ぼくに家族ができたよ  きのみゆかり 作・絵

 ペットショップで大きくなってしまったテリア犬がいた。ある日、ついに主人となってくれる家族があらわれる。ご主人の家で、ジャム(テリア犬の名前)が見たものは・・・・?

 皆さんご存じかもしれませんが、ペットショップで売られている犬たちの値段は、子犬の方が高いのです。つまり可愛い子犬の時期が、ペットが最も売れやすい時期とも言えます。残念ながら大きく育ってしまった犬は高値では売れず、世話にも手間がかかる、というペットショップではあまり歓迎されない存在のようです。

 しかも、子犬の頃に買い手がつかなかった犬は、仲間達がどんどんご主人が決まってもらわれていくのを眺め続けていなくてはなりません。犬だって心くらい持っています。そんな状況下で育たなければならなかった犬の心が、傷つかないはずがないと私には思えます。

 作者の、きのみゆかりさんは、家族総出でジャムの心をゆっくりと温めて傷を治していかれたはずです。そんなジャムとの日々を、暖かい絵と文章で描いたのが、この絵本です。

 今年の11月末頃、ひょんなきっかけで、阿蘇にある、きのみゆかりさんの小さなお店に訪れる機会を得た私は、美味しいお菓子と珈琲をご馳走になり、ジャム君と遊ばせてもらいました。ジャム君は本当にご主人が大好きなようで、少しでもご主人がそばを離れようとすると、大騒ぎしていました。

 作者の、きのみゆかりさんは、絵本の原画展を開催されたり、募金活動をされたりしながら動物愛護のために活動されています。私は、もちろん帰りがけに、この絵本を買い、きのみさんは快くサインもしてくださいました。

 機会があればまた美味しい珈琲とお菓子を頂いて、そしてやんちゃなジャム君と遊ばせて頂こうと思っています。

文芸社 1050円(税込)

なぜ弁護士はウラを即座に見抜けるのか? 佐伯照道著

 最近の新書で流行の「なぜ××は~~なのか」という題名で、やれやれまたか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、この本は非常に面白い本で一般の方だけではなく弁護士・学生の方が読まれても何かしら得られるものがある本ではないかと思います。「最強の破産管財人の手法をあなたも日常に使え!」と本の帯に書かれているのですが、「こんな発想は佐伯先生だから出来たのではないか、とても私が日常的に使えるとは思えない・・・・。」と感じてしまう部分も正直言ってあります。

 けれども本を読み進めていくと、「斬新な発想も、一生懸命に仕事に向き合おうとすること、真剣に依頼者の(時には相手方も含めた)本当の利益を考えること、が出発点である。」ということを佐伯先生が示唆して下さっているように私には思え、少なくともこの点だけなら私でも頑張れると思いました。

 言い古された言葉になりますが、私にとっては、面白くてためになる本でした。

 著者の弁護士佐伯照道先生は、大阪弁護士会会長・日弁連副会長などを務められた方で、大阪有数の大法律事務所のパートナーでもいらっしゃいます。実際お会いしてみると、非常に気さくで、私のような若輩が失礼な意見を言ってもきちんとそれに向き合って下さる、人間の大きな方です。

 たまたま、佐伯先生は、私が所属する法曹人口問題プロジェクトチームの座長を務めておられ何度か、PTの後に食事に誘って頂いたことがあります。

 その席で聞いたお話によると、先生の祖先をさかのぼると、日本一大きいため池である香川の満濃池を作った方々にまでさかのぼるそうです。満濃池を弘法大師が作ったという伝説もあるそうですから、ひょっとしたら佐伯先生は弘法大師の親戚くらいの子孫になるのかもしれません。

 また、佐伯先生が大阪弁護士会会長・日弁連副会長の頃に、法曹人口問題に関する会合に出られた際、増員一辺倒になっていた日弁連執行部内で一人「法曹人口問題は、是々非々で論じるべき」と主張されたところ、日弁連執行部から猛反発を受け、反省文的なものを書くよう求められたこと(酒席での話ですので私の記憶違いがあるかもしれませんが)など、笑い話のような興味深いお話を聞かせて頂くこともできました。

 日弁連執行部万歳となりがちな、日弁連副会長の座にあるときでも、敢然と正論を述べられた佐伯先生は、私の尊敬する先生の一人でもあります。なお、佐伯先生ご自身は、「僕は悪者だよ」と仰ることもありますが、真偽のほどは私には不明です(笑)。

 次回のPTでお会いしたら、この本にサインを頂いてしまおうとたくらんでいます。

 株式会社経済界 リュウ・ブックス・アステ新書(800円+税金)

「ごろごろにゃーん」  長新太 作

 私の実家では、私が小さい頃から福音館書店の「こどものとも」「かがくのとも」を定期購読していました。福音館書店は非常に素晴らしい絵本を数多く出版している会社です。どの子供も、絵本は大好きですが、私も例に漏れず、絵本が好きでした。

 好きな絵本はたくさんありますが、異彩を放っていたという面では、長新太さんの「ごろごろにゃーん」に勝る絵本も少ないと思います。

 たしか、最初と最後のページ以外は、「ごろごろにゃーん、ごろごろにゃーんと、ひこうきはとんでいきます。」という文章の繰り返しです。ページをめくってもめくっても、相変わらず「ごろごろにゃーん、ごろごろにゃーんと、ひこうきはとんでいきます。」の繰り返しなのです。

 おそらく、子供に読み聞かせるお母さんの側に立てば、すぐに飽きてしまう、文章でしょう。

 そんな絵本なら、子供も飽きてしまうのではないかと思われるかもしれません。しかし、決してそんなことはないのです。猫たちを乗せた飛行機は様々な冒険に巻き込まれます。ページをめくれば、前のページとは違う、新たな冒険が描かれているのです。子供達は、その冒険に夢中になるのです。

 このように子供達が、絵本の絵の力によって、夢中で冒険しているときに、むしろ言葉による説明は邪魔であると、長新太さんは考えたのかもしれません。だから、敢えて分かりやすく簡単な言葉の繰り返しで、子供達の想像の翼をじゃましないように配慮されたのではないでしょうか。子供達は「ごろごろにゃーん・・・・」と繰り返し読み聞かせてくれる、お母さんの暖かく柔らかい声音を聞き、その声に安心しながら猫たちと冒険できていたのではないかと、今になって思います。

福音館書店・840円

「司法の崩壊」  河井克行著

 これは、衆議院議員で前法務副大臣であった、河井克行議員が、法曹の粗製濫造状況に異を唱える告発の書です。

 途中、日弁連・弁護士に関して現状把握がきちんとなされず、誤解されている部分も多少ありますが、それでも、実際に河井議員ご自身で見分された法科大学院の現状と問題点の指摘は、極めて生々しい現実を伝えています。

 司法改革の現実の問題点、法科大学院の大失敗について、建前ではなく本音で発言して下さる政治家の方がようやく出て下さったかという思いです。

 日弁連・大阪弁護士会執行部は直ちにこの本を買って、読むべきです。そして、司法改悪の弊害は今、執行部にいるお偉方に対してではなく、今後、弁護士を長期間続ける若手がツケを回され、最終的には国民の方の不利益になるという現状を認識すべきです。もう建前は要りません。建前を振り回して議論している時間がないくらい事態は切迫しています。

 先にも書きましたが、河井議員の弁護士の仕事に対する認識には若干事実と異なる面もあると思います。しかし、河井議員の本書における結論部分である「三つの提言」に、私は賛成です。

 新聞報道では決して明らかにされない、司法制度改革に関する問題点に鋭く迫った本だと思いますし、読まれれば新聞やマスコミが、以下に真実を伝えてくれていないのかということも、併せて解ると思います。

PHP研究所発行 本体1100円

ふたりのイーダ   松谷みよ子著

 夏休みに、母親の仕事の関係で広島の祖父の家に滞在することになった、直樹とゆう子の兄・妹。ふたりが近所のうっそうと茂る木々をかき分けていくと、誰も住んでいない古ぼけた西洋館があった。そこで、ふたりは「イナイ、イナイ、ドコニモイナイ」とつぶやきながら、ことこと歩く小さな椅子を目にする。小さな椅子は、イーダの帰りをずっとずっと待っていたのだという。ゆう子は、その家に行くと自分のことをイーダちゃんであると言い始め、自分が住んでいた家であったかのように振る舞うようになる。そればかりか、椅子と昔からの友達であったかのように遊び始める。ゆう子は、椅子が言っているイーダの生まれ変わりなのか。直樹はその謎を解こうとするうちに、かつて広島に起きた事件を知ることになる。

 松谷みよ子さんといえば、「龍の子太郎」が、とてつもなく有名ですが、そのほかにも傑作があります。その一つがこの「ふたりのイーダ」ではないかと思います。私個人としては「ふたりのイーダ」の方が、「龍の子太郎」よりも評価が高くても良いのではないかとさえ思っています。

 実はこの本はかなり昔から私の実家にあったのですが、小さい頃の私にとっては挿絵が少し怖いイメージがあったので、初めて読んだのは小学校高学年になってからだったと思います。

 途中までは、そうでもなかったのですが、後半になり、直樹が謎に迫っていくあたりからは、続きを読まずにはいられないくらい、本の世界に引き込まれていきました。まだお読みでない方のために、詳しい内容を明らかにすることは避けますが、大人の方が読まれても十分読み応えのある本だと思います。

 ネタばれに近くなりますが、8月初旬くらいに読まれると、本の中の季節とぴったり合い、なお味わいがますような気もします。

司法占領 鈴木仁志著

 2020年、近未来の日本。教育ローンで学費を借りながらも、ロースクールを優秀な成績で卒業した内藤は、誰もがうらやむ外資系ローファームに就職する。しかし、そこは、日本企業同士の契約ですら英文で作成され、契約の準拠法(基準にする法律)もニューヨーク州の法律を強引に使わせる世界だった。また、簡単な契約チェックにもタイムチャージを水増しして法外なフィーを取るなど、ビジネス(金儲け)としていかに法律業務を利用するかについて、内藤は、アメリカ流の手法を徹底して追求するよう求められる。素朴な正義感を持つ内藤は、正義よりも利益を追求するそのやり方に疑問を感じるのだが・・・・・・・。

 私は恥ずかしながらこの本のことを知らず、パートナーの久保弁護士に勧められて、初めて読みました。非常に面白い小説です。この本は2002年に出版された本ですが、かなりの部分で弁護士の世界・司法の世界の将来を言い当てるのではないかと思います。すでに、弁護士の就職難、ロースクール生の借金問題は、ある程度現実化してきています。

 既に、就職難の修習生が相当数発生しており、弁護士数は過剰となっています。何度も言いますが、弁護士の需要が本当にあるのであれば、どの事務所でも新人弁護士を雇いたくてたまらないはずです。それにも関わらず、就職がない修習生が多いということは、それだけで弁護士過剰の大きな証明なのです。

 欧米並みの法曹人口の必要性を主張される方は、正義よりも利益を追求する法律家が溢れる世界が、本当に望ましいとお考えなのでしょうか。生活に困った弁護士が、自分の法的知識を悪用して市民を食い物にする、そのような時代になる危険性は高まりつつあります。(既に韓国では、弁護士急増の結果、弁護士の反社会的行為が問題になりつつあるようです。)

 「弁護士数の急増に反対することは、弁護士業界のエゴである。」と根拠もなく主張される方々にこそ、是非お読みいただきたい小説です。

「地底旅行」 ジュール・ヴェルヌ著

 リーデンブロック氏が、購入した古書には、古代文字の暗号文が書かれた紙がはさまれていた。リーデンブロック氏の甥であるアクセルが偶然その暗号文の解読に成功する。

 その暗号文には、昔の錬金術師がアイスランドの、とある火山の火口から、地球の中心に到達することができたという、驚くべき内容が記載されていた。

 早速二人は仲間を募り、アイスランドに向かう。果たして入り口は見つかるのか。地球の中心に到達することはできるのか。

 ジュール・ヴェルヌといえば、「80日間世界一周」や「海底二万里」が有名ですが、私が子供の頃最初に読んだヴェルヌの作品は、確か、この「地底旅行(「地底探検」という題名だったような気もします。)」でした。

 非常に面白い作品でしたので、一気に最後まで読み通した記憶があるのですが、そこで、とても印象的だったのが「アイスランドの火山口が地球の中心への入り口になっている」という設定でした。

 アイスランドに旅行しようと決めた際に、よく「どうしてアイスランドなんかに行くんだ。」といわれましたが、心の底ではこのヴェルヌの「地底旅行」の印象が埋もれており、密かに影響していたのかもしれません。それだけの影響力があった本です。古い本ではありますが、是非一読されることをおすすめします。

 なお、本とは関係ありませんが、アイスランドでは、先日ブログに書いたシングベトリル国立公園のように、地殻が生まれつつある光景を垣間見ることができただけではなく、まだ一度も人間に呼吸されたことがないと思われるほど大気が澄み切っており、人間が生まれ出る前の地球の姿に近い自然を見ることができたような気がします。治安も良く、思ったほど寒くもないので遠い国ではありますが、一度行ってみる価値がある国だと思います(但し物価は高いです)。

火の鳥~鳳凰編  手塚治虫 著

 仏師茜丸は、当時盗賊であった我王による追いはぎに遭い、仏師としての命とも言える腕の筋まで切られてしまう。その後茜丸は努力の末に仏師として再起し、一流の仏師として大仏建立の中心として活躍していた。大仏殿の鬼瓦を作る段になり、鬼瓦作りの名人がいると聞き、鬼瓦作りで勝負することになる。その名人とは、盗賊をやめ、良弁上人に付き従って諸国を行脚し、師である良弁上人すら失った我王であった・・・・。

 昨日、自然の美について書きましたが、よくよく考えてみると、自然が滅び行くものであると、突然私一人の力で思いついたのではなく、おそらく、この火の鳥~鳳凰編を小さい頃に読んだことが影響しているのではないかと思うのです。 なぜなら、突然自然の美しさを分かったような気がしたときに、「ああ、火の鳥で我王が言っていたのはこのことだったのか」、と初めて納得できたからです。

 まだ読まれていない方のために、あまり内容には触れませんが、おそらく、小さい頃にこの漫画を読んだとき、分からないなりにも、自然について、生死について、輪廻について、考える種が、私の心に埋め込まれていたのではないかと思います。

 とにかくまだ読んでおられない方は必読の漫画ですし、一度読まれた方も、再読されれば何かを感じることが出来る、凄い漫画です。この火の鳥~鳳凰編は、数ある火の鳥の話しの中でも、間違いなくベスト3に入る傑作だと私は思っています。

 「今は誰の目にも触れなくても、理解されていなくても、少年の心の中には、いずれ芽を出してくれるような、正しい種がきっと眠っているはずだ」、と私自身に言い聞かせて少年事件にあたることが多いのは、無意識のうちに自分の体験をフィードバックしているからなのかもしれませんね。

独立せよ!

 私が好きな漫画の一つに、かわぐちかいじさんの、「沈黙の艦隊」という長編漫画があります。

 連載期間が8年以上にもわたったという大部でありかつ骨太の漫画で、これはもう是非読んでいただきたい(特に男性に読んでいただきたい)漫画だと勝手に思っています。

 主人公は天才的操鑑技術を持つ海江田四郎という人物ですが、最終盤で彼は凶弾により倒され、脳死状態に陥ります。

 その彼が、盟友に残した最後の手紙の中に記されていたのが「独立せよ!」という言葉です。彼の最後の武器は言葉でした。より正確に言えば言葉が呼び覚ます、人間の中に眠る(眠らされている)善意や強さだったのだと思います。

 人は必ずと言っていいほど、何かに縛られています。誰が何に縛られているのか分かりません。自分でも縛られていることを意識できていない場合すらあるでしょう。

 しかし、本当に真剣に、真剣に考えた末に、やはり正しいと心の底から思えるのであれば、その縛られていることから独立して歩き出さなければならないときがあるのかもしれません。

 今、弁護士会・日弁連はその舵取り役を選ぶ選挙の真っ最中です。長年の悪癖で、選挙は情実選挙の典型です。A弁護士が頭の上がらないのはB弁護士だから、B弁護士からA弁護士を説得してしまえとか、C弁護士はD弁護士に雇われているから、D弁護士に命令させればいいとか、およそ正しいとは思えないことが横行しています。

 権力から独立していなければならないはずの弁護士が、場合によれば人権のために権力と真っ向から戦わなければならないかもしれない弁護士が、その未来の方針を選ぶときに、情実にとらわれていて良いのでしょうか。 情実で牙を抜かれて良いのでしょうか。例え、情実にがんじがらめにされた状態でも、本当に正しいことを見極め、正しければ胸を張って進むべきなのではないでしょうか。

 こういうときだからこそ、私には、海江田四郎の「独立せよ!」という言葉が重く感じられます。

「カチカチ山」 太宰治著

 「カチカチ山」って、あの狸とウサギの物語でしょ。日本昔話じゃないの?

・・・・と思われる方がほとんどだと思いますが、私が紹介するのは太宰治が自分流の解釈を加えて再構成した「カチカチ山」です。

 太宰は、「カチカチ山」に登場する狸を愚鈍大食の醜男37歳、うさぎをアルテミス型美少女16歳になぞらえ、「狸はウサギに惚れていた」として話を進めます。その発想自体が常人では不可能なものであり、太宰の天才たるゆえんでもあると思うのです。

 非常に面白い話なので、詳しくは実際に読んで頂くとして、太宰の結論は、「女性にはすべて、この無慈悲な兎が一匹住んでいるし、男性には、あの善良な狸がいつも溺れかかってあがいている。」というものです。

 この太宰の結論には、女性は賛同されないかもしれませんが、おそらく大多数の男性は苦笑しながらも頷かざるを得ないのではないでしょうか。

 この作品は、手に入りやすい所では、新潮文庫の「お伽草紙」に所収されています。「お伽草紙」には、他にも「吉野山」・「女賊」(特に女賊の前半の面白さは秀逸です!)など、読んでいてとても面白い作品が含まれており、お薦めの一冊です。