油断したのかティーショットは大きく左へ飛んでいく。まずいそっちはもろにOBゾーンだ!!「ありゃ、巻いたな」「はよ落ちろ」「耐えろ」とお三方が順番に一言ずつ応援してくれるが、物理法則には影響しない。しかし大きな樹にかすって勢いが削がれ、グリーン左のカート道付近にボールは落下してその場に止まる。あやうくOBになりかけた。

2打目 58度でオン

気合いの2パット、ボギーで切り抜ける。

4番(392Y・par4:ボギー)

大原で最も難しいホール。ティーショットが左だとすぐOB、右の山の斜面は安全そうに見えるが苔のような地衣類で覆われている部分があり、埋もれてしまう場合もあって、出てこないことも多い。飛びすぎるとクリークにはまる。

c04[1].gif

1打目 ドライバーが今日一の当たり!特ティ付近までのナイスショット。ここまで来れば2オンが狙える。しかし、ここはハンディキャップ1のホール、以前何度も二桁を叩いて沈んだところだ。アイアンできざむ安全策もあり得るが・・・と弱気になりかけたときに、思い出したのが大御所さんの「S、迷ったら攻めや」のお言葉。よし、行ったる!狙うは2オン。

2打目 風がフォロー気味であったので7Wを選択。まずまずのショットも届かず。大御所さんから「方向は悪ないが、当たりが薄かったな」との指摘有り。

3打目 7Iで転がしてオン

2パット

最難関ホールだからボギーでも価値はある。

5番(154Y・par3:パー)

グリーン手前に池と川があるショート。グリーンは奥に乗せると、止まらない場合アリ。

c05[1].gif

1打目 UT7でピンへ真っ直ぐ。我ながら今日のゴルフは凄いかも。しかしオンしたのは、最も避けなければならないピンの奥。本間さんが、「ここは乗っても奥やったらアウトと同じやで、でも頑張りや」とどっちかよく分からない励ましをくれる。

2打目 「S、ここもバントや、絶対にバントやで。入れに行こうなんて思うな!」という大御所さんのアドバイスに従い、1パット目は距離だけ合わせにいく。届かないかと思うほど僅かに触っただけだが、するするとボールは進んでいき、カップを少し通り過ぎて止まる。

なんとか2パットで切り抜ける。

6番(267Y・par4:パー)

短めのミドルホール。フェアウェイが高くなっているため、グリーンは見えないがワンオン狙いの人もいる。

c06[1].gif

1打目 「おいおい、Sさん今何打や、結構ええ感じにきとるんとちがう?」と還暦さんが指摘する。「あ~、スコアに触れないで下さい。気にしたら欲が出てダメになりますから~!」とS弁護士の悲鳴。ティーショットはドライバーがスライスしつつも落ちたところは、ど真ん中。

2打目 アイアンで、グリーン端にオン

2パット

7番(502Y・par5:ボギー)

少し打ち下ろしたあと延々と打ち上げていかなければならないホール。

c07[1].gif

「上がり3ホールやから、Sさん、こりゃ~ええスコアでるンと違う?」本間さんにも云われてしまった。「ダメったらダメです。スコアにふれないでくださ~い。気にしたら崩れます!」と口止めして、ティーショットへ。

1打目 ドライバーが真っ直ぐ左に出て、左の山へ。左の山はOBだ。「あ~やっちまった。だからスコアに触れて欲しくなかったんだよぅ。」とS弁護士は心の中で恨み節全開!

 ところが、ついているときはどうやってもついていることがある。山中に消えゆくはずの白球は、カコ~ンと暢気な音を発して木に当り、ラフまで落ちてくるではないか。しかも落ちたところが修理地で、ニアレストポイントからドロップするとウッドが振れるライで止まる。

2打目 FW5で良い当たりするも、右ラフへ。しかしラフは深くない。十分ウッドが振れる。

3打目 FW7で良い当たりするも今度はグリーン近くの左ラフへ。

4打目 ウエッジでのせる。広いフェアウェイを一度も踏むことなく、グリーンまで来てしまった。

2パット

8番(350Y・par4:ボギー)

打ち下ろしのミドルホール。左側は広いが窪地になっており、魔女の谷と呼ぶ人もいるとのこと。

c08[1].gif

1打目 ドライバーがやや右に出るも、右ラフでとまる。

2打目 左足下がりの場合は右に出やすいということを忘れていて、真っ直ぐ狙ったため、アイアンが右に出て高い木に当たる。OBかと思い、暫定球まで打ったが、ラフで止まっていてセーフ。

3打目 ここが勝負!で入念に素振りをして、58度で我ながらナイスオン。

2パット。

9番(454Y・par5:ボギー)

クラブハウスの方向へ、ずっと打ち上げていくロングホール。左は1番ホールでOB。右はやや広いが、遠回りになる。

c09[1].gif

ここで前の組が進むのを待っていると、大御所さんが、

「今ちょうど、Sと同点や。お前なんかに絶対に負けられん。どんな手を使ってでも勝つ!(笑)」と勝利宣言。

「どんなド汚い手を使ってでもですか!?(笑)」

「そうや(笑)!」

「分かりました。でもド汚い手が不法行為に該当したら、裁判沙汰にさせて頂きますからね!(笑)」

「うわっはっはっはっ」

というやり取りがあって、その後、ゴルフの競技では、ルールスレスレの汚い手を使う人が如何に多いかという話をお三方から聞く。ゴルフは面白いスポーツなのに、なんだかゴルフを冒涜するような人達がいるんだな、残念だ。

さて1打目 ドライバーがややスライス気味ながら、方向は真っ直ぐ。正面やや右のラフまで。「お~、こりゃ~ひょっとするで」と本間さん。

2打目 FWトップ気味にあたり、100Yくらいしか飛ばないがフェアウェイ。大御所さんは2打目がOBゾーン付近に飛んでいき、微妙な情勢。

3打目 他人を気にしたのがまずかった。FWでグリーンを狙うも左にそれて、右グリーンなのに左グリーンのガードバンカーにつかまる。今日初めてのバンカーだ。もとよりバンカーは大の苦手。主観では、脱出できないか、ホームランか、を併せれば90%を占めている印象だ。ここまで来てついに後門の狼に捕まったか?

「う~、試練や。試練やぁ~!」思わずうめき声が出る。

4打目 バンカーショットをミスって、ここで大叩きしたら、最悪だ。南無三!うまくでてくれ!58度で打ち、バンカーから出たものの、エッジ近くまで。良かった、大怪我は免れた。。。

5打目 パターで寄せるが、エッジ付近の芝の抵抗と傾斜もあって4mほど残す。寄り切らない。「うん?大怪我せんように、わざと狙わずに打ったの?」と還暦さん。「いや~そんな余裕ないです。一所懸命やって、こうなっちゃってるんです。」

しかし、登りだったので、弱気に負けないように気合で打ったら、入っちゃった。S弁護士、思わず万歳。

「お~、やりおったな、ボギーなら86やで。」と大御所さん。

その後、お三方から「もう、ゴルフやめられへんな」、「あと3年はベストスコアは更新できへんな」、「今日の帰りは事故だけには気をつけるンやな」とさんざんひやかされたが、初の90切りで素直に嬉しかった。

お三方、楽しい時間を有り難うございました。

ちなみに、大御所さんとの勝負は、大御所さんの第2打がセーフで、大御所さんは9番ホールパー。1打差でS弁護士は及ばなかった。

(番外編終了)

ゴルフのこと~番外編2

(続き)

13番(280Y・par4:パー)

右ドッグレッグ。距離は短いが、フェアウエイがカマボコ型に盛り上がっていて、ティーからグリーンは見えず、狙い所が難しい。

c13.gif

前がつまっていて待ち時間もあったことから、70歳台の方(以下「大御所さん」と呼ぶ。)、60歳台の方(以下「還暦さん」と呼ぶ。)、58歳本間ゴルフのクラブセットをお持ちの方(以下「本間さん」と呼ぶ。)と、いろいろなお話しをする。

「ゴルフやり始めて2年位ちゅうのは分かったけど、ベストスコアはなんぼや」と大御所さんに聞かれ「96です。」とS弁護士は正直に答えておく。見栄を張ったところで実力が上がるわけではないし、そもそも一緒にプレーすればすぐ実力はばれてしまうからだ。大御所さん、かっかっと笑って、「まだまだやな~」と一言。こういう豪快な感じのオッチャン、嫌いじゃないぞ。

還暦さんは、見た目お若く到底60歳には見えない方。本間さんはクラブをきちんとフィッティングされるなどゴルフに真剣な方。大御所さんは結構豪快さん。お三方とも、競技などに参加されているらしい。最初は怖そうな感じに思ったが話してみると、なかなか面白いし、やっぱりゴルフがお好きなんだなぁというのがよく分かる。

閑話休題

グリーンが見えなくて、狙い所が分かりにくいですね~とS弁護士が話しかけると、大御所さんと本間さんが、「フェアウエイからちょこっとだけ見えている木の先があるやろ。そこが狙い目や。」とピンポイントで教えてくれる。そもそも狙った場所に打てるなら苦労はしないが、せっかく教わったのだからそっちを狙うつもりでティーンググラウンドにあがる。

1打目 ドライバーがやや左に出るもスライスがかかってど真ん中

2打目 ウエッジでグリーンエッジまで

3打目 パターで寄せて

1パット

「パーか、意外にやるな」とは大御所さんの一言。

14番(327Y・par4:トリプルボギー)

ひたすら打ち上げていくホール。距離感が難しい。どちらのグリーンでもガードバンカーのアゴが高く、入れたら結構厳しい。

c14.gif

1打目 ドライバーがど真ん中

2打目 FW7でグリーンオンを狙うも、右に出てグリーン近くのラフへ。暫定球を打とうとしたが大御所さんと本間さんから「あそこならセーフ」とのお言葉を聞いて一安心。しかし、喜んで行ってみると、ボールとグリーンの間に立派な木が。。。

3打目 木が邪魔になって狙えない。誰がこんなところに木を植えたんだ~!と見当違いの文句を言いながら、7番アイアンでグリーンの右端を狙って転がすもグリーンに届かず。エッジまで10Y位残す。

4打目 58度で打つも、飛びすぎて、乗ったところはピンのだいぶ奥。

「ここは奥につけたらあかんのや・・・」と大御所さん、「そりゃ~難しいところやで」は本間さん。「ちょっと、難しいかもしれんね」は、還暦さん。お三方の意見、「難しい」で、そろい踏みかい!

「どうせなら、打つ前に言ってくれ~!」とは、S弁護士の心の叫び。

お三方の予想どおり、やはりの3パット

「う~、そろそろ馬の脚が見えてきたか」とは、S弁護士の独り言。

15番(Bグリーン・145Y・par3:ボギー)

打ち上げのショートホール。傾斜がきつすぎて、途中の池は、ほぼ視界に入らない。またグリーン奥に載せるととても難しいが、グリーン手前だと傾斜がきつく、ボールが転がり落ちてしまう。

c15.gif

1打目 UT7で真っ直ぐ飛ぶも僅かにグリーンに届かず、きつい傾斜で5m程転げ落ちてくる。

2打目 58度で打つも、ピンの奥へ。

「S、ここはバントやで、入れに行ったらあかん。絶対バントや。それからな、グリーンは、難しい思たらあかん、難しいんやなくておもろいと思うもんや。」という大御所さんのアドバイス。そっか、「難グリーンは、面白いのか。」何かストンと落ちた気がした。大御所さんのアドバイスに従い、1パット目は慎重~に触るだけ、で距離だけを合わせる。

勝負の2パット目は、外れかけたものの、カップの淵をくるっとまわって入ってくれた!

「ラッキー!今日はついてる!」

16番(298Y・par4:パー)

距離の短い右ドッグレッグ。ワンオンを狙いすぎると右の山に打ち込むおそれあり。

c16.gif

ティーンググラウンドで、前の組が進むのを待っていると、還暦さんが「Sさんには負けへんで~」と素振りをぶんぶん。ゴルフカートには、打数を記録するタブレットが付いていて、それで現在、誰が何打なのかがすぐ分かる仕組みになっている。

還暦さんは出だし2ホール目にOBがあって、何という僥倖か、S弁護士の方が一打だけスコアが良い状態でここまできてしまっているのだった。確かに、ヒヨコがオオカミの前をピヨピヨしてたら、目障りだろうけど、ヒヨコなんで許してくれてもいいじゃない。

「そんなん、すぐ崩れますよ~。還暦さんに勝てるわけないやないですか~」と正直に心情を述べつつも、S弁護士の内心はこうだ。「エライことになってきたなぁ~。上手い人に本気出されたら、どないなるんやろ。」

1打目 その心理的動揺が出たのか、ドライバーはスコンと妙な音を立てた。ボールは右に出て、スライスしていく。「うわ~、やっちゃった~。」思わずS弁護士は言葉を漏らす。しかし、神はまだS弁護士を見捨ててはいなかった。右方向に大きくそれたボールは、山の斜面で、ぽーんと左に大キック(大きく跳ねること)!まさにナイスキックで、斜面からラフまで出てきたのだ。

2打目 この幸運を生かさねば!と気負ったせいか、アイアンで打った第2打は、グリーン左に外れる。

3打目 ウエッジでグリーンに乗せるが、寄せきれない。3~4mは残っている。

 しかし、幸運は続く。大御所さんの第2打が、ほぼ同じ場所で、僅かにカップより遠い位置に落ちてきたのだ。グリーン上のラインは大御所さんのパットが教えてくれる。見ていると、僅かにフックだが思ったほど切れないことが分かった。

「S、ラインを見せたったんやで、わかったやろ」 「うわっかりました!」

緩むなよ~と暗示を掛けつつ、3~4mのパットをほぼ大御所さんのラインどおりに打って、カップイン。

「パーか、しぶとい」と還暦さんの声が聞こえたような気がした。

17番(468Y・par5:ボギー)

ずーっと打ち上げのロングホール。左右ともOBが迫っている。

c17.gif

1打目 ドライバーがやや左からフェードしてほぼ真ん中へ。我ながら、こんなにドライバーが真ん中へ飛ぶ日は少ない。前回のゴルフではどうやっても真ん中にだけは飛んでくれなかった。それから練習場に行ったわけでもないのに、この調子。全くゴルフは分からない。

2打目 FW5が会心の当たり。ピキーンと金属音を鳴らして、中古で購入した8年落ちのツアーステージViqFW宮里藍ちゃんモデルが仕事をした。「おぉ!ナイスやんか!」と大御所さんからも一言あって、気分は上々、小さくガッツポーズ。

3打目 もしこれでグリーンに乗ったら、次はバーディパットになるかも!と色気を出してUTでグリーンを狙うも、アドレナリンが出過ぎたか、グリーンオーバー。グリーン奥の斜面までいってしまう。

4打目 グリーンが極度の受けグリーンなので、ちょっと大きく打つと、あっという間にグリーンから転げ落ちる危うい状態。ピンチ!グリーン奥の斜面から58度で打つも、びびっていたのかエッジまでしか届かない。

5打目 エッジからパターで距離を合わせる。これも大御所さんが先に打って、距離感を見せてくれていたのが大いに参考になった。我ながらナイスタッチで距離感はばっちりあっていた。但しカップの真横から微妙な距離が残る。

微妙だったが、「パターを真っ直ぐ引いて真っ直ぐ押し出す」と3回唱えて自己暗示を掛けて、1パットで沈める。

18番(380Y・par4:ダブルボギー)

右ドッグレッグだが、ドライバーだと正面を突き抜ける危険がある。左は白杭でOBだが、右は途中まで黄色杭でローカルルールがある。

c18.gif

1打目 大御所さんがやや左真っ直ぐに出てOB。左は怖い・・・という気持ちが消えないうちに打ったせいか、ドライバーから放たれた打球は大きく右に曲がり、黄色杭のある山中に消え去った。「ありがとう、キラクレノ白色2番、これまでいいスコアを出してくれて・・・」などとボールに対する感傷を述べる余裕などS弁護士にはなく、次をどうするか考えなくてはならない。

大御所さんは、特設ティを使わず打ち直しを選択。

「Sはどうするんや」と大御所さんに聞かれる。

 これは多分、一緒に打ち直そうぜ、ということなんだろうけど、今日の調子だとベストスコアもあり得る。ここでの打ち直しは明らかに危険だ。

 実は大原パブリックのローカル・ルールとして、1打目が黄色杭を超えた場合は特設ティから3打目として打てるという超お得なルールが存在する。S弁護士もそんなお得ルールがあるとはこの間まで知らず、そのとき同伴した方から教わったのだ。

せっかくの大御所様からのお誘いかもしれないが、背に腹は代えられない。

「いいえ、黄色杭なので前から3打目で打ちます!」というと、大御所さんが

「お前、それは進行早めるためのもんやぞ。そんな卑怯なルール、使うたらあかんやろ。」と笑いながら圧力を掛けてくる。

卑怯かもしれないがルールはルールだ。そもそもプレ4だって進行を早めるためのローカルルールなんだし。非難されるいわれはない!

理は吾にあり!

「これは、大原で認められているルールなんですから、それで行きます!」と強気に突っ張った。他の二人も笑いながらこのやり取りを見ている。なかなか良い感じのパーティじゃないですか。なぜか一緒にゴルフをやると仲良くなれることが多いような気がする。

 ちなみに、お三方によると、どうやらこのお得ルールは、公式の試合では認められていないらしい。でも今日は公式試合ではないもんね。

3打目 特ティからアイアンで打つも、大御所さん曰くの卑怯なルールを利用した報いか、グリーン左に外す。

4打目 58度でふわりと揚げてグリーンオン

難しいラインを読み切って入ったかと思ったが、カップにけられて2パット。

ここで前半修了。

数えてみると、45打。単純に後半も同じペースでまわれば、取らぬ狸の皮算用だが、90だ。これはひょっとするかもしれんが、ゴルフは上がってみなければ分からない。

「おお、今日はベストスコア更新と違うか」とお三方に冷やかされながら、昼食休憩へと移った。

(続く)

ゴルフのこと~番外編1

 ゴルフのこと~7の続きを書くべきなのですが、昨日、ベストスコアが出ましたので、嬉しさのあまり備忘録を兼ねて、そのご報告をさせて頂きます。

なお、ゴルフコースのコース図は、京都大原パブリックコースのHPより引用致しました。

(本編開始)

もともと、S弁護士は安定した球筋ではないため、右や左に打球がぶれる。もちろん素人に毛が生えたくらいのゴルフ歴(本格的に練習を始めて2年未満)しかないので仕方がないのだが、そのせいもあって、フェアウェイの狭いゴルフコースは苦手である。

おもむろにドライバーを構えて、(自分にとっては)完璧な素振りを披露しても、いざ打つとなると、スパーンとかピキーンとか、快音を発して飛ぶ打球はそう多くはない。ペコッとか、ポカッとか妙な音を残した、S弁護士の打球は、無理矢理捕まえられていた野生動物が暴れたあげくにその拘束をふりほどき全力で逃げ去るように、右の山の中や左の谷底のOBゾーンへと、一目散に消えていき、そのまま野に帰ってしまうことも多いのだ。

OBは1打罰での打ち直しか、前進して特別ティから4打目の打ち直しである。一日にOBを3発も撃とうものなら、S弁護士の腕では100切りはほぼ絶望である。

だから、S弁護士は狭い山岳コースは苦手である。

 ちなみに大原パブリックコースは、スコアカードによれば、距離こそレギュラーティから5921Yしかないが、京都大原三千院のさらに奥の静かな山中に作られた、れっきとした山岳コースである。しかも、良く通っている人に言わせれば、「平らなところがどこにもない。だから面白い。」と評価されるほどアップダウンに富んだトリッキーなコースである。

 一度前半のスコアを嘆きつつお昼を食べながら、「さすがに最初のショットを打つティーインググラウンドくらいは平らなんじゃないですか」、と反論してみたこともあるが、ベテランのゴルファー曰く、「あほやな。よう見てみい。水はけのために絶対に傾けとんねん。」と、ばっさり斬られた。

 昼食後に、後ろに下がってよ~く見てみると、ティーインググラウンドも確かに傾いている。

 このようなことから、実はS弁護士は、大原パブリックを大の苦手にしていた。しかし自宅から最短20分で行ける地の利は捨てがたく、この1年11ヶ月で2ヶ月に一度くらいのペースでラウンドしていた。

 もちろん、スコアは、いつもはかばかしくなかったが、そんな大の苦手コースでベストスコアが出てしまうというのも、ゴルフの不思議なところである。

11月13日 大原パブリックゴルフコース(INスタート)

1人予約で、参加してみたところ、全員私よりも年輩の方々。60歳前後の方がお二人、70歳台の方がお一人だったが、スタート前に同伴者に話しかけて聞いたところ、全員ゴルフ場の競技に参加したりしている強者らしい。おいおい、聞いてないよ。プロフィールにはみんなアベレージ90台って書いてなかった?エンジョイゴルファーって書いていたよね?

しかも、70歳台の方に対して、いつもお名前拝見してますと60前の方が話しかけているようだ。

これではオオカミの群れの中に放り込まれたヒヨコ状態ではないか。

これはえらいところに紛れ込んでしまったもんだ。

緊張!しながらのラウンド開始。

幸いにも、ティーショットの順番はくじ引きで3番目を引き当てた。もちろん、スタートホールのティーショットは最初に打ちたくはない。かといって最後だと、前の3人がナイスショットをしたときのプレッシャーが半端じゃない。だから、S弁護士にとって3番目はベストのスタート順だと言ってもいい。

10番(Bグリーン・321Y・par4:ボギー)

左ドッグレッグ打ち下ろして打ち上げていくホール。ドライバーだと正面を突き抜ける危険もある。

c10.gif

1打目 ドライバーで、正面やや左のラフ~なんとかOBにならずにすんだし、距離もそこそこ出たので、S弁護士としてはまあまあのティーショット。

2打目 アイアンでBグリーン左サイドまで~なんとか距離はほぼ正しく打てた。方向性がずれたがそこまで求めるのは贅沢ってもんだ。

3打目 パターでグリーンオン~S弁護士の見たDVDでは、「初心者は徹底して転がせ、パターが使えるならパターで行け」、との教えがあった。教えに忠実にパターでグリーンに載せる。

2パットでなんとか上がる。

11番(Bグリーン537Y・par5:パー)

豪快な打ち下ろし。まるでスキー場のような傾斜で結構転がってくれる。左右OB。

c11.gif

1打目 ドライバー~やや左に出て、一瞬やばい!と思ったものの、幸いなことにスライスがかかって、落下地点はど真ん中。行ってみると特ティ近くまで転がっていた。

2打目 FW5~スキーのゲレンデの途中でボールが止まったような状態で、かなりの左足下がり。できるだけ斜面に平行に振ろうとだけ考えて振ったら、ピキーンと会心の当たり。打ち出し方向が低く、あまり距離は出なかったがフェアウェイに。

3打目 UT7~比較的平らなフェアウェイから、U7に賭ける。シュトンという変な打音でひやっとしたが、なんとかバンカーを避けてグリーン 手前ラフに落ちてくれる。カス当たりしたから助かったのか?

4打目 ウエッジ~ラフでパターが使えず、58度ウエッジで、グリーンオン。狙った方向とずれたが、ラッキーにもグリーンの傾斜で寄ってくれた。

少し長めのパットが入ってくれて、1パット

12番ホール(Bグリーン・154Y・par3:ボギー)

谷越えのショートホール。ハンディキャップ18で最も易しいホールとされているが、これまで何度谷を越えられずにボールをなくしたことか。

c12.gif

1打目 UT7~UT9と迷ったものの、谷に落ちたら怖いのでUT7を選択。比較的真っ直ぐ飛んでくれたが、グリーン左ラフにはずす。OBにならないだけ良かった。

2打目 ラフでパターが使えず、ウエッジで転がす。一応オンはするがピンには寄らない。そうそう都合良く、上手く行ってくれるはずがない。

2パットでボギー。

 素人ゴルファーはまずボギーオンとボギーを狙えと、以前読んだゴルフ指導書にも書いてあったし、その本から見てもボギーはS弁護士にとってはパーの価値がある。

 オオカミの群れの中で必死になって、藻掻いていたのだが、なぜだか出だし3ホールは上々の滑り出しとなった。

(続く)

ゴルフのこと~7

(8月17日記載のブログ記事の続きです。)

 さて、インターネットでゴルフクラブを買うことに決めたS弁護士であるが、どのクラブを買うか決心がつくまで数日かかった。

 もともと、あまりゴルフクラブのメーカーや銘柄について無知だったS弁護士は、随分後になってから、それまで読めなかった「XXIO」をゼクシオと呼ぶことを知ったし、さすがにTaylorMadeはテーラーメードと読めたものの、Titlistについてはタイトリストとは読めずティトリスッ?なのかと勝手に思っていた。

 それはさておき、インターネットには便利な検索機能がある。これで調べれば、検索者の無知にも拘わらず、たちどころにお薦めクラブが見つかるはずである。チョロイモンだ。

 検索ワードはもちろん、初心者用・簡単・アイアンセットである。

 ところが候補となるクラブセットは、結構な数に上った。どうせ、下手なんだし傷だらけにしちゃうから安い奴でいいや、というのがS弁護士の第一コンセプトではあるが、よくよく見てみると、一見安い値段で出ていても、6本セット・4本セットという場合もある。できればSWまでそろったセットが良いなと思って、検討していくと8本セットで34980円という、クラブセットが目に止まった。

 お店のうたい文句は次のとおり。

 「苦手アイアンを克服する、切り札が登場!中空ヘッドの5番・6番は、アイアンとは思えない飛距離に到達。低くて深い重心から、ボールを容易に打ち上げることができます。その低重心は7番・8番・9番の深ポケットキャビティにも継承され、トゥ&ヒールにウエイトを配分してスイートエリアを拡大。より確実なコントロールを得ることに成功しました。PW・AW・SWのソールが広く、グリーンまわりのどんなライからでも滑らすことが可能。セミポケットキャビティヘッドでバックスピンがかけやすく、グリーンにピタリと止めることができます。どの番手からも違和感なく振り抜けるため、アグレッシブな攻めをアイアンで実践することができます。」

 どうです。これさえ買えば、ゴルフなんて簡単でしょ?

 アドバイザーの一言には、「中高年の強い味方」とも書いてある。残念ながらS弁護士はまさに中年ど真ん中である。無理しても、どうせ若者とは、肉体的に対等な勝負ができないことには、もうそろそろ気付いてきたお年頃だ。それなら素直に、「強~い味方」を手なずけてもいい頃合いである。

 LynxプレデターSFアイアンという、大層な名前も付いている。
 プレデターって、捕食者って意味だったかな。強そうだ!
 SFの意味は、サイエンスフィクションではなくて、ステイフォーカス、照準を定めるという意味らしいから、良い感じじゃないか。

 念のため、購入者のレビューを読んでみると、「有名ブランドに引けをとらない掘り出し物のクラブである」という感想があった。
 この一言が、S弁護士のハートをキャッチしてしまった。

 S弁護士は、実は、有名ブランドに引けをとらない掘り出し物に、結構弱いのである。

 思えば、大学受験時代、森一郎先生の「試験に出る英単語」が単語集のバイブルであり、関西では「しけ単」、関東では「でる単」と呼ばれ必須の単語集と目されてはいたが、S受験生はどうにも味気なくなじめなかった。そこでS受験生は、単語集をあちこち捜したあげく、夏季講習に出かけた代々木ゼミナールの参考書コーナーで、「ギルフォード方式英単語速修革命」という英単語集を発見し、これを中心に英単語を勉強したのだった。

 この英単語集は、「ギルフォード方式」、「速修革命」と大層な看板を掲げていたが、驚くべきというか、笑えるというか、ギルフォード方式がなんなのか、この単語集のどこにどう取り入れられているのか、全く説明がないのである。
ただ、内容は、コロケーションを用い、穴埋め式に工夫されていた。
例えば  natural selection   自然□□ (正解は「淘汰」)という感じである。
クイズ好きのS受験生には比較的興味をもって繰り返すことができたという点では、確かに小さな革命は起きたようだった。
 味気なく表紙を見ただけで嫌気が差す「しけ単」よりも、単語集を見ようと思えるだけ、単語集としては100倍マシである。これぞ有名ブランドに引けをとらない掘り出し物だと、当時のS受験生は感じていた。

 ちなみにコロケーションを用いた英単語集は、現在でも駿台の「システム英単語」でも採用されている手法であるし、実は効果的だったのであろう。そういう意味ではギルフォード方式英単語速修革命は、秘かに時代を先取りしていた英単語集であったのかもしれない。

 このような受験時代からの経験もあり、有名ブランドに引けをとらない掘り出し物が大好きなS弁護士は、その文句が決め手になって、初心者用アイアンセットを購入したのである。
 お店の注意書きに、メーカーの保証書は付いてないと書いてあったことは少し気になったが、初期不良はお店で対応すると書いてあったし、折れていたりすれば別であろうが、そもそも初期不良があっても気づけるだけの腕はないから、まあいいや、であった。

 かくして、S弁護士は、8本セットの初心者用クラブを、3万円台で手に入れたのだった。

(続く)