やはり主流派の支配か?~クォータ制度での女性日弁連副会長推薦

 元兵庫県弁護士会会長の武本夕香子先生が、クォータ制度が導入された日弁連副会長女性枠に会員からの推薦を受けて応募された.

 しかし、残念なことに候補者推薦委員会は、武本先生を、日弁連副会長を決める日弁連代議員会には推薦しないと決めたそうだ。

 先日のブログでも記載したとおり、大阪弁護士会の会員HPに女性枠副会長の推薦を求める告知が掲載される以前から、既に近畿弁護士会連合会では、女性枠副会長の候補者を決定していた、という、会員を完全にバカにしきったかのような一幕もあった。

 おそらく、候補者推薦委員会は近弁連が決定した候補者を推薦するのだろう。

 武本先生は、長年女性の権利問題に熱心に取り組まれており、自ら女性枠に応募しようと決意され、短期間に200名以上もの推薦者(応募するには50名以上の推薦で足りる)を集めた方である。
 個人的にも存じあげているが、人格・識見とも申し分なく、素晴らしい先生である。
 また、現実問題として、そのような方でなければ僅かな期間にこれだけの支援者を集めることは不可能である。

 ただ、武本先生が日弁連執行部を牛耳っている主流派に属していないことだけは事実である。しかし、主流派の主張全てに反対されるわけでもなく、是々非々できちんと理由があって賛成・反対を決めておられる。そのなかで執行部の痛いところにも、遠慮無く切り込む姿勢をお持ちだ。

 その武本先生が、男女共同参画の理念を実現すべく、自ら副会長になろう等の立場を表明されたのだから、実力も十分、やる気も十分で、特に推薦から外す理由が少なくとも私には見当たらない。
 女性の観点から広く意見を取り入れようとするのがクォータ制度なら、主流派に反する意見だってどんどん聞くべきだろう。女性の意見は聞いてもよいが、それは主流派に反対しない限度に限るというのでは、女性の共同参画をエサにした主流派の地盤固めにしかならない。

 もし、近弁連推薦の候補者が自ら女性枠副会長のポストを強く希望していたのであれば別だが、そうでなければ、やる気においては、自ら女性枠に応募しようと決意され推薦状を集められた武本先生の方に軍配が上がるだろう。

 しかし結論として、推薦委員会は理由も示すことなく武本先生に落選を伝えたそうだ。

 女性枠副会長に応募を決意して推薦状を集められた武本先生は、事実上立候補に近い行動をとられている。そもそも日弁連の言い分によれば、本来、女性の副会長立候補希望(実際には弁連等での推薦を受けても良いとする女性弁護士)が少なく、男女共同参画が実現しないからこそ女性優先枠を作ったはずではなかったか。

 少なくとも日弁連は、女性の副会長のなり手がいないという説明であり、副会長希望者は多いがその中に適任者が少ないとの説明はしていなかったはずだ。

 そうだとすれば、女性としての意見を反映させるべく事実上の立候補を行った武本先生こそ、女性枠副会長に相応しい人材といっても過言ではないはずだ。
 このように副会長になろうと希望する女性を理由も告げずに外すことは、それこそ男女共同参画に逆行する判断ではないかと思われる。

 推薦委員会が、何故武本先生を推薦しなかったのか、その理由ははっきりしないが、私は、主流派がイエスマンではない武本先生に難色を示したのではないかと考えている。

 結局、これでは、女性の共同参画を、いいお題目に使いながら、執行部の意向に添った副会長を増やしただけのように思えてならない。

 なお、ご存じのとおり女性枠(クォータ制度)副会長に対しては、通常の報酬月額50万円に加えて、特に支援費が月額20万円支給されることになっている。

 もしも、副会長女性枠が執行部の地盤固めに使われ、更に会費も使われるのなら、やってらんない気持ちになる会員もそこそこいるのではないだろうか。

白熱の予感!~第二東京弁護士会会長選挙

 東京以外の方はご存じないかもしれないが、実は東京には弁護士会が3つある。

 東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会である。

 その第二東京弁護士会の会長選挙で、道本幸伸候補が、(日弁連会費を除く)弁護士会費を無料にする公約を打ちだして、話題になっている。

 道本候補の選挙公報を見ると、東京の弁護士会三つを統合し、弁護士会館の空いたスペースを貸し出して収益を得ることにより弁護士会費の無料化を図り、更に統一した東京の弁護士会で大きく動いて仕事を獲得して会員にまわすという骨子のようだ。

  高額にすぎる弁護士会費と、そのような会費を取りながら会員のための施策が感じられない弁護士会に対して、会員の不満が存在していると考えての立候補だろう。大阪から見ていると東京はまだ弁護士業界の景気はマシに見えるのだが、実際は、一般会員の疲弊度や不満は相当積もっているのかもしれない。

 もしそうだとすれば、これはかなり面白い戦いになる可能性がある。若手は無所属も多いだろうし、会派の締め付けが効かない可能性もある。しかも近年の合格者激増で、若手の方が人数は多いのである。

 おそらく、現在の第ニ東京弁護士会の主流派だけではなく、東京三会を牛耳っている主流派(場合によっては一緒につるんできた大阪弁護士会の主流派も)は、連携して全力で道本候補の当選を阻止しようとするだろう。これまで各弁護士会の会長ポスト等を目指して、せっせと雑巾がけをしてきたセンセイ達も多いだろうし、これまで牛耳ってきた弁護士会に波風が立つと困るだろうからだ。

道本候補の選挙公報等は次のHPから読める。

http://合併.com (上手くリンクが張れなかったので、コピペしてご使用下さい。)

 一方、大阪弁護士会は昨日の常議員会で、いわゆる谷間世代に対する10年間で84万円の減額案を総会に提出することに決定した(反対は私を含め2名のみ)。会員数比で2割の谷間世代が、残り8割の会員の犠牲の上で、会費減額を受けることになる案だ。

 ニ弁の会長候補の会費無料政策の公約が出るくらいの状況下で、多くの会員の高額会費に対する不満についての空気を読めない大阪弁護士会執行部が、谷間世代以外の8割の会員の怒りを買わなければよいのだが・・・・。

 とにかく、今年の第ニ東京弁護士会の会長選挙は白熱の予感がする。

日弁連副会長の選考方法とクォータ制度の女性副会長選考方法

 一般会員でご存じの方は多くはないだろうが、大まかにいえば、日弁連副会長は、各単位会等で選出される日弁連代議員の投票による選挙で行われるのが建前である。

 しかし、現実には選挙による方法ではなく、慣例によって各弁護士連合会等からの推薦者を承認する方法がとられている(例えば近畿弁護士連合会では、日弁連副会長候補に大阪弁護士会の会長、それと大体持ち回りで他の近畿圏の会長1人を推薦するのが慣行のようだ)。

 しかも、代議員に対しては、事前に「選挙によらない方法による選出になった場合の役員候補者リスト」も配布されていたりして、代議員会で選挙をするつもりは、さらさら無いことがよ~くわかる仕組みになっている。

 ここ数年、私も日弁連代議員として参加してみたが、毎年、議長が「規定では選挙になっていますが、いかが致しましょうか」等と問うと、必ず「選挙による方法以外の方法で行うべし」とする意見が出て、みんなが承認して進めていくという、形式的儀式のような進行となる。

議長に対して意見をいう人も事前に決められているらしい。意見を具申するのは大体、東京の弁護士で、他の役員選挙に関する意見も含めて、それぞれ東弁、一弁、二弁が分担しているようだ。発言内容も毎年ほぼ同じで定型化している。

 その場で、仮に代議員の1人が、「私が副会長に立候補しますから選挙にしてください!」といった場合どうなるのかという素朴な疑問もないではない。おそらくは、「役員選任規程では出席議員の2/3以上の賛成で選挙以外の方法による選出方法が認められている。」などとして、立候補希望者が存在して、日弁連会則の原則通り選挙にしてくれといっているにもかかわらず、選挙によらない方法を採用するのだろう。

 ただ、かなり強引な気もするので、一度誰かに試して欲しいような気もするところだが。

 なお、日弁連のHPを見てみたが、役員選任規程に単記無記名投票によるとの規定はあるものの、副会長選挙に立候補するための詳細な規程は、すぐには見つけられなかった(実際にはあるのかもしれないが)。ということは、これまでの日弁連代議員会で、日弁連副会長職が選挙となったことはないのかもしれない。

 通常の副会長の選任実態が推薦~承認となっていることから、クォータ制の特別枠副会長も、おそらく日弁連代議員会に推薦する形式になっているのだろうと思っていたが、やはりそうだった。

 ただ、推薦してもらうまでの道のりがなかなか大変だ。

 規則によると次のような段階をふむ必要がある。

 ① クオータ制実施のための副会長候補者推薦委員会(以下「推薦委員会」という。)が、弁護士である会員、弁護士会、弁護士連合会に対し、男女共同参画の観点から相応しい女性会員を推薦(第一次推薦)するよう要請する。

 ② 第一次推薦には推薦理由が必要であり、会員による第一次推薦に限り50人以上の推薦が必要とされている。つまり、弁護士連合会や弁護士会の推薦には推薦人を集める必要もなければ理由も不要ということになっている。

 ③ 第一次推薦のあった者に対して、推薦委員会に出席を求めて質問するなどした上で選考のための審議を行い、最も適任と認められる副会長候補者2名を選出する。

 ④ その2名について日弁連代議員会に推薦する(第二次推薦)。

 また、推薦委員会のメンバーは、つぎのように定められている。
 1 東弁、一弁、ニ弁、大弁の推薦する委員が各1名ずつ。
 2 各弁護士連合会(北海道・東北・関東・中部・近畿・四国・中国・九州)の推薦する委員が各1名ずつ。
 3 男女共同参画推進本部長と、本部の推薦する委員3人

 お分かりのように、各弁護士会、弁護士連合会を抑えている主流派が推薦する会員が選考委員となる以上、選考委員の結論が主流派の意向に反したものになるはずがない。結局は委員をコントロール可能な主流派が、事実上副会長を選べる仕組みとなっている。ちなみに、現在の推薦委員会の委員長は、現職の日弁連会長である中本和洋先生が務めている。

 このような人事をやっていれば、男女共同参画の理念よりも、日弁連執行部のイエスマンの副会長が増えるだけのような気もするが、果たしてどうなのだろうか。

 なお、大阪弁護士会会員専用HPには、1月15日付け新着情報として、推薦委員会からクォータ制度女性副会長候補者の推薦を募る文書がアップされた。その文書によれば、一般会員は推薦人50名を集めなければならない期限は2月2日までとされている。

 だが、面白いことに、1月16日の常議員会で明らかになった近弁連の報告によれば、近弁連では、クォーター制度の副会長候補者の女性弁護士は既に決定されているとのことである。
 確かに、推薦を募る文書の発令日時は昨年12月27日であるから、近弁連がそれを受けて候補者を先に決定していてもおかしくはない。しかし、一般会員に対する情報がHPで公表された1月15日よりもかなり前に、すでに近弁連の推薦するクォーター制度の副会長候補者が決定しているということは、なんだかなぁ~という気持ちをおさえきれないところだ。

 あんまり会員をなめていると、大変なことになるのではないか。

 ツイッターでは、新弁護士会設立構想というアカウントが動き出しているようだ。

 いつかは出るかもしれないと思っていた動きであり、要注目だ。

いわゆる谷間世代の会費減額問題~その4

(続き)

 それに加えて、会長の説明する、「統一的連続的な法曹養成の基盤の問題として谷間世代の救済を行うべきではないか」との提案も、筋が通らない。

 日弁連が統一的な施策をとるのならともかく、各単位会によって、谷間世代の対応を行うところもあれば、そうでないところもあるはずだ。対応の中身だって同じではあるまい。

 現に実行されている東京三会の対応も、全然違うものだし、そのような各単位会任せの状況で、どうやって統一的な問題対応になり得るのだろう。

 更にいえば、法曹養成の基盤の問題といわれるが、谷間世代であっても、既に立派に法曹にはなっている。それを法曹養成の基盤の問題というのもなんだかおかしな話だ。

 会長が強調していた、「弁護士会の目指す対外的対応と会内(谷間世代救済)措置は両立しうる」、という意見が日弁連でも相当強くあったとの報告も、なんの説得力もない。

 もともと国は、給付金制度を谷間世代に遡求的に適用しないと明言しているし、「貸与制の返済がきつければ、世界的にも異常に高額な弁護士会費を下げて対応すればいいだろう」という国会議員などの意見が強力に存在しているのが現状だ。

 その状況下で、国会議員様・財務省様の仰せの通りです、といわんばかりに弁護士会費減額等の対応をとって谷間世代救済策を行えば、「それみたことか、弁護士会の会費が高すぎたのが問題じゃないか。しかも減額してもやっていけているではないか。弁護士会が対応したのだから、もう国が対応する必要はない。」と評価され、谷間世代の救済を国に求めている行動に必ずや水を差す結果になることは、誰にだって分かるはずだ。

 要は、理論的に両立しうるかということではなく、外部から見て、救済策がどう評価され、どう運動に影響するかの問題だ。その点から考えると、日弁連で強く出たというこの意見は結局、屁理屈に過ぎないというほかない。

 担当副会長からの説明では、「現在大阪弁護士会には10億円以上(但し、この数字は担当副会長の発言を、一応私なりに遠慮して控えめに変更した数字である)の使途の定まっていないお金があり、それをどう使うかの問題である。谷間世代以外の会員の会費を値上げするわけではないから、谷間世代以外の会員の犠牲はない」との説明もあったが納得出来なかった。

 そもそも大阪弁護士会の会費は、大阪弁護士会とその活動を維持するために必要なお金として、会員から徴収しているお金のはずだ。そのお金が余っているのであれば、それは必要以上に会費を徴収していたことになるから、本来であれば会員に返却すべきお金のはずだ。余っているお金だから良いじゃないかという単純なお話しではないのである。

 また、谷間世代以外の会員の会費が値上がりするものではないから犠牲はないという説明も、はっきりいえば詭弁だ。本来返却すべきお金を返却しないのだから、一見見えにくくても、谷間世代以外の会員の負担が相対的に大きくなっていることは変わらないのだ。

 このように、谷間世代からの要望もない、谷間世代の要望の有無について調査もしていない、立法事実も存在しない、統一的連続的な法曹養成の基盤という説明ともそぐわない、谷間世代以外の会員に負担をさせて救済するという不公平を新しく作りだす、何より給費制復活・谷間世代救済を目指して頑張っている委員会・本部の活動に水を差すに違いない、このような救済策を、何故執行部が詭弁や屁理屈までこねて意固地に通そうとするのか。

 この点、ある常議員の先生が、「この制度は給費制復活運動や国に対する谷間世代救済要求をあきらめるなら、意味があると思う」という趣旨の発言されたことで、ふと思い至った。

 これは邪推のレベルに至る推測かもしれないが、おそらく、日弁連は給付金制度導入と引き替えに、給費制復活運動と谷間世代を切り捨てる密約をしたのだ。そして、その運動を沈静化させることまで約束して、給付金制度を合意させたのではないか。

 多くの谷間世代が所属する大規模会が谷間世代救済を行えば、過半数の谷間世代を沈静化させることは不可能ではない。弁護士会からの救済を受けた谷間世代は、更に国に対して免除を求める行動は、おそらくやりにくいし、仮に出来たとしても相当弱体化するだろう。

 また、弁護士会が谷間世代を救済する施策をとった以上、もともと谷間世代を切り捨ててきた国側も、弁護士会の会費が高すぎたのが問題であって、弁護士会が対応したのだから、不平等が仮にあっても事後的に是正されており、もはや国側が対応する必要はない、と主張し易くなる。

 日弁連は給付金制度を勝ち取ったと主張でき(大阪弁護士会執行部は、私達が救済施策を実施したと胸を張れるし)、谷間世代も筋違いではあるがある程度の救済を受ける者が過半数を超え、国側も面倒な対応をしなくて良くなる可能性が高い、という点で、三方丸く収まるし、日弁連も顔が立つ、といった案配だ。

 仮に上記の推測が的を射ていたとして、谷間世代の救済策が大規模会で行われれば、日弁連執行部の(表面上は谷間世代の対応を国に求める活動を支持しながら実際は切り捨てたという点での)後ろめたさも少しは解消されるだろう。ただし、実際には他の会員が納めた会費を使っての施策という点で、いささか狡い構図にはなることは避けがたい。

 だが、その施策は、給費制復活と谷間世代の救済を求めて真剣に活動してきた会員をないがしろにするばかりではなく、谷間世代以外の会員の経済的犠牲があって初めて成り立つ代物だ。だから慎重に検討をする必要があるはずだ。

 前にも触れたが、もっと良い方法がある。

 大阪弁護士会の中の話になるが、①谷間世代を救済したいと考える会員は会費減額を受けずに従来どおりの会費を支払う、②救済は筋違いだと考える会員は現在の会費の余剰が増加しない程度に会費減額を受ける、③その上で救済したいと考える会員が支払った会費のうち減額を受けなかった部分(それに救済したいと考える弁護士からの寄付)を財源とし、谷間世代のうち救済を受けたい者に申告させて、その財源の範囲内で会費免除を行う方法だ。

 もちろん、困っている谷間世代の人を救済する施策なのだから、本当に救済を必要とするだけ困っているかについての所得調査は必要になるだろう。

 会員によって意見は違うだろうから、多数決で決めてしまうより、よほど公平で理に適っている制度ではないだろうか。確かに会費の額が一律ではなくなってしまうが、会費の一律性については、若手優遇で既に崩れているし、なにより、この救済策自体が、谷間世代の会費を減額するということで、会費の一律性を無視するところから始まっている制度のはずだ。

 特に谷間世代を救済したいと願っている執行部の先生方は、もちろん会費減額を求めないだろうし、救済のためには私の私財を財源にして下さいと、寄付すらしてくれるかもしれないぞ。

 まさか、救済したいけど、それは他人の金で、なんてずるい言い方はしないだろうと信じたいところだ。

 いずれにせよ、真剣に情報を得て、しっかり考えていないと、執行部は何をやらかしてくれるのか分かったものではない場合がある。

 日弁連や弁護士会執行部は必ず弁護士全体のことを考えてくれていて、悪いようにするはずがない、と盲信することは、極めて危険なのだ。

 「わるいようにしないから」という言葉は、悪いようにするときにこそ、使われる言葉でもある。

 しっかり問題意識を持って、見守る必要があるだろう。

 来週の常議員会で、この議案が総会に提出されるかの議決がとられる予定である。興味ある方は常議員会を傍聴されてみるのも面白いかもしれない。

(この項、一応終わり。)

いわゆる谷間世代の会費減額問題~その3

 先日の常議員会で、再度、谷間世代の会費減額問題について討議がなされた。

 ちなみに、前回の常議員会では、司法修習費用給費制緊急対策大阪本部が谷間世代の会費減額に反対の答申を出しており、財務委員会は賛否については高度な政策的判断だということで賛否留保、少なくとも賛成はしていない。

 また、今回の常議員会までの間に、司法改革検証・推進本部からの答申があり、やはり会費減額を行うべきではないという答申が出されていた。

 つまり、執行部が諮問した委員会等からは、「谷間世代救済のために会費減額を行う」という執行部案に賛成の答申は出ていないようなのだ。

 しかし、執行部は谷間世代の会費減額を実行しようとする案を臨時総会に提出する議案を撤回しようとしない。執行部自身が必要と考えて諮問した委員会(いわば現場の最前線)が賛成していない案であるにもかかわらず、反対意見を無視してまで何故強行しようとするのか、とても疑問に思えた。

 小原会長が、担当副会長に続いて日弁連等の動きも含めて説明をしたが、その内容は概ね以下のようなものだった(不十分な手控えによるものなので、どこまで正確なものかははっきりしないことにご注意。詳しくは議事録を参照されたい。)。

 すなわち、給付金制度が実現出来たのは、法曹人材の確保が立法事実として説得力があったからで、給付金と引き替えに弁護士の社会貢献義務の提案もあったが、なんとかそれを抑えることができた状況にあった。
 その上で、法曹三者の協議と国会議員との攻防の末、谷間世代には遡求して給付金制度を適用しないことが附則で定められた。
 給付金制度の創設により、司法予算が増やされるわけではなかったため、司法予算が食われてしまい、法曹三者の信頼関係の再築が問題にすらなっている。
 日弁連は、谷間世代の抜本的救済を求めてはいるが、谷間世代とその他の世代の不公平・不平等では立法事実としては不足であり国会議員を説得出来ない。また貸与金返済に起因する弁護士活動の困難化の主張も立法事実としては不十分であるといわざるを得ない。
 そこで、弁護士会としては、統一的連続的な法曹養成の基盤の問題として谷間世代の救済を行うべきではないかと考えた。
 なお、給費制復活を目指す日弁連の対外的活動と、弁護士会内の救済措置は両立しうるという意見が日弁連で相当強くあった。
 大規模会である、東京3会(実施中)、大阪、京都(検討中)、福岡(検討中)の他、鳥取でも検討されており、鳥取の動きが全国的に広がるかもしれない。

 ・・・概ねこういう理由であったように思う。

 この説明に対して、司法修習費用給費制緊急対策本部等が反対している以上、取り敢えず総会には議案を提出して、総会できちんと議論出来る場を設定するように要望するという意見も出た。
 確かに、傾聴に値する御意見ではあるが、一度総会議案にされてしまえば、危ないと考えた場合には執行部が会派を動員して委任状集めをするし、多くの弁護士は無関心なのか、執行部は変なことはしないと信じているのか知らないが、執行部案に漫然と賛成票を投じるのが、少なくとも私のこれまでの経験だ。
 以前に一度、法曹人口問題に関して、執行部が当初の案から弱気な案に変更した際に、当初の案を貫くべきだとして賛成者を募って総会で戦ったが、大敗した。
 このことからも、会派動員による執行部側の委任状集めの圧倒的な力と、議案もおそらくほとんど検討せずに漫然と執行部を支持することで足りるとする層が多いことを、私は経験済みなのだ。

 だから執行部も、常議員会で総会に議案提出することを可決してしまえば、その議案は実行出来ると、ふんでいるはずだ。

 そもそも、国の施策で貸与制になった谷間の世代が、本来対応を求めるべき国に対してではなく、貸与制を導入したわけでもない所属弁護士会に対して、他の弁護士に会費負担の犠牲を強いてもいいから、自らを救ってくれと懇願するのだろうか。

 私が尋ねたところ、そのような谷間世代の要望に関する調査を、執行部が行ったことはどうやらないようだ。だとすれば、執行部の主張する谷間世代を救済する必要性は、勝手に執行部がそう考えているだけであって、なんの具体的な根拠も存在しないことになる。

 このように谷間世代が、具体的な声を弁護士会に対してあげていない段階で、谷間世代はきっとそう考えていると決めつけて、あるいは忖度して、他の弁護士の犠牲の下で、谷間世代の会費減額を強行することは、谷間世代に対する過保護である。

 そればかりではなく、「国に対して貸与制の問題を堂々と主張すべきであって、他の弁護士の犠牲を強いて行われる筋違いの救済など私は求めない」とお考えになる谷間世代の弁護士の方々もきっといるだろうが、その方々の矜持を汚す侮辱的な提案ともいえるのではなかろうか。

(続く)

大阪弁護士会若手の方、常議員になって下さい!

 私は、もう随分前から大阪弁護士会の常議員を務めさせて頂いている。大体2~3週間に1回火曜日の15:00~17:00の予定で、常議員会は開催される。

 常議員会では、大阪弁護士会の意見を決めたり、総会提出議案や日弁連の諮問に対する大阪弁護士会としての立場を決めたりする。

 普段の弁護士生活では、なかなか知り得ない執行部や日弁連の活動や思惑を知ることができるまたとない機会だ。

 若手の方の常議員がもっと増えれば、常議員会も若手を無視した施策をとりにくくなるのではないかと私は考えているが、なにぶん、会派で選出されてくる常議員の先生は私よりも先輩の弁護士が相当多い。人数比からすれば、女性クォーター制度を採用した日弁連副会長よりも歪んだ構成になっているはずだ。

 常議員も建前上選挙で選ばれることになっているが、実際には、各会派から常議員候補者が推薦されて出てくるので、選挙が行われたことは、私が知る限りないと思う。また、無所属の立候補が20人もいれば別だろうが、万一選挙になって会派のエライさんが落選したら大変だろうから、無所属で立候補しても、おそらく会派が順番に常議員数を減らして、選挙にならないように対応するはずだ。

 立候補といっても、立候補用紙をもらって記入し、選挙費用の2万円を添えて提出すれば足りるし、選挙がなければそのほとんどが戻ってくるから、費用の問題は考えなくても良いくらいだ。

 また、執行部にも、若手の発言や、跳ねっ返りの私の反対意見を聞いてくれるだけの度量はある(取り上げてくれることはまず無いが・・・)。

 執行部には、若手のことを本当に考えているのかわからない施策や無駄な施策が多いと問題を感じる若手の方がどんどん立候補してくれれば、少しずつ執行部のやり方を変えていけるかもしれない。

 確かに平日の午後に時間をとられるのは面倒だ。そして、面倒なことは誰かにやってもらった方が楽は楽だ。

 しかし、自分達のことを決めるのにずっと他人任せで良いものだろうか。

 特に、若手の方の立候補があればと、強く願う昨今である。

いわゆる谷間世代の弁護士会費減額問題~その2

(続き)

 大阪弁護士会では関係委員会に意見照会している。しかし、肝心の司法修習費用給費制対策緊急本部の答申が、この谷間世代会費減額制度案について反対しているのだ。

 同本部の反対意見は、概ね①給費制・給付金の意義と運動の観点から、②弁護士会内と日弁連内に混乱をきたす可能性、③統一修習の理念から、反対の結論を裏付けている。

 ①を私なりに要約すると、こういうことのようだ。つまり、給費制は国家が責任を持って法曹を養成する制度の根幹部分の一つであり、その理念から、貸与制では問題があるので給費制の復活運動を行ってきた。これに対して、貸与制で問題があるなら高額な弁護士会費を安くすればいいとの反論もあり、その無理解な発言との戦いを乗り越えてようやく、給付金制度が実現したのだ。しかし、給付金制度は金額も未だ不十分であるばかりか、貸与制も併存しており、給付金の額も法律に定められているわけではなく、いつ貸与制に近い制度に戻されてもおかしくない状況にあるといえなくもない。給費制のように確固たる制度として確立しているとはいえない状況だともいえよう。
 また、現在でも日弁連・弁護士会は給付金の増額と谷間世代の対応策を国家に求めているところなのだ。
 ところが、今回のような谷間世代の会費減額案を実行すれば、法曹養成は国家の責任だから谷間世代にも対応すべきだとの主張に矛盾を生じかねないばかりか、貸与制論者に「弁護士会費を取りすぎているから貸与制が問題視されているだけであって、高額な弁護士会費を下げれば貸与制でも良いはずだ」との論拠を与えかねない。最悪の場合、給付金制度の縮小等にもつながりかねない危険をはらんでいる可能性もあるのだ。

②についてもたくさんの理由があるが、主なものを私なりにあげると、

・昨今の厳しい状況から、弁護士会費減額を求めているのは若手世代に限らない。

・谷間世代以外の会員からの不満が醸成されかねない。

・国の責任をどうして弁護士会費で尻ぬぐいしなければならないのか筋が通らない。

・病気、出産・育児等で会費免除を受けている会員には、効果がまるでない。

・71期以降も不十分な給付金であり、その配慮を求められたらどうするのか。

・各弁護士会がそれぞれ独自に会費減額を実行するなら各弁護士会で不公平が生じ、減額制度のない弁護士会に所属する谷間世代会員らが、不満・不公平感を抱く可能性がある。

・日弁連会費の減額は限界があり、僅かな金額にしかならないから効果が低いだけではなく、その制度構築過程で様々な意見が噴出し日弁連の求心力を大きく減殺する懸念がある。
などである。

 ③については、谷間世代といえども、裁判官・検察官になった者や、法曹にならなかった者もいるなど様々で、そのうち弁護士会一般会費減額案は、貸与世代の者のうち貸与金返還期間中、弁護士会に所属している者だけを対象とすることになるから、今後、国が裁判官・検察官になったものに対して優遇策をとる口実になりかねない。そうなれば統一修習制度をぐらつかせる要因になりかねない。等の理由である。

 結論的には、問題がある思いつきであるばかりか、給費制緊急対策本部の運動にも悪影響を及ぼしかねないとする意見であろう。

 私見だが、谷間世代のために尽力してきた、給費制緊急対策本部が反対している以上、それだけで、今回の減額案は実行すべきではないように思う。

 もちろん小原会長は聡明な方であり、その小原会長が率いる大阪弁護士会執行部は、このような状況も当然分かっていて、この案を常議員会にかけたはずだ。

 だとすれば、その狙いは単純に谷間世代の不公平是正というだけではないのかもしれない。

 ここからは、全く根拠のない完全に穿った見方、おとぎ話になっていくのだが、どんどん想像を巡らせると次のようにも考えられるかもしれない。すなわち、

 ①給費制の復活や給付金の増額はもう不可能と考え、現状での手当てを優先しようと考えた?

 ②東京などでは谷間世代に対する救済策として会館特別会費の減額40~50万円程度を実行しているようだし、近畿でも京都弁護士会が救済策を実施しているようなので、大阪弁護士会として放置することは執行部のプライドが許さなかった?

 ③谷間世代の弁護士数は大阪弁護士会では約20%であり、将来の(主流派)執行部支持のための布石を打った?

 ④これは完全なおとぎ話になるのだが、弁護士会が谷間世代の救済に当たるようになれば、国家としてはいくら谷間世代から不公平是正を求められ、世論が同調しても、弁護士会が既に救済しているのだから救済不要、と言いやすくなる。そこまで国が大問題として捉えているのか疑問があるし、大人の事情は分からないが、何らかの条件と引き替えに、谷間世代の不満を抑えるような話が出たとも限らない。東京3会と大阪を合わせれば弁護士数のほぼ6割になるから、大規模会の谷間世代の不満を抑えれば、過半数は抑えられる。現在の日弁連会長である中本先生は小原会長と同じ大阪弁護士会の同一会派の盟友であったはずだから、そんなお話しがあったのかもしれない?

 おそらく谷間世代は不公平感をもっている人もいるだろう。私も制度に振り回された経験があるから、その不公平感はかなり切実に分かるつもりであり、何らかの救済を求める気持ちも分からなくはない。だがその救済を求める先は、やはり制度を迷走させた国である。

 確かに、弁護士全てに余裕がある時代なら、理想のために身銭を切ることもできなくはなかった。仲間(谷間世代)の現実的救済のために自腹を切ることもできなくはなかっただろう。しかし、今はそうではない。昨今の新聞報道にあるように低所得の弁護士が大量に増加し、極めて苛酷な生活を送る者もいる。収入があがらずに税金の還付を受ける弁護士も、ここ7年間でほぼ倍増しているのだ(2008年と2015年の比較で11604人→19176人)。

 その状況で、理想のために身銭を切るという考えは、悪い言い方をすれば、収入が悪化しても生活水準を落とすことができないようなもので、破産に繋がる発想である。
 
 日本の人口は既に減少傾向にあり、裁判所に持ち込まれる事件も増える見込みも、今のところ全く見えない。

 執行部にはもっと身の丈にあった、弁護士会活動を行って欲しいと私は思っている。
 

 最後に一つ素朴な疑問がある。

 彼らの現実的な救済を本当に願うのであれば、弁護士会の財布をあてにせずとも、救済を願う有志で基金を作って谷間世代の返済に充当してあげればいいのだ。

 何故それをやらないのだろうか。

(この項終わり)

いわゆる谷間世代の弁護士会費減額問題~その1

 おそらく大阪弁護士会の多くの方はご存じないと思うが、現在、大阪弁護士会執行部は、いわゆる谷間世代(修習中の給費制ももらえず、新たに認められた修習給付金ももらえず、自費で修習期間を生活せざるを得なかった世代)の弁護士会費(大阪弁護士会の一般会費)を減額する案を総会に提出しようと画策している。

 現在、大阪弁護士会では既に65期から70期の会員に対して5年間の一般会費の減額措置はとられており、その額は修習期によって若干違うものの、5年間で総額252000円から284000円が減額されている。

 これに加えて、谷間世代には、さらに月額7000円で10年間、合計840000円分の減額を一律に認めたらどうか、という案だ。

 その理由として執行部は、谷間世代の会員の多くは300万円もの貸与を受けているものが多く、その三分の一の負担を軽減して、不公平を是正したい、と主張しているようだ。

 確かに、貸与金の返済が開始される予定の時期が近いことから、谷間世代の弁護士にとっては歓迎すべき施策かもしれない。
 しかし、残念ながら私は賛成出来ない。

 まず第一に、同じ弁護士会に所属しその弁護士会を経済的に支えなくてはならず、また、同じ弁護士会館との施設を使用できる限り、会費は平等に負担するのが筋である。谷間世代の弁護士が弁護士会の制度や設備を制限的にしか利用出来ないのであればともかく、弁護士会の経済基盤は全会員が支えなくてはならず、かつ、通常の会費を支払っている会員と同等に弁護士会の制度や施設を利用可能なのであるから、当然であろう。

 また、会費が潤沢に余っているのであれば会員全員に対して会費を減額するのが筋である。仮に、谷間世代減額案が現在の一般会費を増額せずに実現可能だとしても、谷間世代の会費を減額するということは、谷間世代以外に対し、本来減額を受けられる会費を減額しない、という犠牲を強いた上で、成立しうるものなのだ。

 次に、そもそも給費制度→貸与制度→修習給付金と制度が変遷し、修習期別の不公平を生んだのは、国家の制度設計の迷走が原因であり、不公平を是正する必要があるのなら国家がやるべきことであって弁護士会がやるべきことではない。

 また、谷間世代の弁護士も制度設計を迷走させた国家に対する不満はあるだろうが、その不満を、他の弁護士の犠牲の上で我々を優遇せよ等と弁護士会に対する不満にすり替えたりするような非論理的な思考をするとは思えない。また、そのようなことを潔しとしない弁護士も多数いるはずだ。

 また、言っちゃあ悪いが、不公平は制度変更がある場合に不可避的に生じるものでもある。私からいわせれば、受験回数が多いというだけで私は不合格になり、私よりも司法試験の点数が低かった人間が200人以上も合格した司法試験合格者若手優遇策の丙案などは、貸与制よりも、遥かにひどい不公平だった。
 仮に大学受験で現役生は競争倍率5倍で合格させるが、浪人生は競争倍率10倍を突破しないと合格させない、などと制度変更をしたら世論が許さなかったはずだが、私が受験していた時代の司法試験では、それがまかり通っていた。
 貸与制なら一応成績どおりに合格させてくれて、法曹資格は得られるが、丙案では法曹資格すら与えられなかったのだ。その差は果てしなく大きかった。

(つづく)

日弁連副会長の女性枠について

 日弁連副会長は現在13名だったと思うが、2名増員して、その2名の枠は必ず女性が就任するようにしようという案が持ち上がっている。現在、各単位会に意見照会がなされている段階だ。

 日弁連執行部の説明だと、これは男女共同参画の一環で、ポジティブアクションとして相当だ、ということのようである。

 大阪弁護士会の常議員会で、以前もこの議論が持ち上がったときに、男女共同参画委員会の方が説明に来られていた。

 私は、説明委員の方に、これまで日弁連は男女共同参画について積極的に推進してきたはずであり、特に女性の会員が副会長になれないような不都合な状況が存在するのか、女性で日弁連副会長になりたいのに日弁連の制度等の問題でなれないという人が現実に何人も存在しているのか、と聞いてみた。

 説明委員によれば、そのいずれもない(少なくとも説明員は聞いたことはない)とのお答えだった。

 だとすれば、ポジティブアクションとしての副会長女性枠というのはおかしいのではないだろうか。

 そもそもポジティブアクションとは、「一般的には、社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置のことをいいます。」(内閣府男女共同参画局のホームページより)というのが一般的な定義だろう。

 そうだとすると、大阪弁護士会の男女共同参画委員会の委員の方ですら、制度面で女性が副会長になりにくいという問題は無いと認めているし(つまり社会的・構造的差別は存在しないし、機会不均等という問題もない。)、現実に日弁連副会長になりたいがなれないという方も存在しない(つまり不利益を被っている人もいない)と認めていることになる。

 したがって、ポジティブアクションの前提たる、社会的構造的差別によって不利益を被っているという状況が存在しないのだから、一定の特別の機会を提供する必要はないはずだ。

 ということであれば、日弁連副会長に助成枠を設けるというポジティブアクションを導入することは、その前提を欠き、その特別な暫定的措置は、他のものに対する逆差別になってしまうだろう。

 また女性の参画にきちんと制度を設けて機会を保証しているにもかかわらず、立候補者が少ない(ほぼいない)ということは、日弁連副会長にならなくてもいいというのが立候補しない女性の意向であって、その意向についてはきちんと尊重できているということになるのではないのだろうか。

 そればかりか、仮に女性枠を設定してしまえば、その枠を女性で埋めなくてはならないから、日弁連副会長に相応しい人格・識見を有しながらも、副会長になるつもりがない女性に、他に候補者がいないから、という理由で周囲が副会長職を押しつけることにもなりかねないだろう。

 さらに女性副会長枠について、経済的理由もあるだろうからということで、月額数十万円の支援をするという案もあるようだが、経済的理由で日弁連副会長になれないという事情をもつ弁護士がいるとしても、それは男女を問わない。経済的理由で立候補しにくい男性にだって支援はすべきだ。女性だけが経済的に困っている(傾向にある)という発想こそが、男女共同参画の理念に反しているのではないだろうか。

 また、真に日弁連に女性の意見・視点が必要なのであれば、日弁連会長だってポジティブアクションを導入するという意見があってもおかしくはないが、そのような意見・提案は聞いたことがない。
 副会長だけポジティブアクションが必要で、会長にはポジティブアクションが不要だとする合理的根拠もないだろう。
 私の穿った見方からすれば、会長職を除いていることは、日弁連会長の座を狙っている男性の重鎮がたくさんおられることもあって、その方々への配慮であってもおかしくない。仮に私のこの邪推が正しいとすれば、会長職は男性重鎮達の争いに任せて男性に独占させ、副会長職で男女共同参画を実現したかのように見せかけてお茶を濁すものであり、それこそ男女共同参画の理念に反しているように思うのだが。

 男女共同参画と言われれば、弁護士はあっさり賛同する傾向にある。男女共同参画という言葉に弁護士はとても弱いが、この問題はよくよく考えてみる必要があるように私は思っている。

依頼者保護給付金制度の議論の現状

 反対している弁護士も多いと言われている、依頼者保護給付金制度であるが、日弁連は微修正を加えて批判をかわしつつ導入に向けて邁進している。

 先日の大阪弁護士会常議員会で明らかにされた、依頼者保護給付金制度の修正点は以下のとおり。

1.依頼者保護給付金→依頼者見舞金に変更。
2.依頼者または依頼者に準ずる者を自然人に限定。
3.対象行為を横領行為に限定。
4.除斥期間に、一定の場合に支給出来るとする例外を設けた。
5.加害弁護士1人につき2000万円上限、被害者1人につき500万円が上限。その範囲内で会長が裁量的に給付額を決定できることを明確化。
6.給付総額は予算で決定するとしていたが、キャップを規定内に明記した。
 ・毎年理事者会で決定する。
 ・附則として1億件を上限とした。
7.附則に5年で見直し条項を明記。
8.見舞金対象行為を平成29年4月1日以降の行為とした。
9.施行を平成29年10月1日とした。

 ここで問題なのは、キャップを設けたという点だ。一見キャップを設けたとなれば、無制限の支出は食い止められるかのように思えるだろう。

 しかし実際には違う。

 キャップの意味についての執行部側の説明は次の通り。

 規程案の条項の中の表現は「一の年度における支給額の合計は、毎年度、理事会で定める金額を上限とすること」となっており、附則の方の表現は「(上記の条項の)理事会で定める額は、1億円を超えない額を目安とする」とのこと。

 この説明からすれば、あくまでも1億円は「目安」にすぎない。

 あくまで1億円は目安に過ぎないから、昨年度の実績などから今年度は2億円限度に設定する、ということも規程上、十分に可能である。

 仮に1億円と定めたとしても、ある年度で既に1億円を支出したあと、さらに見舞金事案が出た場合には、実際には、申請者の不満を招かないように、この年度は1億円を超えてもやむをえないと判断して、予備費からの支出は可能な規程となっているようだ。

 ある常議員の先生が「キャップということの意味だが、1億円を超えたら、その年度では絶対にもう払わないのか」という趣旨の質問をしたところ、執行部側の回答は、「そうとは限らない」というものであった。

 これでは、キャップ制を名乗りながら、通常の意味で言われているキャップ制とは到底相容れない制度を用意していると言っても過言ではない。これをキャップ制だと公言して、支出の上限を画したかのように説明するのならば、それは誤導も甚だしいと言わなければならないだろう。行儀悪く言わせてもらえば、各地の反対の声に対して日弁連執行部は、この程度の説明でお茶を濁せば大丈夫だと考えているわけで、逆に言えば、それだけ会員は現執行部になめられているということだ。

 つまり、不祥事が多発すれば、会長の裁量で見舞金を数億円を超えてガンガン支出するって事態もあり得ると見た方がよいだろう。

 しかも、一度導入した場合、不祥事が多発して弁護士会の会計が保たない状況に陥ったとしても、撤退しますとは到底いえまい。世間からその程度のものなのかという痛烈な批判が予測されるからである。

 先日も対案を述べたが(当職の10月6日のブログを参照)、導入すべきという執行部役員で、まずポケットマネーを出して基金として始め、数年経過後に本当に執行部の主張するような効果が出ているかを検証した上で、意味があれば、初めて本格的な制度として導入すべきだ。
 意味があると明確に分かれば、反対する人もそういないだろう。執行部がまず率先して自腹を切って行動すれば、反対意見が多いと言われる若手の納得も得られやすいだろう。

 そんなに意味がある制度なら、反対する人を巻き込もうとしないで、やりたい人で、お金を出し合って、まずやってみればいいじゃない。素晴らしいことなんでしょ?